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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
八章 宵の修練
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第82話 事故と疑念の手掛かり

 迎えの霊動車を呼んで次に向かった先は、ウンディーノ家本邸を通り越した先にあるという墓地だ。


「なあ、どうせなら本家に寄ってかないのか? こんだけ近いんだし。俺も最近行ってなかったしさ」

「うーん……今日はいいかな。雨の日はあんまり、ね」

「あー、そうだったな」


 雨の日は水の精霊術士であるウンディーノ家の人々は軒並みテンションが高いのだが、イレアは昔からそこに馴染めないらしい。昨日の夜にわざわざ帰ってきたのはそれもあるのだろう。

 広い本邸の庭を背後に見送り、舗装の疎らな道を進んでいく。街の端にある屋敷を越えると、だんだん民家が少ない農村地帯になっていった。その更に奥、海沿いの小高い丘の上にウンディーノ家が管理する墓地はある。


「悪いな、準備任せちゃって。公国(こっち)も食べ物とか花とかお供えするのか?」

「ううん。晴れてれば花は飾るけど、食べ物は供えないよ。その代わりじゃないけど、これ」


 イレアが手に取ったのは、細かい紋様が刻まれた板のような……見覚えがあるものだ。


「霊道具?」

「形だけのね。この国だと、死んだ人の魂は大精霊(エレメント)の元に集まるって信じられてるの。だからこれを使って精霊(スピリット)と対話をすれば、死者に声が届く。そういう信仰があるんだよ。……私はあんまり信じてないけど」

「おいおい、次期当主(イレア)がそれ言っていいのか? まあ俺もそんな話初めて聞いたけどさ」

「これ自体ちょっと古い考えだから、私達の世代だと信じてる人は少ないと思うわ。それに私は、大精霊も精霊も人が作ったものって知っちゃったから。たぶん、大精霊のことを知ってる人ほど信じてないと思う。お婆様もきっと……」

「まあ、確かに。俺達の方が信じてないって変な話だけどな」


 大精霊に精霊、あまつさえ邪霊(イビル)まで俺の先祖を名乗る男が作ったというのだ。信じられなくなるのも無理はない。


「それでも、この国の人達は信じてる。大精霊が自分達を守ってくれてるって。実際、天気を変えたり邪霊を国境で防いだりしてるからね。この国に宗教は無いけど、代わりに巫女家がいるの。だから私達は守らなきゃいけない。もちろん、巫女家を信じてない人達も……って、全部お婆様に言われたことなんだけど」

「それでさっきマスターに話を聞いたんだ。でもそれって、もう宗教みたいなものじゃないか?」

「うーん、建前って感じかも。うちはドラヴィドと違って宗教は法律で禁止されてるからね」

「へえ、そこは極東と一緒だな。まあ俺達の所はそもそも信仰みたいなのも無いけどさ」


 極東もその昔、軍事政権になる前は様々な信仰が盛んだったらしい。ただ、国を纏めるのには邪魔だったのだろう。巫女家は逆に利用しているとも言えるが。

 そんな話をしていると、車は墓地の入り口に到着した。ウンディーノ家の墓は一番奥にあるらしい。俺とイレアは車を降り、傘を差して雨の中を歩き始めた。




 綺麗に雑草が抜かれた石畳を進む。どの墓石も丁寧に管理されているようだが、その中でもとりわけ大きく、優雅な装飾が施された墓が並ぶ一角があった。俺の腕輪(バングル)や本邸の柱と同じ、流れる水のような彫刻。ウンディーノ家の墓だ。


「お父さんとお母さんは……ここ。見て、新しいでしょ。昨日も誰か来てくれたみたい」


 イレアが立ち止まったのは、一番手前に建てられた年季の入っていない墓。まだ過去のものとなっていない哀しみを示すように飾られた真新しい花束が、雨に打たれてしな垂れていた。


「十一年前――二人は、事故に遭ったの」


 ふと口をついて出たように、彼女は言葉を零した。


「昔ね、お父さんとお母さんは国内の視察を積極的にしてたの。人の多い都市部だけじゃなくて、海沿いの漁村から国境に近い街、山奥の集落にも行ってたって聞いてる。お父さんが地方の出身だったのもあるけど……きっと、私のためよ」

「イレアのため?」

「うん。私には巫女の力が無い。だから巫女家の中で立場が無かった。それでも私が将来ウンディーノ家の人間としてやっていけるように、『ルミナーディア・ウンディーノ』という土台を作ってくれていたの。だからほら、こうやって今も……」


