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法陣遣いの流離譚  作者: 空館ソウ


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05_08 銀級昇格試験(2)


 曇り空の下、葉を落とさない木々の隙間に動くものがあった。

 魔獣の吠える声が次第に近づくにつれて不規則に木々が揺れる。

 森の端の木が揺れるとともに、魔獣が姿を完全に現した。


 同時に森の際から城壁の際まで赤い光が立ちのぼる。

 これがミワの使う結界なのだろう。 

 壁ぎわでは土魔法で作った足場から城壁に飛び上がる殿下の姿があった。

 あいかわらず見事な身のこなしだ。


「構え!」


 リーダー役の私の声で皆が隊形を整える。

 今回ハンナが加わっているが、四人構成の戦闘はオーガーでならしてある。

 まずはマンティコアの戦闘パターンの確認だ。


 森の際で殿下の姿を見失い、結界に閉じ込められたマンティコアがこちらを向いて牙をむいた。


 よし、では始めるか。

 こちらに来てから用意した、上下に持ち手のある大楯を担ぐように構え、地面につける三角の方をマンティコアに向ける。

 

 マンティコアは直線で突進してくる。

 翼と尾があるので飛び上がりと追撃に注意だな。


——ガォン!


 突進の勢いそのままにかみついてきたマンティコアの目の前で大楯を地面に突き刺す。

 それと同時に大楯を支える手に強い衝撃を受けた。

 素早く大楯を離してさがると強力な前足が大楯を抱え込み、尾が楯の裏を攻撃していた。


「オットー! 相手の力は!」


「大型のヌエぐらいだ! だが接近戦だと尾がやっかいだぞ!」


「そうかー、ま、一人でいけんだろ!」


 バスコとハンナの声に応えつつ、地面にさしておいた大身槍を引き抜いた。



 大きく八の字に振り回すのを見たマンティコアが体勢を低くして穂先をかわし、こちらの懐に入る。


「シィ!!」


 約三ジィの槍を一瞬で引き戻し、螺旋を描いた穂先でマンティコアの腰を打ちすえた。

 長さが一ジィある、三角の断面を持つ槍は鈍器の役割も果たす。

 反射的にさがったマンティコアに引き戻しておいた大身槍を落ち着いて繰り出すと、居着いて動けなかったマンティコアはあっさりとその身を泥に変えた。


「すごいわねオットー! もう一体結界の外にいるんだけど、すぐやれる人いる?」


 声の方を見れば結界の外でデボラがマンティコアの攻撃をかわしていた。


「アタシ! 次アタシいけるから!」


 ハンナが我慢できないとばかりに陣形から飛びでてきた。

 まあ予想済み、というか考えるまでもない。

 他の三人も腕を組んでやる気が無いことを見せている。


「オッケー、ミワ! 予定通り結界を開いて!」


 タイミングを計っていたデボラの合図で結界が一瞬消え、マンティコアが入ってくると同時に再び現れた。

 デボラは既に次の個体を釣りにいったようだ。


 ハンナに譲るように大楯を拾いつつ三人の元に戻る。


「見ていたのでだいたいわかるが、どうだった?」


「ふむ……冒険者のパーティに準ずる新編成の班なら下手な事にはならないだろう。主武器がクローリスの使う銃剣に統一されるので運用は変わるだろうが、これまでの訓練を生かした形になるはずだ」


 問いに答えると、ジャンヌは複雑そうに弓をなでながらうなずいた。

 

「そうだな。一人一兵種でも、弓兵で足止めをし、魔法戦士が相手の陣形を崩し、重戦士が他の兵種とともに切り込む形は変わらないだろう。ただ、乱戦で魔弾を使うこともあるだろうから、猟兵はこれまでとは違い背面ではなく側面から攻撃するようになるだろう」


「……対人でもこの編成でいけると思うか?」


 心配なのはそこだ。魔獣狩りは活動費のためでもあるが、同時に戦争のための物資調達であるのを忘れてはならない。


「今は不確定要素が多すぎる。技術担当と参謀が色々なパターンを探っているけれど、第八が探っている王国諸侯の軍編成や装備次第で予想外の対応を迫られるかもしれない」


「……ふむ、月並みの結論だが、できるだけ柔軟な対応ができるように経験をつませておくのが良いか」


 話が落ち着いた所で一歩進む。


「ハンナ! もう次の獲物が来ているぞ!」


「マジか!」


 大太刀をつかった初撃で尾を切り飛ばした後、もてあそぶように刀の峰で相手を翻弄ほんろうしていたハンナが身体に朱い雷をまとう。

 一気に飛びさがり、城壁に立てかけていた大弓を手に取り、朱い閃光をマンティコアに放った。


「ハンナの身体強化はやはりはやいな」


「速さと狙いはジャンヌの弓の方が上だろう」


 ハンナの太矢はマンティコアを爆散させ、ミワの結界を破壊していた。

 そして、結界のむこうで待ち受けていた新しいマンティコアは、まさに飛びかかろうとしていた体勢でジャンヌの矢を腰に受けよろめいていた。


「想定外だったが、矢をつけてしまったのでいってくるぞ」


 暗紫色の髪を右肩から一はらいし、抜き身の刀を携えジャンヌが前に進んでいくのを見ながら、溜めていた息を吐き出した。


(団長、すいません)


 城壁の上で肩を上下させている団長に頭をさげた。

 マンティコアを釣ってきたのに、あやうくハンナに身体を貫かれかけたのだ。

 ハンナの奴、今度はどんな罰をうけるのだろうか。


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