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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
三章 動乱の気配
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第31話 会議と微笑む戦闘狂

 朝だ。今日は早い時間にティフォ先輩の捜索のための対策会議とやらでシルフィオ家に呼び出されている。


「だいぶ暑くなってきたな……」


 俺とヒナがエレメント公国に来てからそろそろ二か月半。六月下旬の朝は初夏の乾いた暑さの始まりを予感させる。半袖の制服に着替え、朝食を準備してパンが焼ける間に日課のストレッチ。てきぱきと食べ終えたら荷物の支度をする。最後にティフォ先輩が残して行った空き瓶を鞄に突っ込むが、残り一本になってしまった。マテリアル・オーダー用に何か買わないとな。それかマスターの所かソージア先生から貰うのもアリかもしれない。


「ったく、早く帰って来いよ先輩」


 俺は寮を出て、迎えの来る学園の正門へ向かった。




「おはようヒナ」

「おはよ。まだお迎え来ないね」


 寮の玄関で待ち合わせていたヒナと一緒に門まで歩く。聞いた話だとイレアとソージア先生、リギスティアさんの三人はウンディーノ家の本邸から直接行くらしく、シルフィオ家から俺達の迎えの車をここに寄越してくれるようだ。


「ねえお兄ぃ、今日はわたしも呼ばれてるんだね」

「ああ。恐らく婚約の事と父さん――俺達がウンディーノ家の者だって事を発表するんだと思う」

「急だねー。なんかあったのかな?」

「うーん、心当たりはあるけど……」


 ソージア先生が婚約の話をイレアにこぼしてしまったのが原因だろうか? ティフォ先輩の失踪が重なったのもあるだろう。しばらくするとウンディーノ家のものより小さめの、カーテンで中の見えない霊動車が到着した。やはり今回のは内密な案件のようだ。


「おはようございますお兄様、お迎えに上がりました」

「おはようセレナ。わざわざ来てくれたんだな」

「むう。別に来なくてもよかったのに」


 ドアを開けて嬉しそうに出迎えるセレナとは対照的にヒナはやや不機嫌だ。俺はもう呼ばれ方については諦めたけど、未だに馬が合わないのは妹としての対抗意識ってやつか?


「さて、参りましょう。ウンディーノ家の方々がお待ちです」


 セレナは運転手に合図を出し、乗り込むとすぐに出発した。向かう先は繁華街の南にあるシルフィオ家の別邸だ。



■□■□



 質素な造りの建物に着いてすぐに俺達は小さな会議室に通された。席は左右に別れており、議長席から見て右手にはリギスティアさんとイレアが座っていて、ソージア先生はその後ろに立っている。左側の席にセレナが着き、その隣に座っていたセレナに似た雰囲気の男性が立ち上がった。


「やあ、君達がリオ君とヒナ君だね。初めまして、僕はオクタール・シルフィオ。妹がお世話になってるよ」


 すらっと背の高い糸目の青年だ。二十歳過ぎくらいのセレナの兄らしい。


「初めまして、ミヅカ・リオです。こちらは妹のヒナです。こちらこそお世話になっています」


 差し出された手をとって握手をし、ヒナはぺこりとお辞儀をする。こういう所に慣れていないヒナが人見知りだな。珍しく俺とヒナの立場がいつもと逆だ。


「さあ席に着きたまえ。大丈夫だ、ここにいる人は信頼していい」

「ありがとうございます」


 促されるままイレアの横に座る。こちらもかなり緊張しているようだ。というより俺が落ち着いているだけか? リギスティアさんがいる以上、変な事にはならないだろうという信用があるのだ。

 しばらくして部屋に入って来た女性が議長席に着いた。彼女が主催者だろう。


「皆さんお集まり頂きありがとうございます。初めましての方もいらっしゃいますね、本日の司会を務めさせて頂きますティターニア・シルフィオと申します」


 でかい。なんと言うか、スタイルが良いなんて言葉じゃ足りないくらいだ――呆けて見ていたらヒナに肘を抓られた。仕方ないじゃないか。セレナの母のようだが、オクタールさんと同い年にすら見えるくらい若いな。……女性の年齢を詮索するのはよそう。


