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06_28 採掘:竜の墓場

 陸から海への容赦ない強風にあおられながら、シルトと僕は魔素の影響が薄い場所に他の皆を残し、竜の墓場に降り立つ。


「おお、確かにこれは竜の墓場という感じだな」


 きいていた通り、半円状の崖に囲まれた沢には多くの巨大な生物の白骨が横たわっていた。

 気になるのは、その骨のことごとくが同じ質の凝血石だということだ。

 竜は自らの凝血石の具合で寿命を計っている?

 少なくとも飛行する竜種は凝血骨が限界まで成長するとこの場所で死ぬことを選ぶようだ。

 

「おい、ぼーっとするなよ。骨拾ってくぞ」


 シルトはもう作業を始めているようだ。

 葉の落ちた低木や、冬を過ごすために小さく固い株になった沢の植物の側を通り抜けながら、持っている杖で叩いている。


 骨が消えていくのを見ると、どうやらあれで収納しているらしい。

 ここは見晴らしが良いとは言え、竜の肉を食べに強力な魔獣がでるらしい。

 長居するようなところじゃないな。

 僕も浄眼を使って、徒歩では取りづらい場所の竜の骨を取っていった。


 しかし、ここが未発見の世界でも珍しい竜の骨がある土地だとしても、なんらかの違和感がのこる。

 一番は、ここで異界門が開かない事だ。

 僕の知っている常識では大規模な魔素だまりほど異界門が開きやすいはずだ。

 ここほど魔素の濃度が濃いならば異界門が開いていてもおかしくない。

 魔素が竜由来だから場合が違うんだ、と一応反論もできるけど、釈然としない。


 「ところでこの植物は回収しなくていいのか?」


 僕が考え込んでいると、シルトが竜の種のなる木を杖でさして訊いてきた。

 今沢に草はあまりなく、周囲の骨が無くなっていくのだからいやでも目立つ。


「ああ、大丈夫だ。骨と一緒で全部取ればどんな影響があるかわからないからな」


 竜がここで死ぬから竜の種は世界に広まらないのだ。

 逆に言えばここが竜の生まれる場所なのかも知れない以上、種をすべて持ち去るなんて怖くて出来ない。

 

「じゃあこんなものか。せいぜい有効活用してやろう」


 シルトが残した大型の竜の頭蓋骨に向かって話しかけているのを見てさっきの疑問が再び頭に浮かんでくる。


 ここの魔素が竜の死体によるものだとしたら、なぜ竜はここに集まるんだ?

 まるで蜂が巣に蜜をもちかえるみたいじゃないか。


『世界に散った魔素の回収を続けて下さい』


 第三十字街の北の祭壇でアルバの神像に告げられた言葉を思い出した。

 竜も自分の身体をつかって魔素を回収している?

 もしそうだとしたらこの地下には——


「お、おい急にどうしたんだ、ザート」


 シルトの声を背に、この広場の中央の土を収納していくと、やはり周囲の岩とは質が違う石が現れた。

 北の祭壇と同じ素材だ。

 一気に周囲を掘り進めると入り口があった。


 やっぱり祭壇だ。

 これが封印の役目を果たしていたから異界門が開かなかったんだ。

 はやる心を抑えて盾剣を見せると、人一人分くらいの穴が壁にあいた。


「じゃあ入るか」


 そういった瞬間、背後から殺気を感じた。


「シルト、中に飛び込め!」


 背中を突き飛ばすように転がり込む直前、視界の隅に紫色の舌が見えた。

 祭壇の間で向き直ると、そこには見たことも無い巨大な角のある蛇が入り口に頭をつかえさせ入ろうとしていた。


「ミズチだ……前に来たときにも見たけど、ここまででかい奴なんていなかったぞ」


 原始的な竜種であるミズチは派手なブレスは吐かないけれど、眷属のツノヘビを多く引き連れるやっかいな敵だ。

 神像の右眼を祭壇に捧げている間は法具の能力は使えない。

 万が一ミズチが神殿に入ってきたら素の力しか出せない僕とシルトで勝てるだろうか?


