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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
八章 宵の修練
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第85話 自由研究

「ごめんなさいね、こんな夜遅くに」

「構わんよ。お互い忙しい身だ」


 居住まいを正すこともなく、ヴィオテラは飲み干したカップをテーブルに置いた。シオンは大太刀を無造作に壁に立て掛け、勝手知ったる我が家のように対面のソファに座る。この国の頂点である巫女家当主の前でここまでの無作法が許されていることが、親子ほどに年の離れた二人の仲を示していた。


「来月、正式な遠征軍が来るわ」

「そうか。ようやくお前も大手を振って歩けるな」

「やめてよ、犯罪者みたいに」

「密入国は立派な犯罪だろう。私が言えた事じゃないがな」

「共犯ね」


 前置きも無く始まった冗談交じりの話に、ヴィオテラは体の緊張が和らいだのを自覚する。旧友の前だというのに力が入っていたらしい。目頭を揉んでカップに手を伸ばすが、空だったことに気が付いた。疲れてるな、と自嘲気味に笑う。


「お前も飲むだろう、紅茶。少し待ってろ。今準備させている」

「頂くわ。何か甘いものも頂けるかしら? お腹空いちゃったのよ」

「またお前、ロクなもん食ってないだろ。そんなんだから昔から棒っきれみたいなんだ。もっと食え」

「忙しいんだもの。今は作ってくれる人もいないし」


 そういえば、炊事は坊主に任せきりだったらしいなと思い出す。彼女もそれなりの立場なら、自分のように身の回りの世話をする人間を雇えばいいのに……と思ったが、この秘密主義者が自宅に他人を入れるのを許すはずがなかった。難儀なものだ。

 再びノックの音がした。入室を促すと、お待たせしましたと言って使用人が紅茶のポットとカップ二つ、茶菓子の皿をテーブルに並べ、慣れた手つきで注ぐ。シオンのために軽食を持ってくるように命じると、彼女は再び厨房へ戻った。


「頂きます……うん、やっぱりこっちの紅茶は美味しいわね」

「苦いだけのコーヒーしか飲まんくせに分かったような事を言って」

「あれは眠気覚ましだからいいの。それに、紅茶なら貴女にさんざん飲まされたから分かるわよ。これは……ニルギリかしら?」

「全然違う。ダージリンだ」

「あら残念」


 自信満々に間違えた貧乏舌に呆れの溜息が出た。彼女は仕事以外となると昔からこうだ。とはいえ、その生い立ちを考えると責めることはできないが……いっさら覚える気の無さそうな顔を見ると、計画の遂行が少し心配になってしまう。このナリで文字通り各地を飛び回り、大太刀を振り回すというのだからせめて飯くらいはしっかり食べて欲しいと思うのは老婆心に限らないだろう。


「ところで、リオとヒナの様子はどう? 今はウンディーノ家の子と一緒に住んでるって聞いたけど」

「向こうの様子は知らん。まあ上手くやってるだろ」

「そう、なら良かった」

「坊主と嬢ちゃんに頼り切りの生活をしていたお前の方が心配されそうだな」

「どうかしら。今はちょっと仲良くないから」

「……ちょっと、ね」


 特に詳しく聞くことも無く薄情なくらいあっさりと終わらせたが、これでも彼女なりに気にしている方だ。親の心子知らず、というのも無理はない。

 そもそも側近の部下――ミゲルという男に裏切られ、子供と対立したことについて以前聞いたところ、「それが彼と二人の選択なら」と言って放任しているのだ。義理だとか親への恩だとか言って憤ってしまった自分が恥ずかしいくらいである。そろそろ二十年近い付き合いになるが、未だにミヅカ・シオンという人間の考えることは分からない。

 そんな風に考えていると、使用人が軽食の皿とポットを携えてやってきた。柔らかいレタスとたっぷりのクリームチーズに厚切りのハムが乗ったオープンサンドだ。空になった二人のカップに紅茶を注ぎ、ポットごと置いて彼女は退室した。


「ほら、もっと食って肉を付けろ」

「ありがとう。……美味しい。たまにはパンも良いわね」

「そりゃよかった」


 パンを両手で掴み、小さい口を開けて頬張る姿はまるで少女のようだ。本当に二児の母かと疑ってしまうが、昔の腹が大きかった頃を思い出して苦笑する。あんな時でもお構いなしに仕事をしていた女だ。良くも悪くも何も変わらないのだろう。


