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機械仕掛けの大精霊 オートマチック・エレメント  作者: ロングフイ
二章 大精霊と巫女
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第25話 過去からの使命

「当主様、イレアーダス・ウンディーノ様とミヅカ・リオ様をお連れしました」

「ご苦労。下がりなさい」


 日も高くなった頃、ウンディーノ家本邸に到着した俺達は早速謁見の間に連れて来られた。てっきりまた俺一人かと思ったら、今度はイレアも一緒らしい。

 今日は前回と違って、リギスティアさんの座る豪奢な座の横左右に半円状に人が並んでいる。格好からして使用人ではなさそうだ。


「ご無沙汰しております、巫女様」

「御機嫌麗しゅうお婆様」

「顔を上げなさい」


 言われた通りに顔を上げると、ちょっと気になる人がいる。リギスティアさんのすぐ横に立つこの男だが、妙に目つきが悪いというか、こちらを睨んでいると言っても良いくらいだ。ピンと立った口髭からはプライドの高さをひしひしと感じる。


「さて、先日の邪霊(イビル)討伐訓練ではご苦労様でした。イレア、体の調子はどうでしょうか?」

「はい。治療のおかげで今は全く支障はありません」


 いや、睨んでいるのはイレアの方だ。前回いた記憶は無いが、イレアに対して何かあるのだろうか?

 そんな事を考えていると、リギスティアさんの視線がこちらを向く。集中せねば。


「ミヅカ殿の方は如何でしょう?」

「自分は幸い軽傷で済みましたので。お気遣いいただきありがとうございます。ですが……イレアーダスさんと妹を守り切れませんでした」

「ふむ、この件に関してミヅカ殿自身がどう思っているのか聞きたいですね」


 俺の方から本題を切り出してみたが、乗ってくれたようだ。大事なのは建前と姿勢を見せる事。移動中にもイレアとソージア先生から何度も言われたな。


「今回の件は自分に責任があると考えています。作戦の立案及び指揮はソージア先生とイレアーダスさんから一任されていました。その上で彼我の力量を見誤り、失敗したと考えています」

「それで、どのようにしたいと?」

「二人を、そして自分自身を守れる強さを身につけます」

「貴方の考えは分かりました。……宰司殿、何か言いたいようですね」

「当主様、私はこのような極東のガ……少年に任せるのは反対ですね。仮にもウンディーノ家の令嬢なのですから」


 イレアを睨んでいた髭の男――宰司と呼ばれた彼は反対のようだ。てか今ガキって言いかけただろ。イレアを指して仮にもとか言ってるし、癪に障る男だな。


「おや、貴方の仕事は私の補佐。私が認めた彼を否定するつもりですか?」

「ですが……!」


 おお、信頼されていて何よりだが、彼に賛同している様子の者もいる。てか今回は人が多いな。リギスティアさんはどういうつもりなんだろうか?


「素性が知れないと言うなら私が保証しましょう。実力が無いと言うなら私が手ほどきをしましょう。その上でまだ反対するという者がいるのであれば、手を挙げなさい」


 広い部屋に集まった十人を超える大人達が静まり返る。なんというか、巫女って凄いんだな……。しかしその中で唯一手を挙げた男がいた。


「当主様、」

「宰司殿。貴方のように強い信念を持って当家を支えて下さる方には大変感謝しております。ですが今ばかりは却下とします」


 彼を遮ってリギスティアさんは言い切った。なるほど、この場にいる全員に俺を認めた事を見せつけるために呼んだのだろうな。ここにいるのはやはりウンディーノ家の首脳陣と言った所か。


「……分かりました。当主様の深いお考えあっての御判断と理解致しました。差し出がましい真似をお許し下さい」

「許しましょう。さて、では全員下がりなさい。私は彼と話があります」

「当主様、流石にそのような事は!」

「下がりなさい」


 今までに無い程の厳しい口調でリギスティアさんは言い、渋々と宰司達は部屋を出ていった。隣でやや呆然と立っていたイレアもソージア先生に連れて行かれた。ようやく()()本題に入れそうだ。


