04_20 クランハウス中庭にて 銃剣の使い方
——カッ!
————ギャリ、キィン!
試験員のホウライ刀がアタシの刀の打ち込みを鎬で受ける。
今アタシは実技の模擬戦をしている。
必須ではないけど、提出した書類を確認してもらっている時間をつぶすにはちょうどいい。
ふつう、アルバ大陸の刀剣は受ける時は刃で受ける。
これは刀剣の性質上それがベストだからだ。
アルバの刀剣のほとんどは鎬が無い。
だから下手に斜めに受けようものなら剣で一番硬く、もろい刃が大きくまくれてしまう。
そうなった刀剣はバランスを失い、刀身が折れる原因となる。
ホウライ刀のように鎬で受けるのではなく刃で受け、相手の剣を破壊する。これがアルバの刀剣の受けでは最適解だ。
けれど私の故国は別の解を持っている。
それが両刃の小型短剣である鏢をのこぎりの様に並べてつくった刀、連刃刀だ。
刃こぼれしても代えがきく、相手の刃をからめる、のこぎりのように削れるなど利点が多くある。
欠点もないわけではないけど、縞模様が虎に似るので、私のように虎獣人が愛用する。
「——それまで!」
ホウライ刀とアタシの連刃刀がからみ合った所で終了の合図がだされた。
さて、けっこう有利に押し込んでいたと思ったけど、どう評価されたか……
向こうではミワが相手に対してお辞儀をしている。
模擬戦の途中でチラッと見た感じではミワも優位に進めていた。
それにしても、いつもお辞儀をしている奴だな。
ホールに臨時で設けられた窓口で書類手続きを済ませた。
後はオーガーの討伐が要件だけど、アタシとミワはすでに銀級なので面接が通れば入団できるはずだ。
アタシもミワも、模擬戦ではクラン職員相手にけっこう押し込めたし、なにげにクラン内で私達って上位に食い込めるかも? 軍人だっていうからビビりすぎだったかも知れない。
機嫌良く書類の完成を待っていると、ホールに怒号が響いた。
「俺たちはティルク人だぞ! なんで第三長城外で活動出来ねぇんだよ」
五人の冒険者が書類窓口の職員に詰め寄っていた。
あ、あいつらバイターにいた下っ端じゃないか。
かんべんしてくれ。せっかく上機嫌だったってのに。
「さっきもいいましたが、冒険者ギルドが鉄級冒険者の第三長城外での活動を認めないからですよ。この原則はウチでも変わりません。ウチはティルク人保護を目的としていますが、ティルク人優遇策はとっていません。居住区への入居のみは優遇されますが、他は中つ人と同じです。中つ人でも私のようにクランにも入れます」
職員が辛抱強く説明している。
あの職員、さっきミワに話しかけてきた明黄色した髪の子じゃないか?
職員の説明している内容はクランの規約にもある。
冒険者でも鉄級冒険者はクランに入れず、一般人と同じ扱いになる。
つまり第二長城外でしか活動ができないし、十字街のギルド支部も利用できない。
それが騒いでいる奴らには我慢できないらしい。
「じゃあ皇国軍人がいきなり銅級になったのはどう説明つけるんだよ!」
「彼らは一般人とは違い様々な訓練を受けていますので例外ですし、銅級中級相当と認めるためのクラン内試験も受けています」
ねめつけるような姿勢で、蛇獣人がテーブルに手をつき、長い首を職員にのばして口を開いた。
「”彼ら”だぁ……じゃあお前は軍人じゃなくて実力で銅級になったってのかよ」
「軍人ではないですが、私もパーティ内で銅級相当と認められたクチですね」
彼女の格好は周りの職員のような統一されたホウライ国の服ではない。
受付嬢がきるような普段着だし、テーブルに松葉杖のようなものを立てかけている。
生産職で銅級にあがったようにみえるけど……だいじょうぶか?
あっさりとした職員の回答に対して、取り囲んでいた鉄級冒険者が静かに色めき立った。
「へえ……じゃあアンタは銅級相当の腕前なんだろうなぁ? ちょっとそこで俺たちに稽古つけてくれよ」
やっぱりそうなるよな……
ああいうバカが生産職の銅級をあおるのは見慣れた光景とはいえかんに障る。
割って入ってぶん殴ってやろう。
けれど、遠巻きに見物している人達を割って前にでると、予想外の展開になっていた。
「いいですよ。稽古になるかはわかりませんが、腕はみせられます」
「本当に大丈夫なんですか?」
明黄色した髪の子の準備を、ほかのクランメンバーが手伝いながらも心配している。
ここは中庭の練兵場だ。
模擬戦の審判役が両者を分けて待機させている。
「いいんですよ、少し不利な場所ですけど、弾も最弱の雷撃弾しかつかいませんし、防具は自作の護符がありますし」
審判役にそういって左手に巻き付けたものをたたいてみせる。
あれが護符なのか?
