運び屋アリババ
馬場と言う男に出会ったのは一年くらい前。麻薬の違法栽培で捕まっていた所をアラジンの命令で助けてやった
俺が初めて冤罪を作った日だ
17歳の有能な高校生男子、周りには人が集まり性格も顔も良い誰からも好かれるタイプ
そんな奴がもし、麻薬栽培をしていたと知ったら周りの人間はどんな風になるんだろう…今まで散々褒めちぎっていた奴が犯罪に手を染めていたと知ったら、周りはどんな反応を示す。蔑むのか?無視するのか?
あぁ、見たいどんな風になってしまうのか見たい。そんな俺の好奇心で、有能な高校生男子に馬場の罪全てを彼にあげた
結果は俺の想像を容易く超えてくれるものになった。身に覚えのない罪に警察や親は彼に自白を強要し、誰も信用出来なくなった彼は隙を見て逃げ出した。その途中で車に轢かれ即死
彼の葬式には父と母以外誰も訪れず、むしろ嫌がらせの被害が酷かった
学校の机の上にも花なんて置かれなかったし、卒業写真にすら写される事はなく、彼そのものが最初から居ないかのように扱われた
これがやっても居ない罪を着せられた高校生男子の生涯のエピソード…
誰がこんな未来を想像できただろう。凄い、人はなんて凄いんだろう。真実なんて関係ない
自分達が合っている。そう思う事が何よりも大事なんだ。だから簡単に人を殺せる。容易く命を奪える
アリババ
「まだまだ観察のしがいがある」
いま目の前の事だってそうだった。とても面白い
アリババ
「どうして警察が居るのかな☆どうして例の女を昨日廃校まで運んじゃったのかな☆」
目の前でお腹を抱えて蹲ってるそいつは、僕がこれ以上機嫌を損ねて殴らないよう必死に答えた
馬場
「す、す、すみま、せん、ふあん、で、つい」
出会った時から単細胞なのは知ってたけど思った以上に酷い脳みそだ
もしこいつが蟹だったなら間違いなく不味いミソだっただろ
アリババ
「あっそ、まぁいいや」
こいつ…馬場と言う男は麻薬の栽培に関しての腕は認められている。だからあの日こいつを助けて、薬の調合師と組ませて依頼された色んな新薬を作らせた。
意外にも上手くできた新薬にアラジンですら関心していた
自分達は薬も売れる。それを証明してもっともっと依頼主を増やす。その為には……誰にもバレず売買できる場所が必要だった
そこで俺は廃校舎に目をつけた。一年前から幽霊の適当な噂と仕掛けで心霊現象を作って誰も寄り付けない様にした
もちろん、廃校舎の土地の権利書も適当に罪をでっち上げて脅して奪った。流石に殺しまではしなかったけど、そいつは無期懲役で刑務所の中だし口を割ることもないだろ
とにかく、ようやくこれで準備が整った…筈だった
アリババ
「パートナーが死んじゃった時、正直どう思った?」
馬場
「あれは、事故で…彼女が勝手に…」
嘘つけ。
死体の状態的には即死ではなかった。それなりの処置をすれば彼女はまだ助かった筈だ…なのに馬場はそれをしなかった
アリババ
「もう一回説明してよ」
自分が救えた命を容易く見捨てた事象をこいつは、どんな顔でどんな気持ちで語るのか…あぁ気になる
馬場
「…あの女は、アルコール中毒を発症させて酔ったまま危険な薬を作り始めました。しばらくして様子を見ると…アルコールと混ぜてはいけない液体を酒と間違えて飲んでしまい…倒れました。その後はどうしたらいいか分からなくなって、アリババ様にお電話で指示を仰いだ通りです」
やっぱりこいつのミソは腐敗してる。起こったままを話す事で自分は完全に悪くないと言ってるのが丸わかりだ
アリババ
(居るんだよなぁ、連帯責任とか頭にない奴。だからこいつは俺たちの組織に向かない)
馬場
「これからどうすれば…警察がもし、女の死体を見つけてしまえば、そこから足がつき、ます…」
アリババ
(そう言う所は気付くんだな)
馬場
「わ、わたし、が、捕まり…ます。そうすれば…」
なるほどね。腐った脳が考えそうな事だ
アリババ
「俺たちを敵に回せば殺される。でも死にたくない、だから捕まる事で逃げる道を作ったのか…あたかも自分の失敗を自分で拭うように見せて、考えたね」
馬場
「ひっ、す、すみ、ま、」
あぁ、きっと今俺は酷い顔をしてるんだ
だからこんなに恐れられている。今にも過呼吸で死にそうだなこいつ
でも、まだ駄目だ。まだ死なせない
アリババ
「おい」
馬場
「は、はひっ、」
アリババ
「とりあえずお前は警察の状況を知らせろ、何人いてどんな理由で居るか、言っとくけど捕まった時点で寿命は尽きると思った方がいいよ」
馬場
「そ、そんな、」
死を目の前にしたこいつの顔…ちょっと面白い
アリババ
「俺の機嫌次第では助けてやるよ☆」
馬場は痛んだ身体を必死に起こすと、廃校舎へ向かって走り出した。その後ろ姿にアリババは死神が見えた様な気がした
パトカーが一台と言うことは、警察の人数はせいぜい一人から三人ぐらいだろう。犯行時間近くに来ている所を見ると目的は事件の再調査
そんな事はわざわざ馬場に調べさせなくとも分かりきっている。ありのままを話す義理も必要性も特にはなかったから言ってないけど
にしても…何故今になって再調査をしに来たのか…そこにアリババは凄く興味を惹かれていた
田文誠吾は既に終わった人間。なのに今更何を調べに来た?
アリババ
「電話しなきゃな」
ピピピピ ピピピピ
鳴り出した携帯の画面には、"A"と表記されていた。丁度掛けようとしていた相手だ
アリババ
「ナイスタイミング、アリババです」
アラジン
『状況はどうだ?』
アリババ
「なんか嗅ぎ回られてます。この廃校舎は取引には使えそうにないんじゃないですか、今回の失態は俺の責任なんで罰は受けますよ」
アラジン
『必要ない。むしろ騒ぎを利用してシンドバットに場所を確保させた』
アリババ
「うわ、じゃぁ俺完全に目眩し要因って言うか揺動係ですよね」
アラジン
『暫くこの街で依頼は受けない。そこの後始末が済み次第戻って来い。いいな』
アリババ
「了解しました。やり方は自由にしますよ?」
アラジン
『任せる』
ピッ
電話が切られた事を確認すると、アリババはポケットから粉が入っている袋を取り出した
この薬は馬場と死んだ調合師の女が作ったもので、あの日試作も兼ねて逃げ惑うあの子に飲ませた
効き目の速さ、効力は高く依頼主の要望通り相手が苦しみもがく姿も拝める事ができ、一見成功の様に思えた…が、この薬には最大の難点が存在した為、失敗作となった
アリババ
「その余が一つ残ってて良かった。もう一度誰かが死ぬ姿を観察出来るとかヤバすぎ」
馬場は唯の囮に過ぎない。
警察が何処まで真相に辿りつけるかで薬を使う相手が変わってくる
次に使うやつはどんな風に死ぬのかな
アリババ
「あぁ、あぁ、楽しみすぎて待てないかも」
彼の狂気の先に居るのは間違いなく廃校舎に居る三人だった