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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
三章 動乱の気配
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第33話 不和の当主と少女達

 明滅する意識が白く染まる。視界が白く染まる。世界が真っ白な紙になったみたいだ。そしてそこに文字が、言葉のイメージが降り注ぐ――




 ――残す記録は、これが二つ目だね。じゃあ詳しい内容を話そう。まずは邪霊(イビル)についてだ。結論から言うと、これも大精霊(エレメント)精霊(スピリット)と同じで我々人間の手によって生み出されたモノだ。そうだな、ロボット……って言っても伝わらないかもしれない。精霊が搭載された機械って言えば分かるかな。最初は色々な道具や機械が作られたんだ。これが思った以上に上手くいってね。色々なものに使われるようにったんだ。


 ところで一つクイズだ。こうやって技術が発達したら、産業、医療などを経て最後に何に使われると思う? ……答えは「娯楽」だ。遂に人類が成し得た魔法のような力。生命力を変換して膨大なエネルギーを得る技術。瞬く間に世界中に広まって、スポーツや競技にもなった。そしてその中で生み出された、「的」として使われる機械。もう分かったかな。邪霊ってのは娯楽のために生み出された存在だったんだ。


 だが状況は変わった。後で詳しく話すけど、僕の()はこれを利用したんだ。結果的に大精霊は季候のコントロールができなくなり、邪霊の制御も失った。だが、邪霊を動かしているのは紛れもなく大精霊の力だ。要するに僕達はどうしようもなくなったんだよ、情けない事にね。恐らく君の時代でも邪霊は動き続けているだろう。季候もギリギリ持ち堪えてると思う。この状況を変えるには、火の大精霊を再起動させるしかないんだ。心からお願いするよ。


 次に僕の敵についてだ。まだ調査中だけど、彼または彼女の(おおよ)その目的は、大精霊を破壊ないし停止させる事。そして精霊術という仕組みを壊す事だ。僕が知る限りは、まだその目的は達成されていない。でも注意して欲しい。敵は()()()()()。大精霊の記憶保存のシステムを使って、自身の記憶を残しているんだ。そして記憶を別の肉体に継承して、何度も蘇っている。君の時代にまで続いているかは分からないが、注意して欲しい。おっと、安心してくれ。君自身にはプロテクトをかけてるからね。だが大精霊に近づく人の中に敵が潜んでいるかもしれないってのは覚えておいてくれ。


 長くなったが、今回は以上だ。君へのお願いは変わらず大精霊にアクセスして僕の記録を集める事、そして火の大精霊を再起動させる事だ。次の記録を用意するまでにこちらも調査を進めよう。ではまた。……記録終了――



■□■□



「――っ、……」


 再び大精霊の間。意識は戻ったが、心臓は早鐘を打っている。


「邪霊が、人工物……それに敵が生きている……?」


 あの生き物のような邪霊が? いや、彼の時代の技術なら可能なのだろう。そして人の記憶を死後に引き継ぐ事も。だが言われてみれば納得はできる。そもそも当たり前のように使っている精霊術でさえ、人の生み出したものとして考えたらおかしい程の技術なのだ。だがそんな事より、


「敵、か……」


 敵の目的が大精霊の破壊だとして、今も存在しているなら。まず狙われるのは俺だ。そして敵は大精霊と関わりがある人――巫女家にいる可能性が高い。これからは迂闊に話もできないな。或いは既に……?


