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01_21 起死回生

 やっぱりか、とばかりにため息をつくビビのとなりで、土魔法でつくられた壁をながめる。


 ようやく自分の置かれた状況を飲み込めた。

 頭の悪い新人か冒険者くずれか、その後ろにいる商人か。

 はめた奴が誰でも、とにかく僕らを問答無用で殺しにかかってきている。


「この岩壁の向こうには解除するタイミングを計っている魔術士がいるはずよ。ここまできたけど道をもどるわ」


 ノームに見つからないギリギリの所で待ち、ノームが通り過ぎ次第一気に逃げるってことか。

 入り口側から来た盗掘者達を殺すかもしれないけど、元々向こうが殺しにかかってきているんだ。気後れなんてしている場合じゃない。


 さっきの丁字路の近くまで戻って身を低くする。目の前で緩くカーブを描く道の向こうはさっきの丁字路だ。

 壁がたいまつの様なもので照らされている。

 索敵にも一体の強力な魔物の気配が感じられる。あれがノームなのか?


「今回盗掘されたのは火属性の練重層。だからノームは炎をまとっているのよ。あの光が丁字路の向こうに消えたら走るわよ」


 ささやくビビの声に無言でうなづく。


 光がどんどん強くなる。たいまつの灯りなんてものじゃない。

 家ほどの大きなものが焼ける時のまぶしい炎が坑道の向こうに満ちているようだ。

 圧倒的な光の暴力から目を離せずにいる。

 いや、おかしい。索敵ではまだ近づいてきている。


「こっちに向かってくる!? 一度下がるわよ!」


 ちょうど道半ばまできたあたりで立ち止まり改めて索敵をする。やっぱり近づいている。

 ノームは鉱床跡にもどるというけれど、それは少しでも残っている元の鉱石に引き寄せられてるんじゃないだろうか?

 だとしたら、とてつもなく嫌な予感がする。


「ビビ、もしかしてノームって灼炎石の結晶なんかに引き寄せられる?」


「え、そりゃあ鉱石を錬金術で結晶化させたようなものなら……ってあんたまさか!」


 驚愕と焦りの色を見せるビビの顔の前に、第一層で手に入れた灼炎石のナイフをさしだす。


「あああぁぁ、バッッッカァァァ! 駆け出しの冒険者がそんなものもってる普通!?」


 声を絞る代わりに全力でのけぞるビビをみて全力で申し訳ない気持ちになっている。

 知らなかったとはいえ、やってしまった。


 正直自分の想像力のなさに愕然としている。

 ノームが練重層を直しに来ると知った時に、いや、そもそもビビが灼炎石を採りに行くと知った時に持っていることを伝えていれば避けられたんじゃないか。

 頭の中を自責の念で満たしていると、しばらく地面にうずくまっていたビビが壁に手を突いて立ち上がってきた。息もだいぶととのってきている。


「とりみだしてごめん、一応、全力でその手にもった呪いのナイフをノームの手前に投げて。向こうが私たちに気づいてなければその場でナイフを取り込んで鉱床になってくれるかも知れない。多分無理だけど」


 冗談のつもりなのか、片頬をつり上げた絶望感がただよう顔で、ビビがあかるい坑道の向こうをゆびさした。


 おそろしく分の悪い賭けよりマシな策はないか。もう一度考えよう。

 まだ若干ふらついているビビに確認してみる。


「ノームの弱点は?」

「今は火の属性を帯びているはずだから水魔法。でもあんたアイスボルトとか連射できる?」


 高位魔法を連発? そこまでの魔物なのかノームって。


 ふつうなら銅級上位か銀級のパーティが戦う魔物だ。

 まともにやれば万の一つにも勝ち目がないと、今の自分には手に余る化け物だと心が折れそうになる。いや、ブラディアに着いた頃の自分なら確実に折れていた。

 けれど、今の自分の手札にはジョーカー《ジョアンの書庫》がある。これで打開できないか?


 ノームを飲み込めないか? 

 無理だ。試したけど生物は収納できなかった。


 石を斉射したら? 

 投石でどうにかなるなら世話はない。


 なにかが脳裏をかすめた。

 思わずバックラーの裏側でせわしなく動く指を止めた。

 


 石。

 スリングショットの石。魔法でつくった石——


 石。

 石は収納できた。


 ——なら魔法で作った水は?


 後ろを振り返ると座り込み、力なく笑っているビビと目が合った。


「いいわよ。あんたの事せめたりしないから。こんな何重にも不幸が重なるなんて、私なにかしたのかな……」


 それでも、ごめんビビ。

 向こうをむいてしまったビビに心の中で謝り、やれることをする。


 ——水よ。我が意に沿って事を為せ。

 ジョアンの書庫に向かって延々とウォーターショットを放ち続ける。

 

・ウォーターショット

・ウォーターショット

・ウォーターショット

・ウォーターショット

・ウォーターショット

・ウォーターショット

……

 バックラーの裏に展開したページに、順調に魔法が表示されていく。

 でも、もう限界だ。バックラーからの魔力の供給に身体が耐えられない。これ以上は多分身体強化や魔力操作に支障がでてしまう。

 斉射のためにウォーターショットの一つに指を置き、一つにまとめる。


・ウォーターショット×50


 この程度のウォーターショットの斉射がアイスボルトの連射と同じわけがない。

 どうする? どう使えば良い?


「——ん?」


 違うアプローチが思いつかず『ウォーターショット×50』から指が離せないでいると、文字がゆっくりと明滅し始めた。

ウォーターアロー×40

ウォーターボルト×30

ウォーターカッター×20

……


明滅するたび、指の下の表示が水属性の下位魔法から次第に中位魔法へと変わっていき、明滅がとまり、一つの魔法の名前と『×1』の文字が表示された。


——いける。


「ビビ、立って!」


 一瞬で戦術を組み立て、後ろをふりむくとビビが目を見開いて立っていた。その視線は僕に向けられていない。

 振り返ると三十ジィほど向こうの壁の影から、全身に炎をまとった人影が現れた。


『ヴォオオオ!』


 ノームの突進が距離を一気に詰めてくる!


——ヒュ、カッ!


『!?』


 なにもかもが唐突で、自分が無意識に灼炎石のナイフを投げていた事に気がついた。

 本能なのか、手前の地面に刺さったナイフを見て急停止するノーム。次の瞬間には溶けるように、ナイフを抱くようにうずくまった。



 ——水よ

 ——汝水にして水にあらず

 ——弾指の狭間、万法の理を外れてなお本質たれ

 ——汝水にして水にあらず

 ——汝は我 主にして僕 いずくんぞ我が意にそわぬ事あらんや


 『アイス・ラム』


 朝夕の一時、逢魔が時の青色を孕んだ指輪をむけた瞬間、向けた先には散り散りになって氷で坑道に縫い止められている炎。

 そして、ゆらりと陽炎が立ち上る灼炎石のナイフがあった。



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