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04_35 クランの新しい収入源



「私からも議題を提案してもよろしいでしょうか?」


 ゾフィーさんの話は続く。


「クランの収支に関する話です。我々管理部門と開発部門、それに旧皇国軍の第一、第五、第七小隊、以上の部門について、いまのところ利益を上げる手段がありません」


 ゾフィーさんが淡々と言葉をつづける。


「冒険者部門でかせいだ金を再分配するという方法も考えられますが、一般冒険者から不満があがる可能性があります。この問題についていかがしましょうか」


 気軽なフリートークだと考えていたけれど、ここで事前調整なしでそれを聞くか。

 これはゾフィーさんからの挑戦だな。


 そういう目でみれば、こころなしかゾフィーさんの口のはじがつり上がっている気もする。

 上等じゃないか。


「あの……管理や開発部門はしかたないですけど、ぼくら旧皇国軍の三小隊もなにか独自に利益を上げるべきだとおもいます。今プランがあるわけじゃないですけど……」


「そうだなー。なにもしてないと住民からの風当たりも厳しくなるだろうしなー」


 ポールの言葉にコリーが続く。


「ふむ、戦時なら第一と第七の組み合わせで威力偵察をしてもらう所だけど、今は平時だし、敵の陣地さがしなんて……そういえば、オーガー討伐のために作った道についてバーベン領主のウォルストフ伯爵から感謝の書状が届いてたんだったな」


 先ほどスズさんからもらった資料のなかに手紙が入っていたんだった。

 第三長城壁より先は領主ですらまともな地図をもっていないらしい。

 開拓村周辺、道などが描かれた簡単な地図はあるけど、魔素だまりや地形などを網羅したものがない。


 現場をよく知っているのは冒険者だけど、彼らは情報を抱え込んでしまっているのだ。

 冒険者として気持ちはわからなくもないけど、貴族という為政者をめざしている僕としては正確な地図が欲しいという伯爵の気持ちもわかる。

 よし、これを売ろう。


「領主は領内の地図や、整備された道を欲しがっているんだ。アルバトロスは今まで領内を飛び回っていて、空からみた地図をたくさんもっている。これに地上からの情報を書き加えよう。第一・第七小隊を再編した偵察専門のパーティが歩き回って情報を集めるんだ」


「そっからその地図を元に、第五が道を整備して領主達に売りつけるってわけか?」


「そうだ。あらかじめ話を通しておけば地図と道をセットで売れるんじゃないかな? どうゾフィー?」


 クランとしても、土地の一部を使わせてもらっているので、伯爵に恩をうっておいて悪いことはないはず。

「ウルヴァストン様の元で働いていた経験上、ウォルストフ伯爵は確実に買うと思います。報酬額の交渉はまかせていただけますか?」


「皆、第一・第五・第七小隊の新事業開始に賛成してもらえるか?」


 円卓の皆は右手を挙げて肯定だ。


「全会一致だ。ゾフィーさんに任せるよ」


 よし、ゾフィーさんの挑戦はクリアしたぞ。

 クローリスがゾフィーさんに何か言われて驚いているけど、どうせ責任者として仕事しろとかいわれているんだ。

 さすがにオーバーワークかもしれない。

 後でなにかねぎらってあげなきゃな。


「団長、俺からもいいだろうか」


「はい、オットー」


「第四長城外で活動したい。俺たちはパーティでオーガーを倒せば銅級中位の実力を認めるとギルドとの協議で決めているが、皇国軍はもっと上の位階を狙えるはずだ。独立戦争をするというのであれば凝血石も大量に必要になるだろう。なんとか銀級にあがる方法はないだろうか」


「凝血石の確保は俺も重要だと思う。俺たち魔法戦士は当然必要とするし、魔弾だって魔力なしで撃てるわけじゃないんだろう?」


 オットーとバスコが積極的な意見を出してきた。

 凝血石についてはたしかに必要だけど、何百人も一気に銀級冒険者にはできない。


「確かに、クランとしても銀級冒険者は多い方がいい。実力の高いパーティを順番にギルドに推薦して交渉してみようか。今銀級冒険者なのは僕とリュオネ、ミワとデボラで四人か……ん?」