「リオさん、少々面倒事に巻き込んでしまってすみません。彼等にもはっきりと見せる必要があったので呼んだのですが……宰司殿にも立場がありますので、許してください」

「いえ、そんな。巫女様に認めて頂き、嬉しく思います」

「ふふ、そんなに畏まらなくてよいですよ。リギスティアでけっこうです」


 心を見透かされたような気分だ。急な変わり様には二回目でも驚くし、ホントに不思議な人だな。


「そうですね、私からのお小言は後にしましょうか。先にリオさんの話を聞きましょうか」

「お、お小言?」

「はい。ですからそれは後にしましょう。聞きたい事でも要望でもご自由にどうぞ?」

「分かりました……では聞きたい事と、要望もいくつか。いいですか?」

「いいでしょう」

「まず、大精霊(エレメント)に関する知識を知りたいです。できる限りなんでも。特に精霊術についてなのですが……前回、大精霊と対話した後に奇妙な事が起こったんです」

「奇妙な事?」

「何故か、今まであまり上手く使えなかった水の精霊術が急に使えるようになったんです。とはいえ大したものではないんですけどね。その理由について心当たりはありませんか?」

「大精霊との対話で精霊術が強化された、ですか。聞き覚えがありませんね……そもそも対話した者の例が少ないので。巫女となる者は元から精霊術の扱いに長けていますから、私を含めて彼女らが気付かなかったとも考えられます。調べておきましょう。あとは大精霊の役割や歴史について教えて欲しい、ということでよろしくて?」

「はい、お願いします」


 大精霊。それは全ての精霊の頂点に位置する偉大な存在だ。強い力を持ち、巫女家の人間しか扱うことができない。氷河の時代の前から、邪霊の脅威を退けて人々を守ってきたという逸話があり、この国では神のように崇められているらしい。それ故に、巫女家はこの国のトップに立っているのだ。俺の知識としてはこの程度だな。


「そうですね……大精霊は遥か昔からこの国を守ってきました。かつてエレメント公国が王政だったということはご存知ですね?」

「はい。王政を打倒して、共和制になったと聞いています」

「ええ。ですが王が統治していた時代から、巫女家は政治に対して強い力を持っていたのです。しかしある時に王族が暴走して巫女家と対立し、内戦の末に今の共和制に至りました。なので、王政を打倒したというよりも、王族を政治から追放したというのが正しいです。巫女家は、記録の残っていない建国の時からこの国の中枢にあったようですから」

「なるほど……」


 じゃあ王族はどこに行ったんだ? という疑問が頭に浮かんだが、聞くまでも無いだろう。放逐したか、完全に取り込んだか。少なくとも、今は影も形もないはずだ。血みどろの歴史があったに違いない。現に、学園から西に大通りを行ったところにある旧王城は巫女家が管理しているという。


「歴史についてはこのくらいで。次に大精霊の機能ですが、大きく分けて四つほどあります。まず、天候の予測と制御です。この国の一帯は温暖ですが、北も南も氷河に覆われています。ですので、氷河から流れ出た水で年中雨が降ってしまうのを防ぐために、この国の上空の大気や気温を制御しています。常にコントロールできる訳ではありませんが、作物の生育状況に合わせて降雨量や時期を調節することもあります」

「そ、そんなことまでできるんですか?」

「ええ。学園にも一週間の天気の予報が掲示されているでしょう? 毎日のように天候を制御している訳ではないですが、予報は可能なので国民の生活に役立てているのです」


 学園の掲示板に貼られているのを見た事があったけど、そういう仕組みだったのか。やけに当たるなとは思っていたが、操作までできるなら当然だ。


「次に、国内の上下水道の管理です。細かい修繕や配管の工事、検査は人手で行っていますが、流量の監視や雨天時の増水への対処は大精霊で行っています」

「凄いですね……極東の中心でもここまで水道が整備されてる所は無いですよ」

「いえ、大精霊があってこそですから。私個人としては、極東の精霊術に頼らない技術やドラヴィドの学問も積極的に取り入れるべきと考えています。巫女家の立場があるので強くは言えませんが……」


 確かに、極東では精霊術は一部の人間しか使えない。それ故に発展しているものもあるが、この国ほど豊ではないと、極東を離れてからずっと思っている。母さんの「世界は広い」という言葉を毎日のように体感している俺からすると、力の差は歴然だろう。

