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05_07 銀級昇格試験(1)

〈オットー視点〉


「雲行きがあやしいですねぇ」


 ギルド職員の一人がつぶやいた。


 今、我々クラン幹部は銀級昇格試験のため、第四長城の途中にある側塔の上で、ギルド職員と一緒にニコラウス領の方角を見つめている。


「そうですね。雨具の用意をしていて正解でした」


 先日着任した青い髪のギルドマスターが椅子の上で猫のなりをした磁器製の香り懐炉を優雅になでている。

 趣味に口だしはしないが、なぜあんな不細工な造形を好むのか理解に苦しむ。


 いや、余計な事は考えないようにしよう。

 せっかく団長がギルドマスターと交渉して用意してくれた銀級冒険者への昇格試験なのだ。

 まず幹部でも特に戦闘に秀でたハンナ、ジャンヌ、バスコ、エヴァと私が余裕を持って試験をクリアして後続の部下達のため道をひらかねばならない。


 戦略物資である凝血石を独立戦争で十分に使用するには、団長や殿下、クローリスばかりにたよらず、自分達で調達しなけれがならない。

 そのために魔獣が原始のまま存在する第四長城外に入らなければならないのだ。



「オットー? 気持ちはわかるけど、仁王立ちして殺気放つのやめなさいな。ミワちゃんが怖がってるわよぉ?」


 む、ミワ殿?

 下を向くと、耳を伏せたサクラ色の頭が見えた。


「あ、あの、ボクは平気ですよ?」


 全然平気にはみえないのだが。

 仕方ない。団長達が来るまで話でもしてみるか。

 座っても視線がそろわないので石畳の上に直接すわる事にした。


「少し、いいですか。ミワ……殿が銀級四位ときいた時は失礼ながらおどろきました。どのような修練をされてきたのですか?」


 なんとか優しくしてみたつもりだが、ミワ殿は驚き、耳は伏せたままだ。

 やはり団長のように女性に柔らかく接することはむずかしいな。


「殿だなんて、ボクの事はミワって普通に呼んで下さい。ボクは【伏姫】の中で結界術で支援する役割で後から銀級のパーティに入れてもらったので、戦闘力で銀級四位に上がったわけじゃないんです」


 む……ではミワとよばせてもらうとしよう。

 ミワは謙遜けんそんしているが、結界術というのはナムジの血を継ぐ者しか使えない、皇国本土でも希少な術だ。

 なぜ王国にナムジの者がいるのかたずねたい所ではあるが、今はやめておくか。


「入れてもらっていたパーティの先輩達がそろって引退してしまったので、ボクが【伏姫】のリーダーになっていたんです」


「クランを解散して他のパーティに入る手はなかったのか?」


「そんなのムリです!」


 突然、意外なほど強い反応が返ってくる。

 ミワの目には多少のこちらへのいきどおりすら感じられた。


「立場の弱いティルク人、しかも身よりのない女の子が外の世界でつける仕事は限られています。ここまで来れた子たちですら、鉄級冒険者で生活が厳しいウチにその……そういう仕事をするようになっちゃう子も多いんです。【伏姫】はそれが嫌な子達のためになくしちゃいけないクランだったんです!」


 力説したのが恥ずかしかったのか、ミワは握りしめた拳をほどき、ベルトにしまっていた経典をパラパラとし始めた。


「でも【伏姫】の運営はギリギリでした。ボク以外の皆は鉄級が殆どだったから、ボクが友達のデボラちゃんの手を借りて稼いで、なんとかクランを維持してたんです」


 なるほど、我々はティルクの民を守っていると思っていたが、自惚れていたらしい。

 難民の、しかも女子の境遇を見てきたのに、想像力が足りていなかった。

 

「だから! リュオネ殿下がティルクの民を守るため、【白狼の聖域】をつくられたと聞いた時はとってもうれしかったんです! ホウライ皇族の殿下が冒険者になってまで、異国の同胞を助けようとしている事を知って、ボクは殿下のためならなんでもできるって思ったんです。あ、もちろん団長にも感謝していますよ?」


「そ、そうか……ミワは殿下の事が好きなのだな。何よりだ」


 思わず自分の口元に手をやる。こわばっていないだろうか。

 エヴァに比べればまったく健全だが、この娘も危うい。

 私もバスコ達も殿下を臣下としておしたいしているが、殿下の魅力は同性に対して特によく働くのだろうか?


 しかし、殿下はどうみても団長に惚れている様子、彼女らの想いに応えることはあるまい。

 いや、団長が彼女らを側室に迎えればあるいは……


 いかん、部下の身で余計な事に気をまわすなどとおこがましい。

 自らの雑念に気づき、あわてて頭を振る。

 そして同時に場の雰囲気が変わったことにも気がついた。


「ミワ、雑談は終わりだ。マンティコアが来たら結界を頼むぞ」


「は、はい!」


 側塔の階段を降りると試験を受ける他の兵種長とハンナはすでに来ていた。


「よぉ、珍しいなお前が遅刻なんて」


 バスコが自分の独鈷杖とっこじょうの具合を確かめていた手をとめてにやりと笑いかけてくる。


「ずーいぶん仲よさそうにしてたわよぉ。ぷふぅ」


「マジかよ、下で肩慣らししてる場合じゃなかったな」


「……」


 先に来ていたのを良い事に好き勝手話していたらしい。

 静かなのはジャンヌくらいだ。

 三者三様に失礼な奴らを無視して大身槍の準備をする。


 こういう時、口下手な自分は沈黙するに限る。




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