「考えても仕方ないか……それより、質問がある。答えてくれ」


『規定内の質問は受諾します』


 無機質な音声が答える。色々と確認しなければならないな。大精霊について知らない事が多すぎるのだ。


「そもそも、大精霊の役割は季候の制御で合ってるか? もし制御しなければどうなっているか教えてくれ」


『はい、大精霊のキャパシティは世界季候の寒冷化の防止に約九十五%、本体の維持に約四%、その他のうちの一部が邪霊へのエネルギー供給に使われています。現在の残り容量はごくわずかです。また、季候制御を中止した場合、千二百時間以内に地表の平均気温が現在温度から三十度低下する見込みです』


「えーと、大精霊が季候を維持してるのは本当で、もし止まったら千二百時間……五十日で終わりって感じか。次の質問だ。邪霊の制御、または活動を停止させる方法はあるか?」


『現在は自立状態の邪霊のコントロールはできません。制御を再開するには��――失敗(エラー)、情報が破損しています』


「チッ、前と同じ……じゃないな、ブロックされてるんじゃなくて破損してるのか。情報の復元はできるか?」


『コード・シルフでは不可能です』


「コード・シルフでは……なら他の大精霊では?」


『検索中――��――失敗(エラー)、情報が破損しています』


「無理か……いや、火の大精霊は?」


『機能停止中のため内部ファイルにアクセスできません』


「あー、そうか……火の大精霊が再起動できたら、季候の制御はどうなる?」


『高緯度地帯の氷河の融解が可能です。居住可能区域は現在のおよそ二倍から三倍に拡大が可能です』


「そしたら邪霊の制御はできるか?」


『季候維持へ利用するキャパシティを現在と同等にした場合、活動中の邪霊へアクセスして初期化及び制御する事が可能です』


「なるほどなあ……」


 つまるところ、俺がするべきはやはり火の大精霊を再起動させる事らしい。今聞いた内容は知らない単語だらけで半分も理解できてないが、彼の話の裏付けにはなっただろう。


「近いうちに色々整理しなきゃな……」


 幸い、脳裏に記録された内容は忘れることはない。リギスティアさんに相談しよう。


「えーと、ログアウト、でいいんだっけ? また来るよ」


『ミヅカ・リオのログアウトを承認』


 最後のやりとりを終え、俺は部屋を出た。部屋の外に誰もいない事に軽い疑問を覚えながらも、事態は刻一刻と進んでいくのだった。



■□■□



 リオが大精霊との対話を終えた頃。学園――ヴィオテラ・ノーミオの元へと向かう一台の霊動車が走っていた。内装や乗り心地よりも速さと安全性を重視した狭い車内には、リギスティア、ティターニア、そしてソージアが乗っている。事情を聞いたソージアは色々と考えを巡らせていたが、いきなり国の重鎮二人を乗せて走ることになった運転手のメンタルを心配するだけの余裕はあった。やがて夕方の賑わいを見せる学園の門が近付き、数人の生徒達が何事かと囁き始めた。


「到着致しました。お迎えは何時頃に……」

「近くで待っていなさい。行きますよ、二人とも」


 急ぐリギスティアにばっさりと言われ、しばし固まる運転手。不憫に思ったソージアはぺこりと頭を下げ、二人に着いて行った。




「ヴィオ、いったいどういう事ですか!」


 学長室に入るや否やリギスティアは珍しく声を荒げた。一瞬びくっとしたソージアだが、それほどの事態という事だ。


「やあリジー、早かったな。ニアもいるじゃないか。まあ座るといい。紅茶はいるか?」

「結構です! ……いえ、取り乱しましたね。詳しい話をしてください」


 彼女のペースに乗ったら駄目だという事は、ヴィオテラと長い付き合いのリギスティアには分かっている。しばらくして、リジーという愛称で呼ばれるのもいつぶりだろうかと考えられる位には落ち着けた。