「どうかした?」

「いや、別に。さて……()()()の首尾はどうだ?」


 シオンが食べ終わるのを待つことなく、本題に入る。彼女が忙しく飛び回っていた理由の一つ――ドラヴィドの様子を尋ねた。


「恙なく」

「そうか。では予定通りで」


 一言で返された報告に疑う余地はない。彼女がそう言うならそうなのだ。


「というか、何もしなくても向こうはそのうち攻めて来るでしょうね。どっかの長官さんが外交に口を出したからかしら」

「……すまん」

「私に謝ってどうするの。でも当主なんだから、身内のこともっと気にした方が良いと思うわよ。まあ私もだけど」

「ハッ、坊主にも同じことを言われたよ。親子揃って手厳しいな」


 甥のディルクには、内政長官の仕事を任せている。私を除けば実質的なノーミオ家のトップである彼とは、最近まともに会話すらできていない。私の忙しさのせいで家の事は丸投げしてしまっているのだ。

 ……いや、違うな。彼と正面から言葉を交わしたことなんて、もうずっと前から無かったと思う。

 精霊術の才を持たないディルクを、私は昔から気に掛けていた。そして彼が腐らずに立身出世するべく文官としての教育を施し、巫女の立場があってあまり内政に口を出せない姉――彼の母に代わって、面倒な妬み嫉みから守ってきた。その甲斐あって、彼は若くして長官の立場に就いたのだった。彼は私に感謝し、私は彼に期待し、私の右腕としてノーミオ家を切り盛りしていた。……そこまでは良かった。

 彼が長官になってすぐ、ドラヴィドとの関係が悪化し始めた。そこで私と彼は対立してしまう。そう、きっとこの頃からだ。急進派のトップと、穏健派のトップ。私達の関係はそんな単純なものに飲み込まれてしまった。

 結局、彼は正しかった。戦争は起こり、少なくない犠牲が出た。私が間違っていたのだ。それを見せつけるかのように彼は急進派の勢力を拡大させ……私はノーミオ家の当主として、その流れを汲むことになった。そう、私は間違っていたのだ。だから、ドラヴィドとは決着を付けなければならない。犠牲になった民と、散っていった巫女家の兵士と、選択を誤った過去の私のために――


「ヴィオテラ? どうかした?」

「……すまん、少し考えごとだ」

「そう」


 思考の沼から私を引き抜いたシオンの表情が、彼女の息子と重なる。彼は、全てがシオンの策略だと言っていた。私はそれに騙され、乗せられているのだと。


「坊主は……お前を、全ての黒幕かのように言っていたぞ。私を騙してこの国を思い通りにするんじゃないかとな」

「もう、あの子ったら。お母さんのことを何だと思ってるのかしら」

「息子にそう思われてるんじゃ世話無いな」

「酷いわね、私は世界の発展を目指してるのよ。この前貴女から伝えてくれたんじゃなかったの?」

「伝えたさ。そしたら、そのために戦争まで起こすのかって言われたぞ?」

「分かってないわね。それとこれとは話が別よ」

「お前の口からちゃんと説明しとけ。……そのうち私みたいになるぞ」

「それは困るわね。落ち着いたら教えてあげないと。そうね、年末年始くらいは帰って来させようかしら。そろそろ準備も出来てるだろうし」

「何のだ?」

「そのうち話すわ」


 少しだけ楽しそうに語る彼女の言葉に嘘は見えない。ただ隠しているだけだ。それに――もし騙されていたとして、それがどうした。ドラヴィドへの復讐はこの国の悲願だ。秘密主義者の嘘でも方便でもいくらでも乗ってやる。大義の前に私の意思も名誉も塵芥に等しい。

 そうでなくとも、坊主と違って私には彼女の理念がそう悪いものだとは思えないのだ。停滞を是とするこの国の方針には反している。それでも、ミヅカ・シオンという天才が望む世界に私は興味がある。その道に少し手を貸せるなら、売国と罵られても構わない。だから彼女の手をとった。それだけだ。


「じゃあ当日はよろしくね。それと、ご馳走様でした」

「ああ。こちらこそ頼む」


 立ち上がった彼女は、私が目を離した隙に一瞬で消え去っていた。まったく、普通に玄関から出ればいいものを。まあ、この部屋から「縮地」で帰るのが一番安全なのは分かっているが。