 瞬時考え、僕は十字槍を出して横に置き、ついでオベリスクにもつかった鉄の塊を取り出して入り口の前にすえた。


「シルト、もしミズチの眷属が入ってきたら対応を頼む。僕はそこのアルバの神像を確認してから戦う」


「まかせろ」


 シルトに後ろを頼み、祭壇まで駆け上がり柩の中に盾剣を入れた。

 タブレットを呼び出し、血殻柱の項目を見るとすごい速さで数字が上がっていくことがわかった。

 血殻柱一個あたりの重さは二百ルム程度だったので、この調子でいけば一万ディルムまでいけるかもしれない。


「ザート、ツノヘビが来たぞ!」


 後ろで戦闘が始まる。

 血殻の貯蔵と法具の再構築にはまだ時間がかかりそうなので、僕も戦闘に加わる。

 しなやかな皮と鋭い牙を持ち、人の腰ほどの位置で鎌首をもたげ跳びこんでくるツノヘビは銀級程度の強さはある。


 ただし、敵は通路を通るしかない。

 通路の敵を倒すのに有利な槍で僕がツノヘビをつきふせ、邪魔な死体や手傷をおった敵を手前に引き寄せ、シルトがとどめをさす。


「なあ、結局あのでかいのを倒さなきゃ出られなくないか」


「うん、僕も今そう思った」


 ミズチはまだここに入ろうと、入り口いっぱいに頭をねじ込んでいる。

 ツノヘビじゃないかぎり隙間を通ることはできない。


「よし、シルト、倒すから魔力が貯まった筒を一本くれ。僕の詠唱が終わったら射線から外れるのを忘れるなよ」


 六花の具足のホルダーから抜かれた筒を受け取り、僕は鉄塊をはさんでミズチに正対する。

 鉄塊に両手を置き、詠唱を開始する。

 普段からスキルを使わずに魔法を使う僕でも、万法詠唱は緊張する。


 始原の魔法とも呼ばれるこの詠唱は、原始的だからそう呼ばれるのではない。

 既存の魔法も開発者により最初に編まれた時には”始原の魔法”だった。

 魔力を使いのぞむ効果を生むため、この世の縁起に干渉する経路を探し出す行為、洗練の対極にある始まりの魔法の唱え方。それが万法詠唱だ。


——八百万の鎚よ

 ——鍛えたまえ、鍛えたまえ、鍛えたまえ

 ——シキの泉より湧き出づる我が魔力もて、理の針をすすめたまえ

 ——汝、作為の発端、神器魔具の縁起なれば

 ——我が手の黒金をもて、万物を貫く茨の槍を授けたまえ


 ——我重ねて願う

 ——汝万物の母より産み落とされし同胞はらからなれば

 ——我が意の如く、産み落とす槍に炎を宿せ

 ——汝は我 あるじにしてしもべ いずくんぞ我が意にそわぬ事あらんや


『イーロン・スリザス』


 鉄塊から一条の黒い影がミズチの顎門の中へと吸い込まれていく。

 一瞬驚いたミズチだったけれど、すぐに脅威では無いと判断したのだろう。

 剣の柄より細い鉄杭を打ち込まれても、打ち込まれたままミズチは回復してしまう。

 奴は原始的なぶん、回復力は驚異的だ。槍で刺してもすぐに回復してしまう。

 ミズチはさがるのをやめて再び頭を入り口にねじ込み始めた。


 ——我が意の如くたれ


 僕は鉄塊に手を添えて追加の詠唱をする。

 鉄杭が抜けないように返しになる棘を生やす。

 それでもミズチは気にしないようだ。

 僕はさらに氷の結晶のように棘を枝分かれさせ、ミズチの全身に静かに鉄の茨を忍び込ませた。


 仕上げだ。

 残っていた鉄塊で鉄杭を一気に太くし、シルトの筒の魔力を唯一のこった持ち手から全力で送り込み、その魔力を熱に変換する。


——ガボ


 野太い肉の振動とともに身を痙攣させると、ミズチはそのまま動かなくなった。

 僕はその場を離れて神像の柩へと向かった。

 タブレットには一万ディルムに余裕で届く量の血殻柱が入っている。

 多分この血殻は風化した竜の骨を祭壇がとりこんだんじゃないだろうか。

 神像の右眼の形は盾剣のままだな。


「おい、これはもう倒してあるのか?」


 臭いと言って鼻をつまんだシルトの横にたち、煙を上げ始めたミズチをみる。


「いや、まだ死んではいない。全身を鉄杭で内側から張り付けにして焼いている所だ。火が通れば死ぬよ。どれだけ回復力がすぐれていても、焼け身が残っていれば邪魔で回復しづらいだろう?」


 なぜかしばらくこちらを見ていたシルトが一つため息をついた。


「とにかく、俺はこんな死に方はいやだね」


「僕だっていやだよ」


 あまりの臭さにげんなりしつつ、浄眼で魔力の光が消えたことを確認し、ミズチの死体を神像の右眼に収納して僕らは外にでた。


 けれど、地上で僕らを待っていたのは、ツノヘビをついばんでいる、以前のビーコの様な鳥竜の群れだった。


 

いつもお読みいただきありがとうございます。


ツノヘビは原始的な竜という位置づけです。

竜の生態はそのうち明らかにするかもしれません。


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