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01_17 宿の蒸し風呂

 坑道から出て最初に向かったのはギルドではなく、アルガンザスの咲くコロウ亭だった。

 なんとなく、ギルドに行く前に一休みをしたかったからだ。


「……ん?」


宿はあいかわらず騒がしいけれど、人が少ないな。それになんだこの匂い?


「お、坊主、お前まだコロウ亭の蒸し風呂に入ったことないだろ。入って来いよ」 

「今日の風呂はきくぜ? 取ってきたばかりの薬草をつかってるからな」


 顔見知りの冒険者二人組がテーブルでエールを飲みながらつまんでいるのは新鮮な香草をペーストにして衣をつけてあげた香草団子だ。


「風呂ですか。じゃあさっそく行ってきます」


 いそいそと部屋に戻って風呂の準備をして戻る。

 思えばブラディアについてから風呂に入ったのは月半ばに奮発して以来だ。

 いつもの洗い場にはシーホグの皮で天幕が張られていた。


「うぉあっつ!」


 かけ湯をしてから天幕の中に入ると、フクレィの爽やかな香りが一気に押し寄せてきた。

 適当に空いているベンチに座っていると身体がじんわりと暖まる。なのに薬草の香りがコボルトファイターに苦戦して動揺していた心を落ち着けてくれる。


「これは贅沢ですね」

「おー、普通なら状態異常用のポーションにいれる薬草を煮出したお湯を敷き詰めているからな。二日酔いも一発でなおる」

「それは 風呂の入り方としてどうかと」


 狭い空間でガヤガヤと雑談をしていると、唐突に天幕が外され、外の空気が流れ込んできた。


「うぉさっむ!」


 湯気が空に消え、外の魔道具の光がさしこんでくる。


「あれ? ザート君帰ってたの?」


 そこには焼け石と薬湯を手にしたフィオさんがいた。


「フィオさん!? ちょっと何してんの!」


 こっちはほぼ裸なんだけど!?


「何ってたまに空気を入れ替えないと湯あたりしちゃうでしょ? それに石も代えなきゃいけないし」


 そういう問題じゃないし!

 なんのためらいも無く入ってくるフィオさんが手際よく次の蒸し風呂の準備をしていく。


「いいか? そろそろ閉じるぞ」


 見上げるとマスターが天幕を戻す準備をしていた。


「いいよー。はい、それじゃコロウ亭名物のポーション蒸し風呂、いきまーす」

 

 激しい音とともにさっきよりも鮮烈な香りが風呂中に拡がった。




「身体が軽い……なのに動きたくない」

 

 矛盾した感覚を覚えながらカウンターで香草団子入りのシチューを食べている。


「疲れた身体で入ったからだろう。まあ慣れだ」


 マスターがジョッキを洗い並べていくのをぼぉっと眺めつつ食事を続ける。

 この人四十代くらいなんだよなぁ。冒険者あがりだって言ってたけどどこまで行ったんだろう。失礼だから聞かないけど。


「なんだ、人の顔みて」


「あ、すいません。フィオさんとはどこで知り合ったんですか?」


 慌てて別の質問をする。

 このマスター、実はフィオさんの旦那さんだ。

 二十歳近く年が離れているのにどうやって知り合ったのか前から気になっていた。

 

「……ぬぅ」


 うなったきり、黙ってしまった。訊いちゃまずかったか?


「別に隠す事でもないでしょ? 同じ里で育って同じパーティに入って同じ宿で働いて結婚したんだから」


 外からフィオさんが帰ってきた。


「はいこれマーサからの差し入れ。初めてで亜種はきつかっただろうって」


 渡された袋の中身は疲労回復にいいウルソの実だった。


「ありがとうございます。すいませんお使いさせちゃって」


 ギルドに用があるというフィオさんが僕の帰還報告をついでにするという申し出に甘えてしまった。


「いいのいいの。ついでなんだから」


 そういってヒラヒラと手を振るフィオさんだけど、やっぱりこの美貌だから心配になってしまう。

 また顔に出ていたのか、マスターが先に答えを言ってくれた。


「人間相手なら心配はいらん。フィオは元銀級冒険者だ」


「え、銀級?」


 予想外だ。元冒険者でも驚くのに銀級って。


「仲間に恵まれただけよ。この人のパーティだけどね。無愛想なくせに底なしに面倒見がいいのよ。今だって駆け出し達を死なせたくないからってここで宿をしているんだから」


「わざわざ里を降りて押しかけてきたのはフィオだろう。それにお前だって人のことは言えない。今朝急に薬草を採りに行くといったのはザートのためだろう?」


「そうよ。初めてはたいせつなんだから。帰ってきたら労ってあげなきゃ」


 僕のための蒸し風呂だったのか。すいません気づけなくて。


 それにしても似たもの夫婦だ。

 年が離れていても幼なじみで、冒険者になってからもずっと一緒なんだから、当たり前なのかもしれない。

 場所が変わっても、職業が変わっても、居場所は何時だって同じ人の隣。

 そういうのはちょっとうらやましいな。


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