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06_11 便宜上、鬼


 十字のつばをうごかしホウライ刀をすり落とすと、入れ替わるように剣が魔人の首にせまる。

 魔人は手甲をつかって刃をはね上げ後ろにさがった。


「最初に戦う魔人が同胞のなれの果てとはのう」


 面頬の奥から声を響かせ、オットーと同じくらい大柄なコトガネ様が無造作に左右の構えから逆鉾を袈裟切りをくりだした。

 たったそれだけの動きに、先ほどまで素早く動き回っていた小柄な魔人が押し込まれていく。

 魔人は刀をはじかれ、手甲を砕かれ、満身創痍だ。


「フハハ! 生前より身が軽いぞ。全盛期のようじゃ!」


 鎧武者は逆鉾を縦横に振るい、魔人を圧倒している。

 しかし魔人は起死回生の機会をうかがっていた。

 体術を使って逆鉾の隙をつき、刀と引き換えにコトガネ様の懐に飛び込み、全身を固める鎧で最も薄い、脇腹の部分に拳を放った。


 直後、足下の岩を踏み割るほどの衝撃を伝えたはずの拳は、鎚に打ち抜かれたように砕けた。

 恐らく先ほどの攻撃は鎧の上からでも有効な技だったのだろう。


 しかし現実はちがった。

 鎧すら打ち抜くはずの必殺の拳が破壊され、魔人の目に驚愕の色をうかべている。


「残念じゃな。余人ならいざ知らず、数多ある皇国の武技に通じたわしには通じぬ。逝け」


 逆鉾が二度行き交うと、魔人の首と腰が別れて崩れ落ちた。

 けれど魔人は再生能力を持つ。

 肉塊はまだ動いている。


 浄眼で見ると、それぞれが魔力の白い光でつながっていた。

 あれが魔人の不死である理由か。

 魔素が尽きるまでああして復活してきたのだろう。


「リュオネ! 始末せい」


 師匠の声に、向こうの戦いが終わったらしいリュオネが駆け寄り、魔人の身体を三刃の鞘に収まった逆鉾で光に変えていった。


 リュオネが来た方を見ると、他の魔人はすでにマガエシで消滅した後のようだった。

 

 ただ、敵はかたづけても、新たに現れた問題に対処しなくてはならない。


「ザート君、君がこの鎧武者を出現させたように見えたんだけど、説明してもらえるかな?」


 カンナビスとネフラの面々が武器を構える中、ギルベルトさんがずり下がっていた眼鏡をなおしながらため息をついた。



 ギルベルトさん達にコトガネ様の事を、わかっている所まで説明すると、皆最初は半信半疑といった複雑な顔をしたけれど、とりあえずは信じてくれた。


「生前の記憶を持つ魔物。本来なら軍に報告すべき内容なんだけど……」


 ギルベルトさんは頭を抱えていた。

 なぜならコトガネ様は、皇国軍第二大隊の最重要人物だったからだ。

 下手に軍に報告してしまえば軍はコトガネ様を拘束しなければならなくなり、皇国との関係が悪化しかねない。


「ねぇ、とりあえずコトガネ様はザートの使役する”鬼”って事にすればいいんじゃない?」


 デボラさんの言葉に場のほとんどの人が首をかしげた。


「鬼とはなんですか?」


「あぁ……例えるのが難しいね。こっちには魔物魔獣を従えるスキルはないの?」


「召喚、あるいは魔獣使いという存在は書物に書かれていますが、今そういう者は聞いたことがないですね」


 召喚された異世界人クローリスなら知っているけど、ここでは黙っていよう。


「伝説があれば十分さ。ザートは魔獣使いって事にしなよ。なにしろザートが使うのは古代の法具なんだから」


 いつの間にか僕の法具に新しい能力が加えられている。

 それで問題が解決するならいいけどさ。

 金級の皆も魔獣使いということなら、と納得しているようだ。


「でも”鬼”だなんて、デボラちゃんよく思いついたね。ナムジの技にもあるのに、ボク思いつけなかったよ」


「さっきザートが見せた板に”魄”って書いてあったじゃないか。あれから連想してね」


 後ろにいたミワがデボラの機転に感心しながら話をきいている。

 なにか凝血骨の説明で見せた文章と”鬼”というものが関係あるんだろうか?

 帰ったらきいてみよう。


「ほれ、この問題はこれでしまいにしようではないか。ここは敵地の奥深くであろう?」


 問題の当事者がまとめに入ってきた。

 でも、確かにここは魔境の最奥部、僕が浄眼で警戒しているとはいえ、いつまでも話していて良い場所じゃない。



 隊列を整えた僕たちは更に警戒しながら進んだ。

 七人の魔人がでて以降、魔人はおろか、魔物や魔獣から襲われることなく僕たちはあっさりと目的地に到着した。


 嵐の海のように荒れ狂う溶岩が瞬時に固まったかのような異様な風景のなかで大きな口を開ける洞窟。

 洞窟の先が火口ではなく広大な空であるのを知って、ようやくそこが異界門であることがわかった。


「これが、ザートが話していた”境界”?」


 リュオネが足下から洞窟の天井まで首をめぐらせる。

 赤黒い膜が神像の正中線に沿ってひろがり、洞窟の奥に広がる世界と手前を分割している。

 膜はハイエルフの異界門でみた異世界との境界と同じものだ。

 ブラディアではアルバ文明の地下祭壇とエルフの異界門を見つけたけど、その二つの要素がそろっているのはどういうことだ?


「まるで夕暮れのようですね。この膜の向こうに、ザート君の報告書にあったハイエルフの魔人がいるのでしょうか」


 ギルベルトさんがため息をつきながら遠くの空をみる。


「いる、かもしれません。何が起こるかわかりませんから、魔法の使用は極力ひかえてください。こんなぼんやりとした情報で申し訳ありませんが」


「それだけでも貴重ですよ。なにしろ異界門については封印してきたバルド教がすべての情報を隠してきたんですから」


 バルド教が敵となった以上、ブラディア王国はスタンピードに対して独自に対処しなくてはならない。

 それが可能なのか、確認することも今回の調査の目的になっている。


 もしできないことがわかれば、ブラディア王国の”独立”という戦略目標に”バルド教の異界門封印方法の獲得”が加わる事になる。

 当然、難易度は跳ね上がる。


 責任の重さをあらためて確認し、あらためて異界に向けると、風景に、何か違和感を感じた。

 夕暮れの景色にそぐわない色が混じっている。

 浄眼の働きを強めると、少し離れたある一点に、翠の輝きをとらえた。


 見間違いか?

 いや、ちがう。

 もしも——だったら。

 もしも——だったら。

 いくつもの仮定を重ね、なお埋まらない空白を強引に埋めれば、異界にアレが存在する可能性は、確かにある。


「まさか……あれは、三刃の鞘?」


 隣のリュオネの口から、恐れともつかないつぶやきが漏れた。


お読みいただきありがとうございます。

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