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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
八章 宵の修練
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第75話 一つの解決

「……リオの分からず屋」


 放課後。迎えに来た霊動車の中で、イレアはそっぽを向きながらそう言った。狭い空間で放たれた言葉は俺を逃がしてくれない。


「ごめんって……」

「いいよ。どうせ病人だもん」

「いやそうじゃなくってさ」

「じゃあ普通にしてよ。ほんとに恥ずかしかったんだから!」

「でも今日は、」

「お兄ぃー、言い訳はやめときなー」


 見かねたのか、助け舟を出したヒナ。……が、今は悪手だったようだ。


「ヒナちゃんもでしょ! リオを止めてよ! っていうか実際にやったのはヒナちゃんじゃん!」

「お、お兄ぃがやれって言うから」

「ちょっ、俺になすり付けるなよ!」

「お姉ちゃん、わたしは指示されただけなの! お兄ぃの独断です!」

「いや、そもそもあの時イレアがっ」

「二人とも同罪!!」

「「ごめんなさい……」」




 事の発端は、昼休みにイレアが姿を消したことから始まった。


 二限目の医学の授業の後。いつも通り三人で食堂に行こうと思ってイレアに声を掛けようとしたが、いつの間にか彼女は教室からいなくなっていた。といってもチャイムが鳴ってしばらく、俺は来週までの課題に取り掛かっていた。そう、少しの時間とはいえイレアから目を離してしまったのだ。

 イレアがいない。焦った俺は教員棟までダッシュし、ソージア先生を探した。一緒にいる可能性が一番高かったからだ。しかし先生も知らないと言い、俺は更に焦る。

 そして、職員室を出た俺はヒナと出くわす。高等部に向かっている途中で、教員棟に駆け込む俺の姿を見て追いかけてきたのだ。俺はイレアがいなくなったと説明し、放送委員の権限で探せないかとヒナを頼る。そして全体放送でイレアを呼び出すことにしたのである。


 ……結局のところ、イレアは取り込み中の俺を置いて一人で先に食堂に行っていただけだった。そんななんの変哲も無い昼休みに、邪霊(イビル)の出現もかくやという気迫の緊急連絡が学園全体に流れる。「至急の呼び出し」という名の捜索願が届けられた食堂で、イレアは衆目を集める羽目になってしまったのだった。


「――確かに私も声掛ければよかったと思うけど。放送はやり過ぎよ」

「本当に申し訳ございません、やり過ぎました」

「そもそも、どこにいるかなんて指輪で分かるでしょ。何のために買ったと思ってるの?」

「仰る通りです。完全に失念しておりました」


 懇々と説教するイレアの言葉で俺は初めて指輪の存在を思い出した。宝飾店で試して以来、届いてからも全く忘れてた機能だ。試しに今やってみると、イレアの手元にぼんやりと意識が向く。


「今やんなくていいでしょ……それより、その喋り方やめて。反省してるのは分かったから」

「はい……いや、うん、分かった」

「お兄ぃはもうちょっと落ち着いて行動しなよ」

「ヒナちゃんもね」

「ギクっ」


 いつの間にか叱る側に回ろうとしたヒナをイレアは見逃さなかった。ていうか今、自分でギクって言ったな。


「だいたいいつも止めてくれてるけど、たまに二人揃って慌てることあるよね」

「し、仕方ないでしょ。わたしだってそういう時もあるもん」

「でもなんで今日に限って……」

「なんでって……お姉ちゃんが心配だからだよ!」


 しかし、呆れたように呟くイレアを遮り、ヒナは立ち上がってそう言った。


「無茶して力使って倒れて! 丸二日も目覚めなくて! しかも留学生から狙われてて! 急にいなくなっちゃったら心配するでしょ!」

「えっ、あっ、ごめん! ヒナちゃん……」


 語気を強めて一気に言ったヒナは、逃がすものかと言わんばかりにイレアの腰に抱きついて顔を埋めた。


「……リオも?」


 ヒナの手をとって横に座らせ、腰にグリグリと押し付けられている頭を撫でながらイレアは不安そうに尋ねた。


「そうだよ。心配したんだよ。……そりゃ、早とちりだったけどさ。放送室に来てくれた時、めちゃくちゃ安心したんだよ。何も無くてよかったって」

「……ごめんなさい。そうだよね、今日だって無理して付いて来たんだし」

「いや、俺も指輪のこと忘れてたから。今回はお互い様ってことで。でも……」


 言い淀んで視線をヒナに向ける。俺達は、あの時お互いの状態を全て理解していた。それでも俺は体調面で心配していたけど、ヒナは違う。訳も分からないまま強大な精霊術を使い、倒れて目を覚まさなかった家族。俺達以上に不安だったんだろう。それこそ、俺を止められないくらいに。……自分で言うことじゃないけど。


