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06_50 魔人ジョンとの戦い−1

〈第三者視点〉


 次々と形を変える灰色の雲が乱れ飛ぶ空を飛ぶワイバーンと真竜の編隊がライ山の山頂に降り立った。

 五十ジィほど離れた異界門をにらむように竜達は伏せる。

 その竜の背から縄ばしごが下ろされ、次々と人が降り立つ。

 ザートを中心とした回生作戦のメンバーだ。


 ザート達四名は、竜の足元の竜使いとギルベルト、それに【カンナビス】【ネフラ】の面々に向かい合った。


「予定通り僕達は神像の前で作業に入る。皆は周囲の魔獣を警戒して待機してほしい。万が一、異界門の封印が解けた場合を考えてリッカ=レプリカは解除しないこと。用意した凝血柱シリンダーを交換すれば異界の魔素濃度でも三十分は持つからパニックにならずに待機してほしい」


 ザートは二回目の調査の際コトガネに頼んでおいた魔素測定結果をもとにミンシェンが割り出した作戦行動時間の限界を伝えた。

 ザートの言葉に一同は緊張の面持ちで応え、次々とリッカ=レプリカをまとっていく。


「それじゃクローリス、こっちの指揮は任せた」


「は、はい! 大丈夫、任せて下さい!」


 視界を保つためビーコに騎乗したままのクローリスに一声かけると、ザート達は黒白の視界の中で唯一赤茶けた異界の空をうつす異界門へと進んだ。


 異界門の右端にある神像の足元にあるひつぎの前に来たザートはかがみ、盾剣を左手にもちながら右手を柩の縁にかけた。

 そしてザートは集めたカラの血殻を加工した血殻柱を神像へと捧げていく。

 ザートの浄眼にうつる数字は神像へと吸い込まれていく血殻柱の量だ。

 その数字が一万ディルムに代わる。


「よし、これで万が一魔人ジョンを倒しても魔素に曝される事はない」


 ミンシェンによれば、一万ディナの血殻柱を瞬時に満たす魔素濃度に対して、リッカ=レプリカは対応できない。

 そのためザートは保険として血殻柱を神像に入れたのだ。


「では、コトガネ様いいですか?」


「うむ、ジョンを縛っておる逆鉾を抜き次第、全力で戻ってくるゆえ逆鉾ごとこちらに戻すのじゃぞ」


 コトガネの言葉にうなずくと同時にザートの指輪にブルーモーメントの光がかがやいた。


   ――◆◇◆――


「おるかの」


 岩に刺さった逆鉾の前でコトガネが呼ぶと、黒いもやが現れ、次第に人の形をなし、ジョンの姿が現れた。


「おうじいさん、もしかしてお迎えか?」


「左様、おぬしの魂を異界渡りさせる準備がようやく整った。覚悟はよいか?」


 コトガネの問いかけに、ジョンは異界を一望できる崖の上に立ち、必要もないのに深く息をすった。


「よし、たのむわ。あんたらが信じることをやってくれ。向こうじゃ俺は魔人だ。どんな言葉を口走っても今、俺が望んでいる事は向こうで人としてフリージアに会うことだって事を覚えておいてくれ」


