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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
四章 それぞれの夏休み
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第42話 謀略と始動の夏

 恒久的な戦争の停止。そんな不可能に近い……いや、不可能な発言に人々は彼への怒り、驚きを通り越して困惑していた。


「あー、落ち着いて落ち着いて。もちろん言葉通り永遠にってのは無理だろうさ。でも少なくとも、向こう百年くらいは不戦協定が破られないようにする。ドラヴィド国と、極東ともね」


 百年。これは国政においてよく用いられる指標だ。条約などが有効なのは、今生きている世代が全て入れ替わる百年が限度だと言われているからだ。無根拠ではない彼の発言に参加者は一応の納得を見せる。


「戦争が起こらないための条件は二つ。仕掛けさせないことと、仕掛けられないことだ。つまり今回の目標は大きく三つに分かれる。まずはノーミオ家に、公国側からの開戦表明をしない事を認めさせる。この辺は上手く難癖付けてあんたらがやってくれよ?」


 文官達はまたもや顔を顰めるが、声を荒げる者はいない。それが自分達の仕事だとは分かっているようだ。


「二つ目は、ドラヴィド国に対して攻めさせないように和平条約を結ばせる事。先にこちらが不戦の意思を表明すればあちらも頷いてくれる……なんて楽観視はしてないよ。最悪、強引な手段を取るつもりだ。あちらから隠密に手を出して来たなら、迎え撃つ。力を見せつけ、向こうの力を削ぐ。代理戦争になるだろうね」


 代理戦争。結局は、戦いは避けられないのだ。だが真に避けるべきなのは国の全てを巻き込んだ群の戦い。個の争いで済むのがベターなのだろう。


「最後に、極東との和平を結び直す。最初に結んだ条約もそろそろ役に立たなくなった頃だろ?」

「ええ。極東との国交が始まったのは今から百七年前。制定以降の更新も無いので……」


 そう、これが彼の言葉が理解される理由。実際に百年で形骸化した条約が破られようとしているのだ。自らが兵を動かさずとも、戦争の幇助は立派な条約違反である。


「俺ができるのは二つ目だけだ。そしてあんたらが表立ってできるのは一つ目と三つ目。分かりやすいだろ? 共同作戦だ」

「なるほど。貴方の提案は十分に理解できました。が、疑問は残ります。そもそも何故戦争を止めようとするのです?」

「俺は平和に暮らしたいんだよ。目指せラブアンドピース! ってのも理由の一つだけど、目的は公国で俺の立場を確保する事かな。あ、勘違いしないで欲しい。権力なんか要らんさ。今言ったけど、俺は平和に暮らすだけよ。文句ある?」


 まあ先輩らしいっちゃらしい。だが、理由としてはまだ弱いな。


「いえ。ですが、貴方ほどの力を持つのであれば、このような回りくどい事をするよりも戦争に参加して功績を立てるのが良いのでは? それに戦いが起こったとしても自身の安全くらいは守れるでしょうから、関わらないという選択もできるはずです」

「分かってないなぁ。戦争に勝ったところで、それは一方を焼き尽くすだけだ。火種は残る。完全に鎮火しないと平和とは言えないね」


 うーん、言い分は両方とも理解できる。リギスティアさんが言う通り、戦争が起きても起きなくてもティフォ先輩にはあまり関係無いはずだ。平和が一番なんてメリットもデメリットも示せない発言はこの場では説得力が無い。

 そしてティフォ先輩側に立って考えるなら、自分の理想はただ単に戦争を起こさない事だ。これが理解されないと説得は難しいだろう。だから彼に利がある他の理由を述べているのだが、やや不十分なのだ。


「押し問答ですね。こちらからすれば貴方の協力はありがたいですが、貴方にとって利益が無さ過ぎます。信条の知れない者の献身など全く信頼できないのです。ご理解下さい」

「でしょうねー」


 そう、ティフォ先輩が協力するメリットが薄いのだ。何かあるのでは、と疑ってしまうのは仕方ない。


「ですから、協力は暫定という事にします。まだこちらからは全面的な協力はしません。まずは互いにできる事だけをし、その結果を持ちあう。そして成果が出た上で、貴方が信頼に足ると判断した暁に再び約束いたしましょう。よろしくて?」

「ま、今はこんなもんでしょ。最初から信用されてたら俺も逆に疑っちゃうからね」


 話は纏まったようだ。安心して一息吐くと、ソージア先生もあからさまにホッとしている。先輩の破天荒さをよく知る俺としては共感せざるを得ない。


「では引き続き、当家の今後の方策を通達します」


 リギスティアさんが話し始めるとティフォ先輩は下がり、俺の背後の窓際に寄りかかった。彼の席は最初から用意されていないが、特に気にする様子も無い。むしろすぐに逃げれる位置にいるとしか思えないな。


