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06_18 スパイの告白、エヴァの誇り


 街道整備が終わったコリー達工兵部隊に任せていた遺跡発掘がようやく終わった。

 結局エルフの異界門はあれ以降みつからず、見つかるのは神像の右眼で開くアルバの地下祭壇ばかりだった。

 時間を見つけては血殻の回収にいっているおかげで血殻の量も増えている。


 けれど僕がいまアルバの地下祭壇にいるのは血殻を集めるためじゃない。

 すでにここの血殻は回収済みだ。

 第三十字街から適度にはなれたこの地下祭壇は、違う目的のために使っている。


 ただし、使っているのは僕じゃない。

 僕はこの場所を開閉するため、付き添っているにすぎない。


「ちょっと休憩するか」


 待つあいだ下位魔法をひたすら収納するのにも疲れてきたので、祭壇の近くを散歩することにする。


「ん?」


 祭壇の前を通ったとき、視界の端にちらりと光が見えたので振り向くと、血殻を補充するときに法具を入れるひつが光っていた。


「なんだ? 血殻はもう回収したはずなのに」


 いぶかしく思いつつ、櫃に神像の右眼を入れると、その形が徐々に崩れ始めた。

 二回目なので慌てることはないけれど、やはりちょっと不安になる。

 今度はどんな形になるんだ?


 光が収まるとともに、櫃の内側が見えた。

 入れる前の小盾はリナルの様に両端が細く稜線があり、持ち手は両端を結ぶようについていた。

 いま目の前にある法具は、小盾の端が飴細工のように伸び、まるで持ち手の延長上に半ジィほどの、刃をつけていない直刀ができたようにみえる。


 もち手はホウライ刀の柄みたいだ。全体はガントレットと一体化した直剣のパタに近い。

 もう小盾とはよべないな。

盾剣じゅんけんとでも呼ぼうか。


 さらに、直刀と平行になるように小盾中央から○・三ジィほどの似たような突起ができていた。


「グレイブとは逆に刃の方向についてるけど、たぶんカギだよな。ソードブレイカーで曲刀を折られたからってわけじゃないだろうけど、これからは相手の剣を絡めるのにもつかえそうだ」


手に取って眺めていると、後ろから元第六小隊の団員、要するにエヴァの部下がやってきた。

 新しい武器を手に入れて浮かれていた気持ちを切り替え、団員に訊ねる。


「お疲れ様。必要な情報は聞き出せた?」


「はい。兵種長がお待ちです」


 淡く光る回廊をしばらく歩くと、人がストレスを加えられた時に発する、腐り落ちる前のアンラの匂いがした。



「失礼します。団長をお連れしました」


 扉のない小部屋の前でしばし待つ。


「はぁーい」


 部屋の中からやたら明るい声が聞こえてきた。

 なかなか動いてくれない足を前にだして中に入ると、病院のベッドのようなものの上で呆然としているスパイとその横でクリーンをかけているエヴァの姿があった。


「意外と血は飛び散ってないんだな」


 上半身裸のスパイの腹に大きな切り傷があり、乱雑に糸で縫われているのがきになるけど。


「まあねぇん。じゃ、本人の口からききましょうか」


 団員によりくわえていた布を外されると、スパイはあえぎながら焦点の定まらない目をして何かいいたそうにこちらに顔を向けてきた。


「きこえなぁい。抜糸してまた一個ずつ内臓抜いていくわよ?」


 なにか口汚い言葉を発したようだったけど、エヴァの指がスパイの腹の裂け目にすいこまれたかと思うとくぐもった絶叫が響いた。


 エヴァが指を抜いた後もしばらく肩で息をしていたスパイはもはやどこに救いがあるのかわからないと憔悴しょうすいしきった目をして口を開いた。


「……調べていたのはあんたら……あんたらの銃の性能と……弾丸の原料の調達先を調べてた……他の戦力はだいたい把握している」


 意識を失ったのか、ふたたびスパイが黙る。

 その腹にエヴァが指を突っ込むと悲鳴とともにスパイの目が開いた。


「……赦して、意識が、もうぜんぶ 限界なんだ……銃と弾丸の性能はあんたらの方が上だ。ただ、銃の量はアルドヴィンが十倍以上ある。もうだいぶ前からゲルニキアにあるバルド教の工房から送り込まれているんだ。バルド教は……」


「ああ、そのへんはハイエルフのサイモンからきいている。ブラディアの凝血石をバルド教は独占したいんだろ? それをすればだいぶ国際的な影響力をもてるからな」


 サイモンという名を口にした時、スパイの目が大きく見開かれた。


「ベーア様を害したのはやはりお前か……フランシスコ商会の坊主が言っていた通りか……」


「そんな事より、お前等のいう弾丸の原料だよ。お前等と同じく、僕らも知りたいんだ。材料の入手からアルドヴィンまでどういう経路で届いているんだ?」


「……各地の教会に集まる一般の出がらしと、帝国の動力炉から出る大量の出がらし……それらはゲルニキアの倉庫にあつめられる……そこからフランシスコ商会の船で運ばれる」


 もうスパイはなにもかも垂れ流したいのだろう。

 秘密をもらすことにためらいがない。


「ブラディアはもう国境を封鎖している。船はアルドヴィンのどの港に入っている」


「パトラだ……今はアルドヴィンの南方艦隊がはいっている。そこからバルブロ商会がッ……ァアアアアア!」


 部屋に最大級の絶叫が響く。

 バルブロの名をきいたせいだろう、気がつくとエヴァの真似をしていた。

 スパイの腹から指を引き抜くと臭い黒い汁がついていた。

 内臓のどこかを傷付けたのか叫び声が止まない。


「あーあぁ。せっかくきれいに残しといたのに。治癒ポーションがもったいなぁい。まあ、情報は全部抜いといたからどうなってもいいんだけどねぇ」


 そう言いながらエヴァがスパイの腹に器用にポーションを流し込む。

 魔力も身体も極限まで制御できているのに、肝心の感情を一番制御できないなんて、本当にままならない。


「仕事をふやして悪い」

 

「良いんですよ。それに汚れ役は赫色(かくしょく)の毛をした私の領分ですから。白銀(リュオネさま)は綺麗なままでいるためには必要なことです」


 無邪気と妖艶をまとうエヴァの表情が迫り、思わず一歩下がると、鼻先で止まった笑顔に狂気の陰がさした。


「でも、団長が、貴方が殿下とともに歩むなら、相応に汚れてもらうわよ?」


 長いまつげは揺れること無く、呪符に描かれた模様のような瞳を縁取っている。


「団長も、そこの人みたいに一度腹を割ってみればいいのに」


 エヴァの瞳に魔力は込められていないのでスキルなどは使っていないだろう。

 それでも、僕は長らく人の心を操作する事に長けた赫色の狼に呑まれそうになった。


「それじゃ、片付けるので、また神像の前でまってて下さい。残りの情報は報告書にまとめときますねぇ」


 ふっと離れたエヴァの香水がきつい身体からは、ゲランの陰に隠れた、腐り落ちる前のアンラの匂いがした。



いつもお読みいただきありがとうございます。


若干血なまぐさい話ですが、アンラの香りのくだりでエヴァのリュオネへの忠誠心が伝われば幸いです。




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