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06_26 神殿跡で行われるのは。


 翌日、協力者も含めて皆で廃墟の前で朝食を取っていると、サティが話を切り出した。


「ハーグさん。昨晩、皆さんで話し合った結果をきかせてもらえますか?」


 虎獣人の協力者のリーダーがうながすと、協力者の全員が立ち上がった。


「まず感謝の気持ちを伝えさせてくだせぇ。サティさんのボスは俺達に引退場所を用意してくれるだけじゃなく貴重な薬を使って魔人症の治療までしてくれた。返しきれねぇ恩でさぁ。もらった身体を使って、今度は損得抜きでサティさんらの力にならしちゃもらえんでしょうか」


 大人からこどもまで一斉に頭を下げるのを見て、サティさんが僕らに視線を送った。

 こちらに判断もききたいという事か。

 一応協力者に聞こえないように声を小さくして、言葉を選んで隣のリュオネに訊く。


「ねぇ、ここにうちの”海外”拠点を作るのってどうだろう。遠いかな」


「前に言っていた”一時撤退”の拠点にするには遠いけど、帝国とゲルニキアを相手にする場合、このビザーニャは取られちゃいけない場所だから、手勢を置いておくのは賛成だよ」


 一時撤退というのは、ブラディアが敗戦してティランジアに逃亡した場合だ。

 戦争に対してクランの取るべき立場については、すでにスズさんを交えてリュオネとかなり話し合っている。

 二人で納得したところで、サティさんにうなずき返した。

 現地の事情を知らずに出しゃばってサティさんを困らせたくない。


「皆さんのお気持ちは承知しました。では今の活動が終わった後は、冒険者登録後、仲間として活動していただこうと思います。よろしくお願いしますね?」


 サティさんがお辞儀をしてから微笑み小首をかしげる。

 包容力のある慈母のような微笑みを前にして、協力者達の大人はしまりのない笑顔で何度もうなずいていた。

 先ほどまでの決意に満ちた顔が台無しである。

 ……このおっさん達、もしかして義理以前に、サティさんと離れたくなくて協力を申し出たんじゃないのか?

 

 彼らと別れ、僕らとアルバトロスはビザーニャへと向かった。

 アルドヴィン王国側が使う弾丸に不良品を混ぜ込んで戦力をそぐ作戦のため、あそこの施設をつぶす事はできない。

 

「じゃあここでの仕事は終わりって事か?」


「他に血殻の調達方法がないか考えよう。一応もう一度港をみるけど、収穫が無ければビザーニャ以外で調達する方法を考えなきゃな」


 僕の答えに肩透かしを食らったような顔でショーンがため息をついた。


「ま、しゃーねぇか。それじゃ、港は最後にして、ちょっとこの街で観光していこうぜ」


 ショーンが褐色の肌に白い歯をきらめかせて親指を立てる。

 切り替え早いな!

 

「あたし達、里にいた頃はしょっちゅうこの街に買い出しに来てたからね。色々案内できるわよ」


 オルミナさんがはしゃいでリュオネの肩に抱きつく。

 そうか、二人の故郷はティランジアのこの辺りだったのか。

 リュオネもうずうずしてるし、せっかくだから楽しもうかな。


 その後、ショーンとオルミナさんに連れられて、色々な所に連れて行かれた。

 首長の宮殿や広場に高台と、みどころはたくさんあった。

 近道なのか、途中通るのはだいたいバザールで、人がひしめき合う通りから少しずれた所にある十字路では店の人がアジーザをふかせて休憩していたりする。

 裏路地を駆け抜けていく子供達をみると、ショーン達の子供の頃が想像できてちょっとたのしい。


 屋台で肉をはさんだバゲットなんかを買い食いしつつ、何本か青空の見える大通りを渡っていくと、広い青空と清潔そうな広場に出た。


「ここはビザーニャのはずれだけど、街で一番古い遺跡よ」


 そこは純白の光帯層の基石と、黒の一部に鮮やかな青色が走る流積層の基石でティラジスク模様が描かれた広場だった。


「すごく綺麗だね……」


 感激したようすでリュオネも足をすすめていく。


「ここは商売とか休憩には使われていないみたいだけど、なぜですか?」


 周囲を見ても屋台も、物乞いもみたらない。ここがメインストリートから外れていたにしても少し不自然な気がした。


「理由はあれよ」


 オルミナさんが指さした先には人だかりができている。

 近づいていくと、ティランジア風の衣装でドレスアップした男女が集まっているのがわかった。


「あ、あれってもしかして……」


 リュオネも見当がついたようで顔を輝かせている。


「そ、結婚式。ここはアルバ神の神殿だったらしいの。アルバ神をまつる教団は今はないけど、この辺りの人は今でもなんとなく信仰してるのよ。だから神殿を利用した結婚式も行われているの」


 人だかりの真後ろからみると、正面には緩やかにカーブをえがく階段がある。

 目を上に移すと、その先は何もない切り立った崖があった。

 崖からのびる、青い花を咲かせたつるが風に揺れている。

 そこから一組の男女がゆっくりと一段一段、階段を降りてきていた。


「儀式をした崖からここに降りるまでの時間が人生で一番幸せだったってビザーニャの人はみんな言うわね。たっぷり時間をかけてみんな降りてくるわ」


 しばらく眺めていると、階段の途中でキスしたりハグしたり、結構忙しい。

 お国柄なのか、二人ともテンションが上がっているからなのか。


「私達も冒険者を無事に引退出来れば、ここで式を挙げようって決めてるのよ」


「素敵ですね……」


 少しまぶしそうに見上げるオルミナさんを、リュオネが普段の凜とした様子からは想像できないほど熱っぽく目を輝かせて見ていて、こちらの顔もほてってくる。

 やっぱりリュオネもそういうのに憧れているんだな。

 ふと目が合ったけど、顔に手を当てたかと思うと一瞬で真っ赤になって階段の方に顔をむけてしまった。


 僕も出来れば一歩踏み出したい所ではあるけど、何しろ二人とも、あっという間に大規模クランの団長と副団長になってしまった。

 戦争も近づき、忙しくて気持ちを確かめる心と時間の余裕がない。

 そう考えてしまうのは言い訳だろうか?


「ま、その時の立ち会い人は儂がする事になるだろうな」


 空気を読んでくれたのか、デニスが咳払いをして甘くて収拾がつかなくなりそうな雰囲気を吹き飛ばしてくれた。


「そうね、その時はぜひお願い」


「お前の時には俺達がやってやるからな。最近ちょっと気になる娘がいるんだろ?」


「ばっ! 口が軽い奴め!」


 せっかくデニスが話を変えてくれたのに、恩を仇で返すなよショーン……

 慌てるデニスをからかいつつ、僕たちはアルバ神の神殿跡を後にした。



【お願い】

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