05_02 地下祭壇発見
「ジャンヌねぇー、今度はキラキラした枝みつけたー」
「おぉ、よく見つけたな、えらいぞ。後でリュオネ様に献上しような」
「はーい」
外ではジャンヌをはじめとした兵種長三人が子供達と一緒に発掘ごっこをしている。
いや、本物が出土しているからごっこじゃないか。
ジャンヌは普段、隊の風紀を遵守する固いイメージとは裏腹にこどもが好きらしい。
普段の凜々しさとは違う、柔和な表情でこども達に接している。
エヴァとハンナはリュオネから離れるのを嫌がったけど、リュオネに説得されしぶしぶ発掘ごっこに加わった。
理由は住民になじんでもらうためだ。
あの二人は難民護送の際に暴れ回ったせいで怖がられている。
それではいざという時に困るので、早めにイメージ回復をしてもらおうというリュオネの判断だ。
エヴァの存在は子供の教育に悪そうだけど、女の子に人気だし、派手な鎧をまとったハンナは男の子に人気だ。
あの様子ならすぐに他の住民もなれてくれるだろう。
「で、コリー、現場はこの下なのか?」
「そうそう、土を掘って地下室をつくってたら色々でてきてさー。大きなものは並べてあるから鑑定してみてよ」
階段を降りると、なるほど、馬車の荷台くらいの広さの地下室に壺や皿、刃物、装飾品、魔道具の一部の様なものが並べられている。
順番に鑑定していくと、ほとんどがアルバ魔法文明のもので、一部の装飾品などにはそれより古い文明のものもあった。
「うん? この刃物は血殻でできているのか」
…………
・血殻の刃
…………
「ということは、これは魔弾と同じ、魔力を込めてつかう魔法剣なのか……」
よく見れば魔弾の側面につける魔法文字と同じ模様が彫り込まれているようにもみえる。
「壊れた武器がたくさんあれば魔鉱銃みたいに復元できるかもしれないね!」
リュオネがかけらを手にして目を輝かせている。
確かに、個々が遺跡とはいかなくても廃棄場であればそういったことも考えられる。
「よし、じゃあ始めよう! リュオネ、壁づくりはたのんだ!」
「任せて!」
二人ともやる気になった所で、大楯を掘りかけの横穴にあてて、じりじりと土を収納しながら進んでいく。
後ろを歩くリュオネがロックウォールで天井と支柱をつくっていく。
とりあえず、地下室から左前に掘り進め、十ジィ四方の地下室を作った。
「あいかわらず、えぐいっすね、いまさらですけど」
僕が土を収納していくのをみてコリーがつぶやく。
「ザート、どうしたの?」
銀色の髪が視界の端にうつる。
僕が削り終えた土の断面を調べているとリュオネが後ろからのぞいてきた。
「ああ、この土なんだけど、変なんだ。魔素の濃度にムラがある」
「ムラ?」
「二ジィくらいの幅で血殻の帯が続いているんだ」
僕は目の前の土に魔素を注入する。
すると、魔素を吸った血殻の部分だけが淡く発光した。
「たどってみようよ。このまま居住区の真下を全部地下室にする訳にもいかないし」
リュオネの言うとおりなので、そこからは二ジィ四方の通路をつくるように掘り進めていった。
道は途切れることなく、下り坂になりながらまっすぐ北に向かって続いていた。
体感として三百ジィほど進んだところでとつぜん足下に石が現れた。
直線で構成されている、あきらかな人工物だ。
「階段か……これは、遺跡がでてくるかもしれないな」
僕の言葉で場に緊張が走る。
未発見の隠された遺跡。
心躍る響きだけど、人に知られなくなったのにはそれなりに理由がある。
例えば制御できない呪いや魔獣が生まれたので封印された、とか。
もちろん、土砂崩れなどで使われなくなった可能性もあるけれど、何が出てくるか分からないのが隠された遺跡だ。
「念のため全員戦闘の準備をしてくれ」
僕自身もバックラーとショートソードを構える。
皆の準備を待って土の収納を再開する。
一段一段露わになっていく階段は唐突に途切れ、踊り場と、血殻でも石でもない、なにかの金属でできた四ジィ四方の両開きの扉が現れた。
魔導回路のような紋様がえがかれていて、扉には引き手の代わりに、一つが人の頭が入るくらいの一対の掘り込み棚があった。
「なんだぁ? どうやってあけるんだこれ?」
コリーが疑問を口にするけど、僕だってわからない。
あきらかに怪しいのは掘り込み棚だけど、さて、どうしよう。
僕達は交互に棚の中をながめては考えてみた。
「アルバの民である証をみせよ、って書いてある」
魔法のライトの玉を引き寄せ棚の奥をのぞいたリュオネがつぶやいた。
「読めるのですかリュオネ様!」
衛士隊の面々が驚き、すごいすごいと沸き立つ。
「でもアルバの民の証ってなんだ? そもそもアルバ人って今でもいるの?」
ああ、確かに、日常でアルバ人って言わないからな。
「僕みたいな中つ人がそのアルバ人だよ。エルフとの混血が進んだけど、北方の山岳民族やティランジアの奥地の人は比較的古い血が残っているらしいよ」
僕はシルトを思い出しながら説明する。
「じゃあそのまんま、血をささげてみる?」
さらりとリュオネが物騒な事をいう。
とはいえ、他に思いつく事も無い。
「まあ、やってみるか」
ナイフで腕を軽く切って血を垂らしてみる。
「……反応ないね」
右の棚に血をいれたけれど、何の反応もない。
「アルバの民……文化という意味なら捧げるのは道具じゃないでしょうか」
なるほど、結界術をつかうミワらしい考えだ。
さっそく、さっき見つけた血殻の刃を入れてみる。
すると、棚の上部から赤い光が一瞬通り過ぎて消えた。
「一瞬しか反応しなかったね……、ザート、どうしたの?」
今右手で刃を棚に入れた時、光が一瞬、刃ではなく僕がつけている書庫の指輪の上で止まった。
まるで何かを探すかのように。
「もしかして……」
僕は左手につけていたバックラーを外して右手に持ち、左の棚につきいれた。
『”神像の右眼”を確認しました。扉を開きます』
突然棚から声が響き、両開きの扉の左側が開いた。
神像の右眼?
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