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06_46 強さの理由


 年越しの賑わいが静まった新年の朝に一人で拠点シリウスをあとにして、僕は雪が積もったコズウェイ領にいた。


「寒いな、やっぱり鳥竜の毛皮をもってきて正解だった」


 身体は毛皮で温かいけど、露出した顔がいたい。

 しけた風の冷たさがしみこんでいくようだ。


 テンタクルなどの魔獣に用はないので身体強化を使い一気にフォクステールの草原を駆け抜けると、目的地である岩だらけの荒れ地に着いた。

 岩盤がところどころ露出した雪原の向こうにはいくつか雪が積もった岩山がある。

 魔人の多くはあそこをすみかにして、基本出てこないらしい。


「今は調査している時間はないけど、もしかしたらあの中に魔素を逃がすなにかがあるのかもしれないな」


 魔人の分析にも興味はあるけど、もう時間もあまりない。

 中位魔法のファイアバーストを何発か地面に放ち、爆発的な風で広げた火炎で地面の雪を消し飛ばした。


 グランベイ領の古城があった竜の背中と似た景色に懐かしさを感じながら待つと、岩の方から魔人が一体出てきた。


「お、まっすぐこちらに向かってくるな。事前にギルドで聞いた通りだ」


 岩の隙間から出てこないとはいっても人間のような獲物がいれば話は別だ。向こうから襲いにくる。

 浄眼で確認すると、魔人の体内には魔素がたまり、魔力が充実しているのが確認できた。

 今までの魔人の中で、中の上くらいの強さはあるだろう。


「よし、まずは普通に戦うか」


 身体強化をし、右手にホウライ刀、左手に盾剣を持つ。

 青い革鎧を着た魔人が走りながらたたき込んでくるカトラスを避ける。

 勢いに乗った攻撃を無理に受ける必要はない。


 魔人は攻撃してこない僕を一瞬警戒したけど、再びカトラスを横薙ぎにふるってきた。

 僕は盾剣とホウライ刀を交差させカトラスを受け止め、刀で反撃をする。

 左で受けて右で攻撃する身体の使い方はバックラーと同じだ。

 ただし相手の攻撃が重いので攻防同時とはいかない。


 目の前の魔人だって元銀級冒険者だった魔人だ。

 油断すれば致命の一撃を食らうことだってありうる。

 カトラスの軌道上に盾剣の先を差し込み、刃を受けずに直刀部の上をすべらせ、盾部で下に打ち落とす。

 訓練で皆と戦ったように、重い攻撃を盾剣を使って丁寧に捌いていく。


「そろそろいいか」


 魔人が引いたタイミングで僕も距離をとり、身体強化を一段階下げた。

 これで相手の強さがだいたい一段階上がった事になる。

 相手はもう目の前だ。


「……丁寧に、丁寧に」


 先ほどと同じようにさばいたけど、こちらの力がわずかに下がった事を敏感に感じたらしい。今まで以上に大胆に切り込んでくる。

 よりはやく、重く感じられる攻撃を、今まで培ってきた技術だけでさばいていく。

 感覚だけをたよりに最善の動きを実現する。


 スキルが手に入らない僕は、こうして強くなるほかなかった。

 自分にできる身体強化を常に最大にして訓練をする。訓練が楽になったら誰にも言わずに身体強化を解除していく。

 その結果得られたのは馬鹿みたいな身体強化、魔力操作の練度と精緻な感覚だった。


「よし、十分だ」


 殺意を感じたのか、魔人が咆哮をあげ、ふたたび切り込んでくる。

 僕はそのスキルを伴わないカトラスの攻撃を盾剣ですり落とし、前のめりになった魔人の身体をクレイでどろどろにした地面の上に引き倒した。


「アア、アア、アア!」


 魔人は叫びながら身体を揺すり、固くした地面に拘束された腕を引き抜きつつある。

 僕は凝血柱にするように、すばやく大楯を魔人の身体の上に落とし、魔素をごそりと抜いた。


「ぁ、ああ、ア」


 赤くなった瞳の色が薄らいでいく。

 彼の魂魄を反転させる事は今の僕にはできないけれど、魔素で侵され狂った彼に、魔素のない死を与えたかった。

 そんな言い訳とともにこの人体実験を重ねる。

 この経験が叔父とフリージアさんを救うと信じて。


「ありがとう」


 偽善であっても、僕は僕のために彼らに感謝する。

 そして一気に刀を振り落とした。

 


いつもお読みいただきありがとうございます。



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