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06_22 復讐の手段を与える


 到着した日から一夜明け、今僕らは廃墟から少し離れた場所にある、丘の中腹に残された段々畑にいる。

 斜面でましら座りをしている協力者達にみえるように廃墟からもってきたテーブルをすえおき、十歳くらいの協力者に作業をしてもらっている。


 テーブルに置いてあるのは昨夜のうちに用意しておいた”粒”と、魔鉱石とクレイで柔らかくした魔弾だ。

 小さな手が器用に小さな粒と魔鉱石を同時につまんで、固まりきっていない弾丸の先端に粒をのせ、フタをするように魔鉱石をおしつけた。


「これでいいか?」


 振り向く男の子の赤く光る瞳をみてうなずく。

 十発つくらせたけど、動きに澱みもない。

 この子は問題なく作業ができそうだな。


「その日に使う分だけサティにもらってから、施設で今の作業をしてほしい。監視する信徒に見つからないように、粒をなくさないようにできるか?」


 作業をみていた中つ人の青年が鼻を鳴らせた。


「そんなの全員できるっての。スラム育ちをなめんなよ? 監視の目を盗んで細工するなんて、あんたみたいなのから財布をするよりずっと楽だぜ。こんなの見せるためによびつけたのかよ」


 見渡すと、他の協力者も同じ気持ちなようだ。


「まあ話は最後まできいてほしい。どうせなら自分が何を作っていて、今の作業で何が起こるのか知りたくはないか?」


 青年達が浮かせかけた腰を戻す。

 皆の視線が集まったのを確認してから、使い道が無かった魔鉱銃の試作品と十ジィ下位火弾をとりだした。


「君たちが作っているのは、簡単に言えば魔法を放つボウガンの矢だ」


 魔弾を装填して狙いをつけず、発射する。

 十ジィ付近でファイアが発現したのをみて協力者の皆がどよめく。


 僕はなにも言わずにテーブルの上に置かれていた弾丸を手に取ってみせる。

 弾丸の中に仕込んでもらった粒は、昨晩僕が血殻と組み合わせてつくったバシルのヒュプレシードもどきだ。

 バシルのヒュプレシードは魔素が失われることで殻が崩壊して圧縮された空気が外に出る。


「今作ってもらった弾丸をバルドやアルドヴィンのやつらが使うとこうなる」


 用意して置いた穴を開けた石版から銃身だけ出して引き金を引く。

 普通に撃ったときには決して出ない、金属が裂ける不快な音とともに石版の向こうで火柱が上がった。

 銃身が破壊された魔鉱銃は元々廃棄される予定だったので問題はない。


 射出の際、弾丸の魔素が消費されると疑似ヒュプレシードの魔素も減る。

 耐えきれず崩壊した殻を破って圧縮された空気が銃身内で一気にはぜたのだ。


「……今びくっとしましたよね」


「うん、したね」


 斜面でみていたサティとリュオネがうなずき合っている。

 仕方ないだろ、予想外に音が大きかったんだから!


 石版ごと協力者に向き直ってみせる。

 石版の表面は炎と銃の破片でボロボロだ。


「魔素にさらされる環境で君たちを働かせるバルド教徒は、こういう感じでひどい目にあう。ざまあみやがれ、だ。以上で追加依頼の説明は終了。よろしくたのむよ」


 ちょっとやる気をだしてもらおうと説明をしてみたけど、拍手して叫んでいる彼らの反応をみれば、効果は上々のようだ。

 


 廃墟まで帰る間、協力者達の後ろを歩いているとショーンが嬉しそうにからんできた。


「ザート、バシル兄貴の魔法をパクるなんてすげぇな。本人が知ったら泣くんじゃねぇか?」


「そうだね。見せたときは泣かなかったけど、ソファにいつも以上にだらしなく座り込んでたね」


「もう教えてたのか。その場に呼んでくれりゃよかったのによ」


 ショーンががっかりとうなだれる。

 いや、そこは僕も人の子だし、弟の前で兄貴の面目をつぶすようなことはしないよ。


「暴発する弾がかなり混入するなら使うアルドヴィン兵はたまったもんじゃないわね。ところで、いつまであの子達には協力してもらうの?」


 オルミナさんも感心した様子だったけど、サティに向けた顔はどこか非難の色が混じっていた。

 母性が強いオルミナさんとしては割り切れないところがあるんだろう。


「戦争が始まれば原因追及が始まるでしょうから、それまでかしら。もっとも、それまであの子達の何人が残るのかわからないですけどねぇ」


「アンタねぇ……!」


 オルミナさんに対し、サティさんが慈母のような微笑みで挑発する。

 外見と中身が逆じゃないかこの二人。


 僕はため息をついて昨晩ヒュプレシードもどきと一緒に作っておいたものを、予定通り隣を歩いていたリュオネに渡した。


「二人ともケンカしなくても大丈夫だよ。サティ、協力者は二十人だったよね?」


「……? ええ、そうですね」


 怪訝な表情のサティに、リュオネは丸薬が二十粒はいった瓶をわたした。


「皇国製の、体内から魔素を排出する薬だといってこれを飲ませて。本物の魔素排出キレート剤はまだできていないけど、ザートの法具で彼らの魔素は抜いたから、そのアリバイが必要なんだ」


 昨晩、大楯を使って人からも魔素吸収を出来ないかとリュオネから提案されたので、それをあの場の協力者全員に実行していたのだ。

 結果は成功。弾丸作りをしてくれた子の瞳は黒になっていた。


「すでにここを出て行った六人はどうするのですか?」


 薬瓶をみるサティの表情は複雑だ。

 不公平じゃないか、と言いたいのだろう。


「サティなら協力者が住む集落をもう用意しているんじゃないの? 場所を教えてくれたらむかうよ。ね、オルミナさん?」


「ええ、もちろんよ! なんなら今からいきましょうか?」


 オルミナさんもサティの性格がわかったのか、頼もしく笑ってみせた。

 第八の諜報員だからといって、冷血な人とはかぎらないということだ。

 驚いたまま目を見開いていたサティは今度こそ笑顔で大きくうなずいた。


いつもお読みいただきありがとうございます。


クランは完全な善意では行動していません。

劣悪な魔弾を敵に使わせるために利用しています。

それでもサティのように、出来る範囲で彼らに報いている団員がほとんどです。



【皆様の応援は最高の燃料です!】

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