「分かったわ。ごめんね、ヒナちゃん。気を付けるから」

「ダメ。お兄ぃとずっと一緒にいるって約束して」

「ええっ!?」

「わたしはお兄ぃのことも心配なの。二人で見張り合ってなきゃダメ」


 いつの間にか靴を脱いで座席に寝転がり、イレアの膝に頭を乗せたヒナはそう言った。行儀悪いぞ、と言いたくなったけど、体勢に似合わずいつになく真剣な表情だ。


「それは、ヒナちゃんじゃ駄目なの?」

「うん。わたしは……弱いから。お兄ぃのこともお姉ちゃんのことも守れない。わたしじゃ、意味無いの」


 目を伏せて淡々と吐き出した言葉を、俺は否定できなかった。確かに、今の俺はヒナを守ることはあっても以前のようにヒナに守られることは無いだろう。もちろんこの前の討伐演習の時は十分助けられたが、もし俺やイレアが窮地に陥ったとしても、ヒナだけでは力不足。それは俺達三人とも理解していた。それでも――


「――ああもう、変な空気になっちゃったじゃん! べつにわたしが弱いのは自分で一番分かってるからいいの! ていうかお兄ぃを放っとくって言ってる訳じゃないからね。二人がお互いに注意して、わたしが二人を注意する! それでいいでしょ? そもそも元霊祭とかだって実際わたしは戦わないんだから。はいこの話終わり!」

「わ、わかったよ。よろしくな、ヒナ」

「もー、だからわたしに頼ってちゃダメなんだって。そんな事言ってたら指輪勝手にもう一個作っちゃうよ?」

「だ、駄目っ! これはリオの……とにかくヒナちゃんでも駄目!」


 左手を守るように慌てて隠したイレアを、ヒナは更に追い詰める。


「はいはい、じゃあ誓って。『私、イレアーダス・ウンディーノはミヅカ・リオと生涯添い遂げます』って」

「ヒナちゃん!! それは違っ……違わないけど、違うでしょ!」

「え~? ずっと一緒にいるって、そういうことじゃないのー?」

「分かった、分かったから! リオから離れません! これでいいでしょ!」

「だってさ。嬉しいねお兄ぃ」

「ったく……」


 結局、気不味い沈黙が広がりきる前にヒナの手によって有耶無耶にされてしまうのだった。やっぱり俺達は、この妹には敵わないな。



■□■□



「お帰りなさいませ、お嬢様、リオ様、ヒナ様。……お嬢様、いかがなさいましたか? もしやお熱が……!」


 帰宅した俺達をわざわざ玄関から出て迎えたソフィーさんは、イレアの様子を見るや青ざめた表情になった。


「そうでーす。お姉ちゃんはお兄ぃとアツアツでーす」

「こらヒナ! すいませんソフィーさん、体調は問題無いので安心してください。これは……ヒナがいじめました」

「それは…………申し訳ありません、取り乱してしまいました。さあ、中へどうぞ」


 ほら見たことか、ソフィーさん困っちゃっただろ。

 家に着くまでヒナはずっとあの調子だった。言質でも取りたいかのようにあの手この手でイレアに誓わせようとしたせいで、こっちまで恥ずかしい。じゃれ合ってるのを見てる分にはいいけど、たまに俺にも飛び火してくるから困ったもんだ。

 そんなことを考えながら上着をハンガーに掛けていると、カンカンとドアノッカーが勢いよく鳴らされる。次いで、お届け物でーす! と威勢のいい声が。


「あ、俺出ますね」


 脱ぎ掛けだった靴を履き直し、ドアを開ける。なんだろうか。


「はーい、ご苦労様です」

「失礼します、こちら本家様よりミヅカ・リオ様宛に……っと、すみませんっ! リオ様でしたか!」

「あ、はい。俺です」


 俺を見るなり深々と頭を下げた筋骨隆々な男性は、格好からしてウンディーノ家の出入り業者だった。本邸でたまに同じ服装の人を見かけたことがある。確かウンディーノ家ではかなり信頼されてる業者で、俺とイレアの指輪を届けたのも彼らだったはずだ。それと同じくらいの届け物……なんだろうか?


「サインは……これでいいですか?」

「はい、ありがとうございます! 割れ物ですのでご注意ください。それでは失礼しましたっ!」


 そう言って彼は爽やかに去って行った。なんかいいな、ああいうの憧れる。


「リオ様、申し訳ありません。私が対応いたしますのに」

「いいですよ、俺宛てらしいので」


 俺から荷物を受け取ろうとするソフィーさんを制し、リビングに運ぶ。けっこう重いな。割れ物って言ってたし、マテリアル・オーダー用の硝子球か? でもまだ何個も残ってるし、最近は注文してないんだよな。いつもは俺が頼んでから送ってくれてるはずだ。