 しかしこういう発言を聞くと、リギスティアさん本人は根っからの保守派という訳ではないんだろうな。派閥のトップというものは大変そうだ。


「あとは時刻の管理や国境の警報などがありますが、先に述べた二つが最も大きな役割です。いかがですか?」

「はい。ありがとうございました。今聞きたいことはそれだけです」


 何か解決した訳じゃないが、とりあえず疑問は解消した。ここからが本題だ。


「では要望をどうぞ。でも聞けない願いもありますから、そこはごめんなさいね」

「いえ。一つは大精霊との対話をもう一度したいという事です。あと一つは――リギスティアさん、イレアと二人で話をしてあげてくれませんか?」


 二つ目の願いを聞いてリギスティアさんは視線を落とした。まあ期待はしてなかったんだけど、やっぱり駄目だったか。一つ呼吸を置いて彼女は口を開いた。


「一つ目については問題ないです。二つ目ですが……()()私には応えられません。ごめんなさい」

「……リギスティアさんにも立場があるのは分かってます。無理な事を言ってすいません」

「いいえ、リオさんはあの娘を想って聞いてくれたのでしょう? それだけで十分ですよ」


 そう言われると少し気恥ずかしいが、微笑む彼女はウンディーノ家当主の表情ではなく一人の少女の祖母であった。


「貴方がそう言うとは、イレアも私と話す事を望んでいるということなんですね……今だけは当主という立場が憎らしいです」

「イレアは、自分をリギスティアさんとウンディーノ家に認めさせると言っていました。そのために討伐訓練で功績を立てるとも」

「そうですか……無茶だけはさせないで下さい。私が言える事ではないのですけどね」


 自嘲気味に言う彼女に掛ける言葉も見つからない。本来俺は部外者だからな。……いや、もう無関係ではないか。というか元々俺とウンディーノ家には何か関係があったのだろう。母さんもリギスティアさんも教えてくれないから分からないが。


「さて、では大精霊の間を開けましょう。私からの話はその後でいいですよ」

「もったいぶられると気になるんですけど……分かりました、お願いします」


 お小言と言ってたな。非常に気になるが、まずは大精霊との対話が先だ。俺はリギスティアさんの後に続いて以前と同じ奥の部屋へと向かった。



■□■□



「ここからは一人でお願いします」

「はい。では行ってきます」


 真っ白な扉を開き、中へと入る。変わらず俺を出迎えたのは無機質な白い箱だ。


『――生体コード一致。ユーザー認証……認証完了』

『ゲストの再ログインを確認』


 二回目だからか聞こえる言葉が前回と違う気がする。


機械仕掛けの大精霊オートマチック・エレメント起動……ミヅカ・リオをマスターとして認証しました』


 よし、前回のは偶然じゃなかったって事だな。まずは夢で聞いたやつを確認しないと。


『マスターへメッセージが一件あります。再生しますか?』


 やはり何かあるみたいだ。了承の意を伝えると、しばらくして音声が流れ始めた。


『――あー、聞こえてるかな。急いでいなければ少し聞いて欲しい。そこにいる、おそらく僕の子孫の君』


「子孫? てかこの声……」


 聞き覚えがある。多分この前の夢で聞いた声と同じなのだろうか。でもそれ以外でも聞いたような……


『すまないがそっちの様子は分からないんだ。君が誰なのかも、時代も、夢で知らせてからどれくらい経ったのかも。でもこのメッセージは君にだけ届くように設定した。――全ての大精霊(エレメント)にアクセスできる君だけにね』


「全ての大精霊……と、対話できるって事か? 俺が?」


『驚くかもしれないけど、そういう人が現れたらこのメッセージが届くようにしたんだよ。つまりこれを聞いている君だ。そして君には全ての大精霊にアクセスして記録を集めて欲しい。回りくどいけど保険のためにばらけさせたんだ。面倒かもしれないが君のご先祖からの頼みだよ』

『とはいえ僕に言われなくても他の大精霊にもアクセスする事になるって君も薄々感づいていたかもね。誰かに言われた事もあるかもしれない。こういう言い方は好きじゃないんだけど、運命とか宿命ってやつかな』


