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01_02 ブラディアに入城する



 日ごとに強くなる春の終わりの日差しを避け、隊商は森の中を進む。

 先をいく馬の蹄や人の足が踏みつけたせいで、すっかり青草の匂いが身体に染みついた気がする。

 けれどそれも終わりだ。

 あの森が途切れる先、光の穴の向こうに目的地が見えてくるはずだ。


「おぉ……」


 ため息が自然と喉を震わせる。

 森を抜けると突如として太陽に照らされ波打つ草原が広がり、視界の先には長い長い城壁が広がっていた。


 辺境伯領ブラディア。

 かつてジョアン叔父もいた冒険者の都。

 今日からあそこが僕の生きる場所になる。


   ――◆◇◆――


 辺境伯領の領都であるブラディアに入るため城門前に並び順番をまつ。


 城壁は辺境伯領だけあって質実剛健だ。堀の深さを除いても十五ジィ(※ジィ=メートル)はあるだろう。

 

 道中で聞いた話によれば、ブラディアは領都を中心にして北東に五重の城壁が拡がる領地だという。

 辺境伯の居城を起点にすると、周囲を貴族街が、さらに商業地区である旧市街区が囲んでいる。

 そこから南東に向かって一般市民が住む新市街が広がる。

 城壁に囲まれたここまでの街が領都としてのブラディアだ。


 しかし辺境伯領としてのブラディアを特徴付けるのはやはり五重の城壁だ。これは——。


「おい、背が高いの、お前の番だぞ」


 まずい、ぼーっとしてた。後ろから道中の顔見知りにつつかれて前を見ると検問所の兵士が眉間にしわを寄せている。


「すいません。僕はザートといいます。冒険者になるために来ました」


 族名、家名と一緒に本名も捨てようとしたけど、さすがに言い間違えたらまずいので本名はザートという略称にしておいた。


 ブラディアに来たのはここが冒険者として生きるのに最適だからだ。

 辺境伯領は隣国バーゼル帝国に接している。

 魔獣が多数生息する未開拓の大森林地帯が領地の大半という、魔獣を討伐する冒険者が集まる土地だ。

 ここなら基礎スキルしか持たない自分でも生きていくくらいはできるはずだ。

 

「そうか。男、鳶色の短髪、同色の目、背は……一・七? ジィくらいか。細いな。外見は中つ人(※人間)でいいか。年齢は?」


「十六になります」


 兵士二人がそろって僕の特徴を紙に書き付けていき、二枚をずらして重ね、割り印を押す。

 話しかけていたひげの兵士がそのうち一枚を突き出してきた。


「この紙を今日中に冒険者ギルドに持って行って市民登録しろ。そろそろ帰ってきた冒険者で混み合う時間だ。行くなら道草をくわずにいくんだぞ」


 次、という声を背にして、紙の裏に書いてある地図を頼りに冒険者ギルドに向かった。


    ――◆ ◇ ◆――


「さすがはアルドヴィン王国最大の魔力生産拠点だなぁ」


 両側を石にはさまれたゆるい坂を登っていく。

 防衛拠点としても一流らしく、施設もこれまでで一番立派に見えた。

 坂を登り切ると、今度はうって変わって木造の家が並んでいて驚いた。


 僕の故郷や王都にあった魔術中等学院は石造りの家がほとんどだった。

 木だけでできた家は王都からここに来るまで通ったような集落にしかないとおもっていた。


 けれど、近づいてみれば貧しいから木で家を建てているわけじゃないことがわかる。

 屋根につまれるスレートは素焼きではなく水につよい釉薬が塗られ、漆喰は丁寧に修繕されている。外に露出している柱やアーチもくるい無く屋根を支え、一部には彫刻さえ施されている。


「すごいな、ここは目抜き通りとはいえ、普通の市民街のはずなのに」


 街ゆく人々は上流から下流まで様々だ。新市街区だから中下流が多いかな。


「おにーさん。うちの店で休んでいきませんか?」


 建物に感心して立ち止まっていると、カフェの前で呼び込みをしていた獣人のウェイトレスに声をかけられた。

 族名はわからないけどイタチ系だろうか? 周りをちょろちょろと回られて逃げ出すタイミングがつかめない。


「ごめんね。これから冒険者ギルドで登録しなきゃいけないんだ」


 さっき言われたとおり、道草を食わずに行かなきゃ。

 

「え、そうなの? その服装だからよそから来た銅級あたりの冒険者かと思った。まだ登録してないなら急いでいかなきゃ。広場にでたら壁を左だからね!」

 

 ぱっと離れたウェイトレスは道を教えてくれた。


 銅級になったら来てねー、と笑顔で見送られる。

 現金だけど、貧乏人に愛想良くしても客にはなってくれないからな。

 それでも道を教えてくれたし、十分親切だ。


「それにしても、銅級の服装か……」


 広場に出てあらためて考える。

 隊商にいたときはなにも言われなかったけど、確かにこの広場の中でも僕の格好は浮いている。 

 一々間違えられるのも気まずいし、ギルドにいく前に服を代えておくのがいいかもな。


 広場を横切って急ぎ足で歩きながら店先の看板を見ていく。


 「料理屋、屋台、肉屋……ギルドの近くならあると思うんだよな……あった」

 

 古着がたくさん吊るされている店に入り、今来ている服と同じ種類でなるべく、くたびれたものを探す。


 ジレ、シャツ、乗馬ズボン……ブーツはサイズを選んでいる時間は無いか。

 腰にポーチをいくつも付けたマルチベルトも時間が惜しいから今度だ。


 今着ているものを下取りに出して中古の服を二セット買う。銀貨三枚が戻ってきた。

 

 腰のバッグに銀貨を入れる時、胸元に目をやる。

 首に下げている袋の中はマザーからもらった金貨だ。命に関わる時じゃない限り使えないな。

 

 バックラーの入ったくたびれたバックパックを担いで出て行こうとすると、服屋に呼び止められた。


「流れ者ならこれもまとわなきゃな。野宿してこなかったのがわかっちまうぞ」


 手には暑くなる季節には不似合いな厚手のマントがあった。

 なるほど、これなら流れ者らしい。


 僕のような奴をこれまでたくさん見てきたんだろう。

 どうも、と礼を言いながら受け取るとおやじさんは背を向けて仕事にもどってしまった。


「金はいらねぇよ。じゃ、がんばんな」


 親切な服屋を出て今度こそギルドに向かう。


 王国にある冒険者ギルド支部でもっとも発言力があるのは、ブラディア冒険者ギルド支部だ。

 王国の冒険者ギルド総本部は王都にあるけれど、あれは国の行政府との窓口でしかない。

 だから実質ブラディア支部が本部のようなものらしい。

 それにしても、だ。


「でかすぎでしょ、これ」


 あらためて正面に立って呆然としてしまった。城壁に直角に接する長い階段。

 その階段と融合するように、二つの建物がそびえ立っていた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観が面白い [気になる点] スレートに釉薬?それは瓦ではないのかな
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