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01_01 追放

 王都郊外の墓地での埋葬式が終わり、敷地の中にある礼拝堂に一族が集まっている。

「それでは、ジョアン・アルド=シルバーグラスの一族への最後の貢献として、次代への形見分けをはじめます」


 貫禄のある低いアルトの声が部屋に響いた。

 声の主はエレナ・アーヴル=シルバーグラス。僕の父方の本家であるアーヴル=シルバーグラス家の主人であり、女伯の爵位をもつ。

 爵位を相続した後、飛び地領を3つも増やした女傑であり、一族内では『マザー』と呼ばれている。


 彼女の前には十代の男女が家格に応じて一列に並んでいる。今行っているのは形見分けの儀式だ。

 一族の誰かが死んだ時、領地や家伝の財宝ではない私物は一族の若者に配られる。

 今回死んだジョアン叔父は爵位はもっていなかったけれど、辺境伯領の城壁外で活動する冒険者、しかも未知の魔獣と戦う狩人だったため、私財を多く持っていた。


「お、キルヴァンの短剣をもらったのか。来期の魔術学院につけていけば話題になるぞ」


「ええぇ! 兄様それモンローズ工房の首飾りじゃない! ジョアンさん独身だったのになんでなんで? ねぇ兄様ちょうだい!」

「あげるかよ。マデリーンに贈るならいつがいいかな……」


 受け取った子供達が家族とともにはしゃいでいて、不満をもつものはいない。やはりそこはマザーの手腕がすばらしいからだろう。


「ヘルザート・ヴェーゲン=シルバーグラス」


 両親が死んでいるため最後に並んでいた僕の名が呼ばれた。

 明るい一族の歓談は鳴り止み、重苦しい雰囲気が広がる。僕にはそれが家族の歓談に水をさされた事への怒りに感じられた。


 でもしかたない。僕は皆に恥をかかせた。


 昨年まで僕は一族の金で魔術中等学院の寄宿舎にいた。

 通常、学院生は卒業するまでに中位スキルを取得して社会にでる。さらに中位スキルを3個以上取得できればその上の高等学院、魔術研究院に進める。


 僕も高等学院に進もうとがんばったけど、3つどころか、中位スキルを一つもとれなかった。

 結果、前代未聞の理由で退学。今ここにいる皆が肩身の狭い思いをしたはずだ。


「貴方に贈るジョアンの形見はこれらです。受け取りなさい」

 場の雰囲気が悪くなっても、マザーの声はいささかも変わらない。

 僕は一礼してテーブルを見た。赤い敷布の上には鈍い光を放つ金属の盾と指輪がのっていた。どちらも安物という感じでは無いけれど、黒く傷だらけで、古びている。


 指輪を右手の中指にはめ、バックラーは腰のベルトにつるした。見た目以上に軽いから鉄以外でできているんだろう。


「それからこれを、受け取りなさい」


 テーブルの上にはいつの間にか十万ディナ金貨五枚が黒い敷布の上に乗っていた。

 伸ばそうとしているのに手が伸びない。後ろで親族達のざわめきが聞こえる。


「とうとうヴェーゲンの家も終わりだな」

「ジョアンの例があるから、再び戻れるかも知れないが、スキルが身体強化と魔力操作だけではな……」

「神童と期待されていたが、スキルが手に入らないなどと、一体何の努力をしていたのか……」

「スッキリした。もうザートとは他人なんだって友達に言って良いんでしょ?」


 それらの言葉にせかされるように、金貨を手に取った。


――ジャラリ。


 金貨五枚の重さがやけに軽く感じる。いよいよ、本当の天涯孤独になるんだ。

 

「これよりシルバーグラスを名乗ることは許されないと覚えておきなさい」

「承知しております。今まで、ありがとうございました」


 敷布にくるんだ手切れ金を掲げて一礼し、その場を後にした。



お読みいただきありがとうございます。

本作は長篇ですが、どうぞお付き合いいただければ幸いです。


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