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05_14 ワイバーン襲来


 地図作成部隊を見送った後、居住区の住民が起きてくるのを横目で見ながら僕は十字街へともどった。

 スズさんはもう仕事してるかな?


 しているだろうな。

 われながら愚問だった。

 仕事を始める前、朝日を浴びながらテイを飲むのが気持ちいいと言っていたじゃないか。

 いつ寝てるのか疑問におもいつつ、アルバトロスの件を相談するためにスズさんのいる参謀室へと向かう。


 ノックして入ると、予想通りスズさんが北東に切られた窓から射し込む日差しを浴びながらテーブルでテイを飲んでいた。


「おはようございます。ハンナ達は無事出たようですね」


 テイを勧められたので僕もテーブルにつきカップを傾けた。ホウライ産のテイか。


「うん、ポールと一緒に張り切って出発していったよ」


 浮かれて定期報告を忘れないといいのですが、と向こうから話題を振ってくれたのでそれに乗ることにする。


「その事も含めて話したいんだけど、アルバトロスの仕事量がちょっと多いと思うんだ」


 スズさんも分かってはいたんだろう。

 気まずそうにかすかに眉をよせて窓の外に視線を移した。


「ええ、多いと思います。第八小隊が報告した竜使いが早くくれば問題は解決するのですが、あれから報告が来ないのでビーコに直接ティランジアまで飛んでもらおうかと思っていた所です」


 それは本末転倒だろう。


「最近私もビーコに頼っていた所があります。反省して、私も訓練がてらグランベイや王都に一人で出向くようにします」


 こちらがだまっていると、冗談ですといって微笑んできた。怖い。

 どこから冗談だったんだと深くつっこめず、差し出されたポットの前にだまってカップを置いておかわりを注いでもらう。


「ともかく、竜使いにはやくきてもらえるよう、何らかの手は打ちたい所ですね」


 そういって目を伏せたスズさんの顔に一瞬だけ黒い影がさした。


「スズさん離れて!」


 椅子を蹴飛ばし窓辺から離れると、スズさんもほぼ同時に離れた。

 けれど、何もおこらない。


「何もない、ですよ?」


 スズさんがいぶかしげにしつつ離れた窓を見ている。

 飛行系の魔獣が警戒網を突破したのかと思ったけど違うようだ。

 いや、飛行……?


「スズさん、屋上にいってみよう。一応逆鉾は出しておいて」


 返事をまたずに部屋を出て屋上につづく階段を上り、今は空になっているビーコの巣を通り過ぎて屋上にでる。

 空にまだ異常がないのを確認して、屋上の東の角まで歩いて行くと、スズさんは僕の意図がわかったのだろう。

東の空に向かって額に手を当てて手びさしをつくった。


 もしかしたら話していた竜使いが来たのかと思ったのだ。

 ティランジア側から竜使いが来るならバフォス海峡まで来て、陸伝いにくるらしい。

 こちらからみれば太陽が出る東からやってくることになる。

 

「噂をすれば影、なんていいますけど、どうでしょうか」


「わからない。太陽に入ったのがワイバーンのような大型竜種だとしても、ティランジア方面の諜報隊が契約した竜使いじゃない可能性もあるからな」


 そう話しているうちに、朝日の外側に、滑空する生き物が見えてきた。

 滑空かっくうする大型竜種なら十中八九ワイバーンだ。

 さっき窓にさした影は、やっぱりワイバーンが太陽と十字街の間に割り込んだからできたんだろう。


「……複数いるようですが、王国のワイバーンの可能性もありますね」


 遠見の魔道具は逆光でつかえないので目をこらすと、確かに、三体いるようにみえる。


「ことは荒立てたくないが、万一の時はハンナの太矢がある」


 神像の右眼にはハンナに身体強化をして射てもらった太矢が何本かある。

 ハンナは王国でもよく知られているから反撃に使っても問題はないだろう。


 そんな事を考えているうちに、スレトホーンの警報音が街に響いた。

 近くまで来て、ビーコとは飛び方が違う竜種だと警備兵が気づいたんだろう。

 低音から高音にあがっていく牛が威嚇するような音で、街はにわかにあわただしくなっていく。


 スズさんと地上を見下ろすと、地上の大通りでメンバーに縦列を組ませているオットーがいた。

 クランで指揮権を持つ順位は僕、リュオネ、スズさん、オットーの順だ。

 リュオネは遠征で不在、僕とスズさんが部屋にいない事を確認したのでオットーが指揮すると判断したんだろう。


「おーい、オットー!」


「お二人ともそこにいましたか!」


「ワイバーンらしい奴が三体東から来ている! 予定通り居住区の警備にむかってくれ! 僕はここでワイバーンの様子をみる!」


 ティルクの住民はここに来て初めての警報を聞いて不安がっているだろう。

 まずは安心させるのが第一だ。


「それにしても、どういうつもりでしょうか。規定の距離より近づいても地上に降りるどころか旋回しはじめましたよ」


「つまり、威嚇いかく射撃してくれってことか」


 先頭のワイバーンに対してファイアアローでわかりやすく威嚇をしてやる。

 するとワイバーンは横にそれてよけたかと思うと西区の演習場に頭を向けて落ちていった。

 後ろの二頭はふつうのらせん軌道を描いて同じ場所へと降りていくようだ。


「当たってないよな?」


「大丈夫です。ただ、回避のやり方から、あの先頭の竜使いは手練れですね」


 たしかに、回避行動として理想的だったからだ。


「じゃあ会いに行こうか。敵じゃない事を願おう」


 そういって屋上から飛び降り、ワイバーンのもとへと向かう。

 演習場に着地すると、もう一部のメンバーは演習場の前で陣形を組んでいた。

 三十ジィほど先にワイバーンが着地していて、竜使いとみられる三人がこちらに向かって歩いて来るところだ。

 敵意がない事を示す白い布をかざしているので敵ではないようだ。


「止まってもらおう! 所属と目的は如何いかにか?」


 オットーが何者かたずねると、真ん中の色黒の男がゴーグルを外した。


「なにってそりゃあ……あんたらに雇われた傭兵よ?」


 ひょうひょうとした口振りで、漆黒のくせ毛を一束下ろしたひげ面の男が首をかしげた。

 すると、陣形の後ろからショーンが大声を上げて飛び出してきた。


「ちょ……アニキ! あんたなにしてくれてんだ!」


「お、ショーンか。久しぶりだな。どうだ? 良い避難訓練になっただろ」


 アニキと呼ばれた男は、つかみかかられているのに動じる様子も無くカラカラと笑っている。


 確信犯かよ。

 諜報隊はずいぶんクセのある人をスカウトしたもんだ。

 僕は目頭を押さえざるを得なかった。 

 リザさんにどうやっていいわけしよう。

——後書き——


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