04_19 王都クランハウス前での一幕
《【伏姫】虎獣人デボラの視点》
「はい、冒険者の方は左の列にお並び下さーい」
明青色の耳をピンと立たせた若い狼獣人の女の子が、無造作にたばねたくせっ毛を尻尾といっしょに振りながら列の整理に追われていた。
彼女らは目の前のホテル風の建物を拠点にするクラン【白狼の聖域】に所属する冒険者だ。
ここ数日、ミワを待つついでに観察していたけど、この獣人の居住区への移住希望者と、クラン入団を希望する冒険者は増え続けている。
昨日からはとうとう列整理の人員が配置されるようになってしまった。
右の列を見ると、老若男女、種族もバラバラな獣人が並んでいる。
彼らはブラディアの外から集まった一般の人達だ。
皇国との同盟を破棄して、ブラディアを武力で押さえつけようとしているアルドヴィン王国は、次々と獣人を”居留地”という所に強制移住させているらしい。
獣人を労働力としてしか見ないバルド教の影響だろう。
今列をつくる人々はアルドヴィン王国から逃れてきた難民だ。
どういう経緯か知らないけど、【白狼の聖域】は彼らティルクの難民の保護をクランの目的に掲げ、ブラディア王から援助も受けているらしい。
「まさかあの二人がこんなクランをたちあげるとはねぇ。元皇国駐留軍が母体になっているらしいし、案外あの娘が皇国の姫様ってのも本当なのかねぇ」
「や、やっぱり白狼姫さまに面接されたりするのかなぁ……ボクが落ちたら皆も……」
ボヤくアタシの前でネガティブな発言をするのは、女性獣人だけのクラン【伏姫】のリーダーで狼獣人のミワだ。
小柄で明赤色の髪を両肩から前に垂らした姿は戦闘をしない生産職に見えるけど、実際は後衛とはいえ銀級四位の戦闘職だ。
とても珍しい、結界術というティルク系の魔法を使う。
獣人で攻撃魔法を使える者はほとんどいないので重要な存在だ。
「ないない、冒険者は銅級中級以上でクランのルールを守れるなら大丈夫ってギルド本部の職員も言ってたし、幹部面接っていってもヤバい奴をはじくくらいじゃない? 自分のクラン持ってたんだからわかるでしょ?」
「うぅー、そうだけど、厳しい方だったらどうしようー」
ミワが背を丸めていると、列の左側をちょうど通りかかった職員らしい娘が身をかがめてミワの顔をのぞき込んできた。
「どうしたんですかー?」
左肩から狐獣人のようなくすんだ明黄色の髪をたらした中つ人だ。
狼獣人ばかりだと思っていたけど、中つ人もいるのか。
「あぁ、面接がうまくいくかこの子が心配してるんですよ」
「あは、そんな心配いらないですよ……ってあれ? もってる書類、ずいぶん分厚いですね?」
あかるく笑っていた職員がミワの申請書類の厚みに気づいて首をかしげた。
「ああ、それはコイツがクラン【伏姫】のリーダーだからだ。今日をもってあんたらに合流を希望する。な? ミワ」
コクコクとうなずくミワとアタシの顔を交互に見た職員は、本当だと理解するのに少し時間がかかった。
そしてカッと目を見開き叫び始めた。
「うぅあぁーついにきたかクラン単位の加入希望! どうしよう、合併同意書と保有資産管理表とパーティ単位と個人単位の希望書に……あ、ギルドへの提出書式って何号だったっけ!? またリザさんに叱られるー!」
職員はなにやらあせりながら手帳をとりだし、メモを取り始めた。
かなり取り乱しているけど、新人には厳しいクランなのか?
ホウライ皇国主体のクランならあり得るか。
「ごめんなさい、ちょっと準備しなきゃいけないからまた後でね!」
手帳をしまった職員は手を振って建物内に走り去ってしまった。
【お願い】
面白い、続きが読みたいと感じられたら★評価、ブクマをぜひお願いします!
理由は以下の通りです!
評価★やブクマが入る
→作者のモチベーションが上がる。自信がつく。
→筆がはやくなって話のストックがたまる
→毎日更新が途切れない(大事!)
エピソードの安定供給のためにも、なにとぞお願いいたします!