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06_12 異界渡り

 止める間も無く、リュオネが駆け出し、透明な膜に拳をふるった。

 異界の魔獣を阻む封印は一瞬たわむだけで、何の反応も返さない。

 衝動のままに振るわれた拳は、彼女の理性ですぐに弱い形だけのものになった。


「あんな異界に、下賜された宝物を置くなんて、何があったの 父様……」


 最後につぶやき、崩れ落ちるリュオネを抱きとめる。

 何があったのか。

 その問いには、この場にいるだれも答えられない。


 少し落ち着いた所でミワ達にまかせて、ギルベルトさんやアルマンが集まっている神像の元へと向かう。


「私は実物を見ていませんが、ザート君の報告にあった神像と特徴が一致していますね」


 ギルベルトさんの視線に会わせ、僕も浄眼を使い神像をみる。

 すると、神像の左目には赤い光が宿っていた。

 膜の向こうの右眼には何の光もない。


 赤い、神像の……左眼……?

 ジョアン叔父のものとしてマザーから渡された法具の名は神像の右眼。

 左眼のみ光る神像は、僕の手にある法具となにか関係しているのか。


「ザート君、あの逆鉾は法具で回収できないのですか?」


 ギルベルトさんの声で我に返る。

 異界とはいえ、ここは境界の場所。

 エルフの異界門で向こうの声が聞こえたように、なんらかの干渉はできるかもしれない。


「近くの石で試してみます。石を向こう側に排出……できます。続いて収納……できましたね」


 何度かこちらの物質、異界の物質を行き来させて、神像の右眼で膜を挟んで物質の移動ができることを確認した。

 鞘の模様が見えるこの距離ならば、浄眼をつかって逆鉾を収納できるはずだ。


 ちらりと後ろのリュオネを見る。

 ここからは見えないけれど、あの逆鉾の下には少佐の遺体が残っているかも知れない。


「ザート、良いよ。前にいったでしょ。軍人だもの、仕方ないって」


 先ほどのショックから立ち直ったリュオネが強くうなずいた。


「わかった。じゃあ、やるぞ」


 赤黒い異界を、浄眼の青い視界で塗り替える。

 岩壁に、斜めに突き立っている逆鉾に集中し、心の中で収納と唱えた。

 けれど、結果は予想外のものだった。


「収納……できない?」


 昔、大楯の大きさに限界があった頃、それより大きな木を収納できなかった時に似た感覚がした。

 調査云々ではなく、リュオネのために、父親の遺品を渡してあげたい。

 何度か試すけれど、同じ感覚が繰り返し伝わるままだ。


「収納、できんかのう?」


 皆が沈黙するなか、コトガネ様が隣に立ってきいてきた。


「……はい。岩陰の向こうにある根元が見えればいいんですが」


 丁度岩陰になっている所をにらみながらつい恨み言を言ってしまう。


「ふむ、それなら、ワシが少し探ってこよう」


「え?」


 コトガネ様があまりに気楽そうに言うので、一瞬意味がわからなかったけれど、すぐに言わんとしていることを理解した。


「こちらでコトガネ様を収納して、異界に排出するんですね?」


 ギルベルトさんの確認の言葉に、コトガネ様がうなずいた。

 理屈では、確かにできる。

 けれど、異界に行ったコトガネ様がどうなるのか。

 魔素にさらされて完全な魔物になってしまうかも知れない。


「そも、ワシがなぜこうなっているのかもわかっとらんのだぞ? 魔物になるとか、そんな事を言い出したらきりが無いわ。良いからとっとと向こう側にはきだせぃ」


 僕らがリスクについて話し合っていると、コトガネ様に手を振ってさえぎられ、結局押し切られた。


「じゃあいきますよ。収納……排出」


 あっけなく異界に現れたコトガネ様は逆鉾のある場所にたどり着いた。

 けれど、最初は逆鉾を抜いて持って帰るという話だったのに、抜く様子すらない。

 身体を逆鉾に向けたり、振りかえって空を見たりしている。


 しばらくそうしていると、急にコトガネ様がこちらに駆けながら、しきりに帰還のサインを出してきたので慌てて収納した。


「ふぅ……間一髪といった所かの」


 一仕事終わったとため息をつく横で、僕とリュオネ以外の面々は膜の向こうの光景にあっけにとられていた。


「なんだよ、こいつら……」


「うっ、きもちわるぅ……」


 膜の向こうにいるのは、異形化したハイエルフ達。

 逆鉾をみたり、膜を叩いたりしている。

 エルフの異界門と同じく、異界からこちらは見えないのか、目が合うといったことはない。


「幸い、見つかってはいないようじゃ。あの者に感謝しなければならぬの」


「あの者って、やっぱり誰かいたんですか?」


 逆鉾を前に、コトガネ様は何度かうなずいていて、まるで何かと会話しているようだった。


「うむ、確かにいた。時間がなかったので最低限の話しかきけなかったがの」


 異界に話ができる存在がいた?

 確かに異界エルフの言葉は僕らが話す言葉と同じだった。

 急に現れて、あの短時間で話を聞き出せるなんてことがあるのか?


 けれど僕の疑問は、コトガネ様の次の言葉で瞬時に消えた。


「蛮勇のジョン。あの者はそう名乗っておったわ」


お読みいただきありがとうございます。

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