「さて……後は頼むぞ」


 無意識にそう呟く。ここまで来れば私の仕事はほぼ終わりだ。あとは、シオンの言う通り恙なく――ドラヴィドを迎え撃つだけだ。



■□■□



「……ねえ、二人とも」

「なんですか、ホムラ先生?」

「なんですかじゃなくてねぇ……」


 翌日、演習授業の時間。昨日の話し合いの通りに実験が始まろうとしていたが、俺とイレアは見事にハブられていた。遅れて演習棟の実験室にやってきたソージア先生は、後ろの壁際の席で並んで座っていた俺達を見るなり駆け寄ってきたのだ。


「昨日のことは話には聞いてたけど……本当に参加する気無いのね」

「そりゃそうですよ。向こうもテーマからして元々そのつもりでしょうし」

「精霊術の遠距離発動……確かに二人とも苦手だけど、一応これ授業なのよ? 討伐演習で評価が免除されてるとはいえね」

「遠距離からブチ抜けってならやったりますけど」

「リオ君、ステイ」


 袖を捲って硝子の腕輪(バングル)を見せると、そっと制された。冗談だよ、半分は。


「私ね、最初はリオ君ってもっと落ち着いた子だと思ってたんだけど」

「誰が短気ですか。正当な怒りでしょう」

「正当に短気なのよ」


 冷静にそうツッコまれては俺も黙るしかない。昨日もイレアに言われたしな。落ち着け俺、元霊祭でボコせばいいだけだ。そのためには敵情視察……ミスズが精霊術を使うところを観察して弱点でも探ってやろう。


「こら、睨まないの。っていうかイレアさんもイレアさんよ。中等部の頃はもう少しこう、参加しようとしてますよ~みたいな雰囲気は出してたのに……」

「そうやってみんなに気を遣わせるのは嫌です。これで良いんですよ」

「良くないわ。それは開き直ったって言うの」


 今度はイレアが怒られてちょっと頬を膨らませた。そうか、イレアは昔からこうだったのか。ちょっと可哀想だ。そう考えれば、今の開き直ってるくらいの方が健康的だろう。


「ああもう、リオ君が来てちょっとはマシになるかと思ったのに。これじゃあイレアさんが二人になっただけじゃない!」

「まあまあ、怒らないで下さいよ先生」

「怒るわよ! あのね、護衛としては二人の意思を最大限尊重するけど、教師として言わせてもらうと二人とも問題児よ。授業中よく寝てるリオ君は特にね」

「だから言ったでしょリオ」

「ちょっ、イレアはこっち側だろ!」

「イレアさんは昨日までの提出物がまだよ。週末に忙しかったのは知ってるけど、お願いね」

「は、はい……」


 撃沈された俺とイレアに先生は溜息を吐き、壁の時計を見た。まだ授業の時間は半分以上ある。


「ともかく、この時間は無駄ね。次までに何とかするから、今は自習でもしてなさい」

「教室戻っていいですか?」

「あ、じゃあ俺も」

「もうそれで良いわよ……」


 呆れ顔の先生を置いて、俺とイレアは居心地の悪い演習棟をそそくさと出て行くのだった。

 実験室の後ろで行われていた小声の応酬がクラスの注目を集めていたことは言うまでもない。




 二日後。宣言通り「何とかしてきた」というソージア先生は、昼休み後の演習授業の時間に俺達をグラウンドの隅に連れてきた。


「一昨日も言ったけど、免除とはいえ演習授業。向こうが研究ならこっちも研究よ」

「研究? 何のですか?」

「あなた達の――複合精霊術よ」


 その一言でピンときた。先日の討伐演習で大木の邪霊(イビル)を倒すのに使った、俺とイレア二人の氷獄の楔コキュートス・スフィーナ。あれ以来使用を止められていたけど、それを今ここで?