 イレアが指を差す先には、雨に濡れる花束。十年以上が経った今もこうして弔ってくれる人がいるくらい慕われていたということだ。


「――その日、二人は北の山の麓にある村に行ってたの。そこは巫女家とも殆ど縁が無い、小さな農村よ。公国の中でも一番の辺境って言われてて、山道を何時間もかけてようやく着くような場所。お母さんは、『今日は遅くなるから良い子で待ってなさい』って言って……二人で、朝早くから出掛けて……」


 帰らぬ人となった。


「山道を下る途中で、崖崩れに巻き込まれたの。谷底に落ちて土に埋もれて……見つかるのに一か月以上かかった。私はまだ小さかったから、そこに行くことすらできなかったわ。ううん、あの道はもう使えないから、今も行けてない。危険だからって、まだ立ち入り禁止のままなの」


 親の死に目にも会えず、その場所にすら行けない。二人がそこに行ったのは、自分のため。いつかイレアが口にした「私のせい」という言葉。リギスティアさんはそれを否定したが、まだ心に根深く残っているのだろう。

 しかし……彼女の次の言葉は、予想だにしないものだった。


「でもね――あれはもしかしたら、事故じゃなかったかもしれない」

「えっ……?」

「あの道は何十年も使われてて、一度も崩落したことがなかった。だからって可能性が全く無い訳じゃなかったけど……あの日は晴れてて、しかも何日も前から雨が降ってなかったみたいなの。それなのに大規模な土砂崩れが起こった。お父さんとお母さんが通る、ちょうどその時に」

「まさか、誰かが起こしたのか……!?」


 イレアは目を伏せ、首を振った。


「当然ウンディーノ家はそれも調べたわ。でも、あんな規模の土砂崩れを起こせる人はあの場所にいなかった。学長くらいの土の精霊術士ならできるって言われてたけど、そんな人は公国に彼女以外いない。もちろん学長はその時全く別の場所にいたし、そもそもノーミオ家の当主が他の家の次期巫女を殺すなんてあり得ない。ノーミオ家の他の強い術士も、みんなアリバイがあった。もちろん他の家の人達もね」

「でも一人じゃなくて、そこまで強くなくても何人かで一斉にやればできるんじゃないか?」

「そんなことをしたら絶対に証拠が残るわ。それに、お母さんがその程度の術士にやられるはずがない。本当に誰かが起こしたなら、抵抗できない程の術で一度に崩されたはずなの」

「じゃあ、やっぱり……」

「うん。自然な事故ってことになった。それ以外に説明がつかなかったから」


 だけど、と彼女は続ける。


「今日の話を聞いて、私はまた疑っちゃったの」

「今日のって……マスターの?」

「マスターさんの昔の仲間がいなくなったのは、十二年前でしょ?」

「あ――」


 事故は十一年前。マスターが言っていた、恐ろしい程の精霊術の才能を持った子供。巫女家が把握していない、強力な精霊術士。巫女家に恨みを持った人間。そして十七年前、彼等の前に現れて襲撃を唆した協力者。最も疑いの強い、あの男と一致する年齢。記憶を継承し、巫女を殺す動機を持つ者。繋がってしまう。


「ごめん、さっきは嘘ついたの。十年くらい前で心当たりは無いって。マスターさんの前だったから」

「いや、もし本当ならウンディーノ家がイレアに隠すくらいのことだからな。黙って正解だったよ」

「うん、それにまだ確証は無いもの……」


 思わぬところから手掛かりを掴んだかもしれない。だが、同時に疑問もいくつか残った。そもそも次期巫女とその夫を暗殺されたウンディーノ家が、犯人をわざわざ隠蔽するだろうか? 仮に隠蔽したとしても、孫と亡き娘を想うリギスティアさんがイレアにまで隠すのだろうか。もちろん俺達の予想通り、ノーミオ家の戦争急進派であり母さんとの繋がりを持つ男――ディルク・ライトマン・ノーミオが関係していたとしたら十分隠す理由になるだろう。巫女家同士の内紛を引き起こしてしまうからだ。でも、ティフォ先輩によれば彼に術士としての力は無く、実行犯には成り得ない。別にいるはずだ。ならば、その実行犯くらいは公表できるんじゃないか? それすら隠されているということは、犯人が捕まっていないか、隠す理由があるのか、或いは……そもそも存在しない、か。

