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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
三章 動乱の気配
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第32話 二人の和解

 ヒナとイレアに着いて行き、リギスティアさんとティターニアさんが待っているという広間へ向かう。二人に聞くと、やはりここはシルフィオ家の本邸との事だ。別邸からはさほど離れていないらしく、ソージア先生の治療の後に使用人が運んでくれたという。


「二人はさ、さっきの戦いを見てどう思った?」

「強いね。今の私じゃ勝てないと思う」


 即答するイレア。第三者の視点からの感想も聞きたかったのだ。


「あれって全部、風の精霊術なんだよね? 最初のは分かるけど、雷とか最後の止まったやつとか意味不明だよ」

「大気を操って雷を起こす風の精霊術は私は聞いたことある。最後のは、予想だけど……」


 首を振るヒナだが、イレアは何か知っているらしい。


「たぶん、巫女とそれに近い力を持つ人が使える、特殊なものだと思う。ほら、リオは前に見た事あるでしょ?」

「前に? 特殊な精霊術……あっ、それって」


 討伐演習が始まった最初の頃、油断した俺を助けるためにイレアが一回だけ使った術があった。確かあれは……


氷獄の楔コキュートス・スフィーナ――昔から私だけが使える精霊術。初めて使った時にお婆様に聞いたわ。それは巫女の力だって」


 そう言って少し俯くイレアは、教えられた当時を思い出したのだろう。巫女になれないイレアにそう伝えたリギスティアさんの気持ちも何となく察せられる。この機会に二人のわだかまりも解消して欲しいものだ。


「ねえねえ、お兄ぃはどんな感じだったの?」


 事情を知らないヒナが話を戻した。


「ああ、手も足も出なかったよ。特にあの雷撃の強みはスピードだな。正直当たらないギリギリの速さで手加減されてたと思う。それに最後の精霊術、安息郷(エデン)と言ってたんだけど、訳が分からんな」

「エデン、ね。あの時はナイフと一緒にリオの体もしばらく止まってたように見えたけど」

「うん。お兄ぃも空中でピタってなってた」

「俺も? いや、一瞬で地面に落ちたと思うんだけど?」


 あれ? 二人は顔を見合わせている。俺の感覚と周りからの見え方が違うみたいだ。どうやら俺の意識が無い時間があり、その間に俺は空中で停止していた。まさか――


「な、なあ。()()()()()()()()なんて事は、無いよな……ハハハ……」

「……ごめん、違うって言い切れないかも」

「うん、お兄ぃの勘違いじゃないなら、もしかしたら……」


 巫女の力。その恐ろしさの一端に触れてしまった気がした。俺はここでやっていけるんだろうか?



■□■□



「あらあら、調子はよろしいですかリオさん?」

「ニア、それは貴女の台詞ではありませんよ」


 広間に入ると、談笑していた二人が出迎えた。おっとりと微笑むティターニアさんはさっき戦った時と同一人物とは思えないな。対するリギスティアさんは悪戯っ子を咎める教師のように溜息を吐く。


「改めて、我が屋敷へようこそリオさん。歓迎します」

「ど、どうも……」


 気絶して起きたら歓迎されているってのも変な話だ。


「それでは早速、先程の御礼を致しましょうか。リギスティア様からお話は聞いていますよ」

「リオさん、私の方からお願いしました。宜しいですね?」

「はい。お願いします」


 大精霊(エレメント)との対話をさせてくれるのだろう。特に説明もせず広間の奥の扉へと向かうティターニアさんに、俺は着いて行った。こういう所の構造はウンディーノ家と同じなんだな。




「ここからはリオさん一人でお願いします。うふふ、詳しいお話は後で聞かせて頂きますからね?」

「は、はい。ありがとうございます」


 笑みの中に凄みを感じるのは俺が一度戦闘で翻弄されたからだろうか。リギスティアさんと一緒にこの人にも事情を話す必要がありそうだな。そんなやりとりをして、俺は一見壁と見紛う、装飾の無い真っ白な扉に手をかけて中に入った。


『――生体コード一致。ユーザー認証……認証完了』


 真っ白な箱から脳内に響く声が聞こえる。ウンディーノ家の時と同じ音声だ。


『ミヅカ・リオをゲストとして登録しました』


 これは一回目の時と一緒だな。なるほど、大精霊ごとに一回目は登録があるのだろう。


機械仕掛けの大精霊オートマチック・エレメント起動……ミヅカ・リオをマスターとして認証しました』

『マスターへメッセージが一件あります。再生しますか?』


 これは前回と同じだ。同じく了承すると、音声が再生される。


『――あー、あー。よし、録音されてるかな』


 何回も聞いた男……俺の先祖の声だ。なんとなく墓参りに来た気分になるな。


『さて、僕の記録を聞くのはこれが二回目になると思う。久しぶり……じゃないかもしれないね。前回からどれくらい経ってるかは分からないけど、大精霊の管理者が苦労させたなら代わって謝ろう。元はと言えばこんなものを作ってしまった僕達の責任だ』


