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04_29 騎馬戦闘

【スズ視点】


「指示通り、敵斥候を一人逃がしました」


「ご苦労さまです。ポールには予定通り敵が見えたら仕掛けると伝えて下さい」


 第七小隊の伍長が後方へかけていくのを見ながら、再び馬の腹をけり進み始める。

 前にみえる街道は左の川から少しずつそれていき、しばらく歩けば道の左は森になるだろう。


 今私がいる第一小隊が集団の先頭を進み、間を空けて第七小隊、最後に難民団が進んでいる。

 難民の中にティルク人の冒険者がいたので護衛は必要無い。


「作戦はいいけどよ、ほんとにクランリーダーだけで足止めするのか? 魔法の手数で人数をごまかすにも限界があるだろ。ちゃんと引きつけられるのかよ?」


 隣でくつわを並べるのは敵の領軍を潰してまわって恨みをかった犯人、第一小隊隊長のハンナだ。

 今は兜と面頬めんほおで隠れているけれど、乱雑に切った明赤色の髪と一文字の眉、何より女にして身長一・八ジィという長身が人目を引く。


 第一小隊はティルクの全身革鎧に身を包み、敵の陣形を弓で崩して大太刀おおだちで切り伏せるのを得意としているけれど、その中でも常に先頭を走っている。

 私が少佐の代わりに指揮をするようになってから、ろくに指示をきかない問題児でもある。


「ええ、大丈夫だと思いますよ。敵が森に入れば容易にでられないトラップをしかけるといっていましたから。下手すれば行動不能にしてしまうかもしれません」


 一個小隊が魔法を斉射するくらいは出来るといっていたけれど、斉射して終わりだとは言っていない。

 足止めするといった以上、状況によっては行動不能くらいはやりそうだ。


「いやいやいや、ないだろスズ。あんまり常識外れな冗談は笑えないぞ? 右翼にいるのは二百で、あたしら二個小隊の二倍以上だ。どう考えても無理だろ」


 ハンナは呆れたように鼻をならしていうけれど、こちらは半分くらいは本気だ。


「信じられなくても、可能性がある、くらいに考えておいて下さい。戦闘中にポカンとされても困りますから」


 私の言葉で多少興味をもったのか、ハンナが大太刀の柄を叩いている。


「そんなに強いのか」


「……強いですよ。私が理由もわからず剣だけで負けたんですから」


 彼を見ればハンナも上官の指示を仰ぐ事を思い出すだろうか?


「はは、ほんと笑えねー」


 今のところ可能性は低そうだ。

 私は皇国人として、他人の優れた所を否定しない。

 ハンナの独断専行をとがめつつ、小隊単位で敵をかみちぎっていく彼女の小隊指揮能を評価している。

 コリーの諦めの早い所を叱りつつ、陣地形成における非常な集中力を評価している。

 エヴァの嗜虐しぎゃくに溺れる様に嫌悪しつつ、敵の心を折る演技を評価している。


 ハンナはどうだろうか。


「ハンナ、クランリーダーの陽動が始まったようです。私の話が真実かどうか、その目で確かめて下さい」


 前方で混乱する敵右翼の姿を確認し、私は再び馬の足をはやめた。




「おいおい、どんな手品を使ったらたった一人であんな幅広く矢襖やぶすまを作れるんだよ」


 馬を駆る左手の矢の雨をみながらハンナが呆れている。


 街道を台形のように囲んでいた敵の連合領軍は真後ろの森から断続的に繰り出される矢の雨によって混乱におちいっていた。


 矢そのものは普通で、敵一般兵が即座に矢傷を負うような強さではない。

 ある程度攻撃をした後、クランリーダーは矢を放つのをやめた。


「ま、でも矢の強さはあたしらの方が断然上だな! 敵の左翼を叩くぞ!」


 ハンナは部下に激をとばすと、自分しか扱えない特製の強弓と、えびらから取り出した矢を左手に持って馬の腹を蹴った。


「ハンナ! てはずどおり、弓だけにしなさいよ!」


 どうにも不安がぬぐえない。

 ハンナが予定にない行動をするのもそうだけど、公爵軍の数が少ないのがやはり気になる。

 けれど、今更変更はできない。

 突撃に同行しない私は後続の第一小隊に道を譲り、彼らの動きを見守るため、高所に移動した。


 第一小隊は道を外れて右を大きく迂回し、浮き足立つ敵左翼の背後にあっさりと回りこんだ。

 なにもせずに私達が敵左翼の後ろに回りこもうとすれば、敵右翼が魔法など遠距離攻撃を仕掛けてきただろう。

 クランリーダーの陽動のおかげで第一小隊は弓を打ちやすい敵の右側、しかも背面という絶好のポジションを手に入れた。


 状況を観察していると、ハンナが矢を放ったようだ。

 異質な風切り音の後に、ハンマーを振り抜いたような打撃音が響く。

 次の瞬間には敵兵が地面に縫い止められていた。


 他の騎兵が放つ矢も、ハンナにはおよばないけど強力だ。

 大型の弓から放たれる矢は一気にSPを削りきり、敵を倒していく。

 右翼が立ち直りつつあるなか、左翼も背後からの中距離攻撃に隊列を乱されていく。


 第一小隊はこの後、公爵軍の後ろを攻める予定になっている。

 高所からみる限りでは予定通りになっている。

 隊列を整えなおした敵の右翼に行く手を阻まれたように見せかけて森の外側を進み、キリの良いところで谷へとつづく森へ入る。

 焦って谷に逃げ込んだと思わせて森の中でクランリーダーに足止めをさせるという策だ。


 けれど、無情にも私達のもくろみは一発の魔法の轟音により崩れ去った。


(やはり公爵軍ですか!)


 公爵軍の中心から第一小隊に大規模な魔法が放たれ、小隊の中央が爆風で吹き飛ばされた。

 幸い殺傷能力はそこまで無かったらしい。

 馬ごと倒された者達も大太刀を構えようとする。

 けれど、おそらく追撃の魔法の方がはやい。


 迫り来る公爵軍の魔法。

 しかし、高位の魔法使いと一般兵による攻撃は反転してきたハンナ達の避け矢の魔道具によってそらされた。


「早く立て! 馬を捨てて逃げるぞ!」


 公爵軍に応射しながら叫ぶハンナに向けて、範囲のせまい強力な魔法が放たれた。


「ハンナ!」


 避け矢の魔道具では対応できない魔法がハンナに直撃した瞬間、思わず押し殺した叫び声を上げた。

 ハンナの身体は馬の背から右側にずり落ちるように地面に着いた。


 まずい。


 ハンナの身体の周りを朱い雷が走っているのがここからでも分かる。

 常人の身体強化と違い、彼女の身体強化は外見の変化をともなう。

 そして強化する対象は自分自身に限られない。

 扱う武器にも影響が及ぶのだ。


 端的に言えば。

 これから放つ彼女の矢は公爵の強力な甲冑も打ち抜きかねない。


「だめハンナ!」


 もう間に合わないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。

 ハンナの右手がはじかれるようにぶれ、矢が放たれた瞬間——、朱い閃光を青い光が包んだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 無能な味方は有能な敵より厄介という見本ですね
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