「大丈夫なんですか?」

「ええ、ご当主様に相談したら条件付きで許可が下りたわ。そのためにこんな端っこに来た上で防音までしてるし。でも助っ人がもう来てるはずなんだけど……」


 と言って先生が遠くに目を向けると、中央棟の方からパタパタと走って来る人影が。と、同時に聞き覚えのあるよく通る声で、


「お嬢様ーー! リオ様ーー!」


 先生の防音が意味を成さない距離からそう叫んだのだった。そう、俺とイレアの専属メイド(予定)の、マリー・エンペドクレシアだ。


「マリー、遅いわよ。集合時間は覚えてるわよね?」

「ごめんなさいホムラさん、厨房のおじさまと少し話し込んでしまって! ここの食堂って美味しいですよね!」

「何やってるのよ、もう……」


 相変わらずの就業態度だが、ともあれ彼女が助っ人ということらしい。


「さてと。条件ってのは、周りにバレないことと、危険な術を使わないこと。それだけよ」

「それで防音ができるマリーなんですね」

「ええ、私が防音までやってたら何かあった時に困るから。ちなみに見張り兼護衛も一人来てるわよ。姿は隠してるけどね」


 念には念を入れて防音の範囲外から見ているらしい。ちなみにわざわざ屋内ではなくだだっ広いグラウンドに来ているのは、俺達を監視する人間が隠れられる場所を極力無くすためでもあるという。確かに下手に建物の中でやるより良さそうだ。


「さあマリー、交代よ。一瞬も止めずに少なくとも一時間はキープしなさい。貴女の修行も兼ねてるのよ」

「了解ですっ!」


 元気に返事をしたマリーの術が先生に代わって俺達の周囲を覆い、俺達だけの授業が始まった。




 威勢よく始めようとはしたが、どこから手を付ければいいのやら。ともかくまずは現状の整理だ。


「先に聞きますけど、先生ってあの術については何か知ってますか?」

「全然。そういう技術もあるってことくらいしか知らないわ。イレアさんはこの前何か調べてなかったかしら?」

「はい、でも参考になる資料は殆ど無くて。体力が無い時に手助けしたり、親が子供に精霊術を教える時に似たようなことをするって話はあったんですけど、威力が劇的に上がるような事例はありませんでした。それ以外だと、単にそれぞれの術を合わせて使ったというような記述しか……」


 参考にはならなそうだ。ともかくやってみるしかない。


「前みたいにやるのは危ないし……最初は普通の術でいい?」

「任せる。俺は力を貸すだけだしな」

「加減してね」


 差し出された手を繋いで輪を作る。するとソージア先生は邪魔しないように黙って見つめながらも怪訝な顔をした。そういえばあの時は背を向けていたから見てなかったんだな。


「いくよ」


 イレアの合図で、目を瞑って生命力を流し込む。同時にイレアの生命力を汲み上げ、混ぜ合わせる。それをゆっくりと循環させて――


「リオ、ストップ! やり過ぎ!」

「えっ?」

「待って、今手放したら駄目な気がする! とりあえず、えっと、氷柱(アイシクルランス)は危ないから……!」


 イレアの声で我に返り、循環を止める。が、しかし。


「ヤバい、イレア! いきなり止めたからもう……なんかこう、爆発しそうなんだけど!?」

「えっ、えっ!?」

「もう無理! 限界! 早くしてくれっ!」


 突然のピンチに叫ぶ。なんとか弱めようとするが……無理だ! 沸騰する鍋の蓋を手で押さえているような感覚!


「先生、気を付けてください! 精霊(スピリット)よ――アイシクルフィールド!」


 唱えられたのは、狭い範囲の地面を凍らせるだけの簡単な術。しかし。


 ピキッ、ピキキッ――


 小さな音を立て、グラウンドに氷が広がり始める。氷は少し離れたソージア先生の足元にまで一瞬で到達し、更に侵食していく。


「イレア、これ……ヤバくないか?」

「流石にそろそろ止まるはずだけど……」


 そんな事を言っている間に、氷は防音の術の範囲を越えてしまった。外側にいたマリーが驚いて足踏みをしているが、それにも構わずどんどん広がっていく。そしてついに……グラウンドを囲む並木の根本を凍らせ、ようやく拡大は止まったのだった。


「……先生に融かしてもらうか」

「リオが言ってよね」

「いやこれはイレアでしょ」


 結局二人で言い訳しながら謝り、先生に火の術を頼んでなんとかしてもらった。他の生徒の注目を集める前にどうにか退散できたが、後で呼び出された俺達はグラウンドが泥だらけで使えなくなったのを教頭に叱られるのだった。本当にごめんなさい。



■□■□



 その日の夜。昼間の失敗の原因を解明すべく、俺とイレア、ヒナの三人で家を出た。運転手を呼んで、車で向かう先はウンディーノ家が所有している街はずれの工場跡地だ。家の中を氷漬けにする訳にはいかない。


