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01_16 コボルトとの初戦闘


「ダンジョンの許可が下りたの? マーサも思いきるわねぇ。お姉さん心配」

 狐獣人のお姉さん、フィオさんが朝食のガスパチョを持ってきてくれた。

 ついでに心配そうな顔でテーブルに座る。今日は早番らしい。


「大丈夫ですよ、ダンジョン初体験なんですから。先輩の後についていって、遺跡でコボルトと一、二戦くらいしたら帰るつもりです」


「そうねぇ、二戦はした方が良いかしらね。初めてはたいせつだものね?」


 含みのあるいたずらな笑みと、すこし薄い夏物の巻きブラウスの両方に当たる午前の日差しがまぶしい。

 黒いエプロンを憎んだら良いのか感謝したら良いのかわからない!


 朝コロウ亭の若女将にからんでもらえた冒険者は中位魔法並の強化魔法がかかる。

 そんな話を昨晩先輩冒険者から聞かされたけど、確かにこれは効きそうだ。


「あ、そろそろ仕事にもどらなきゃ、じゃ、いってらっしゃい」


 戻っていくフィオさんの後ろ姿をなんとなく見る。

 ワインレッドのフレアスカートには、ピンク色のリボンがひざから尻尾の付け根まで編み込みに入っていた。

 尻尾と一緒にふわりと揺れるのをつい目で追いかけてしまう。

 

 ふと視線を上げると狼獣人のマスターと目が合ってしまった。

 マスター、ウインクはやめて欲しかった。強化が半分減ったよ。





「灯りは?」

「あります。ファイアも使えます」


「つるはし、閃光玉、その他」

「腰につけています」


「良し、くれぐれも無茶するなよ!」


 引退冒険者の門番に見送られてキッケル廃鉱山の坑道を進んでいく。

 坑道ではあるけれど、土魔法による補修がされるので横幅も広く、歩きやすい。

 あ、ひび割れ発見。


――土よ。我が意に沿って事を為せ


 ひび割れに手を当て、魔力を奥まで浸透させ補修をする。

 気づいた人が補修する、というのは辺境では当たり前だ。持ちつ持たれつという奴かな。


 ブラディアの地下にはいくつものダンジョンがあるけど、多くは鉱山が入り口になっている。

 キッケル遺跡もその一つだ。


 エルフの伝承によれば、魔素だまりは異世界から此方に開いた扉らしい。

 異世界は魔素に満ちていて、こちらの魔素濃度が高まると、魔素なしでは生きられない魔物や魔獣が弱いものから順にやって来るというのだ。


 そしてその延長線上にダンジョン発生がある。

 開けた地上なら魔素は大気に散っていくけれど、洞窟や鉱山、地下室に”扉”が開いた場合、魔素はたまる一方になる。

 たまった魔素によって異世界に浸食された空間がダンジョンという事だ。

 

 さらにエルフの伝承では、彼らの祖先は最大最古のダンジョンの扉を通り、この世界で最初の魔法使いとなったとある。

 もっとも、最大最古のダンジョンはあまりにも深く、踏破したものはいないらしい。


 学院の教師がそんな話をしていたけれど、彼は最後にこういった。


「でもね、疑問が残るんだ。魔素が異世界からこちらに流れているということは、異世界には魔素があふれているんだろう。そんな世界に平気で住んでいたのになんでエルフはダンジョンに潜らないんだろう?」


 ダンジョンに長くいた生物はダンジョンと同様に変質する。

 だから冒険者は活動できる期間が限られてくる。

 その点エルフならば変質の心配はないし、長命で魔法にたけているので存分に活躍出来るはずだ。

 なのにエルフの冒険者というのはごくわずかしかいない。

 潜らないのは変だ、という教師の疑問ももっともだと思う。


「……そもそもエルフは食うに困ってないからな。やるメリットがないんだろう」

 彼らの殆どは魔法使いを祖にもつと自称するだけあって、中位魔法をもって生まれる。食うに困ることなんてありえない。

 このように、世界の謎は意外と単純な真実に行き着く。

 