 会議室の外が騒がしい。しかも男くさいざわめきじゃなくて女の子達の内緒声だ。

 やっと来たか。



「遅れてごめんねぇ? ちょっと”補修”に手間取っちゃって」


 フィオさんに続いてぞろぞろと入ってきたのは、スズさんの看護服をベースにつくった制服に身を包んだ元【伏姫】の人達だ。


「あ、あの遅れてすいません! この度リュオネ様のお世話周りをいたします衛士隊隊長のミワです! 若輩者ですがよろしくお願いします!」


 一番背の低いミワさんのお辞儀にまわりが合わせる。

 それに対して例の人が一番早くに反応した。


「はぁ? お世話まわり部隊!? それって親衛隊じゃないの! やだ私も立候補す……る?」


 エヴァが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がって手を挙げる。

 しかし挙げた手は途中で中途半端に止まってしまった。

 それは集団の後ろの方で背をまるめてこそこそとしている狼獣人に気づいたからだ。


「……え? ハンナ? 貴女なにしてるの?」


 僕やクローリスなど事情をしる面々は必死に笑いをこらえている。


「う……うるさい! 私は、衛士隊のハンナだ! 文句あるかぁ!!」


 会議室にハンナによる逆ギレ気味の自己紹介が響く、そしてそれに負けないぐらいの爆笑が続いた。


「アハハハ! ハンナ、お前! いないと思ったらなにしてんの!?」


「ふふ……うん、似合ってるぞ? うん……クッハハハ!」


「もしかして衛士隊の遅刻はお前が出たくないとごねていたからか?」


 元同輩のようしゃない笑いを受け、屈辱と恥ずかしさでハンナが真っ赤になる。

「ごねてない……その……」


「あー、やっぱり収まらなかったですか。やっぱりバストは余裕をもってつくらないとだめですねー」


 モジモジと理由について口を濁していたハンナだったけど、クローリスが見事に暴露してくれた。

 フィオさんがいっていた補修ってそういうことか。

 背中のホック辺りが壊れたんだろう。


「皆、静粛に!」


 スズさんのよく通る声が会議室に響くと皆ぴたりとおしゃべりをやめた。

 笑いが止まらないのはクローリスくらいだ。


「ハンナ=レトガー少尉は皇国軍にあって小隊長を務めたが、先日の難民護送において独断で動き、二個小隊と護送対象を危険にさらした。そのため、他小隊長のようにクランの兵種長につけず、ミワ率いる衛士隊の隊員に降格させた。今回は副団長の意向で軽い懲罰としたが、皆冒険者となっても軍規を守り、綱紀粛正こうきしゅくせいにつとめるように!」


 せっかくのスズさんの訓示だったけど、すぐに空気はゆるんでしまう。

 なにしろ懲罰ちょうばつの内容があれなのだ。

 転属以前の問題なのだ。

 綱紀粛正もなにもあったものじゃない。


「ミワさんたち元伏姫はかわいいけど、ハンナ……よくそのサイズの服があったわねぇ。クロちゃん、私の分はない?」


「クロちゃんはやめて。ありますよ人数分」


「やった! 私さっそく軍規破ってくる!」


 バカな事をいいだすエヴァだったけれど、その考えは予測済みだ。


「エヴァの場合は特例としてスズさんの元についてもらいます」


「ア、ハイ……」


 一発で萎縮するエヴァと男性陣。スズさんの下ってそんなに嫌なのか?

 スズさんがかるく眉をひそめている。

 自分が恐れられていることにいまさら傷ついたのだろうか。

 しかし次の瞬間にその口元は嗜虐しぎゃく的につり上がった。


「コリー。特例はエヴァだけです。もう一度頭の中で復唱しなさい」


 怪訝そうにしていたコリーだったけど、その意味をさとったのか顔を青くした。


「え、うそでしょ? 問題おこしたら衛士隊配属って、俺らも?」


「兵種長全員の制服を作るの大変だったんですよー? ちなみに戦場にでても大丈夫な仕様です!」


「戦場でも着せるつもりかよ……、しゃれにならねぇ……」


 クローリスの一仕事やり遂げた爽やかな笑顔で、男性陣の表情は完全に抜け落ちてしまった。

 がんばれ。




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