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01_14 戦闘後に遺跡をめざす


 リオンと小洒落た酒場で乾杯して今日の成果や周辺のスポットについて語りあった。

 料理も子鹿亭に勝るとも劣らない味で、値段もちょっと高いくらいだ。


 子鹿亭に泊まろう泊まろうとぐずるリオンをビビに預けてこっそり予約していた宿にむかう。


 緑色のツタのエンヴィやこぼれるようなピンクの花を咲かせたアルガンザスのゲートをくぐって石の街を歩いて行くと、目当ての宿が見えてきた。


タルが店先に並び、冒険者や隊商の男達が中からあふれ、ジョッキを片手に大きな肉にかぶりついている。僕のような大人になり立ての新人も楽しそうに飲み食いしている。

 

「これだよ、こういうのだよなー」


 子鹿亭だって悪いところじゃない。設備の快適さでいえば明らかに良心的だろう。

 でも居心地というのはそれだけじゃないんだよ。


「夕方に予約したザートです」


 扉が外された入り口を通り、カウンターの狐獣人のお姉さんの所に行く。


「はぁい、コロウ亭にようこそ。ザート君ねぇ。カギはこっち、身体を拭くならこの裏の洗い場をつかってね。暖炉が反対側にあるから暖かいはずよ」


 頭を下げて地下の宿屋階に向かうとお姉さんがひらひらと手を振ってくれた。ちょっとドキドキしてしまう。


 本当はさっそくあの輪の中に加わりたいけど、今日はもうたくさん食べてしまった。

 

「ちょっと風に当たりたいな……」


 子鹿亭とは違う、石がむき出しのすこし広い部屋の窓は大きく、歩いてでられるくらい広くきられていた。


「おお……ベランダか」


 要塞の内側にあるはずなのにベランダがつくられていた。


 隣の壁まで三ジィもないのに、目隠しが斜めに立てられているせいで開放感がある。

 隣の部屋も向かいの壁も同じサッシが並べられているので気まずさもない。


 これなら快適だ。部屋も酒臭くならない。


「常宿はここできまりかなー」


 窓際に置かれていたリクライニングチェアをベランダに出して一つのびをした。




 今僕は壁の内側にあるオミタ村近郊の河原まで来ていた。

 この辺りは背の高いアシが茂っていて視界がわるいため、他の冒険者に敬遠されている。

 ゴブリンが巣をつくるにはちょうど良い場所になっていた。


「まだ出てこないな」


 ここまでで、巣を二つ、計六匹のゴブリンを倒しているけど、目当ての奴はまだ出てきていない。

 体力も、SP・MPともに全回復しているし、LPも一切減っていない。


 SP、スタミナポイントは痛みはあるけれど、敵からの攻撃からある程度守ってくれる身体の免疫だ。

 MP、メンタルポイントで数値化されている体内魔力とはエネルギーとして別物らしい。

 LP、ライフポイントは数値化されているけど関連スキルがなければ数値にあまり意味は無い。

 どれも魔法具で確認できるけど、戦闘中は体感できるのであまり見る事はない。


 SPが0になって攻撃が直接身体に当たるようになったら生の痛みが襲ってくる。

 学院で何回か実習を受けたけれど、回復魔法で回復させるまでずっと激痛が続くなんて、とてもまともに身体を動かせるわけがない。

 熟練の冒険者はそれでも動くというのだから、僕もいつか慣れるんだろうか。


 昨日はリオンがいたのでジョアンの書庫を使う機会がなかった。

 さらに言えば新人研修時代でも魔獣が出なかったので実戦で使う機会がなかった。


 これは推測だけど、僕が書庫を使いこなすために森の掃除をした結果、魔素だまりの魔素も回収していたんだろう。

 で、土からこし取った魔素が『魔砂』となって、書庫に入っていたんじゃないだろうか。


「でもちょっとなぁ」


 書庫を起動して、手元に石を取り出す。

 そして目の前二ジィ前に青い光の大楯を展開した。


——シュ


 振りかぶって投げた石をそのまま大楯に吸い込ませる。

 光る本のページの『石』という文字を確認して本を閉じる。

 練習して本を出さなくても好きなモノを出せるようになった。

 大楯を消し、頭上に再び展開する。


(射出)