 俺の目的と重なった事、そしてリギスティアさんに言われた(えにし)という言葉を思い出す。本当に運命というものなのかもしれない。


『今の僕から伝えられる情報は制限されていてね……見つかると不味いから段階を踏んでアクセスしないとメッセージを開けないようにしてるんだ』


「ここで全部分かるって訳じゃないのか。確かに面倒だな。そもそも他の大精霊にどうすれば接触できるのかも分かんないし……」


『さて、音声データはここまでだ。後は大精霊に記録を残しておいたから確認してくれ。もし僕より後の時代のユーザーがデータをブロックしてたら、またしばらく経ってからもう一度来て欲しい。できるだけの事をしたから後は君に託すよ、未来の――』

『メッセージの再生を終了しました』


「あっ……終わりか。最後に何か言いかけてたけど、まずは記録とやらだな」


 重要な事なら先に言うはずだろう。ともかく調べなくては。


『添付されたデータを開きますか?』


「開いてくれ。何が書いてあるのやら……」


 てかデータって、どうやって見るんだ? この白い箱から紙でも出てくるのかと思った時、


『記憶領域へのダウンロードを開始します』


「へ? 何か、頭が――」


 俺の意識は白く塗りつぶされて――



■□■□



 データの脳への転写は初めてだったかな? ちょっと大変かもしれないけど、この内容は覚えておいて欲しい。


 まず初めに、大精霊(エレメント)とは人の手によって()()()()存在なんだ。人でもないし、命を持つ存在でもない。かく言う僕が製作者の一人だからね。しかしこの真実は隠されるだろう。隠す事自体に僕は賛成でも反対でもないのだけど、真実が失われる事だけは避けたいんだ。つまり保険だよ。君には然るべき時のために真実を知っておく必要がある。


 次に精霊(スピリット)について。君の時代の言葉で理解できるかは分からないけど……物理次元の上に重なっている世界――精神や物理法則、情報のみが存在する場所に構築した、非物質性の操作端末と言えば良いのかな。何を操作するのかは知っての通りだ。詳しい理論は今は説明できないけど、人の秘められた力を使って超常現象を起こす()()だ。もしかしたら君の時代では認識が間違ってるかもしれないね。


 さて、これらを踏まえた上で君にやって欲しい事がもう一つある。それは――



■□■□



「――はっ」


 一瞬。意識が明滅した。そしてたった今、文字通り脳裏に刻まれた記憶を反芻する。


「大精霊が、作られた存在……精霊は道具……?」


 そして最後に伝えられた事。


「火の大精霊が、()()()()()()()()()……」


 ――機能が停止された火の大精霊をどうにか再開させて欲しいんだ。そうしなければ、いずれ世界は氷に飲み込まれてしまう――


 氷河の時代と呼ばれた、世界の文明が悉く失われた年代。それを指しているのだろうか。その原因が火の大精霊?


「火の大精霊についての情報を教えてくれ。機能が停止しているというのは本当なのか?」


『コード・サラマンダーの機能は一部を除いて完全に停止しています。解除方法は現時点で不明です』


「そんなの聞いた事ないぞ……大精霊が動かないなんて一大事じゃないか! 巫女家は隠しているのか?」


 いや、さっき聞いた話から推測するに、火の大精霊は何百年も前から機能が停止しているはずだ。メッセージの送り主――大精霊を作ったという彼は機能の停止を知っていた。彼が生きていた時点で止まっていたのか、止まる事を予期していたのか。そしてそれが氷河の時代を招いたとか?


「それを再開できるのが、俺なのか?」


 とんでもない頼みをされてしまった事だ。これはリギスティアさんに相談しないといけないな……


「そうだ、思い出した。四属性を同時に使った精霊術について何か知ってる事はあるか?」


『精霊術のマニュアル操作に関する技術は現在秘匿されています』


「マニュアル操作って……」


 ティフォ先輩が使った言葉そっくりそのままだ。再び先輩への疑惑が起こる。ホント怪しいなあの人は……


「あとは……いや、また今度にしよう。今日はもういい。ログアウト……でいいんだっけ?」


『ミヅカ・リオのログアウトを承認』


 まったく、この部屋に来ると分からない事だらけになってしまうな。俺は今からするべき事を考えながら部屋を出るのだった。

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