「話も何も、文書で伝えた事が全てだ。今から二日前、ドラヴィド国の軍隊がエレメント公国方面に進軍しているのが確認された。向こうからの連絡は無いって事だ」

「それを宣戦布告と判断したということですか。やや早計では?」

「いや、事前の連絡無しに武力による明確な威圧をされたんだ。逆に宣戦布告でないなら何の目的だ?」

「それ以前に、街道と坑道(トンネル)の出口はシルフィオ家が監視しています。そのような報告はありません」

「我々が把握していない坑道くらいあるだろう。現に公国も、ドラヴィドと極東のそれぞれへの進路を秘密裡に握っている」

「それは……」

「あらあら、ヴィオテラ様。そうお責めにならないでくださいまし。やや焦り気味だとは私も思いますよ?」

「ほう? じゃじゃ馬が言うようになったな。まあ発表は向こうからの返答があるまで控えるさ。私はノーミオ家としての立場を示したまでよ」

「ならば、その返答を受ける時は我々も立ち合いましょう。貴女に握り潰されては堪りませんからね」

「ははは。なに、私も()戦争がしたい訳じゃないさ。お互いの立場をきっちりしたいだけでね」


 二人の間に静かな火花が散る。壁際に立つソージアは、この場から逃げたいの一心だった。飄々としているティターニアも今は緊張気味だ。


「……やめましょう。ここで争っても仕方ありません」

「ああ、今どうにかなる問題じゃないからな。それにお前と喧嘩したら体がもたんよ」

「ふふふ。貴女が言いますか、ヴィオ」


 張り詰めた空気を先に破ったのはリギスティアだった。今ここで戦いが始まるのではとさえ思ったソージアは、緊張が解けて座り込んでしまいそうだった。ああ、今日はなんて厄日だろうかと彼女が思ったのは言うまでもない。