「まずはノーミオ家への対応について。現状最も懸念すべき点は、学園への干渉を強めている事でしょう。先月末には視察と題して、ノーミオ家の内政官長、そして現巫女の兄でありヴィオテラの甥、ディルク・ライトマン・ノーミオの一団が学園を訪れています。以降も学園の運営会に口を出しているようです」

「あいつは一番危ないよー。ノーミオの戦争急進派のトップだからさ。学長も彼の意向を無視できないし、多少振り回されてるみたいだね。逆に言えば、一枚岩ではないノーミオ家の泉門にもなり得る。突くなら彼じゃない?」

「ええ。ノーミオの内政官長は当家では宰司と同等の地位です。彼を落とせば急進派も瓦解するでしょう」

「まあでも腕っ節ってより根回しの上手さでのし上がった文官だから、そういう意味じゃ警戒する必要は無いかもね」


 ティフォ先輩が口を挟む。名前は初耳だが俺も前に聞いた話だ。リギスティアさんは頷き、話を続ける。


「彼の調査は現在、優先して行っています。ティフォ殿もこの件は積極的な調査をお願いしますね」

「合点承知~。もう()()()()()は済んでるから、感知できる範囲で怪しい行動があれば一発よ。例えば、最近は極東軍の幹部に会ってたりね」


 急な暴露にどよめきが走る。瞑目するリギスティアさんの表情からは「今から話す所でしたのに」と読み取れる。というか先輩の盗聴にも範囲とか条件があるんだな。教えてくれるか知らないけど後で聞いてみるか。


「今ティフォ殿が述べたように、彼は精霊術を研究する機関の所長であり、遠征軍の指揮官である極東軍の幹部と繋がりがあると見られます。その幹部はヴィオテラとも親交が深いようで、ノーミオ家と極東軍の関係は彼女を介しているようです」


 要らぬ悪印象を与えないように、俺とヒナの母だとは言わないようだ。もっともこの場の者が知らない話ではない。完全に他人として扱う、というリギスティアさんの意思表示なのかもしれない。


「ですが彼女は他国の者であり、公国の法を適用して裁くことは不可能です。よって、ディルクないしノーミオ家の者と共謀している所を叩きます。実力行使となりますが、構いませんか?」

「別に良いし、それ以外の方法は考えつかないけど……彼女、強いよ?」


 ティフォ先輩の言葉に人々は息が詰まる。曲がりなりにも彼は、シルフィオ家当主と渡り合ったレベルの精霊術士。そんな男が強いと評する者が法で裁けず、力で抑えるしかないというのだ。


「ええ、承知しています。目的は現場を押さえる事ですから。状況証拠さえあればいくらでも難癖の付けようはあります」

「きゃー怖い怖い。これだから権力なんてモノ、関わりたくないんだよねぇ」


 先程のティフォ先輩の台詞に重ねてリギスティアさんは言った。おちゃらける先輩だが、俺も多少は同意だ。ウンディーノ家が味方で良かった。……いや、(ノーミオ家)も同じようなものか。


「さて、詳細な指示は後ほど出します。今後についてですが……ティフォ殿、各方面が動くのはいつ頃と予想しますか?」

「んー、九月の中旬」


 言い切った。どうして断言できるのかは俺には分からないが、文官達も頷いている。


「ええ。私も同意見です。ノーミオ家が最も力を持つのも、我々巫女家の接点となるのも学園です。夏季休暇の間は大きな動きはできないでしょう。討伐演習もしばらくはありませんので、ノーミオ家の主導で国外で事を成す口実は作れません」


 なるほど、舞台の中心は学園ということだ。ノーミオ家、学長が自由に動ける場が閉鎖されている間は大人しいと見ているのだ。


「以前の開戦宣言前のドラヴィド国からの返事が遅かったことから、あちらもまだ準備ができていないと思われます。最近の国内の様子からしても、恐らく極東の根回しは十分ではないのでしょう。極東が裏で確実に手を引いているなら、動き始める時期はこちらと合わせるはずです」


 つまり、この夏はお互いにとって準備期間となる訳だ。気が引き締まる。


「はーい、質問いいですかー?」


 ここで手を挙げたのは、恐れ知らずの我が妹ことヒナだ。いや、こんな人達の前で質問できるとかすげえよ……


「どうぞ、ヒナさん」

「そもそも極東はなんでエレメント公国とドラヴィド国を戦争させようとしてるんですか?」

「そうですね。順当に考えれば両国を疲弊させることによる、相対的な国力の増大と考えられます。が、他に理由がある可能性は高いです。それが分からない以上、勝つにしても負けるにしても戦争は回避すべきなのです。ノーミオ家が極東と取引しているなら、この国全体で見れば悪い結果にはならないと思います。しかしノーミオ家の暴走も他国の干渉も許すべきではありません」


