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04_22 クローリスへの昇進祝い

 目の前の中央長城路をずっとたどっていけば首都ブラディアだ。

 十字路の交点は風をさえぎるものがない。

 今日はいつもより涼しく、季節が少し進んだような気がする。


「まだかしら、ねぇ……」


 待ち人が来ないので、フィオさんがベンチの上で尻尾をもてあそびながらあくびをした。


 彼女とエンツォさんの夫婦は昨日から居住区に住んでいる。

 一般避難民のために用意した居住区だけど、治安維持のためのクランの屯所と、避難民以外の個人への賃貸用物件も用意してある。

 エンツォ夫妻も一軒借りているけれど、地下室はフィオさんのお気に召したのだろうか。


 今待っているのは避難民第一陣、正確には王都ブラディアからの移住を希望したティルク人の一団だ。


「フィオさん、クランのカウンターで待っていてもいいんですよ? 目と鼻の先なんですから」


「そうですよ、来たら私が呼びに行きます」


 オルミナさんも心配してくれる。

 アルバトロスは午前中休みなので、こうして出迎えに出てきてくれている。


「おい、ザート。どうやらきたみたいだぞ」


 エンツォさんが指さす先には何台もの馬車が続く、明らかに定期便ではない集団があった。


「……ん?」


 先頭の馬車の御者台で、誰かが立ち上がって手を振っている。

 あれは、クローリスか?

 じゃあ、リザさんに頼んでおいた荷物も一緒だな。


   ――◆ ◇ ◆――


 馬車には地上まで降りてもらい、移住者に一通りあいさつをしてから解散とした。

 各人、各家庭が手荷物をもって建物へと入っていく。

 ウィールドさんみたいに工房が欲しい生産職の人達は後から来る荷物が届き次第、クランメンバーが案内する手はずになっている。


「うはぁぁぁ……拠点よ、私は帰ってきたぁ!」


 うっとりした表情で入り口から建物を見上げるクローリス。

 クランの幹部なのに本拠地には一度来たきりなので感激している。

 僕を含め、クローリスを見る目は暖かい。


「クロウにはここの登録とか書類作成で頑張ってもらったからな。相応の特別報酬も用意してあるぞ」


 特別報酬という言葉に一瞬目を輝かせたクローリスだったけど、すぐに疑いのまなざしに変わった。


「リザさんの下で、手に入れてしまったスキルは”無償の微笑み(スマイル0円)・美声・平身低頭・速記その他いろいろ――”。本当に、ほんっとうに色々覚えるくらい働いたんですからね! 半端なものじゃ許しませんよ?」


 怖。髪の毛なんか真っ赤になってるし……


「ね、クローリスちゃん。その髪の色ってどうしてるの?」


「あ、これですか? 感情で髪色を変える髪留め型の魔道具を作ってみたんです」


 は? こないだグラデーション出来るように改良したばかりだろ?

 クローリスはお気に入りのアクセサリーを自慢するみたいに気軽にいったけど、さすがのフィオさんも固まっている。

 アルドヴィン王国の学府にもここまで細かい仕事ができる生産職はいないんじゃないか?


 このままだとクローリスが法具までつくりそうで怖い。

 こういうとき、リオンなら一緒に笑うんだけどな。

 あいにく今日はオーガー討伐に行っていて不在だ。


「三人目は生産職だって聞いてたけど、予想以上にすごい子だったのね……」


「その髪飾りかわいいし、わかりやすいけど……心の中が筒抜けにならない?」


 頭をふっているフィオさんの隣でオルミナさんがおそるおそるたずねる。


「正確には心の中ってわけじゃないんですよ。顔の表情にあわせて色が変わるって言った方がいいかもです」


 そういってクローリスが笑うと髪色が明黄色に変わった。

 ふむ……表情がよみづらいメンバーにこれをつけてもらえばコミュニケーションが改善されるんじゃないだろうか。

 例えばスズさんとか。


「それ、今度スズさんにプレゼントしてみないか?」


 一瞬で周囲が固まった。

 方々からためいきが聞こえてくる。

 やっぱりだめか?


「予備があるからプレゼントはできますけど、リーダーが勝手にやってください。私は結果に責任をもてませんからね!」


「わかった。頑張ってみる」


 髪の毛が赤と紫になったクローリスが膝の収納スペースから一個取り出してたたきつけるように渡してきた。

 スズさんどれだけ恐れられてるんだよ……


 屋上のビーコの巣まで見て、また下へと下りていく。


「ザートってグランドルにいた頃からあんな感じだったんです?」


「そうねぇ、リュオネちゃんと事件に巻き込まれた時もああだったし、自覚ないのよねぇ」


「でも平等主義ってわけでもないんだよな。殿下……っとリュオネには俺が初めて知った時点で別格の扱いをしていたぞ?」


 後ろで皆が何か話しているけど、とりあえず本日のメインイベントをやってしまおう。


「さて、いよいよ特別報酬の件だ。クローリス、入ってみて」


 パーティションで区切られた一角の扉を開ける。

 中に入ったクローリスは輝かんばかりの黄色の髪色で喜びを表した。


「わぁ……! いかにも社長が座ってるっぽい椅子と机、応接セット、そして大きめの作業台! ということはザート、ここ私の部屋ですね!?」


「ああ。厳密には備品開発・管理関係者があつまる個室だけど、責任者はクローリスだな」


 クローリスは大喜びで椅子にすわって回転し始めた。


「はぁぁぁ……! このふかふかの椅子も、いかにも幹部用って感じでいいですねー!」


 喜んでもらえて良かった。最新式で結構高かったからね。

 エンツォ夫妻も微笑ましそうに見ている。

 彼らも元クラン幹部だから、自分達の事を思い出しているんだろう。

 ジョージさんをトップにしたクランはどんな感じだったんだろうか。


 クローリスは椅子を楽しんだ後も、意味も無く机の引き出しを開けたりするたびに喜びのため息をついてはしゃいでいる。

 他の皆もソファでくつろいだり作業台をみてまわったりしている。


 そんな小休止、といった所に、ドアを几帳面にノックする音が響いた。


「クランリーダー、馬車から書類の入った荷物を持ってきました。廊下に置いてあります。隣の部屋で作業をしていますので、荷ほどきの際はおっしゃってください」


 そう言い残して去るメンバーを見るクローリスの髪が真っ白になっている。


「ねえ、ザート。廊下にある荷物の送り主って、だれ?」


 荷札を見ると、予想通りの名前が書いてあった。


「リザさんだね」


「リザさんからの荷物って、ギルドに申請する書式とかだりょね? なんでこの部屋に運び込まれるの?」


「それは、この部屋が担当者の部屋だからだよ」


 僕は机の上に置かれている三角柱の席札をゆびさした。

 噛んだことにはつっこまないでおこう。

 

『備品開発・管理責任者クローリス(ギルド専門受付嬢)』


「ギルド専門受付嬢って何!? だまされた! 上げて落とすなんてこのリーダーひどい!」


 ひどく青ざめた髪色で机に突っ伏すクローリスを尻目に、隣の部屋のクランメンバーと荷物を運び込んでいく。


「ねぇ、ザート君、すっごい良い笑顔してるんだけど、ああいう子だったっけ?」


「昔のジョージとかぶるな。同じ立場だからか……」


 エンツォ夫妻がなにか言ってるけど、クローリスはせっかくいくつも事務系スキルを手に入れたんだ。

 僕やリオンより事務処理の責任者として適任なのは言うまでも無いだろう。



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