 申し訳無いという気持ちが音声からたっぷり伝わってくる。


『だけど過去を嘆いても仕方ない。君にとっては文字通り遠い過去の話だからね。今回伝える事は二つある。まずは人間に害を成す機械、邪霊(イビル)についてだ。呼ばれ方が変わっていたら、君の時代にある同じ特徴を持つ存在の事だと思って欲しい。もしいなければこれは聞き流してくれ。昔はそんなものもあったんだなって思ってくれればいいよ』


 邪霊(イビル)……! 鋼鉄でできた、生き物とも機械ともつかない謎の脅威。目下、一番必要な情報かもしれない。


『次に僕の敵について。前にも言ったけど、僕は見つかると不味い立場なんだよ。僕を狙っている人がいるから安易に記録を残せないんだ。再生が終わったらデータは削除されるけど、前回と同じで記憶領域に強く定着させるから問題無いはずだよ』


 なるほど、確かに前回の内容も一言一句鮮明に覚えている。大精霊や精霊を作ったりと、どうやら彼の時代の技術は凄まじいものらしい。その辺りも知りたかったが、どれほど文明が衰退しているかなんて予想していなかったのかもしれないな。


『今回の前置きは以上だ。すぐに記録がダウンロードされると思うけど、もし情報がブロックされていたらもう一度来てくれれば解除できるようにしておいたよ。あとは……まあ次回でいいか。他の大精霊へのアクセスも早めに頼むよ――』

『メッセージの再生を終了しました』


 ここで音声は終わった。次は例の記録だな。記憶領域に転写するとやらで頭痛くなるんだよな……


『添付されたデータを開きますか?』


「ああ」


『記憶領域へのダウンロードを開始します』


「くっ、やっぱ慣れないなこれは――」


 視界が眩み、意識が明滅する――



■□■□



 同時刻。広間にはヒナ、イレア、そしてリギスティアが残されていた。三人の間には若干の気まずさが漂っている。しばらくして、ついに空気に耐えかねて口を開いたのはヒナだった。


「はい、二人とも話す事あるんでしょ! お兄ぃも二人が気まずいの心配してるんだよ?」

「ヒナさん……ううん、私からもお願いですお婆様。リオの事を、私が知らない事を教えてください」

「ほらイレアちゃんも言ってるんだから、ね?」

「え、ええ……」


 公国で最も権力を持つと言われる巫女に対してのヒナの口の利き様にイレアは内心戦慄していた。このような事で怒る人では無いが、怖いものは怖いのだ。もっとも、一番驚いているのは初めてこんな話され方をしたリギスティア自身であるのだが。


「分かりました、最初から話しましょう。まずは彼の出自ですね。先程言った通り彼の父は私の妹の息子、甥にあたります。彼の母は……おっと、ヒナさんのお母様でもありますね。彼女は極東統治領の軍人。過去に遠征軍としてエレメント公国に来たのです。そこで彼と知り合い、リオさんを身籠りました」

「じゃあ、リオは公国(ここ)で生まれたのですか?」

「ええ。ですがリオさんが生まれてからすぐに彼女――シオンさんは極東へ発ちました。その時にヒナさんがお腹にいた事が後に分かったようで……」

「わたしも最初に聞いた時はびっくりしたけどねー。で、次はお兄ぃの持ってる()の話ね。えっとね、イレアちゃん。お兄ぃは大精霊と対話ができるの」

「……!?」

「ヒナさん、その話も私からします」


 強引に話を切り上げて暴露したヒナからは、何としてでもリギスティアに全ての話をさせるという意思が見える。話に着いて行くことに必死なイレアと、自分が切り出すべき話をヒナにさせてしまった罪悪感のあるリギスティア。間違いなくこの場を生み出したのは、最年少のヒナであった。


「リオさんが巫女の力を持つのは事実。しかも彼は()()なのです。彼は全ての大精霊(エレメント)と対話ができる、特別な存在。初めて知った時、これを誰かに話す事さえ私にはできませんでした」