「なら近いうちに()()()会議をするか。いいな?」

「ええ。エレメント公国としての意思決定をしなければいけませんからね」

「お二方がよろしければ。場所はいつもの所ですね?」

「ああ。また正式に使者を寄越そう。今日のところは解散だ」

「お騒がせしました、ヴィオテラ様。それではまた後程」

「それでは失礼します、ヴィオ。行きますよ、ソージア」

「は、はい! 失礼いたしました学長!」


 やや性急に部屋を出て行った三人。残された学長の表情を伺う者は誰もいなかった。



■□■□



 時刻は少し遡り、リギスティア達が屋敷を出て行った少し後。当主達に取り残されたイレアとヒナ、セレナは客室へと案内された。指示があるまで待つ事になったのだ。


「ヒマだねー」

「ヒナさん、今はそんなこと言ってられる状況じゃ……」

「でも、わたしたちは何もやること無くない?」

「うーん、確かにお姉様の言う通りですの。お母様たちが帰ってくるまでは何もできませんし」

「セレナ、そのお姉様ってのそろそろやめない……?」

「あら、嫌でしたの?」


 こんな状態になれば図太い……もとい、落ち着いている二人が緊張感の無い会話をするのも仕方ない。イレアは若干アウェー感があった。


「あっ、じゃあさ、イレアちゃんのお祝い会にしよっか!」

「いや、そんな……」

「それは名案ですね、ヒナ。お茶でも用意させましょうか」

「あ、ありがとう、ございます……」


 ここに来てコミュ障っぷりを発揮するイレア。そんな彼女を心配するのももちろんヒナだった。


「イレアちゃーん、そんなに畏まらなくていいんだよ? この中じゃ一番お姉ちゃんなんだから」

「うん、まあそうだけどね……二人みたいに、家の事には関わってこなかったから……」

「あ! てかお兄ぃと結婚するならイレアちゃんがわたしのお姉ちゃんになるんじゃん! イレアお姉ちゃんって呼ぶね!」

「え? うん、まあ、そうなるけど」

「ならわたくしもお姉様とお呼びしますの?」

「むう、セレナは違うでしょー」

「……ふふっ」


 テンションの高い二人に振り回され、つい笑ってしまった。だがそれを目ざとく見た二人は顔を見合わせて笑う。


「あはは、ようやく笑ったね、イレアちゃん! ううん、イレアお姉ちゃん!」

「ええ、ずっと暗い顔をされてましたから。お兄様とご婚約なんておめでたい話ですのに、勿体無いですよ?」

「ご、ごめん……いや、ありがとう」


 顔を見ると、二人は笑顔……を通り越してニヤニヤといった感じだ。


「ねえねえ、それでさ、お兄ぃとはどうなの? どこまでいったの?」

「あら、はしたないですのよヒナ。こういうのは順番がありますの。して、イレア様はお兄様の事をどのように想っておいでですの?」

「え!? えっと、それは……」

「あーもう、お兄ぃは可愛いお嫁さんもらったなあ!」

「うふふ、恋する乙女は美しいとは言ったものですね」


 まくし立てる二人にたじろぐイレア。だが、彼女も自分の口元が緩んでいるのが分かったのだ。それと同時に顔が少し熱くなる。


「ほらほら、お兄ぃのどんな所が好きなのか言ってみ? 言ってみ?」

「ヒナ、はしたないですわ。ところでお二人の出会いをお聞きしたいのですが……」

「そ、その、リオと最初に会ったのは――」


 圧に負けて口を開いたイレア。そこからは二人に促されるまま色々と話してしまったのだ。後になって思い出して恥ずかしくなるのはお約束だろう。

 事態の渦中に訪れたとびきり平和な時間。今この時だけは、少女達の笑顔を阻むものはこの世に何一つとして存在しなかった。



■□■□



 大精霊の間を出て、誰もいない広間を抜けた俺は使用人に今の状況を初めて聞いた。何やらノーミオ家から連絡があり、リギスティアさんとティターニアさんの当主二人がすぐに学園へ向かったらしい。学長と話をするためだろう。残されたイレア達は客室にいると言われ、その部屋までの案内を頼んだ。


「おーい、イレア、ヒナ? いるか?」


 ノックする前に部屋の中からやけに騒がしい声が聞こえた。きゃあきゃあという黄色い声は彼女らのものだ。


「はーい、入っていいよー」


 すぐにヒナが返事をした。扉を開くと、ベッドにうずくまるイレア、彼女を囲むヒナとセレナの姿が。


「……ごめんリオ、今はちょっと顔見れない」

「お、おう。二人とも、あんまりイレアをいじめるなよ?」


 俺と同じく人見知りなイレアにこの二人の相手は大変だろう。だが二人はさらに顔をニヤつかせた。


「えへへ、イレアお姉ちゃーん、王子様がお迎えですよー?」

「こらヒナ、そういうのはやめなさいって……」


 流石にそれは恥ずかしいからやめてくれ。というか、イレアお姉ちゃん? まあ俺とイレアが婚約したら自然にそうなるのか。我が妹は順応が早いったらありゃしない。


「ほらお兄様、イレア様を守って差し上げては?」

「ったく、セレナも悪ノリが過ぎるぞ。おーい、イレア?」

「……」


 話しかけても無言で布団に顔を押し付けて足をバタつかせるイレア。彼女がこんな姿になるまで二人は何をしてたのか……いや、想像は何となくつくけど聞くのは野暮だな。


「……まあいいか。それよりリギスティアさん達は学園に行ったらしいな。何があったんだ?」

「お母様がノーミオ家から連絡を受けまして――」


 イレア達が聞いた内容をそのまま教えられ、ソージア先生が二人に着いて行ったことも知った。緊急事態らしいが、その話を聞いた上でこの空気を作り出したヒナとセレナはどうなってるんだ。


「分かった……とりあえず帰って来るのを待つだけだな。俺からもリギスティアさんに話したい事があるし」

「そうだね。ねえ、お兄ぃが戻って来たって事は、対話は終わったの?」


 ヒナの言葉にセレナは姿勢を正し、イレアも動きを止める。……まだ起き上がれないようだ。


「ああ。またリギスティアさん達も合わせて話さないといけない。こっちはこっちで、どうやらとんでもない事に巻き込まれたみたいだからな」


 俺の言葉に緊張感を取り戻した二人は、更なる事態の進展を予感するのだった。なお、起き上がるタイミングを失ったイレアについてはそっとしてあげようと三人は暗黙に了解した。

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