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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
三章 動乱の気配
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第34話 再びの会議と家族の時間

 しばらくして、シルフィオ家の使用人が夕食の支度ができた事を伝えに来た。帰って来るのが少し遅くなるから先に食べていなさいとティターニアさんから連絡を受けたようだ。ティフォ先輩も使っていたけど、遠距離の連絡ができる風の精霊術は便利だな。ヒナとセレナもある程度使えるらしい。


「それで、この後はどうするの?」


 食事を始めてすぐ、ヒナが漠然と尋ねた。今日の朝に会議が始まった時の緊張感は欠片も無いな。


「お母様達が帰るのを待って指示を仰ぎましょう。お兄様からの話はその時でよろしいですの?」

「ああ。まずは俺からリギスティアさんに話をして、まとめてから皆に伝えようと思う。どこまで話していいか俺も判断できないからな」

「ふーん。まあ後で話してくれればいっか」


 あっけらかんと言うヒナだが、まだ隠している事があるのを少し申し訳なく思う。


「では本日は皆さん泊っていかれるということで宜しいですのね。用意をさせましょう」

「ああ、ありがとう。ヒナとイレアは大丈夫だよな?」

「うん、明日は学校も放送委員の仕事も無いから大丈夫」

「わ、私も大丈夫。お婆様と一緒に帰るつもりだから」


 まだイレアの様子が少し変だ。ホントに何があったんだか……


「では今夜はパジャマパーティーといたしましょうか。ソージア先生も交えてお話を聞きたいですの」

「おー名案! へへへ、今夜は寝かさないぞ~お姉ちゃん?」

「ま、まだ続きやるの……?」


 すまんイレア、うちの妹が。そんな話や最近の学校の話をして、食事が終わる頃にリギスティアさん達が帰って来たようだ。さて、どこから説明したものか。




大精霊(エレメント)からまた情報を得たようですね。話してください」

「えっと、夕食とか先でも良いんですよ?」

「いえ、最優先事項ですから。リオさんが思っている以上に大精霊は巫女家、そしてこの国にとって重要なのですよ」

「分かりました。少し長くなります」


 帰って来たリギスティアさんに話がしたい旨を伝えると、すぐに場所を用意してくれた。圧にやや押されて邪霊(イビル)の起源から話しはじめる。


「――というのが現在の邪霊がいる理由らしいです。ここまではいいですか?」

「……ええ、理解はしました。以前から、邪霊は古代の技術の産物であろうとは言われていたのです。ですがそのような理由があったとは……」


 軽くショックを受けているようだ。まあ確かに、人類の脅威と言われている存在が娯楽の道具と知ったのだ。無理も無い。更にこの話が示しているのは、古代の人々の精霊術はそれこそ邪霊を遊び感覚で倒せるものだったという事なのだ。


「それで、他に知った事はありますか?」

「はい。こちらの方が重要かと――」


 俺は大精霊に関わる人――巫女家やその周辺に「敵」が潜んでいるかもしれないという話をした。


「敵、ですか。大精霊の破壊が目的……警備を強める必要がありそうですが、既に内部に潜んでいるなら無駄かもしれませんね。それと記憶の保存についてですが、これは知っています。巫女を継げる者が一人もいなくなった場合の緊急措置として大精霊にそのような機能があると伝えられているのです。実際に行った事例は知りませんが……」

「まさか悪用されるとは思わなかった、ということですか。ところで記憶の保存に条件などはあるのですか?」

「巫女家の血を引く事が条件、と言われていますが実例が無いのでなんとも。そもそもその話が本当かどうかも分かりませんから。ごめんなさい」

「いえ、無理な事を聞いてすみません。あと記憶を継承してそうな人に心当たりはありますか?」

「今まで気にした事も無かったので……それに当家にいない確率も高いですから。これはすぐに他家に共有したいですが、万が一巫女が『敵』だった場合……あっ……」

「だ、誰か心当たりがあるんですか!?」

「……ただの憶測です。元々の性格を考えれば不思議でないと言えます。ですが、昔とは考えがやや変わったような……」


 手に汗を感じる。彼女の次の言葉に意識が集中する。


「ヴィオ――ノーミオ家当主、ヴィオテラ・ノーミオが怪しいと、少しだけ感じます」



■□■□



 しばらくしてオクタールさんも仕事から戻って来て、昼間と同じ顔ぶれが集められた。女子トークにはしゃいでいたヒナとセレナ、二人に振り回されたイレアは少し眠そうだったが、当主二人の真剣な顔つきに襟を正した様子だ。