 確かめようもない空想でひまつぶしをしながら、遺跡まで魔物一匹でてこない道を進んでいった。




 坑道の最奥部にある、現実とダンジョンを分かつ黒い膜を通り抜けると、巨大な空間が開けていた。

 眼下には領都ブラディアとちょうど同じくらいの広さの廃墟が拡がっていて、鉄級冒険者達が戦っている様子がちらほらと見える。


「ここからはファイアは要らないな」


 眼下の廃墟はまるで魔法で作り出した氷のように淡く青い光を放っている。

 敷石の隙間から青白い光がこぼれているせいだ。ダンジョン特有の現象である。

 その上では冒険者が、四足や二足の魔物と戦っている。コボルトだ。


「教えてもらった通りコボルトしかいない、と」


 ララさんからキッケル鉱山の情報はもらっている。

 僕はコボルトとは戦った事がないけれど、道具を使う中型犬らしい。

 ここのコボルトはほぼ裸で、短剣くらいしかもってないという。 


「身体強化は……まだしなくて良いか」


 ゴブリン狩りの時と同様、身体強化はしないことにした。

 油断しているわけじゃないけど、素の身体で工夫をしてこそ対処が身につく。

 スキルに頼ったごり押しじゃいつか痛い目を見る。


「僕の場合は他に頼れるスキルがもてなかったから、半分は負け惜しみなんだけどね」


 城壁のような石の壁から階段を使って降り、壁を右にして十ジィも進んだ辺りで壁を背にした。

 後は路地から敵が出てくるのを待つだけだ。

 こういうとき索敵スキルがあれば便利なんだろうと思う。


 そんな無い物ねだりをしていたのが悪かったのか。

 左の建物の影から忍び寄ってきたコボルトを見つけるのが遅れた。


――タッ

 

 目が合った瞬間に四つ足で走り寄ってきたコボルトを斜め上に切り上げると、ぞわりと悪寒がはしった。


 切った勢いのままに身体を回すともう別のコボルトが目の前にいた。


「でかい!」


 他の倍近くあるコボルトが首をねらって、地面から迫ってきた。

 身体が泳いでしまったので無理矢理に右手のショートソードではなく、左手のバックラーでコボルトの右頬を殴りつけた。


 瞬間、コボルトが右手で短剣を抜こうとしていたのが見えたのは幸運だった。

 とっさに剣とバックラーを収納し、右手を回したコボルトの首に全体重をかけ、後ろに身体を倒す。

 その反動を使い身体を跳ね上げ、地面に落ちる瞬間にコボルトの背中側から両足を右腕にからませ、関節を極めた。


『ギャィン!』


 腕の痛みでナイフを取り落とし、地面に転がるコボルトの身体にしがみついたまま、書庫からショートソードをとりだし、敵の背中に深々と突き立てた。


 一瞬の間をおいて黒い泥が消える。

 今更だけど身体強化をつかい、凝血石を回収しながら一気に階段の上に戻った。


 坑道手前の物陰にかくれた。

 胸の中のいらだちを吐き出そうと何度も荒い呼吸をする。

 しばらくして落ち着いてからさっきの失態を分析する。


「他に気をとられて奇襲をうけたのはまずいとして、さらに体勢が崩れていたのが悪い。身体が泳いでいなければ二匹目も剣で片付けられた」

 

 今回は二匹だから良かったものの、三匹、四匹の集団で襲われていれば簡単にやられていた。


「でも足で関節をきめられたのは良かった。あれはスキルじゃできない」


 人間が一度に複数の言葉を話せないように、スキルの発動は重ねることができない。

 前にリオンが言っていたけど、複数のスキルを合わせたような行動が出来るのは僕の強みかもしれない。


 下を見ると他の鉄級冒険者は皆パーティが役割分担をして、一匹ずつ囲んで倒している。


 自分でソロを選んだけれど、仲間がいるとあんなに確実に倒せるのか。

 一つため息をついて岩に身を預けて考える。


 さっき殺したのはコボルトの亜種だ。多分ファイターだと思う。コボルトではあるけれど、身体の大きさも膂力もただのコボルトとは全然違う。

 ゴブリンアーチャーもそうだけど、亜種は同じ魔物が群れていると生まれるという。


 ダンジョンはコボルトしかでないのだから亜種はいない、なんて勝手に決めてかかっていた。

 法具を持っていたことで少し調子にのっていたみたいだ。


「帰るか」


 使わないと決めていた身体強化も書庫もさっそく使ってしまった。

 課題はあったけれど、それでも生き残れたんだ。

 生きて次に生かそう。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の方で言ってたまそ溜まりの話と違くない?延長線上の話?
[気になる点] コボルトに関節決めてるシーンで使う剣はどこから? 主人公の剣は収納されてるから出さないと無理だし コボルトのはナイフだから武器じたい違う [一言] 小説の説明も遺産もらう代わりに追放さ…
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