「リオ、それ何の荷物?」

「はやく開けようよ」

「分かった分かった、落とすと危ないから一旦床に下ろすぞ」


 気になって集まってきたイレアとヒナと協力して、厳重に紐で縛られた木箱を開封する。少し埃っぽい緩衝材のおがくずを掻き分けると、中に入っていたのは。


「硝子の……筒?」

腕輪(バングル)かしら? 模様が刻まれてるけど」


 硝子でできた十センチくらいの高さの透明な筒だった。イレアの言う通り、腕に嵌めるのに丁度いいサイズだ。しかし同じものが……十二個もある。どうりで重い訳だな。


「あっ、なんか封筒入ってたよ」


 箱の底からヒナが引っ張り出したのは、ウンディーノ家の正式な封書。普段の内部でのやり取りに使われるものとは違い、これは()()()()()()()()()()()()()ってことだ。


「これは……リギスティアさんからだ。『ウンディーノ家次期巫女ミヅカ・リオ殿に、ウンディーノ家伝統の紋様を刻印した腕輪(バングル)を贈呈する。巫女としての修練に一層励むと共に、巫女家、そしてエレメント公国の代表としての責務を全うすることを期待する』……なんだこれ?」


 そんな話聞いてないぞと思いながら裏面を捲るが、こちらは装飾が施されただけの白紙。全く意味が分からない。書いてある通り、確かに本邸の柱とかでよく見かける水が流れるような模様が綺麗に彫刻されている。そんな腕輪と封書を見比べるが……さっぱりだ。

 すると、ヒナがおがくずを撒き散らしながら箱をガサガサを漁っている。後で掃除しなきゃな、なんて思ったが、またもや何か取り出して渡された。


「お兄ぃ、もう一枚あった!」

「また封筒? こっちは普通のか」


 今度は外部に見せないタイプのシンプルな封書だ。わざわざ別けてるってことは、答えはこっちに書いてあるんだろう。


「……これもリギスティアさんだ。『リオさんへ。専属の職人に作らせた腕輪はいかがでしょうか。男性の巫女という特例に合わせ、肩章(エポレット)とは別に立場を示すための装飾品として用意しました。リオさんの嗜好に沿った素材とデザインの特注品ですので、常日頃から身に付けるようにしてください』……って、これ全部?」

「両腕と脚に着けても八個余るわね」

「いや、脚には入らないだろ。ヒナならいけるか?」

「それもう腕輪じゃないでしょ。ほら、封筒の中もう一枚あるよ」


 珍しいイレアの小ボケに乗っかってみたが、手紙には続きがあった。


「『――というのは建前です。勿論リオさんに合わせて特注したのは本当ですが、これは装飾品ではなくマテリアル・オーダーの素材として使ってください。元霊祭では武器の持ち込み禁止という規則がありますが、次期巫女の証として身に付ければすり抜けることができます。恐らく問題無いとは思いますが、ヒナさんの方からも根回しをよろしくお願いします』……おお、そういうことか!」

「いつもの硝子球の代わりってこと?」

「だから宝石とかの装飾が無いんだな。これなら袖の下に仕込めるから便利だ」

「……なんか、しれっとわたしの仕事増えてない?」


 手紙の末尾には、『使い勝手が良ければ元霊祭以降も製造させます。不満な点があればいつでもお伝えください』と書かれている。硝子球と違って腕に嵌めておけるから、いざという時に急に取り出す必要も無い。バッグを持ち歩いたりポケットが膨らんで邪魔になる心配も無さそうだ。腕が疲れそうだけど、慣れればきっと便利だな。


「そういえば前にソージア先生から、硝子球の持ち込みについては何とかするって言われてたけど……これのことだったのか」


 この「建前」も含めて本家で用意してくれたらしい。頭が上がらないな。


「ヒナ、問題無いか確かめておきたいから夕飯まで付き合ってくれ」

「リオ、私もやるよ」

「今日は駄目。まだ病み上がりだろ。じゃあ横で見てて」

「……分かった」

「はいはい、拗ねないのお姉ちゃん」


 そんなこんなで腕輪(バングル)の使い勝手を試したが、これといった問題は見つからなかった。まあ元から硝子ならだいたい何でも良かったしな。俺の腕に恐ろしいくらいピッタリのサイズなのは、礼服の採寸の時に隈なく測ったからだろう。着け心地も抜群だ。早速一個壊しちゃったけど、硝子球と同じく消耗品と割り切るしかない。


「よし、じゃあマテリアル・オーダーの心配は消えたってことで!」

「まあいいけど……なんか、ズルくない?」

「あのなヒナ、誠実にやるのがこっちの目的じゃない。勝てばいいんだよ。それにズルって言うなら留学生を参加させてる方がズルだろ」

「お兄ぃ、ブーメランだよそれ。めっちゃブーメラン」


 ヒナのボヤきをスルーしつつ、大きな心配が一つ消えたことに安堵しながら、俺はたった今日思い付いたアイデアを頭に巡らせるのだった。

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