「さて、まずはティフォグランデ・ベントについて両家が把握している情報をそれぞれ共有しましょう。先に我々の方からの報告を。オクタール、お願いします」

「はい。街道や国境、大使館での確認はありません。まだ国内に潜伏していると見ていますが、今後も警戒を強めます。彼の交友関係を当たっていますが、そちらは芳しくありません」


 机の下でヒナに怒られてる間にも話は始まっていた。外交を担っているシルフィオ家の権限で要所を監視しているが、ティフォ先輩は見つからないようだ。


「では私の方から。ソージア、話しなさい」

「はい。彼に関する情報を二点掴んでいます。まずは一週間ほど前、繁華街にあるこちらのレストランに来ていたようです。彼はそこの常連でしたが、店主は彼が学園を除籍されたのを知らなかったとの事です」


 リギスティアさんに指名され、ソージア先生が説明を始める。配られた資料には俺も働いているレストランの事が載っていた。マスターに迷惑がかかっていないか心配だ。


「それと、この手紙ですが……」


 次の資料は、あの日届けられた手紙の写しとその説明だ。ざっと目を通したティターニアさんの顔つきが不審なものになる。


「封筒の隅に記された五つの数字――21、41、40、6、49。これらは暗号と見てよいでしょう。この内容が具体的に何を示唆しているのかは不明ですが、ヴィオテラ・ノーミオとの間で何か不利益を被ったという意味なのは確かです。やはりティフォ・ベントを発見して事情を聞くのが最優先かと」

「ありがとうございます。多少の進展はありましたが、対策に変化は無いという事で宜しいですね。オクタールは繁華街の捜索を指示しなさい。国境から多少人員を割いても構いません」

「分かりました母上。僕は公務もありますので、ここで失礼します。リオ君とヒナ君はまたの機会に」


 先生の話で情報共有は一旦終わったようだ。すんなりと話が纏まったが、この場では話し合いというより確認の意味が強いのだろう。オクタールさんは足早に部屋を出て行ってしまった。


「さてニア。貴女から何も無ければ、こちらの話をしてもよいでしょうか?」

「ええ、リギスティア様。どのようなお話か楽しみですね」


 ニアと呼ばれて糸目をさらににこやかに細めたティターニアさんが促す。ここからが本題とばかりにリギスティアさんが口を開いた。


「ここにいるイレアーダス・ウンディーノとミヅカ・リオの婚約を正式に決定致しました。各家への公表は今は控えますが、いずれ公式な場での発表をします」

「あらあら」

「まあ、おめでとうございますお兄様!」


 全て知っていたかのような、若干白々しい反応をするシルフィオ家の母娘。少し照れるが、イレアも同じ様子だ。


「ですが、リオさんの身元に関しては家の方々を納得させられるだけのものがあるのでしょうか?」

「ええ。彼の母は極東統治領軍で高位の方。そして父親は……私の甥ですから。彼は正真正銘ウンディーノ家の直系の子です。血縁はありますが、イレアとは再従姉弟(はとこ)ですから問題ありません」

「お婆様!?」


 台本通りのようなティターニアさんの疑問に対してきっぱりと俺の身分を明かすリギスティアさんだが、そこでイレアが声をあげた。


「リオが、ウンディーノ家の子って……そんなの聞いた事ありません!」

「落ち着きなさいイレア。リオさんは話していなかったのですか?」

「えっと、婚約の事までしか……」


 初耳だと慌てるイレアを諫めるリギスティアさん。確かにいきなり俺が親戚だったと聞かされれば驚くのも無理は無い。あれから詳しく話をする時間が取れていなかったな。この事態の元凶とも言えるソージア先生の方を見ると、小さい体を更に縮こまらせてごめんなさいとジェスチャーをしている。情報の齟齬があったようだ。


「イレア、納得しなさい。何も問題はありません」

「ですが……」


 イレアとしては混乱するしかないだろう。今まで何も関わってこなかった話が全て決まっていて、次々に明かされているのだから。ソージア先生も申し訳なさそうな顔でイレアを見つめている。そして、この場を収めたのは議長であるティターニアさんだった。


「まあまあイレアーダスさん、婚姻自体に納得していない訳ではないのでしょう? 話に多少の行き違いがあっただけでしょうから。それよりリギスティア様、私から一つ宜しいでしょうか?」