 更に言えば、マスターの仲間達は二、三十人の集団だ。そんなに多くの人間が山に入れば、イレアの言う通り証拠が出るだろう。じゃあその子供一人が土砂崩れを起こしたのか? いや、それも考えにくい。他の大人達はどこに行ったんだって話だ。それに、事故が起こったのはマスターの元を去ってから一年も後である。時系列に矛盾は無いが、矛盾が無いというだけだ。「決行する」という発言があったにしては、間が不自然に空いている。しかもその子供がどの属性を使う術士なのかも聞いてなかったしな。こうして並べれば確信には程遠く、違和感がいくつもあった。巫女家がそう判断したように、まだ単なる事故と言われた方が納得できるな。


「イレア。やっぱり本邸に行こう。せめてマスターの昔の仲間の事で何か知ってるか聞かないと。ここまで言えば話してくれるはずだよ」

「……分かった。事故のこと、お父さんとお母さんのこと、ちゃんと知りたい。知らなきゃ」


 そう決意して墓前に霊道具のレプリカを置いた時。


「雨が――」


 気付かぬうちに小降りになっていた雨が止み、雲間から太陽が顔を覗かせた。傘を畳むと、日差しがキラキラと墓石についた水滴を照らしている。


「――お父さん、お母さん。また来ます」


 次は、事故の真相を解明してから。心の中で呟き、俺達は墓地を後にした。



■□■□



 ウンディーノ家本邸にやってきた俺達はリギスティアさんを訪ねたが、上層部は揃って不在だった。どうやら会議中らしい。手持ち無沙汰になった俺達は、夏休みによくトレーニングをしていた中庭に来ていた。


「ねえリオ、ちょっと体動かしたくなっちゃった」


 昔の辛い話で滅入った気分を晴らすためか、イレアはぐっと背伸びをしながらそう言った。リハビリも兼ねてだろう。


「見せてよ、新しい技。元霊祭までに使えるようにするんでしょ? 私に効かなかったらルーヴェラント先輩になんて勝てないよ」

「……いいんだな。ちゃんと防げよ?」

「受けて立つわ」


 いつになく挑発的な口調に俺の気分も高まる。俺としても、元霊祭までの短い時間は少しでも無駄にできない。乗ってやろうじゃないか。


「――マテリアル・オーダー」


 まずはいつも通り硝子の腕輪を黒球に変え、意識を集中する。昨日の実験で分かったのは、中の螺旋構造が最重要だということ。外側や弾の形の精密性はある程度でいい。


「二、四、八、十六……」


 昨日と同じように均等に溝を作っていく。完成形を理解しているので一回目よりは早いが、まだまだ時間がかかるな。要練習だ。


「……三十二、よし。あとは捻って……完成っと。なあイレア、これ試合中にできると思うか?」

「隙だらけっていうか、好きに攻撃してくださいって感じね」

「だよなぁ」


 結局これがネックになるんだな。まあ、マテリアル・オーダーを使い始めた時と同じだ。できるだけ短縮できるように頑張ろう。


「じゃ、やるぞ。俺もまだ制御しきれてないから防御は全力で頼む」

「そんなに?」

「言っとくけど、全力出したら木の幹貫通するからな。もう怪我させたくないからさ」

「……分かった。大丈夫。精霊よ――」


 弾丸状に形成したマテリアルを筒に込め、銃口をイレアに向ける。イレアも危険を察してか、分厚い氷の盾を生み出して身構えた。緊張が走る。以前イレアを傷付けてしまった後悔が頭を過った。いや、あの時とは違う。彼女と自分を信じるんだ。

 深呼吸し、狙いを定めて――


「『加速』」


 パキィインッ!!


「……っ!」


 甲高い音を立て、氷の盾に大きな罅が入った。弾丸はめり込んで中で止まったらしいが、目を見開いたイレアの表情からして予想以上の威力だったのだろう。


「イレア、大丈夫か!?」

「これは……何をしたの?」


 コクリと頷いて無事を示した彼女の口から出たのは、戦慄混じりの質問だった。


「いつもと同じただの『加速』だと思ったわ。ううん、実際そうだったはず。でも……違った。この威力と速さは全く予想がつかないわね。先に防御してなかったら間に合わなかったかも。……本当に普通の『加速』だったの?」