「いえ、後で叱られないか心配しているんですけど……」
「うっ、でも、だいじょぶっ! 私悪くない!」
何か女の子がワタシワルクナイと繰り返しつぶやいている。
それにしても彼女の武器は杖なんだろうか?
さっき机に立てかけられていた松葉杖のようなものを手に持っている。
「デボラちゃん、あの人が自作したっていう護符、そうとう高位だよ。中位魔法も三発くらい耐えられそうな……」
高位な護符を自作できるってことは、あの子は優秀な生産職なのか。
それでも後衛ではあるんだろう。
後退するスペースがない練兵場でどうやって戦うんだろうか。
そうこうしているうちに互いの準備ができたようだ。
けれどその人数を見て、思わず目をむいた。
「嘘だろ……鉄級冒険者五人が全員でてきたぞ。一人ずつ相手にするんじゃ無いのか!?」
数は力だ。銀級冒険者でも連携の取れたオークに殺される事だってある。
「おい、あれはとめろよ! いくら鉄級相手でも五人全員と一度に戦うなんて無茶だ!」
思わず隣にいた暗青色の毛並みの皇国軍人に食ってかかった。
それなのに若い男はもたれた壁から背を離すそぶりをみせない。
それどころかニヤニヤとこちらの反応を面白そうに見ている。
「まあ見てろよ。ウチに入るなら、この先いやでも目にするけどな」
男の言葉の意図を聞き返す前に審判員が合図をした。
「はじめっ!」
——バヅッ!
「えっ?」
空気を鋭くふるわせる音とともに、職員の正面に立っていた盾と斧を構えた男が崩れ落ちた。
「……」
雷魔法? でもなんのコトダマも聞こえなかった。
——バヅッ!
再びさっきの音がしたと思ったら、今度は右端の槍をもった派手な女が倒れた。
正面にいたと思った明黄色の髪の子は、いつの間にか右翼後方で膝立ちになっていた。
「クソ、飛び道具か!? ニール、突っ込むぞ!」
ようやく我に返った槍の男とラウンドシールドの男が女の子に向かって走る。
けれど、膝立ちの女の子が次に狙ったのは一番左にいた後衛の魔法使いだった。
同時に彼女は武器の先を右手で掴み、スラリとホウライ刀を引き出すとその武器の先につけた。
なんだ、あれは? 短槍のような、見たことのない武器だ。
ウチの国の大刀に似ているか?
「後衛が粋がり——!」
ラウンドシールドの男の言葉は途中で止まってうめき声に変わった。
膝立ちから低い姿勢のまま駆けだした女の子の刃がシールドの下をすり抜けて男の脛を切りつけたのだ。
「——チィッ!」
最後に残った槍の男はさすがにもう油断はしていなかったけれど、勝ち目があるか計りかねているらしい。
いや、そのためらいが命取りだ。
仲間が瞬殺されたこの状況でためらうなんて、格上の魔獣でやったら死ぬだろう。
いつの間にか私も隣の暗青色の男と同じく壁に背をあずけていた。
中途半端に槍を構えた男の前で女の子がとまる。
男の間合いの中で、女の子は武器を上段に構えていく。
男は単純な誘いにのって女の子に突きを放った。
女の子はその突きを柄で払い、一瞬の動きで男の首元にまで刃を届かせていた。
「それまで!」
審判員の声を待つまでも無く、模擬戦は終わっていた。
――◆ ◇ ◆――
「失礼しまーす……えっ!?」
最後の面接者としてアタシとミワが入ると、さっきの女の子が幹部が座る席に座っていた。
そして隣には直立不動の体勢でいる暗青色の狼獣人がいた。
模擬戦の時に隣にいた人だ。やばい、なにか変なこと言ってなかったかアタシ?
こちらが頭を悩ませながら用意された椅子に座ると、女の子の口角が見る間に上がっていく。
いたずらが成功したかのように女の子がこちらに感想を求めてきた。
「どうです? 驚きました? 一回やってみたかったんですよこういうの!」
実に良い笑顔でこちらにきいてくる。
「おいちゃんとやれ、最後だからって気をゆるめんな」
隣に立っている狼獣人に怒られてしゅんとする女の子。
「スミマセン……では改めまして、【プラントハンター】のクローリスと申します。【白狼の聖域】の面接を担当しますのでよろしくお願いします」
「さっきも会ったが、【白狼の聖域】所属のバスコだ。クランで活動する際指揮する立場にあるのでパーティは組んでいない」
クローリスさんが【プラントハンター】所属というのも驚きだ。
さっき見たとおり、強さは幹部として納得出来るものなのに、皇国軍出身らしいバスコさんといると下っ端感がすごいな。
今もクランの書類の順番をバスコさんに直してもらっているし。
バスコさんとクローリスさん、どっちが上司なのか分からないねこれは。
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