「全ての、大精霊と……」


 さらなる衝撃に言葉を失うイレア。リギスティアは続ける。


「イレア、まずは貴女に謝ります。実の孫の貴女に今までこんな扱いをしてしまったこと……ルミナに合わせる顔がありません」

「ルミナさんってのはイレアちゃんのお母さん?」

「うん。ルミナーディア・ウンディーノ。私が小さい頃に事故で無くなった、私の母よ。……顔もほとんど覚えてないけどね」

「……あの時の貴女の事はよく覚えています。子を亡くした私より、母を亡くした貴女の方が辛いはずだと。ですが母のいない貴女を守るには、家から遠ざけるしかなかったのです。許して欲しいなどとは思いません。でも、これだけは知って欲しいのです」


 イレアの瞳をじっと見つめるリギスティア。そこには、慈愛と悔恨の念が詰まっている。


「巫女を継げないのも、両親を亡くしたのも、全く貴女のせいではありません。だからどうか自分を責めないで下さい」

「……はい。分かりました」


 初めて知る祖母の想いをしっかりと受け止めるイレア。伝えられたリギスティアもほっとしているようだ。暫し見つめ合う二人。またもや訪れた沈黙に助け舟を出したのは、もちろんヒナだった。


「それで、お兄ぃの話とはどう関係があるの?」

「ええ、続きを話しましょう。イレアが大精霊と対話できない理由ですが、リオさんがその原因なのです」

「リオが……?」

「それぞれの家、大精霊に対して巫女の力を継げるのはその世代に一人だけなのです。最初に貴女が力を持たないと知った時、私は真っ先に分家の子に至るまで全て確認しました――極東にいる、リオさんとヒナさん以外は。その時確信したのです。二人のうちどちらかが巫女を継いでいると」

「へー、わたしが巫女になる可能性もあったんだ」

「ええ。ですが私はその事を誰にも伝えられませんでした。寧ろ事情を知る者を口止めしたのです。もしウンディーノ家の巫女が極東にいると知れ渡ったら、国家間の力関係にも問題が出てしまいますから……」

「お婆様」


 懺悔をするように過去を吐き出すリギスティアをイレアが止めた。その顔つきは話を聞き始めた時から打って変わってすっきりとしている。


「私は事実を知れただけで良いです。お婆様もリオも、誰かを恨む事はありません。だからこれからは……家族として、支えて欲しいです」

「イレア……ごめんなさい……いえ、ありがとうございます……」


 俯いた顔の奥、リギスティアの目には薄っすらと涙が浮かんでいる。それを見たイレアは少し困惑した後、その頭をゆっくりと撫で始めた。長い時を経て、ようやく二人は「家族」になったのだ。

 ……残念なことに、湿っぽい空気に耐えられなかったヒナが首をすくめてヤレヤレと嘆息するのにはさほど時間はかからなかった。シリアスに耐えられないお調子者である。




「それで……リオの扱いはどうするのですか?」

「状況が落ち着いたらいずれ、彼を正式な巫女として発表します。ですが今は国内にこれ以上の混乱を招くべきではありません。連携のとれるシルフィオ家とだけ、内々に進めていくつもりです」

「じゃあしばらくはお兄ぃもこのままなんだね」


 使用人を呼んでお茶が運ばれて来た頃には落ち着いた二人。今後についての話が始まっていた。


「ええ。リオさんもヒナさんも、普通の学生として生活していただいて構いません。イレアは……そうですね、花嫁修業をしましょうか。ふふふ、ルミナの時を思い出しますね」

「おー、イレアちゃん頑張ってねー」

「は、花嫁……」


 冗談っぽく微笑むリギスティアと他人事なヒナ。イレアは花嫁修業という単語に頬を赤らめていた。そんな時である。先程お茶を出した使用人が、今にも走り出しそうな様子で血相を変えて戻って来たのだ。


「リギスティア様、イレアーダス様、ミヅカ様、ご当主様がお呼びです!」

「何事ですか?」

「――わたくしからお話します」


 慌てふためく使用人の後ろから入って来た小さい影は、セレナーデ・ラバック・シルフィオである。


「たった今、お母様がノーミオ家からの連絡を受けました。皆様にはわたくしからお伝えするように預かりましたの」

「話しなさい」


 緊張が走る。使用人は状況を察して部屋から出て行ってしまった。


「ドラヴィド国の軍隊が、エレメント公国方面へ進軍しているのを発見したとのことです。彼の国からは未だ何も連絡は無く――」


 ドラヴィド国、軍隊ときな臭い言葉に三人は固唾を呑む。


「――ノーミオ家は、これを事実上の宣戦布告と認めました。ドラヴィド国からの返答次第では……戦争になると」


 水面下で動いていた事態が、姿を現したのだった。

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