01_13 初戦闘後に言い寄られる
第二要塞は五合目という結構高い所にある。
これは大森林から出てくる魔物が登る上限が五合目だからだ。
それより高い場所に壁を作る意味はない。
第三、第四と進むに従ってむしろ下に要塞があるのは遺跡や鉱山の入り口があるからだ。
それらを長城の内側に入れるわけには行かないからな。
「さて、もうすぐゴブリンのテリトリーだよ。予定通りにやるって事でいいかな?」
リオンのやる気は十分だ。
ちなみにリオンは町民服ではなくてダブレットに馬上ズボン、ブーツだ。
――「武器が安上がりで予算が余ったからね。将来は鎧も着るつもりだから早めにそろえてみた」
ということらしい。
「うん、単体なら僕がのどを狙って倒す。集団なら開けた場所を背にしてリオンが挑発して誘い込む。そこを僕が後ろから倒す、だな」
作戦を確認していると、微妙にリオンが首をひねっている。
「不満はないんだけど、ゴブリンを釣ってくるのってザートの方がむいてない?」
何言ってんだこいつは。男の俺と女のリオンじゃゴブリンの食いつきが違うだろ?
「まあ、色々試してみよう。ただし慎重にな。戦っている間に他の魔獣が集まっているなんてさけたいしな。よし、一匹目はいただくぞ」
多分モルじいさんみたいな人が整備しているんだろう。
明るい森は見通しが良く、ゴブリンの不健康な緑色の肌が見えた。
周りの伏兵や位置取りに注意しながら近づいていく。
『ゲギャ』
ゴブリンは此方を向くとすぐにナイフを構えた。
方向的に不意打ちはできなかったので両手を肩辺りに構えて小走りに近づく。
ゴブリンはボロボロのナイフを逆手に持って振りおろしてくる。
それに合わせて外側からバックラーを合わせる。
一拍おいてゴブリンが下がろうとした瞬間に死角から喉を突き上げるとゴブリンは崩れ落ち、黒い泥となって消えた。
「ザート、こっちはもらうよ」
後ろを向くと別の個体にリオンがフレイルをたたきつけている所だった。
三度ほど続けるとちょっとルーチンじみてきた。
「やっぱりザートはすごいね」
「なにが?」
「シールドバッシュは決まった体勢でしか発動できないのにザートは上も横も対応している所さ」
ん? んー
「剣術でパリィがあるだろ? あれとバッシュを混ぜたら普通にできるぞ」
「え、そうなの?」
「まあ、それなりに練習は必要だけど」
そんな事を話し合っているとゴブリンの一団が見えてきた。
退路よし、周囲の援軍なし、広場、よし。
「というわけで、リオン頼むぞ」
「わかった!」
僕は広場の ひときわ大きい茂みに身を隠し様子を見守る。
――、……!
はじまったみたいだ。ゴブリンの悲鳴と叫び声が此方に迫ってくる。
広場に飛び出したリオンに続き、ゴブリンの一団が出てきた。
四体はちょっと多いな。
「セッ!」
フレイルを大きく振り回して間合いを取ったリオンは僕から遠い方から攻め立てていった。
僕もすぐに一番近くのゴブリンの背中に剣を突き立てる。
隣のゴブリンが僕に気づいたけれど、バックラーで視界を塞ぎ鍔元で喉を押しきった。
リオンの方は二体を瞬殺し、周りを警戒している。
そういえばリオン、頭上でフレイルを旋回させて二連続殴打してたよな?
あれってロングソードスキルの平二閃の動きだよな? 農具由来のフレイルでは使わない技術なんだけど……
「これなら五体でもなんとかなりそうだね」
ちょっと顔がぎこちないけど、リオンは嬉しそうに笑った。
まあ、いいか。詮索しないのはうまくやるこつだ。
――◆◇◆――
「はい、ゴブリンの凝血石とリカバリ草四束で二万ディナです」
昨日マーサさんを連行していった羊獣人の受付嬢が小銀貨二十枚をトレイに乗せて差し出してくる。
「確かに。じゃあリオン、半分の十枚だ」
新人研修期間を除けば冒険者としての初収入になるわけだから二人とも思わずにっこりしてしまう。
「あら、あなたたちパーティ組んだの? ソロ志望じゃなかったかしら?」
そこに書類をもったリズさんが通りかかった。
「そうですけど、昨日こいつに強引に誘われたんですよ、一回だけお試しってうるさいから」
「いいじゃない、色々試せたんだから。それより今日は帰ったらちょっと良い物でも食べよう」
いやちょっとまて、こいつの中では俺が子鹿亭を常宿にするって確定なのか?
「いや、今日は外で食べよう。せっかくの記念日なんだし」
「それもそうか。よし、じゃあ昨日ビビに聞いた店に……」
外で店に行く時に宿を確保しとこう。
もうアウェイは嫌だ。かわいい看板娘がエールを特大ジョッキでもってくるような男くさい宿に泊まるんだ!
「……アリね」
「ですよね! 全然アリですよねー」
カウンターの向こうでリズと受付嬢がこっちを見ながらうなずいていた。なにが?
「とにかく、パーティは組まないからな!」
そう宣言すると、リオンが叱られた大型犬みたいにしょげてしまった。
そういう顔しないでくれるかな。お前一回だけ、お試しっていったじゃん!
「……まあ、たまにならいい、けど」
僕だって一人じゃなきゃ死ぬってわけじゃない。
法具を活用して効率よく強くなる時間を確保したいだけだ。
ヘタれた耳と尻尾の幻が見えてくる。こいつ犬獣人じゃなかったよな?
「月一とか……」
ちょっと情にほだされて妥協してみる。
はぁ、まだ耳が寝たままだよこの大型犬。ああもう!
「月二とか! ……お互いの予定が合えばいこうか」
ぱぁぁと明るくなったリオンの表情は散歩の前の犬みたいだ。
昔飼っていた犬もこういう表情してたな。
あいつには振り回されてばっかりだったなぁ。
「なんだかたまらないわね……」
「ムズムズしますね」
だからなにが!?
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