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01_20 精霊ノームからの逃走

 あれから別の坑道に向かい、流積層の閃藍石、光帯層の白針石、蔵玉層の蛇眼石と順調に採掘していった。

 これで木、水、金、土がそろったので残るは火属性の灼炎石がある練重層だ。


「あれ? この辺りのはずなんだけど……」


 ビビが困惑しつつ周囲の岩壁を見回している。

 僕も見てみるけど、細かい光が星空のように見えているだけでまったくわからない。

 これらすべてが何らかの石ではあるんだろうけど、このままじゃ知識が無ければ見分けられない。


「これは、根こそぎやられたか……常識知らずの新人か、マナー知らずの冒険者くずれが来たようね」


 ビビが悔しそうに、というか相当嫌そうにため息をつく。どうやら採掘しつくされているらしい。

 岩なんていつか掘り尽くされるものだし、また新しい所を掘ればいいんじゃないの?

 なんて言えない。だって相手がビビだもの。


「普通はどうするものなの?」


 平静をよそおって訊いてみる。


「ダンジョン化した鉱山は普通のとはちがって自己修復するの。簡単にいえばチマチマとってさえいれば同じ場所で半永久的に採掘ができるのよ。だから一カ所につき一回に取る量は一ディルムまでとギルドできめられているわ」


 え? ヤバ、そうなの?


 今ジョアンの書庫には十五ディルムくらいの鉱物資源が入っている。

 『石木層の塊』みたいにざっくりとした名前だけど、多分細かくしていけば特定の名前が出てくる。

 自分でコツコツできない分、後で楽しもうと適当に大楯ですくいとっておいたんだけど……


「これをやった冒険者って特定できるかしら? ギルドに買取を依頼していればすぐつかまってペナルティだけど、商人がグルだった場合……」


 ブツブツとつぶやくビビの隣で常識知らずの新人はいやな脇汗をかいている。

 ビビと一緒に来て良かった。知らずに第二層で採掘していたらアウトだったな。


「ハハ、まるでキノコみたいだね」

 

「のほほんと言っている場合じゃ無いわよ!」


 場を和ませようと話題を振ったらビビに相当な剣幕で怒られた。

 オレンジ色の瞳が真剣にこちらをにらんでいる。

 これは、かなりまずい状況?


「ごめんビビ、今僕らがすべき事は?」


 情けない話だけど、事前の調べで『鉱床が根こそぎやられていた場合の緊急対応』なんていうものは無かった。

 

「今の私たちじゃどうしようもない。全力で、なおかつ静かに第二層から脱出することよ」


 そういうなりビビはかけだした。


「魔物がいるかも知れないのに危ないだろ!」


 あわてて追いついて抗議するも、ビビは速さをゆるめない。


「雑魚なんてとっくに逃げてるわ! とにかくこの一本道を抜けないと!」


 その魔物が逃げる原因を聞かせて欲しいんだけど、訊いても答えてくれない。

 走りながら話すというビビの後を追って併走する。事はだいぶ深刻らしい。

 

 最後に枝分かれした丁字路まで戻り、ようやくビビが走るのをやめた。


「ハァ……ハァ……あんた、ずいぶん平気そうね」

 壁に手を突き肩を上下させているビビは、若干恨めしそうにこっちをみてくる。

 なぜにらまれているか分からないけど、それより何が起きているのか説明して欲しい。

「身体強化にはちょっと自信があるからね」


 実際はそうとうに余裕がある。事と次第によってはビビを抱えて走るほうが良いかもしれない。


「……まあいいわ。とりあえず最悪の事態は避けられたから、一息つくわよ」


 二人で壁に寄りかかって身体をやすめる。


「まず、ダンジョンの鉱床は自己修復するっていったけど、正確にはノームがしていると言われているわ」


「ノーム?」


「ああ、ノームという魔物がいるのよ。レアだから知られていないけど」


 魔物が鉱床を直していたなんて初耳だ。


「鉱床が尽きた時にノームは現れさまよい、鉱床のあった場所で自ら溶け、新しい鉱床になる、と言われているの。そこから平常時に鉱床が回復するのもノームがやっているんだろうと推測されているわ」


「鉱床になるだけの魔物か。なら——」

 人は襲わないんじゃない? 


——ァァァァア!



 突然した人の叫び声に僕の問いはかき消されてしまった。

 幾重にも重なる断末魔の叫び。普通冒険者はSPが削れきるまではこんな声を出さない。

 それに人のLPも個人差があるから普通なら一斉に叫ぶこともない。


 つまりなにが言いたいかというと、複数人を瞬殺する化け物がこの階層にいるということだ。


「……人を見つけたノームは見境なく襲ってくるわ。まるで盗人を罰するみたいに」


 誰か知らないけど、冒険者が発した断末魔は第一層の方向から聞こえた。つまりノームはこっちに来る。


「大丈夫よ。さっきもいったけど、ノームは鉱床を直すためにくるの。気づかれなければさっきまで私たちがいた鉱床跡に向かうはず。私たちはノームが通り過ぎるまで第三層側の階段近くで隠れていればいいのよ」


 落ち着きを取り戻したビビはニッと笑ってみせた。

 けれど、第三層へ向かう坑道を並んで歩くに従い、ビビの顔はふたたび曇り始めてきた。


「なにか心配があるの?」


「……うん、鉱床を掘り尽くすことは重罪。ノームが出た事を知られれば流通ルートは厳しく監視されるはず。だから今回の件を引き起こした盗掘者達は、ノームが出た事を知っている第二層の冒険者を」


 坑道は唐突に人工的な岩壁により塞がれていた。


「口封じに殺すでしょうね」




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