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レッサーシャドウ  作者: 氷山坊主
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ウェポン・アラクネ

 山賊のアジトとなった洞窟。その最奥にある広い空間に山賊たちは集められていた。


 「大の男たちが小娘一人を始末するのに群れて縮こまる。


  さすがは山賊。図体ばかりでかい野良豚と大差ないわね」


 そんな山賊たちを霧葉は容赦なく嘲笑する。実際、シャドウの男性が同じことをしたら即座に降格ものだろう。

 まして霧葉の戦闘術が十全に力を発揮できる状況を作ったとなればなおさらだ。


 そんな霧葉に対して反論が投げ返される。



 「おいおい、これからてめぇはその嘲った山賊に蹂躙されるんだぜ?


  偽騎士らしく殊勝な態度をとらないとすぐに後悔する羽目になる」


 侮蔑の言葉による応酬。それを皮切りに戦闘は始まった。



 「オラァ!死ねぇ!」


 霧葉を狙って複数の矢が射かけられる。それに間を置かず斧、槍などのリーチがある武器を持った山賊たちが突進してきた。

 波状攻撃。にわか護衛、武装した旅人を押し包んで殺す連携はとれるのだろう。あさっての方向に飛んでいく矢も逃げ道をふさいでいる。これを本気で侮るのは自殺行為だ。


 それに対して霧葉は一見丸腰にしか見えない。実際、先ほどまで使役していたアラクネ竜爪獣は存在しないのだ。


 『アラクネクロー』


 代わり霧葉がまとう装束の右腕からこぶし大の何かが放たれた。


 「おっと」「へっ」


 それを防ぐべく斧を持っていた巨漢二人が防御の態勢をとる。そんな肉壁のかげから槍が突き出されて霧葉の足下を攻撃してきた。


 その一突きを霧葉はかろうじて跳躍してかわすものの。放った『アラクネクロー』も防御を破ることはできず。

 逆に着地点を狙われることになる。


 「思い知れっ!このアマがっ!」


 山賊のくせに下手な兵士、冒険者などよりよっぽど戦いなれていた。飛べる虫、鳥系や猿のモンスターあたりとでも戦っているのだろうか。


 霧葉の実力では手札を隠して楽勝というわけにはいかない。だから彼女は本来の戦いかたをした。


 「よっと」


 左腕から霧葉はアラクネクローを洞窟の天井に放つ。それはこぶし大のクモ竜爪獣であり、その尾から伸ばされた糸は霧葉の腕に結ばれていた。

 クモ竜爪獣をかぎ爪・鍵縄として霧葉は跳躍した空中にとどまる。それによって着地点を狙った一突きは空を切った。


 「しゃらくせぇ!槍の頭上にいるのは自殺ごっ!!」


 さらに右足の靴からも『アラクネクロー』を放つ。その飛爪・爪蜘蛛は追撃をこころみた山賊の頭蓋を割り砕いた。


 『アラクネクロー』単体に本来そこまでの攻撃力はない。だが石弾による重さ、術式付与による加速を行えば一時的に攻撃力を増大できる。

 小さな足防具も兼ねる暗器・補助武装に等しい『アラクネクロー』にメイス並の破壊力を発揮できるようになるのだ。


 「この野郎がっ!囲めっ、押し包んで殺せっ!!」


 「私は女だし蹂躙するのではなかったの?やっぱり山賊なんて口先だけね」


 口撃をかわしつつも霧葉ははり付いていた壁を蹴って跳躍する。そうして包囲網を飛び越えようとしたが、その身を複数の矢じりが追いかけた。


 「けっ。その程度で逃げられると思っているとは」

 「ハブッ!ギッ!?」

 「所詮は勘違いの小娘。実戦という奴を教えてやるぜ」

 


 得意げなセリフと短い悲鳴が飛び交う。その中で霧葉はどうにか弓の射線から逃れることに成功した。


 左腕から投じた『アラクネクロー』を飛爪縄として後方にいる山賊の顔面を破砕。さらにクモ脚を閉じさせて肉塊アンカーと化し、それを引いて2連跳躍を行ったのだ。


 さすがに身軽なモンスターとはいえ足場のない状況での連続跳躍は大半の種類ができない。

 そのためモンスター狩りをしている山賊の弓持ちといえど霧葉の動きに対応できなかったのだろう。


 とはいえこの回避運動はかなりの綱渡りだった。

 こんなものが続けば単独行動の女シャドウはいずれ疲労の網に絡め取られる。事実、山賊の幹部たちは感心こそすれ表情には余裕が見えた。


 「ならっ、これでっ!」


 両腕の『アラクネクロー』の糸を伸ばし地面すれすれでアラクネ竜爪獣を踊らせる。それに包囲の目が引きつけられたところで霧葉は『アラクネクロー』を鎖分銅のごとく両方とも回転させた。

 

 たちまち左右の山賊が血しぶきをあげて倒れふす。


 「ヒィッ!!」

 「ひるむなっ!そんな色物武器で数をひっくり返ぜっ!!」


 士気を鼓舞しようとした山賊が永久に沈黙する。それを目の当たりにした山賊たちが口をつぐんだ。

 

 そんな腰の引けつつある山賊たちの群れを鮮血に沈めるべく霧葉は異形の舞を継続させる。


 「放てば(流星)錘、回せば分銅、引けば竜飛の爪仕掛け


  木っ端は砕かれ、大鬼は倒れ。等しく大地を朱色に染める」


 唄う歌詞は言の葉であり、それ以上に言の刃であった。山賊たちのペースを乱して、士気を蝕んでいく。


 そもそも『アラクネクロー』を操る霧葉を単なる《蜘蛛使い》と侮った山賊たちにはこの戦況が理解できていない。


 アラクネ竜爪獣は脚を飛爪として敵をえぐり、魔術で重量を増して鉄球と化す。加えて痛打を与えてもその脚で跳躍して霧葉の手元に瞬時に返り戻る。


 山賊たちの認識はボスも含めてもこの程度だ。


 「どうしたの?たかだか虫武器の軌道がまだ読めないのかしら。早く慣れないと死んでしまうわよ」


 「チッ・・・」


 しかし『アラクネクロー』は蜘蛛型の竜牙兵モドキであって蜘蛛どころか生き物ですらない。

 つまり尾から糸を伸ばした蜘蛛に激しい機動をさせればハラワタをえぐるリスクがつきまとう。


 それに対しギミックに近い竜爪獣の『アラクネクロー』は内部も強固だ。生物である蜘蛛を操る時のような機動に配慮する必要は全くない。

 飛爪の武術を本当に容赦なくふるうことができる。爪足の手入れや魔力は必要だが、それに見合った戦果が得られるのだ。


 霧葉はその愛用武器を容赦なくふるって賊たちを屠っていった。


 

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