1.3日目 【説明受けてみた!】試験の内容は『声』!? ドゥーエの入団テストが衝撃だった!!
「電池が切れた? じゃ早いとこ充電できるとこ探すか」
「でもお兄ちゃん、この世界に充電器もコンセントもあるのかな」
「……」
軽い目眩でよろけるとダイアンに支えられた。
「おい大丈夫か? 着いたぞ。ここがギルド『ドゥーエ』だ」
ギルド『ドゥーエ』
ホテルの見た目とは裏腹に、中は大衆居酒屋のような雰囲気が漂っていた。行き来する冒険者、壁中に張り巡らされたチラシの数々。クエストの依頼だろうか?
だがそんな事より今はスマホだ。電池を回復させる手段を何としてでも見つけないと。
「じゃあ俺はこれから換金所に行ってくるから、アンタらとはサヨナラだな」
「ご案内ありがとうございます、ダイアンさん。私たちは受付に行けば良いんですよね?」
「おうよ、健闘を祈るぜ」
「お兄ちゃん、いつまで魂飛ばしてるの。早く行くよ!」
ルリに襟足を引きずられながらダイアンと別れる。そのまま受付に向かった。
受付を担当してくれたのは1人の女性だった。童顔だがパーツがはっきりしていて、青髪のボブカットが可愛らしさをより引き出している。耳が尖っているのを見ると、これがエルフと呼ばれる人種なのだろうか?
「初めての方ですよね? いらっしゃい! ドゥーエへようこそ!」
「えっと、私たち実はとっても遠いところから来て、似たような境遇の方を……」
「何か電気を扱っている物、もしくは人はいませんか?」
何やら聞きたがっていたルリを遮って会話に入る。
「はい?」
実は……と続けてスマホを差し出す。
「この機器は俺たちにとってとても大切な物なんです。ただ、いま電池切れで動かなくなってしまって。それでこいつを充電しなくてはいけないんです。本当なら専用の充電器が存在するんですが生憎無くしてしまってね。ですがこの世界なら電気を操る者の1人や2人いてもおかしくないでしょう? 心当たりはありませんか?」
「ちょっとお兄ちゃん! まずは帰る手段のアテを聞かないと……」
「そういう事でしたら」
受付嬢がニコリと笑う。
「勿論、電気使いの方々は大勢ドゥーエに所属しています。ですが他所からの頼み事となるとそれ相応の謝礼を支払わなければなりません。宜しいですか?」
「宜しくありません! 一文無しなんです私たち! そんなことより……」
「そこを何とかお願いできませんか? 俺たちで出来ることなら力を尽くしますよ」
でしたら、と受付嬢が1枚の紙切れを取り出した。何が書いてあるかはわからない。
「テストを受けてドゥーエに入団してみては? 身内からの依頼なら勿論タダで済ませられますし、寮に入れば格安で衣食住が利用できます」
♢
やはりこうなる運命だったのだ。
あれからカンカンに怒るルリを何とか宥め、俺たちは入団テストを受ける運びとなった。一階最奥の部屋に通されしばらく待っていると扉が開かれた。
「えっと、入団希望の方々だったかな。名前は……」
「琴乃木ルリです」
「ワンだ」
「え、お兄ちゃんそっちの名前使うの? 前から思ってたけど犬みたいでマヌケだよ」
「ウソでしょ?」
「ルリさんとワンさんだね。初めまして、僕はここの入団テストの審査を務める『ミツバ』だよ。アホ毛が3つのミツバって覚えてね」
そう朗らかに笑うとミツバ。年齢は俺と同じくらいだろうか。かなりの美少年で透き通るような声をしている。くるくるに巻かれた銀髪のパーマが中性的な雰囲気を醸し出している。
「えっと、お二人はテストの内容をどこまでご存知かな?」
「何も聞かされていないから一から教えてくれると助かる」
「あはは、了解」
なにがあははだ、イケメン野郎。
「と言っても難しいことは何もないんだ。ドゥーエでは『声』使ってその人が持つ適正や力量を測るよ。ものの数分で終わるから早速やってみようか」
ミツバはそう言うと透明な杯を机に置いた。奇妙な文字や模様が側面に施されている。
「『アクア』」
杯に手をかざしながらミツバが何か唱えた。するとミツバの手から青みがかかった液体が杯に注がれた。
「す、すごいミツバさん!」
「スマホ! スマホで撮らしてくれぇ!」
「あはは、そんな喜んでもらえると嬉しいな」
表面ギリギリまで注がれた水が微かに揺れている。これを使ってテスト? 想像がつかない。
「お二人は声の力を知っているかな?」
「「声?」」
「声にはその人が持つ強さや優しさ、歩んできた経験が全て含まれている。そして奥底に眠っている力さえも声は示してくれる」
おっと一気に胡散臭いぞ? 怪しい宗教かなにか?
「テストは簡単。この杯に語りかけるだけで終わり。話す内容は何でも。自分の好きなこと、やりたいこと、やってきたこと。それが声を通して波紋を作り出す。するとあら不思議。今度は杯の方から語りかけてくるんだ。『オマエはナニモノなんだ』ってね」
くそ、ウソだとしても動画に残しておきたい! バッテリーの寿命があと5分長ければ!
「じゃあ、やってみよう! ルリさん、杯の前に座って」
抑え切れない興奮がルリの体から湧き出ていた。それを見て、妹が昔からファンタジーに憧れていたのを思い出した。
……、お前は帰りたかったんじゃなかったのか。
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