「それでは、これよりシルフィオ家・ウンディーノ家合同会議を始めます。司会は午前と同じくティターニア・シルフィオが務めます」


 確認作業じみていた昼間とは打って変わってピリピリとした空気だ。落ち着いて見えるティターニアさんには先に共有したのだろう。


「では私から。先程、当家のリオさんが風の大精霊との対話で得た情報です。確認は取れていませんが、信頼性は高いものと考えて下さい」

「あら、リオさんが巫女の力を持っているのは初耳ですね。その点については?」

「いずれ正式に。彼を当家に迎え入れたのも、その能力を買っての事です。続けて宜しいですか?」


 全員がこくりと頷く。シルフィオ家の三人は俺が大精霊と対話できる事はあまり疑問に思っていないようだ。まあ巫女家の血を引いているから当然といったところか。


「最初に、大精霊(エレメント)精霊(スピリット)について詳しく話す必要がありますね。まず、大精霊というものは――」


 俺が初めて先祖から聞いた話を捕捉を交えながら皆に聞かせた。大きく驚いているイレアだけが知らなかったのだろう。


「――これが、邪霊の真実です。ここまでは前置きです。これまでと我々の対応は変わりませんからね。本題は次です」


 だが邪霊の話になると、俺とティターニアさん以外の皆が目を白黒させていた。この反応も仕方ないな。


「――最後になりますが、大精霊に記録された先祖の話では……我々巫女家の中に敵対者がいる事が示唆されました。大精霊を破壊し、精霊術をなくそうとする者がいるそうです」

「待って下さい! そんな昔の人が、どうして現代の事を――!」

「落ち着きなさい。その敵対者は、自身の記憶を大精霊に保管しているようです。そして死後、その記憶を誰かに継承して生き返ると。確実にいると決まった訳ではありませんが、留意して欲しいのです。そして……私は、ヴィオテラを疑っています。最近の彼女の言動は目に余るものがあります。一概には決めつけられませんが、可能性だけは考えておいて下さい」


 オクタールさんが立ち上がりそうな勢いで言葉を発するが、リギスティアさんの強い口調に皆が押し黙る。これまでの巫女家の間での対立はあった。だが、この場での「敵対者」は訳が違うのだ。


「……報告は以上になります。意見がある方は挙手をお願いします」


 部屋が静まり返る。考える者、困惑する者、様子を伺う者とそれぞれだ。しばらくして、最初に手を挙げたのはオクタールさんだった。


「僕はノーミオ家への、そしてヴィオテラ様への対応を今変える事には反対です。まだこれは全くの憶測の段階であり、今のノーミオ家と彼女への弾圧は戦争の引き金となりかねません。そして仮に彼女が『敵対者』であった場合も、こちらが感づいた事を知られないために変わらない対応を続ける方が得策だと考えます」


 なるほど、彼の意見は様子見という事だ。消極的だが堅実だな。そして彼に代わって挙手をしたのは再びリギスティアさんだ。


「はい。彼女を刺激するべきでないというのは尤もです。ですがこのままノーミオ家の独走を許す訳にはいきません。仮に『敵』が他にいるとしたら、巫女家が分断されるのは最も避けるべき状況ではないでしょうか。『敵』がヴィオテラであれ他の者であれ、戦争が起これば隙が生まれます。ノーミオ家との融和のためにも今は強引にでも彼女を止めるべきなのです」