 一旦言葉を区切り、全体を見渡してリギスティアさんは続けた。


「各方面の情報収集は引き続き強化していきます。ノーミオ家による学園以外への干渉は、シルフィオ家と協力して議会で圧力をかけます。敵もこちらを探っているでしょうから、各々の行動には細心の注意を払うように」

「了解致しました、当主様。護衛隊の強化などはいたしますか?」


 宰司が兵力について尋ねる。苦手な人だが、彼はウンディーノ家に対しては最も誠実なのだ。


「大勢で攻勢に出れば自然と戦争に発展します。向こうの思う壺です。屋敷と当家の施設の守備に努めさせなさい」

「ハッ」

「ティフォ殿。動向の迅速な察知には貴方の力が不可欠です。リオさんを介してで構いませんから、何かあればすぐに連絡をお願いします」

「あいよー」


 次々に指示を出し、今度は俺達の方に向いた。


「イレア、リオさん、ソージア。貴方達は実働部隊の主力となります。訓練に励むように」

「ねえ、わたしは?」

「ヒナさんは――」

「わたしも、戦います。お兄ぃはわたしが守ります」


 ヒナは、はっきり言って俺達の中では戦闘面では一段劣る。大人しく待ってもらうのが良いのだが……このやり取りは討伐隊の時から二回目だな。


「ごめんなさいリギスティアさん、こうなったらヒナは聞きませんから。危険な事はさせないので、俺からもお願いします」

「分かりました。でも、もし何かあればすぐに止めます。いいですね? イレアも、自分の身を第一に考えなさい。もちろんリオさんもですよ」

「「「はいっ!」」」

「ソージア」

「はい。お嬢様達は、この身に代えても死守します。それが私の使命です」


 力強い言葉には絶対の意思を感じる。その小さい背中が何よりも頼もしい。


「全ての準備を、八月末までに整えなさい。我々が、この国を守る砦です。ウンディーノ家の名に懸けて、必ずやエレメント公国を守りなさい!!」

「「「「「ハッ!!!!」」」」」



■□■□



 会議は終わり、文官達はそれぞれ持ち場に戻った。俺達もこのままトレーニングでもしようかと意気込んでいたところ、意外にもまだ帰っていなかったティフォ先輩に呼び止められた。俺だけに用があるらしく、ヒナ達を先に行かせてから二人で部屋を出る。


「逃げないんですか?」

「いやー、あの雰囲気でハイさよならは無理っしょ。あの時俺も釣られて返事しちゃったしさ」


 自身の行動にケラケラと笑う先輩。確かにさっきのリギスティアさんの言葉は、斜に構えた感じの先輩でさえ巻き込んでしまうような力強いものだった。カリスマってやつだ。


「あの人達に聞かれると面倒だからリオ君だけには言うけどさ、俺が戦争を止めたいのには他にも理由あるんだよね」


 玄関へと歩きながら話す。やっぱり訳アリなんだな。


「そんな事言って、ラブアンドピース~とかが嘘ってわけでもないんでしょう?」

「そりゃそうさ。いつだって平和が一番だよ。でも、そうじゃない人もいる」


 いつになく真剣な、何かに耐えているような表情でティフォ先輩は振り返った。


「今はまだ、その理由は話せない。でもリオ君だけは気付くはずだ。俺が話せない理由も含めてね」

「俺だけは……?」


 イマイチ要領を得ない。ただ、その言葉に嘘も誇張も無いのは明らかだ。


「っ、言えるのは、ここまでかな……また何かあったら連絡するよ。部屋の窓は開けとけよ?」

「だ、大丈夫ですか?」


 頭痛に悩まされるように片手で頭を押さえ、足早に歩いて行く。二日酔いとかではなさそうだ。こんな先輩は見た事が無い。


「大丈夫。そんなに心配なら理由について考えてくれよ。じゃあまた!」


 そして、そのまま庭から飛び去ってしまった。色々と聞きたい事もあったというのに。


「なんなんだよ……?」


 様子がおかしい先輩。理由を話せない理由。それは俺にだけ分かるという。


「考えろ、か……」


 ただでさえ多い悩みがまた増えた。だが、その全てが一点に向かっている気がする。この戦いの果てに、分かる時が来るのだろうか。


「いや、来るんじゃない。その前に見つけるんだ」


 きっと、全てが終わった時には分かるだろう。でもそれでは遅い。俺はその前に答えを見つけなくてはいけない。

 それが俺の、本当の意味での『使命』なんだと思う。

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