「なんでしょうニア?」

「他人の婚姻に口を出すほど無粋ではありませんが……リオさんが巫女家の令嬢を娶るだけの素質があるのか私は疑問でして」

「お、お母様?」

「ニア、手荒な真似をするなら止めますよ」

「――リオさん、ひとつお手合わせを願います。よろしくて?」


 あたふたとするセレナと、目を伏せて小さく溜息を吐くリギスティアさん。俺を含むそれ以外の者は首を傾げるのだった。



■□■□



 場所を変えましょうと言って部屋を出たティターニアさんに俺達は着いて行った。何故かとても上機嫌に歩む彼女から離れ、セレナが俺に近づいて耳打ちをした。


「お兄様、ああなったらお母様は止められません。お気を付けてくださいまし」

「えっと、何かあるのか?」


 何事かと、イレアとヒナも覗き込む。


「お母様はなんと言いますか、いわゆる戦闘狂なのです……」

「せ、戦闘狂って大げさな」

「いえ、父と結婚する前は毎日のように一人で勝手に国外に出ては邪霊(イビル)を狩っていたとか。わたくしが生まれてからは抑えているようですが、今もシルフィオ家の警備を自身で一任しているのです。父も亡くなってからは止める者も居りませんし。ティフォグランデの件はご存じでしょう?」

「そういえば……」


 ティフォ先輩は風の巫女に勝ったと言っていた。四年ほど前の事なのでセレナに代替わりする前だな。大精霊(エレメント)の間に侵入した時に戦ったというから、巫女自ら警備をしているのは本当なんだろう。だが彼女のイメージからは随分かけ離れた話だ。

 というか、さらりと言われたけどセレナの父も亡くなっているらしい。イレアの両親もそうだし、俺の父親も姿が知れない。ちょっと自分の身が心配になった。


「最近はよく体を動かしたいと言っていましたが、こんな形で発散するとは……お兄様、お母様に代わって謝ります」

「いや、いいよ。俺も少し興味はあるんだ。まあちょっとだけ手加減してくれるように頼むからさ」

「無理しなくていいんだからね、お兄ぃ」


 深々と頭を下げるセレナを止める。今まで静かだったヒナも心配して口を開いた。話だけ聞くと不安だが、ティフォ先輩がいなくなってから本気で戦う事が無かったのだ。力試しにはうってつけだろう。

 そんなやり取りをするうちに石畳の裏庭に着いた。ティターニアさん以外の者は危険を避けるかのように後ろに下がっている。


「ハンデをあげましょう。先に一手、精霊術を使って良いですよ? 降参と言った方が負けでよろしいですか?」

「はい。お手柔らかにお願いしますね」

「うふふ、もし怪我をしても優秀な治癒術が使える方がいらっしゃるでしょう?」


 微笑みながらソージア先生に目配せをするが、暗に手加減はしないと言われて先生と俺は背筋が凍った。ヤバい、あれはマジだ。覚悟を決めろ俺。


「では遠慮なく。精霊(スピリット)よ――」


 空き瓶を鞄から取り出し、黒い球体をイメージして意識を集中させる。ガラスなら基本は何でもいいのだが、扱いに慣れているものを持ってきて良かったな。うん、調子は良い。


「あら、それは……?」


 頭痛が収まり、目を開けると皆の視線がマテリアルに集まっていた。さしものティターニアさんも見た事は無いようだ。


「参ります」


 薄く盾状に広げたマテリアルを掲げ、全力で突進する!


「風の加護を我に」


 ぽつりとティターニアさんが呟いた瞬間、突風で急に足が止まる。だがこれくらい予想はしていた。


「精霊よ!」


 加速の術で勢いを取り戻し、懐へと潜り込む。風を受けるマテリアルを捨てて、そのまま体の陰に隠し持った大振りのナイフを抜き放つ!


「あらあら、これは珍しいですね」


 圧縮した空気の壁を切り裂く感覚。だが刃先は惜しくも届かず、弾き返されてしまった。一旦距離をとって構える。


「うふふ、血の気の多い方は好きですよ?」

「……そりゃどうも」

「貴方、()の手ほどきを受けているのでしょう?」


 そう言うや否や、彼女を包む空気の壁が消える。


「うふふふ、もっと楽しませて下さいね?」


 火花が散る。幻覚でも比喩でもない。雷光が蠢く。


「さあ、こちらから行きますよ」


 一閃。咄嗟の判断で飛び退くと、さっきまでいた足元の敷石が黒く焦げている。


「あら、良い判断」

「手加減ってのは……無し、ですよねっ!」


 ならば攻めるのみだ。マテリアルを拾って棒状に変える。遅くてもどかしい!


