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05_24 白狼姫の幸せと不安


《リュオネ視点》


「湯冷めしないうちにすぐに布団に入って下さい」


 スズさんに着替えを急かされ、あっというまに布団に押し込められてしまった。

 ベッドは今、一緒に温泉につかっていたみんなに囲まれている。


「はいリュオネ、これで身体をあっためてください」


 遅れて入ってきたクローリスが、ピッチャーを手に戻ってきた。

 コップに注がれるどろっとした茶色の液体に見覚えがあるんだけど。


「あの、さ、クロウ? それってなに?」


「え? スズさんに指示されてつくった風邪用に処方したポーションですけど、いつも飲んでたんじゃないんですか?」


 クローリスが小鳥のような仕草で首をかしげつつ、コップをさしだしてきた。

 悪気がないのはわかってる、でもそれすっごくおいしくないんだよ!

 薬、薬は良薬口に苦し、と唱えながら私はやけ気味にコップを傾ける。


「……あ、おいしい」


 臭くない。

 え、なんで? 

 おいしいなら良かったです、と言いながら平然としているクローリスにつめよってしまう。


「クロウ、これ本当にあのレシピで作った薬なの!?」


 おかしいよ、小さい頃からスズさんからもらっていた風邪薬を飲んだ後は一晩鼻がきかなくなるほど臭かったのに。


「あはー、殿下、それってつまり、スズの調合が下手ってことですよ」


 エヴァがくっくっと悪い顔をしながらピッチャーの滴を指につけてなめると、うん合格といいながらクローリスをなではじめた。

 そういえばエヴァは毒薬を扱うから薬の知識が豊富だったっけ。

 

「殿下、お口直しに団長から奪っ……預かっておいた霊泉をお飲み下さい」


 スズさんが何か不穏なことを言っていたような……あ、これもおいしい。

 甘いタオリの果汁とシュワシュワした霊泉で口の中がスッキリする。


「ふぅ……」


 まだぼーっとする頭を高くしてもらったベッドの枕に預けて息を吐く。


「殿下、お夕飯はお召し上がりになりますか?」


「うん……そうだね。霊泉で食欲も出てきた、かな。軽いものを頼んでいい?」


「はい! 用意してきますー」


 心配そうに聞いてきたミワが、食事を頼むとパッと笑顔になって部屋を出て行った。



 他の子達も出て行ったので、部屋で一人になる。

 眠くなってくるけど、ミワが食事をもってくるまで起きていないと……

 

「風邪が治ったら、どうしようかな。仕事にも戻りたい……あ」


 そうだ、ザートが休みを早めに取るって言ってくれたんだった。


『だってさ……ザートがまだ休みとれないじゃない』


 思い出しても恥ずかしくなる、子供っぽいわがままをいっちゃった。

 風邪でぼーっとしてたなんて言い訳にできない。

 わがままなんて父様にしか言ったことなかったのに。


 大いに反省するべきと頭では考えているはずなのに、胸はうずうずし、顔はほころんでしまう。

 嬉しくて枕に顔をうずめてしまう。


『休み、合わせたかったのか?』


 ザートの優しい口調とその後の言葉が嬉しかった。


 ”僕もそうしたい”と”教えてくれて嬉しい”


「ぼくもそうしたい……おしえてくれてうれしい……」


 横になりながら口の中でつぶやいて、なぜ嬉しかったのかわかってきた。

 認めてくれたからだ。

 わがままをの内容じゃなくて、わがままを言うことをゆるしてくれたからだ。


 わがままを許して、わがままにうなずいてくれた。

 ”私”が許されない私の自由を認めてくれた。

 それが嬉しいんだ。


 王国、皇国の教師から候主として色々な教育を受けてきた。

 候主としてするべきはなにか。候主として選ぶべきは何か。

 その教育を否定するつもりはないし、難民を保護し、大使が同盟締結の勅を持ちかえるまで、皇国軍を指揮するという、今の候主としての役割に誇りを持っている。


 だからわがままは、これから先言うことは少ないだろう。

 それでも、わがままを言えた自分と、許してくれた人の関係に気づけた。

 例えこれから先、一度もわがままを言うことが無くても気づけた事が嬉しい。


 風邪のせいで頭がふわふわしている。

 けどしあわせな時間だ。

 休暇はもっと幸せな時間にしたいな。



「一緒に休暇を取るなら何をしようかな……」


 バーベン。

 頭に浮かんだ選択肢を即座に打ち消した。

 だってバーベンって温泉入りに行くところだよ?

 水着を着る所もあるけど、なんで真っ先に……

 

 気を取り直して他の選択肢を思い浮かべる。

 竜の巣でゆっくり古代文字でわかったことを話すとか……でもあそこは前にザートが休暇を取った場所だった。

 ニコラウス領やコズウェイ領で凝血石を集める。

 二人きりだけど、休暇じゃないよね?


 地下祭壇。

 そうだ、地下祭壇にしよう。

 ザート一人に行かせるのは不安だし、色々発掘品をみるのは楽しいから。

 ザートはどこにいきたいのかな。


 

 

 ——、——。


 

 熱に浮かされながらも、意識のせいか、耳が幻聴を拾ってくる。

 私が色々と休暇の予定を考えて楽しんでいる後ろから、候主としての自分が罪悪感をささやいてくる。


「皇国は候主としての私に何を求めてくるんだろう……」


 帰国勅令。

 考えないようにしていた可能性を幻がささやいてくる。

 牙狩りであっても、同盟の仕方によっては一部の難民と一緒に帰国、という事もありうる。


 早く風邪を治そう。

 幻が責めさいなんでくるこんな状態から早く抜け出して、休暇を過ごしたい。


 ミワ達に食事をもってきてもらうまで、幻は私の耳元から去ってくれなかった。

 



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