 魔人は苦しみから逃れるため、生前の意識をねじ曲げて人間を欺き、脅し、あるいは泣き叫ぶ。

 ジョンは狩人として多くの魔人を狩っている。

 魂魄が反転し人格が変わった彼らがどんな言葉を発するか、経験として知っていた。


「うむ、承ったぞ」


 コトガネが荒野の風にさらされて古びた柄を掴み、ゆっくりと力を込めると、逆鉾はかすかな翠の光とともに抜けた。


「さて、急ぎ戻るとするか」


 なお輝きを失わない逆鉾を一振りし、マガエシが出る事を確かめるとコトガネは異界門に向かって走り始めた。


   ――◆◇◆――


「どうでしたか?」


「うむ、首尾良くいったぞ」


 神像の前で待っていたザートが膜の向こうのコトガネをこちら側に排出すると、コトガネは風切り音とともに逆鉾を一振りした。

 ザートは神像の右眼の中を探ってみるけれど、まだジョンが出てくる兆候は見られない。

 戦いやすい場所まで歩く途中、コトガネがリュオネに持っていた逆鉾を差し出す。


「リュオネ、交換じゃ。本来三刃の鞘は各家それぞれのために特別に作られておる。感傷ではなく、ミツハの鞘の方がおぬしの手になじむ」


 コトガネが差し出した異界にあった三刃の鞘はリュオネにとっては父ユミガネの遺品でもある。

 リュオネは一瞬目を伏せそうになったが、ぐっと目に力を入れ逆鉾を受け取った。


「確かに、受け取りました」


——ドクン


 決意に満ちたリュオネの表情を見ていた矢先、ザートは身体を一つ大きく跳ねさせた。


「皆、構えてくれえ、くるぞ!」


 ザートは叫ぶと同時に、苦しげに表情を変え膝をつく。

 右眼が青く光り,目の前に大きく大楯が展開された。

 

「こいつが、魔人ジョンか……!」


 シルトが荒く息をつくザートを抱え素早く後ろにひく。

 しかしその動きに合わせるように、材料不明の軽装鎧を身につけたグレーの髪の男は一瞬で間合いを詰めると、背中に背負った大ぶりの剣を横薙ぎに振るった。


処刑人の剣エクセキューショナーズソード!」


 切っ先のない四角の刀身をもった分厚い剣をかろうじてショートソードで受け流したシルトはバックステップで大きく魔人との距離をとった。

 しかし次の攻撃に備えたシルトに対して魔人も大きく後ろにさがった。


「どうなっている?」


 呼吸を整えたザートがシルトの隣に並んだ時、魔人は神像の隣で憤怒の形相をし、ザートをにらんでいる。

 先ほどの巨大な剣を右手で軽々と持ち、左手に輝く宝珠をもった魔人はザートが起きるのを待っていたかのように口を開いた。


「なぜ殺さなかった!」


 溶岩が均等に流れ冷え固まった火口に魔人の叫び声が響く。


「俺を救う? 思い上がるな! 今俺の中で己を破壊したい衝動が脈打っている。生前の記憶を持ち、価値観が反転するというのが、魔人になってみてようやくわかった。俺のしていた事はすべて無駄だった。それは違うと記憶が叫ぶのに、心がそれを否定する。徒労だった、価値がなかった、と」


 魔人は切っ先のない剣を岩に突き立て異界とこの世界を隔てる膜により正面から割られた神像が座る台座に飛び乗った。


「人々を救うため異界門を封印せず、この世界なんてエルフにくれてやればよかった!。この苦しみを消すには自決するのが一番はやい。だが俺の心が許さない。俺が砂となり消えた後も、俺の意地汚い人生が残した爪痕の残った世界が続いていくのが耐えられない! だから」


 魔人の唐突な沈黙にザートは不吉を覚える。

 神像の胸に伸びていく、宝珠をもった左手を潰すため、虎の子の物質を射出しようとするが、大楯を展開した時には魔人の左手が宝珠ごと神像の胸に突き立っていた。


「神像を止める」


 どこからともなく、あえていうなら世界から、ガチリという音がなった。

 神像の左目はとじられ、代わりに笑う魔人の左目が赤く染まる。

 ザート達があ然とする中、異界門の膜に次々と穴があき、ついでものすごい勢いで魔素が流れ込んできた。


「その具足は魔素を吸収するそうだが、あとどれくらいもつかな?」


 台座から飛び降りた魔人は処刑人の剣を岩から引き抜き、不敵に笑う。

 この場にいる人間が魔人に変わるまで約三十分。

 カウントダウンはもうはじまっていた。


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