「流泡!」


 電撃を受け流すために体を包むように水の膜を貼る。少しでも体が触れたら終わりだが、今は仕方ない。


「お上手ね」


 読み通り電流は体に届いていない。だが下手に突っ込めず膠着状態だ。いや、動き回っている俺の方が分が悪いな。多少無理してでももう一度やるしかない。


「精霊よ――」


 剣の形に変えたマテリアルを右手に構えてナイフは左で逆手に持ち替え、それぞれに風の刃を纏わせる。剣術はかじった程度だが、精霊術の産物である黒い剣は手足のように動かせる。


「はあっ!!」


 重心を落とし、一気に詰め寄る!


「あらあら、器用なこと」


 ティターニアさんは避けもしない。精霊術を通さない剣を振るって雷撃を防ぐ。あと一歩!


「精霊よ!」


 限界まで近づけば勝機はある! 精霊術でナイフをさらに強化し、思いっきり――投げつける!


「ふふ、合格点はあげましょうかしら?」


 袈裟斬りにした囮のマテリアルに雷撃は集中し、ナイフは無防備な彼女の頭に向かって――


「いいですねぇ、あの時を思い出します。ですが――安息郷(エデン)


 ――力を失ったかのように、カランと音を立てて地面に落ちる。


「まだ足りませんわね」


 そう聞こえたのを最後に、目の前が真っ白に染まり――



■□■□



『やあ。このメッセージは君が端末の一つに初めて近づいた時に再生されるようにしてあるんだ。万が一、端末が紛失した時のためにね。願わくば君の時代に良識ある者が大精霊(エレメント)を管理していると信じているよ――』




「ん……」


 朝だ……いや、違う。俺は確かティターニアさんと戦って――


「っいったたた……」


 そう、裏庭にいたはずだ。なんとか一撃食らわそうとしたが、最後に雷撃を受けて気絶したのだろう。怪我らしい怪我は無いが、突き刺すような頭痛と体力の消耗を感じる。


「やっぱり強かったな」


 防御に専念されれば近づけず、雷撃は受ければ一発でアウトだ。そして最後に使われた安息郷(エデン)という術。全力を込めたナイフは完全に無効化された。原理は分からないが、ナイフにかけた精霊術も投擲の勢いももろとも消えたように見えた。あんな攻守完璧な人に勝つなんて――


「いやいや、ティフォ先輩強すぎだろ……どうやって勝ったんだよ?」


 脳内に先輩のドヤ顔が浮かんだ。自分で強いと言い張るだけあるな。だが逆に考えれば何かしらの対策法があるといく事だ。まあ俺にできるかはさておき。

 そして今考えるべき事はもう一つある。夢で聞いたメッセージだ。どうやら大精霊は近くにあるらしい。俺は別邸にいたはずだが、運ばれたのだろうか?


「皆を探すか……って、そもそもここはどこだ?」


 ちょうど部屋から出ようとした時、扉をノックする者が。返事を待たずに入ってきたのはヒナとイレアだ。


「お兄ぃ、入るよー」

「リオ、起きたんだね。体の調子はどう?」

「ああ、怪我は全く無いよ。体力は歩ける程度しか残ってないけどさ」

「よかった。ホムラ先生が治してくれたけど、酷い火傷だったんだよ」

「うん……わたしあの人ちょっと怖い」


 そう言われて自分の体をぺたぺたと触るが、完璧な治療のおかげで実感が全く無いな。ヒナが怯えるなんて相当だ。次は丁重にお断りしよう。


「心配かけたな。リギスティアさん達はどうしてる?」

「うん、お兄ぃを呼んできてって。()()見せてくれるんじゃない?」

「……! 分かった、すぐ行こう」


 俺はヒナの言う事に合点がいったが、イレアはクエスチョンマークを浮かべている。この状況だ。ついに風の大精霊(エレメント)とご対面できるのだろう。さあ、メッセージとやらを聞きに行こうじゃないか。

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