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05_25 休暇、第四長城壁外にて



 スズさんに地下祭壇の探索に行きたいと休暇の前倒しをお願いすると、あっさり認められた。

 というより、”それは団長がいつもしている業務の範囲内なのでほどほどにして、後はどこかの街で殿下と休んで下さい”と呆れられてしまった。


 そんな経緯をへて、僕らは第四十字街で馬車を降り、東に広がるコズウェイ領の景色をながめていた。

 かすかに光を見せる灰色の空の下、色あせた緑のやせた長い葉をなびかせ、フォクステールの群生地が広がっている。

 僕はなんども降りているけど、リュオネがコズウェイ領に降りるのは初めてだ。


「うーん、どっちにいこうか」


 僕の前で立ち止まり、リュオネが顎に手を当てて考えている。

 リュオネの後ろで揺れる銀色の尻尾を見て、どっちが大きいのだろうかと、単にきつねとも呼ばれるフォックステールの花と見比べていた。


 二ジィほどの高さにあって冬の風にゆれる花は、その名の通りきつねの尻尾の形をしている。

 魔素への耐性があり、早く成長するこの草は魔素だまりの近くによく生えている。

 それが群生しているのだから、コズウェイ領の魔素の多さがどれだけあるか察することができるだろう。


「……ザート、なにみてるの?」


 視界から尻尾が消えた後、声につられるように顔を上げると、リュオネが少しジト目でこちらを見ていた。

 やっぱり怒ってるよなこれ。だって耳が伏せてるもの。


「ごめん、きつねとリュオネの尻尾、どっちの方が大きいのかなって思いながら見てた」


 リュオネの顔があかくなって目つきも険しくなった。

 視線の先がしっぽか根元かで、罪の重さは違ってくるけど、見られた側はどっちかわからないよね。

 素直に謝るとリュオネは許してくれたけど、他人の尻尾を見るのは失礼なんだよ、とくぎをさされてしまった。


 手入れは欠かさないけどよく見てはいけない。

 今度は許可をとって前から見よう。



「それで、目的地はコズウェイ港のままで良かったよな?」


 道すがら話を変えるため、まだちょっと怒っているリュオネに行き先を確認する。


「うん。ブラディア山も間近で見たいけど、オットー達が作った道を通ってコズウェイに向かおう。その途中で地下祭壇を探すのがいいんじゃないかな」


 歩く僕達の前にはいくつものフォクステールの切り株がある道が延びている。

 全部皇軍組が刈っていったものだ。

 一見面倒だけど、こうしてしまえば広い場所で魔獣を迎え撃つことができる。


「それに、これにもなれる必要があるしね」


 リュオネの手には短剣くらいの魔鉱銃が握られている。

 クローリスの世界ではこれを拳銃といって、予備の武器にしていたらしい。

 牙狩りとして剣術や逆鉾術を使うリュオネだけど、土魔法以外の魔法は余り使えない。


 試作品が間に合ったから使ってみて欲しいと、出発するときにウィールドさんから渡されたものだ。

 ウィールドさんもニコラウス領やコズウェイ領に素材集めに来るから、必要と思ってこの銃を準備してくれたんだろう。


 クローリスはリボルバーという連射ができる拳銃を提案したらしいけれど、複雑で作るのに時間がかかるので通常の魔鉱銃を小型にしたものを先につくったらしい。

 連射はできないけど、早く魔弾がこめられるという。

 魔弾は敵に合わせて使い分ける必要があるから、こちらの方が良いんじゃないだろうか。


「じゃあ、四十ジィ中位火弾でいくよ」


 リュオネが素早く魔弾を装填して、それなりに遠い場所のフォクステールに向けて発射した。

 予想より遠くにあたったけど、空中で広がった複数のファイアアローが乾燥したフォクステールに命中し、黒い煙を上げ始める。


 ウィールドさんの話ではこれに周囲の魔獣が引き寄せられるらしい。

 不意打ちを食らうくらいなら周囲の魔獣を一ヶ所に集めた方がわかりやすくて良いとのこと。

 複数のパーティが合同で探索する時ならではの方法だ。


 この方法は遠くで魔法を発生させる魔鉱銃だとより有効になる。


「トレントとテンタクルが集まってきたね」


「じゃあ足の速いテンタクルをおびき寄せよう」


 蛇が絡み合った大きな玉に見えるテンタクルが、触手を使って転がってくる。

 十数本の不規則に動く触手はさばきづらく、銀級に上がったばかりの調子に乗ったやつが正面から向かって痛い目を見る、とウィールドさんに教えてもらった。


「リュオネ、十ジィ中位土弾、ロックパイル」


「よし、行くよ!」


 引きつけてから地面に向けて放った魔弾は土の杭を生み、下からテンタクルを串刺しにした。

 続けて僕がウィンドエッジをつかいとどめをさす。


 他のテンタクルも同じ要領で倒した。


 トレントは木の様に見える身体がとても硬く、ちいさなうろからのぞく顔だけが弱点だ。

 普通なら腕の良い槍使いじゃなければ苦労する相手だけど、これはリュオネが魔鉱拳銃をうろに突き込んで発砲するだけでたおしてしまった。


「一瞬で魔法が発動する、色々な使い方ができるね」


 病み上がりのはずなのに、トレントの攻撃をすべて見切ったリュオネ。

 凜々しい笑顔に、ついひきこまれそうになる。



 けれど、ここは大森林と同じ格の魔獣がでる第四長城外。

 油断して良い所じゃない。


「「後ろ!」」


 同時に叫び、同時に振りかえり、同時に刃を受ける。


 相手は魔人、魔素を浴び続け、冒険者の黄昏を瞳に宿したまま進み続けた、冒険者のなれのはてだった。



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