05_12 ザートの無茶振りプレゼント
〈クローリス視点〉
「おおおー! 栄えてますねぇ! 一週間で全然変わってるじゃないですかー!」
幹部会議の後にそっこうで決まったバーベン出張から戻れば居住区も広がり、不本意ながら私が責任者の工廠も順調に広がっています。
南の農業区の緑も目立つようになってます。これから冬が近づくのに、育成の魔法でもつかったんですかね?
「でしょー? クローリスとゾフィーさんに驚いてもらいたくて秘密にしてたのよ!」
ゴーグルをつけたオルミナさんがビーコの肩で得意げにしてます。
ちなみに、私、今ビーコの背の上に立っております。
そう、前にザートにひもを結ばれて失神しかけていたあの頃とは違うのです!
立つのを可能にしたのは新しく開発した鞍です。
真竜となったビーコの胴体はもはやまたがるには大きすぎたこともあり、輿というのでしょうか、平らな床に手すりのついたものをくくりつけてもらったのです。
もちろん安全ベルトは必須ですよ?
でなければ空中で立ち上がる事なんて危なくてできません。
どうして立ち上がる必要があるか?
今みたいに竜使いの人以外も絶景を見られます。
……それにまあ、ショーンさんやデニスさんが大砲ぶっ放すのに必要ですし。
自分がゴリゴリの兵器開発をしている事に思う所がないわけでもないですが、それも異世界ですからしかたないです。
というか、もう異世界でもないですね。この世界で生きていくって決めてますし。
「クローリス、もう降りますよ。座って下さい」
「あ、はーい」
バーベン領での仕事と休暇で仲良くなったゾフィーさんの言葉に従って輿の上に座り直します。
さて、持ちかえってきたこの成果をみてザートとリュオネはどんな顔するでしょうか?
――◆◇◆――
「たっだいまでーす」
足取りも軽く団長室に入るとリュオネと衛士隊の皆がなにか書類を書いていました。
「あ、おかえりー! どうだったバーベン? ブラディアの温泉は気持ちよかった?」
仕事の前に温泉の話をせがむとは、さすが日本……じゃなくて皇国人。
一緒にいってもらった文官さん達が下ろしたお土産をみる皆さんの目が気持ちいいです。
「すごかったですよー。私が入った所はお湯がとろっとろでした!」
温泉は美肌効果があるっていう話だったけど、どうでしょう、気づいてくれますかね?
「そうなんだー、そこに入るならリナルをたくさん用意しなきゃ」
あれ? ちょっと皆のテンションが下がった?
ミワがちょっと申し訳なさそうに自分のしっぽをひっぱった。
「クローリスさん、ティルク人ってしっぽがあるじゃないですか」
「ふんふん、ありますね」
触りたくなるしっぽですね。
私も一本欲しかった。
「とろとろの温泉ってお肌にいいんですけど、髪の毛やしっぽがゴワゴワになっちゃうんです」
あ、あーなるほど。
いわれてみればあの温泉には中つ人しかいなかった気がします。
「確かにそれは困りますねぇ」
チラリとリュオネとミワの尻尾を見る。
銀色のつやつやした長毛とピンク色のふわふわした尻尾。うん、これはかなりお手入れをしてますね。
「じゃあ今度はミワのおすすめの温泉に入りましょう! 【伏姫】の銀級メンバーはバーベンにもいたんですよね?」
「はい! 私もいくつかは知ってますし、デボラちゃんは趣味が温泉めぐりだったんで詳しいはずです!」
あーわかります。
デボラ姐さんってそんな感じしますねー。
皆で次に入る温泉について盛り上がっていると、扉が開いてザートとスズさんがはいってきました。
「お、お帰りクローリス」
ギルドにでも行ってたのでしょうか。
書類を机において椅子に座ります。
「で? バーベンはどうだった?」
「ええ! いい温泉でした。おかげさまで有意義な休暇がとれましたよ!」
本当、今回ばかりは素直に感謝です。
クランができたあたりからザートは人を使うのに遠慮がなくなってきましたから。
ザートに鬼畜モードのスイッチがあるなんて知らなかったですよ。
と思っていると、椅子に座ってくつろいでいたザートが無表情になりました。
スイッチ入りましたねこれは。
なにかフラグを立てたのかもしれません。
「ウォルストフ伯爵との交渉は上手くいきましたか?」
スズさんが無表情にきいてきます。怖。
そういえば私貴族のところに営業に行ってたんでした。
向こうがいい人で楽しかったからつい仕事だったの忘れてました。
だからザート、その鬼畜モードのスイッチオフにして?
「上手くいきましたデス。地図も道路整備もこちらの言い値で良いですし、さらに中継地の砦建設の仕事も追加でとってきました!」
「ウォルストフ伯爵はクローリスを気に入られたらしく、何度も晩餐に招待されたんですよ?」
ゾフィーさんフォローありがとうございます!
「へぇ、やるじゃないかクローリス。その調子でほかの六爵も口説き落としてくれ」
まだ行かせるの!?
机の上で手を組んであごを乗せて笑うザートが怖い。
あれやってるザートっていつも無茶振りするんだもの。
「それだけ美肌になれば体力も十分だろう? ギルドと交渉してクランメンバーが銀級に飛び級できる道筋もつけたから、その手続きも頼むな。兵器開発の方も進めるからよろしく」
ほら来た!
あ、でも美肌は気づくんだ、うれしい。
じゃなくて。
こっちを出る時にウィールドさんから聞いてますから。
魔鉱石が不足ぎみだから当分兵器開発は後回しにするって。
「ああそれなら、ほら」
ザートが床に石をたくさんならべはじめた。
どの石も大きな魔鉱の結晶がついている。
「ちょっとした偶然で地下から見つけたんだ。他にもあるだろうから魔弾開発には困らないぞ」
誕生日プレゼントをあげる父親のごとく良い笑顔を向けるザート。
そういえば私の父もこういう顔で見当違いのプレゼントをくれる人だったなぁ。
私はこの世界のあたらしい父の所業に泣いた。
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