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05_10 銀級昇格試験(4)


「みなさん! はやく上に登ってください!」


 ギルドマスターの鋭い声に、武器を構えていた私達は即座に撤退した。

 しんがりの私が長城壁にたどり着いた時には皆が一様に、先ほどマンティコアと戦っていた空き地の方角を向いていた。


 雷が落ちる音に似た轟音が辺りに響いている。

 たしかに、空の雲はうねり、今にも雷を落としそうではある。

 しかし、音は空からするのではない。

 皆の視線の先、森の木々が雑草のように吹き飛ばされている場所からしているのだ。


「リザさん、退避すべきでは?」


 ギルド職員の一人がおそるおそるとギルドマスターに言ったのに対し、彼女は即座に許可をした。

「ミワさん、あれ、結界で防げそうかしら?」


「木は防げても、魔獣本体の攻撃はムリかもです……」


「そうよね。それでも、結界は張り続けてちょうだい」


 職員は退避させても本人は逃げるつもりはないようだ。

 程なく、森の木々をなぎ倒していた張本人が広場に姿をあらわした。


「でっけぇ……」


 大木の幹の割れる音、根の引きちぎれる音、土石が引き抜かれなかった木々の葉を打ち抜く音、それらの混じった騒音のなかにあって、バスコのつぶやきがなぜか鮮明に聞こえた。


 白い巨体に先に行くほどに緑の色を濃くする一対の巨大な角。体高はおそらく八ジィはくだらないだろう。

 あれが巨大な牛の魔獣、オロクシウス。

 ブラディア大森林の魔獣か。


「あ! やっぱり団長よ!」


「団長ー! 援護えんご射撃はいるかー!?」


 デボラのゆびさした場所に立つ団長はオロクシウスに対し豆粒のようだった。

 にもかかわらず、ハンナの申し出に顔を向けず、左手を向けただけだった。

 直後、頭を振って大木の残骸を振り払っていたオロクシウスが、通常の牛とは異なった魔力を帯びた咆哮ほうこうを上げた。

 するとドウという響きの後、団長めがけて空から強風が吹き降りてきた。


「オロクシウスのあの攻撃は空気の塊を落とす高位魔法エアバーストに近いものよ。あれを喰らうと風の力で身動きがとれなくなるわ。状況から見てザート君はずっとしのいできたみたいだけど……」


 いつの間にかギルドマスターが最前列に来ていた。

 ギルドマスターの言った通り、団長は強風により地面にぬい付けられ、動けない。

 その間にもオロクシウスは距離を測り、団長に向かい頭を下げ、突進した。


「「「!!」」」

 

 皆がその光景を目にするまでは信じられなかった。

 唐突に二ジィ四方の分厚い鉄板がオロクシウスと団長との間に一瞬現れ、オロクシウスの突進を受け止め、大音量を残して消えた。

 いらだつように頭を振るオロクシウスに向かって、少しさがった位置から団長はファイアアローを放った。


 上位魔法ですら何十発と加えなければ倒れない森林の強者に対し、その攻撃は挑発にしかならない。

 当然オロクシウスは怒り狂い魔法も使わず突進をしていく。


 しかし、先ほどと同じく、紙一重で現れた鉄の壁がオロクシウスの突進を阻む。

 団長は挑発以外、まともな反撃をする様子がない。


「あんな危険な事をして、団長は何がしたいんだ?」


「わからん……」


 首をひねっているジャンヌと私の横で、バスコが少し得意げな顔をしてやってきた。


「船の上で団長の戦いをみた俺は、わかったかもしれねぇ」


「なんだ、早く言え」


 ジャンヌが胡乱な目でバスコを見据える。


「リヴァイアサン、らしき竜種の攻撃はとてつもなくでけぇ砲弾だった。それこそ戦艦を消し飛ばす大きさだ。相当無茶したらしいが団長はそれも収納してバックラーの中にもっているはずだ」


「それなら早くオロクシウスを吹き飛ばせばいのにぃ」


 エヴァが不満げに口を挟んでくる。


「ただ倒すだけならそれでもいいだろう。でも団長だぞ? 無駄な事が嫌い、というかちょっとケチなあの人がこんな時に使わないだろう」


「確かに、戦艦を消し飛ばす攻撃をこんな場所で使うほど団長は太っ腹じゃ無いな……」


 私はバスコとジャンヌの後ろにいる殿下に気づいたが、そっと目をそらした。

 あの笑っている殿下は正直エヴァより怖い。


「ザートのバックラーはね、生き物を入れる事はできないんだ。つまり、リヴァイアサンの砲弾みたいにオロクシウスの突進攻撃は収納・反射ができないんだよ」


 殿下がいたことに今更気づいた奴らが青い顔をしているが、そんなことはどうでもいい。


「殿下、ではあの吹き飛んだ後再度収納した重い鉄板が砲弾の代わりという事ですか?」


「いいや、あれだけでは重ねても倍返しくらいにしかならないよ」


 かぶりを振った殿下はギルドマスターに振りかえった。


「リザさん。どんなやり方かはわかりませんが、ザートは逆境にあってもその場の状況を利用し、目的を遂げる男です。ギルドマスターではなく、”行政官”として、ザートの器をはかってください」


 殿下の言葉は揺るぐことの無い確信に満ちていた。

 皆その声を受けて壁の外側の戦いに集中した。


 何度目かわからない轟音の直後に、団長が動いた。

 それまでは鉄板を収納した後、距離をとっていたのに、逆に一気に首元までせまる。

 衝突直後のオロクシウスは止まったままだ。


『オベリスク!』


 団長が叫んだその瞬間、風ではない風が来た。

 あえて言うなら戦いで使う陣鐘が恐ろしい速さで打ち鳴らされたようだ。

 音というより衝撃だ。

 

 それを発しているのは、地面から生え、激しく震えている巨大な鉄の杭だった。

 その鉄の杭は、上位魔法すら余裕で耐えるオロクシウスの皮膚を突き破り、中の肉をかき回している。


「なるほど。ザートはバックラーをつかって、鉄の壁がもつ何十回もの突進の衝撃をあの鉄杭に移したんだね」


 殿下が解説をされる。

 もちろん物体が耐えられればだけど、と殿下は言葉を添えたが、それでもすさまじい威力だ。

 ミワの結界がなければこちらまで血をかぶる所だ。

 端的にいって地獄絵図である。


 肉片と血を至近距離で浴びた団長は白銀のマントを見てあわてている。

 次の瞬間には血の跡はなくなっていた。


「大森林の魔獣を一発で仕留めるなんて……服にクリーンかけてる場合じゃないでしょうに……」


 デボラがため息をついて武器を肩に戻した。

 私を含めた周囲も、オロクシウスの単独撃破というすさまじい成果を目の当たりにしたのに、渋い反応をせざるを得なかった。


 やはりウチの団長はどこかずれている。


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