 両者ともに考え込み、再び訪れる沈黙。難しいな。「敵」抜きに考えてもヴィオテラ学長の扱いは難儀なものであるが、突如現れた疑いがより事態をややこしくしているのだ。


「では、一旦決を採ります。この場での完全な決定ではないので、各々考えた通りに挙手をお願いします」


 議長であるティターニアさんが会議をまとめる。もう遅い時間でもあるし、このままでは埒が明かないのだろう。


「ノーミオ家及びヴィオテラ様への対応を戦争の停止等を求める方向に変えるべきだと思う方は挙手を」


 俺はスッと手を伸ばす。リギスティアさん、ヒナ、セレナは同意見なようだ。


「対応を変えるべきでないと思う方は挙手を」


 ティターニアさん、オクタールさん、そしてやや控えめにイレアが手を挙げた。見事に別れたな。


「……それでは、本日の会議は以上とします。解散です」


 議長の号令で会議は幕を閉じた。俺の濃く長い一日がようやく終わった。……イレアとソージア先生はヒナとセレナに連れて行かれたようだが、気にしないでおこう。



■□■□



 翌日。普段より遅めに起きた俺は窓の外が騒がしい事に気付く。


「やああああっ!」

「まだ遅いですよ――流泡」

「きゃあっ!?」


 ヒナとリギスティアさんが戦っているようだ。いや、正確に言うなら戦いにもなってない。昨日の俺はこんな感じだったのだろうか。イレアも少し離れた所で見ている。


「あ、おはようリオ!」


 しばらく眺めているとイレアがこちらに気付いたようだ。手を振り返し、俺も着替えて階下に降りる事にした。




「おはようイレア。朝からやってたのか?」

「うん、ヒナ……ちゃんがお願いしてね。あ、次は私の番だけどリオはどうする?」

「いや、俺は遠慮しとくよ。昨日の疲れがまだ取れなくてさ」


 おや、イレアはヒナの事はヒナさんと呼んでたはずだ。打ち解けたのだろうか。それより俺は昨日の影響でまだ体が重い感じだ。おかげで日が高くなるまで寝入ってしまった。


「てやああぁっ! エアジャベリン!」

「吹き散らせ、ミストパルス」


 またもやヒナが吹き飛ばされる。近距離は無理と見て精霊術で中距離から戦っているようだが、それ以前に力押しで負けている。……というか、さっきからリギスティアさんが使ってるの、俺でも使えるような術だな。要するに本来は短射程の弱い技って事だが、彼女が使うと全く別物だ。いやはや、レベルが違うとはこの事か。参考にならん。


「降参ですか?」

「……こうさん……」


 そうこうしているうちにヒナが地面に大の字になって起き上がらなくなった。


「おはようございます、リオさん。調子はいかがですか?」

「おはようございます。まだ体が重いですね。精霊術で治癒するのにも体力を使いますから」


 万能のような治癒の術だが、その基本は体の代謝を促進させる火の精霊術である。結局は自分の体を治すのは自分自身なのだ。


「お兄ぃー……水とってー……」

「はいはい、ヒナもおはよう……ってそれどころじゃないな」


 ベンチに置いてあった水差しからグラスに注ぎ、ヒナに手渡す。ぐびぐびと飲み干してすぐに無言でお代わりを要求され、再び注ぎ直す。


「あー、全然ダメだった」

「ヒナさんは精霊術が全体的に大雑把というか、収束が甘いですね。使える精霊術の種類は多いですし身体能力も高く視野も広いですが、精霊術のイメージをもっと明確にするとよいですよ」

「むう……」


 改善点をずばりと指摘されて考え込むヒナ。優秀な妹の事だ、色々と考えてすぐにでも行動に移すだろう。


「お兄ぃ今度相手してね。おばあちゃん、また次もお願いします」

「ヒナ、おばあちゃんって……」

「いいのですよ、貴方達は家族なのですから。ふふふ、孫が増えたようで楽しいです」


 ヒナのおばあちゃん呼びにぎょっとしたが、対するリギスティアさんは上機嫌だ。自分にそんな呼び方をする人がいないから新鮮なんだろうな。ヒナもその辺りを分かってるんだろう。


「さて、次はイレアですよ。どこからでもかかって来なさい」

「はい、お婆様。――精霊よ、貫け、アイシクルランス!」


 準備は万端とばかりに、立ち上がっていたイレアはすぐに攻撃を仕掛ける。やはり最初は十八番の氷柱。以前よりも速く感じるのは気のせいではないだろう。だがここからは違った。


「絡み付け――アイシクルソーン!」


 リギスティアさんは氷柱を危なげなく躱したかに思えた。だが、そこから更に凍てつく茨が伸びる!


「――流泡」


 氷の棘はリギスティアさんの作った水膜に届き、一瞬で凍らせる。前にも聞いた、水と氷の属性の相性の悪さだ。だがリギスティアさんは水膜の内側を回転させ、力技で束縛を逃れた。


「ふむ……守ってばかりでは仕方ありませんね。こちらからも攻めます」


 来た。今まで自分からは攻撃しなかったリギスティアさんがついに動いた。イレアは氷の盾を作り、防御に備える。


「リオさん、ヒナさん、離れていなさい」

「穿て、クリスタルバレット!」


 忠告をする間にもイレアが先制を仕掛ける。だがリギスティアさんは避けもしない。


「万物よ、母なる海へ還れ――大洋(グレート・オーシャン)


 目前に迫った氷の弾丸は……溶けて、水となった。そして――!