 念じるとヤブに向かって投げた勢いそのままの石が飛びこみ、ガサッと音がなった。


 法具発動のきっかけとなったバグ甲殻の吸収を参考して、書庫の使い方として真っ先に思い浮かべたのが攻撃だった。


 今やった通り、取り出せば吸収した際の勢いのまま射出することができる事は実験してわかっている。

 他にも、熱いお湯をしばらくして取り出してもお湯は熱いままだった。

 普通のマジックボックスが『モノの収納』をするとすれば、書庫は『ある状態になったモノの保存』をしているんだと思う。


「……でも、しょぼいんだよなぁ」


 不意打ちや牽制にはなっても、投石程度では攻撃手段にならない。


『ゲギャッ!』


 離れていたヤブの側からゴブリンの声がした。見ればゴブリンが五匹出てきて武器を構えている。

 書庫からショートソードを取り出し、構えて気合いを入れる。


 ゴブリン達が一斉に向かってくる。

 中位の強いスキルがあれば別だけど、一人で複数体の魔物を相手にするのはとても危険だ。

 複数の攻撃をもらえば痛みで身体が硬直し、あっというまにSP、LPまで削られてしまうだろう。


 だから普通の人はパーティを組んで連携して活動している。ソロ冒険者が異端といわれるには理由がある。


(射出)

 さっきと同じく、石が四個バラバラに飛び、先頭のゴブリン以外の奴らに当たる。

 これで一対一だ。


 ゴブリンに向かって左から右に剣を振り抜くが、切っ先はかすりもせずに通り抜ける。


『ギャァ!』


 出来た隙を見逃さず、ゴブリンは僕のがら空きの左手を切り落とそうとさびた剣を振り下ろす。


——ギィン


 さびた剣は突如現れたバックラーですり落とされ、河原の石に当たり折れる。

 バックラーを再び収納する。

 振り抜いた剣の勢いを殺さずに頭上に振り上げ、そのままゴブリンの肩を切りつける。

 腰だめにし、とどめの突きで心臓を刺し貫いた。

 ゴブリンはさびた剣と凝血石をドロップして黒い泥になった。


「ふぅ……」


 ここまでで一挙動。バックラーを出したのは一瞬なのでまるで素手で剣をパリィをしたように見えるだろう。


 後は同じ事を繰り返せば良い。


——シュッ!


 ヤブの方から弓の鳴る音がきこえた。

 ようやく当たりだ!

 矢の来る方向に大楯を固定して戦う。

 他のゴブリンを倒している間、同じ音が定期的に聞こえてきたけど、倒しきると音がやんでしまった。


——バシュッ!


 矢が放たれた辺りに向かって、大楯で受け止めた矢を一気に射出すると、ゴブリンの短い声が聞こえた。

 注意しながらヤブをかき分けると地面に突き立った複数の矢と粗末な弓、そして凝血石が転がっていた。ゴブリンアーチャーのドロップだ。


 これで飛び道具が手に入った。

 弓矢は修練やスキルが必要だから少数しか出回らないし、剣ほどではないけれどそれなりに高価、しかも矢は半消耗品だ。

 そういうわけで、魔物から調達するのが一番手っ取り早かったのだ。

 ゴブリンアーチャーがここにいなければ、スリングで投げた石を使おうと思っていたけど、早めに手に入って良かった。


「後はチャージしていけばいいな」


 最初に立っていた所に戻り、大楯に向かって矢をありったけ放ち続ける。当然行き先は書庫の中だ。

 弓術も学校で覚えている。久しぶりにやったけれど、まっすぐに飛んでくれて良かった。

 

 でも、悩みもある。


「こっちのチャージも必要か……広範囲の常時展開はやっぱり凝血石を消耗するなぁ」


 凝血石を収納するバックラーのチャンバー(※装填口)を開けると、入れておいた魔砂は六割くらいになっていた。

 魔砂はまだあるし、凝血石をつかってもいいけれど、それじゃ儲からない。じり貧だ。

 やはり土をさらうだけで手に入る魔砂を使いたい。


「となると、行き先は遺跡だな」


 今日中に遺跡用の装備を調えるためにはまだ金が全然足りない。

 幸いここなら獲物にこまらないし、遠距離攻撃も使えるようになったからもう少し粘ることにしよう。



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