「普段と同じだよ。でもその後にこの筒で回転が加わってるんだ。そっか、やっぱりそこは精霊術じゃないから分からないんだな」


 精霊術士は、他人が発動する精霊術の兆候を感じ取れる。俺はとりわけその能力が高いが、イレアくらいの術士なら俺の「加速」を感知し、そのスピードに合わせて弾丸が自分に届く前に生み出した氷の盾で受け止めることができる。精霊術士の戦いとは、お互いに王手をかけ合い続け、それを避け、防ぎ、反撃する。その繰り返しで相手を詰める将棋やチェスのようなものだ。

 しかし、銃口から発射されたマテリアルは回転によって俺が発動した「加速」以上のパワーと衰えないスピード、貫通力を持つ。相手はただの「加速」としか感知できないのに、だ。つまり、自分の感覚を頼りに戦う熟練の術士ほどこの()()に惑わされてしまう。「加速」という駒の位置を読み間違える幻覚を見せられているようなものだな。


「私はリオの術をよく知ってるから余計に騙されたけど、初めて受けた人でも見切れないと思う。多分、もう一回受けても防ぐので精一杯ね」

「なるほど、じゃあ普通の『加速』の後に使えば効果的ってことか。マテリアルも使っちゃうから一発で決めるのが理想なんだよな」

「石とか氷じゃ駄目なの?」

「筒の大きさにピッタリじゃないと上手く飛ばないんだよ。石でも氷でも同じ形で作れればいいんだけど、マテリアル・オーダー以外の術はそういう精密操作苦手でさ」

「そういえばそうだったね。リオ、実験室の演習授業だといつも合格ギリギリだし」


 結局マテリアルを切り離して飛ばすという弱点はそのままだ。でも、実験で確かめた威力以上の武器を得られたのは大きな収穫だな。


「ところで、回転かけるってどれくらい?」

「いや、俺も発射した後の状態はあんまり分かってなくてさ。相当かかってると思うけど」

「ふぅん。精霊よ――アイシクルランス! えいっ」

「うわっ!」


 建物の無い方に向けていきなり氷柱を放ったイレア。それは真っ直ぐに飛んでいき……中庭の中央にある大木に当たった。バキンッ、と音を立てて幹が揺れ、枯葉がバサバサと落ちる。なんかデジャヴだけど、大丈夫だよな?


「あ、ホントだ。回転させるともっと飛ぶんだね。安定する感じもあるし……うん、参考になったわ」

「……マジか」


 どうやらイレアは今の一回で習得してしまったらしい。これが天才……いや、秀才か。


「凄いな、イレアは」

「……? あっ、でもリオのはさ、相手が予想できない一撃ってのがあるし。うん、そっちも凄いと思うよ! それに教えてくれたのはリオなんだからさ!」

「いや、うん。頑張るよ俺……」


 昨日の俺はどっちかっていうと、回転かけたら威力が上がるって喜んでたんだけどな……。まあ別の有効性も見つかったことだし、良いとしよう。

 そんなことを考えてちょっと落ち込んだ俺をわたわたとフォローするイレアに、遠くから声を掛ける者がいた。


「お嬢様ー! ご当主様がお呼びですー!」


 遠くからブンブン手を振って大声を張り上げたのは、俺達と歳の近そうなメイドだ。どうやら会議が終わったらしい。


「すみませーん! 今おっきい音したんですけどー、そっち行って大丈夫ですかー!?」

「あ、そっか。……待ってていいよ! 今行くわ!」


 なんで近くに来ないのかと思ったけど、そりゃそうだ。こんな色々飛んだり刺さったりしてる危ない所に近付く訳無いよな。


「行こう、リオ」

「ああ……ところで、あの木って大丈夫なのか?」


 俺が指差すと、突き刺さっていた氷柱がタイミング良くバシャンと落ちた。木は表面の皮が抉れ、中の薄い色の層が見えている。流石に貫通はしてないけど、もう何発か撃ったら倒れそうだ。


「……大丈夫よ、たぶん」


 全然大丈夫じゃなさそうな口調でそう言って、背中を向けたイレアの頬に冷や汗が伝ったのを俺は見逃さなかった。デジャヴというか、昨日の俺と同じだな。もし怒られたら庇ってやるか。俺も人のこと言えないしな。

 ともあれ、リギスティアさんに色々と聞きに行こう。

すみません、また遅くなりました。所用につき、恐らく来月末まで更新頻度落ちます。ご容赦ください。


次回更新は二週間後を予定しています。やや不定期の更新になってしまいますので、ブックマークしてお待ち頂けると幸いです。ご意見ご感想もお待ちしております。

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