「うおぉっ、マジかっ!」


 庭が、一瞬にして水で満たされたのだ。


「アイスシールドっ……! 効かない!?」


 イレアは氷の盾を作って足場を生み出そうとしたが、水の流れは止まらない。それどころか盾は水に飲まれて消えてしまった。相性差さえ覆す圧倒的な力。これがウンディーノ家当主――老いて尚、水の精霊術士の頂点に君臨する者か!


「なら直接狙うしか……精霊よ――切り裂け、ブリザードエッジ!」


 木の幹に掴まって水から逃れ、水上に立っているリギスティアさんを狙う。


「ふむ、この状況でも動けるのは素晴らしいですね。――潮流(タイド)


 だが、せり上がる水壁に阻まれてしまった。あの水に触れると形を保てないようだ。


「さてイレア、これを耐えられたら合格としましょうか。自分の身を守る事だけを考えなさい――波浪(サージ)


 ()が蠢く。生き物のように動く水は、木の高さを越え、建物の二階を越え……ざぶん、と覆いかぶさった。


「イレア!」


 水流に飲み込まれ、イレアの姿が登っていた木ごと消える。心配だ。リギスティアさんはそれを見下ろすばかりである。


「――――!」


 いや、何か聞こえる。イレアが沈んだ辺り……ではない!


「……おや?」


 リギスティアさんの足元の水が歪む。そこから顔を出したのは、巨大な氷の柱……いや、箱。リギスティアさんは難なく避けるが、透明な氷の棺の中からイレアが空中に飛び出す!


「精霊よ――切り裂け、ブリザードエッジ!!」


 再度振るわれる薄氷の刃。それは空中から真下に、リギスティアさん目掛けて――


「ふふ、流石私の孫娘です。予想以上ですね――水面(サーフェス)


 ――鏡のような水面(みなも)に弾かれ、


「きゃっ!」


 落ちてきたそのままの勢いで飛んでいき、咄嗟に避けたイレアはドボンと水中に落ちた。まるで鏡のようにそのまま全て跳ね返されたようだ。


「って、おーいイレア! 大丈夫か!?」

「心配いりませんよ。精霊よ――地の果てと成れ」


 一瞬にして大量の水が彼女の手元に集まって消えた。もしかしたらこれは精霊術で生み出した仮想の水で、本物の水ではないのかもしれないな。そして水が引いた地面にイレアが座り込んでいた。


「イレア、大丈夫か?」

「う、うん、何ともないかな……自分でもびっくりした」


 自分の手を何度か握りしめ、先程の感触を確かめるイレア。全てを侵食する海から身を守ったあの棺は、今までに無い防御力だった。


「あれほど完璧に防ぐとは思いませんでしたよ。成長しましたね」

「お婆様の今の術は?」

「そう特別なものでもありません。ですがこれは私が最も得意な術。それを受け止められるの者はほとんどいませんよ」


 そう言われてイレアは少し顔を綻ばせ、もう一度手を強く握りしめた。自分の成長を実感したのだろう。


「さあ、昼食にいたしましょう。その後はすぐ出発しますから、支度をするように」


 それからは精霊術について色々と話しながら、時折イレアと俺の婚約についてからかうように聞かれながら、そしてまたリギスティアさんのお説教が始まったりと、和やかな雰囲気だった。道中、座席で疲れて眠るイレアを横目に、俺は打ち解けた空気を感じるのだった。



■□■□



「うーん、屋敷のベッドと比べるとやっぱ固いな……」


 学園の寮に帰宅した俺は、今まさに寝るところだった。ウンディーノ家に加わるならそのうち常にあんな所で寝られるかもな、などと現金な事を考えていた時、


 コンコン、とノックする音が。


「ん? こんな時間に誰が――」


 待て、音はドアからじゃない。()だ。この四階の窓をノックする者がいる。そして再び、少し強めにコツコツと窓を叩く音。


「誰だ」


 ナイフを鞘から抜いて構えて、左手で窓に手をかける。鍵を開け、徐々に隙間を作ると――


「誰だ!」


 外側から開けられ、するりと部屋に飛び入る人影。俺は距離をとって構える!


「――おっとっと、いやー、久しぶりだなあ」

「!!」


 軽い口調に、暗闇の中でも分かるさらりとした金髪。それはやけに久しぶりに感じる出で立ちの男。


「よっ、リオ君! 元気してた?」


 ティフォ先輩その人だった。


「あれ? ちょ、そのナイフ向けられんのって何かデジャヴなんだけど!?」

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