「へー、こんな所あるんだ。勝手に入っていいの?」

「許可は取ってるから大丈夫。師範との修行のための場所だけど、まあいいだろ。他に誰かいるわけじゃないし。暗いから足元気を付けろよ」


 かつて工場だった建物は壁が二面しか残っておらず、足元は散乱した端材とぼうぼうの雑草にまみれている。こんな場所を借りたのは、トーナメント戦の模擬戦をするのに家の裏庭では狭すぎるからだ。イレアは見学に一度来たことがあるけど、ヒナは初めてだったな。


「ヒナちゃん、防音お願いしていい? 一応ね」

「はーい」

「……うん。じゃあ今日のことだけど、私なりの仮説があるの」


 防音の術を確認してからイレアは話し始めた。周りには誰もいないとは思うが、念のためだ。


「精霊術に必要な生命力って、二種類あるっていうのは分かる?」

「二種類?」

「あ、大元は同じだと思うから二種類って言うとちょっと違うんだけど……術の発動に必要な生命力と、実際に消耗する生命力は違うんじゃないかってこと。量に差があるでしょ?」

「確かにな。術を発動する時は消費する量より多く必要ってのは感覚で分かるよ」

「思ったより減ってないなーってのはわたしも分かるけど、慣れとかの問題じゃない? 昔から使ってる術だとそんなに差が無い気がするし」

「うん。慣れもあると思うけど、同じ練度でも術によって差が大きいのもあるから、別の理由があると思うの」


 俺のマテリアル・オーダーが良い例だ。発動にはかなりの生命力が残っている必要があるけど、維持している分には殆ど消耗しない。逆に加速や硬化は発動に必要な量は少ないが、実際に消耗する量も同じくらいだから、結果的に消費は激しい。まあ俺のは特殊過ぎて参考にならないかもな。


「私はこの二つの差に意味があるんじゃないかなって、色んな本とか見て思ったのよ。実際そういう事を言ってる研究者もいるみたいだし」

「つまり……昼の失敗はそのバランスが悪かったってことか?」


 こくりと頷くイレアと、首を傾げるヒナ。俺もまだあんまり分かってないが、ともかく試すことにした。


「リオ、生命力を()()のを極力抑えて。少し流す程度でお願い」

「分かった」


 昼と同じようにイレアと両手を繋ぎ、生命力を流す。しかしなるべく勢いはつけず、ゆっくりと押し流すようにしてみる。速度を落としてみて初めて気付いたが、俺とイレアの生命力は完全には混ざり合っていないみたいだ。例えるなら……温度が違う、というのが一番近い感覚だろうか。


「いくよ。精霊よ――グレイシアコフィン!」


 そんな事を考えていると、イレアは虚空から巨大な氷の棺を生み出した。いつもより大きい気がする。


「リオ、どう?」

「どうって言われてもな……昼の時よりは流すスピードを遅くしたって感じだけど」


 要領を得ない質問は、この感覚を言語化することの難しさを表していた。しかし、俺の拙い意見にも納得するところがあったのか、イレアは小さく頷いていた。


「スピード……そうね。そうだと思う。じゃあ次は、今の倍くらいの速さにできる?」

「分かった」


 そう言って手を握り直すが、難しいな。目に見える訳でも音に聞こえる訳でもない。あくまでイメージだ。それでも、肉体に流れる生命力を最大限に感じ取るように神経を集中させる。さっきの倍……勢いを付けて、循環の速度を上げる。そして。


「グレイシアコフィン!」


 唱えた直後、再び氷の棺が。さっきよりも大きい。


「どう?」

「本当に倍かどうかは分からないけど、回す速度は上げたつもり。デカくなったな」

「うん。じゃあ今度は最初と同じ速さでお願い。私が発動するまで続けて」

「分かった」


 イレアの言いたい事が分かった気がする。俺達はまた手を繋ぎ、生命力を流した。なるべくゆっくり……おや、だんだん生命力が混ざってきた感じだ。生命力の境目が曖昧になり、流れる感覚があやふやになる。長時間続けると混ざるのか?


「――グレイシアコフィン!」


 そして、三個目の棺が地面に転がる。大きさは二回目と同じくらいだ。


「どう?」

「なるほどな」


 三度同じ質問。だが、俺の所感を述べるまでもなく実験結果は明らかだ。俺は同意のみ示し、結論を促す。

 そしてイレアは、満足そうに息を吐いてから口を開いた。


「分かったよ。精霊術の仕組みが」

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