大歓迎ー1
終章
翌日
朝のニュースは、田文誠吾の無実の話で持ち切りだった
どのテレビ局も、キャスター達が冤罪を作った警察の不当な取り調べについて熱く語ったり、元警察官が事件の状況を解説している
廃校舎内での殺害は馬場のせいになっており、アリババの存在は公にされなかった。裏で糸を引く存在を認めない方が都合がいいからだろう
警察は、これ以上汚名を重ねる訳にはいかない。そのせいか、過去に起きた馬場の代わりに逮捕されてしまった青年については、何も語られてはいなかった
その情報はきっと、うやむやにする気だろう
だが、ある週刊誌にはその事が記事にされていた。流石にアリババの事までは記されてはいないが、不当逮捕だとかなり言及されている
お昼頃には、その記事はテレビに取り上げられる事になるだろう。そうなれば、警察は緊急記者会見を開らかざる終えない
不当逮捕は事実な訳で、何人もの記者相手に上手い言い訳は出来るはずもない。全てを馬場のせいにするには無理があるし、取り調べをした何人かを処罰して終わりにするだろう
結局は、全てをうやむやにして終わらせる。そんな事は目に見えているが、それで良かった
警察が適当に誤魔化してしまえば、誰もが後ろめたいから誤魔化したと思ってくれる
そうなれば、少なくとも世間では、田文や馬場の身代わりに逮捕され、命を落とした青年は被害者だと認められる
悪意のない殺意を持つ人間達の目を警察へと向ける事で、被害者やその遺族達が世間に叩かれる危険性は数段に減るだろう
一つ問題があるとすれば、照井ユミは別件として処理された事と、住宅街の実験に関しても馬場の証言と今のままの全員分の診断書だけでは、証拠不十分とみなされてしまった事
アリババの存在を認めていないのだから、警察としては当然の対応だ。だからこそ、認めさせなければならない
そんな事を思いながら黎ヰは、目の前の人物の鼻と口を同時に塞いだ
自分のディスクで寝ていた紾は、次第に強くなる息苦しさに目を開けた
蔡茌 紾
「ゴホッ、ゴホッ…」
あまりの苦しさに咳き込み、状況を把握しようと必死に脳を働かせようとする
そんな紾の前にペットボトルが置かれた
曳汐 煇羽
「おはようございます。蔡茌さん、良ければどうぞ」
蔡茌 紾
「え?…曳汐…あぁ、おはよう…」
何がなんだが分からないまま、取り敢えず咳を落ち着かせようと、差し出されたペットボトルに口をつけ…
蔡茌 紾
「あっっまっ?!」
てっきり、お茶か水を想像していた紾は想像以上の甘さに声をあげ、完全に目覚める
曳汐 煇羽
「はい、ココアなので。…人数分買ってしまったもので」
蔡茌 紾
「?そ、そうか…」
なんの話か分からないなと思いながらも、紾はそれよりも口の中に気を取られていた
本来はホットで売っていたものが、時間のせいで冷え切り、しかも沈澱している…つまり、飲んだココアは美味しい状態じゃなかった。無駄に冷たく甘ったるいものが口の中に留まっていた
黎ヰ
「紾ちゃん、あーん」
蔡茌 紾
「へ?」
突然呼ばれ、口を開けた瞬間…何かを入れられる
蔡茌 紾
「っ?!…な、…にを…」
吐き出す訳にもいかず、仕方なく噛み続け…正体はイカだと分かる。しっかりと味付けされているイカは、ココアを飲んだ後では余計に口の中を混乱させる。紾は食べ合わせの大切さを密かに学んだ
黎ヰに文句を言おうとした矢先…
芥 昱津
「お、は…よう…」
蔡茌 紾
「芥?!…あぁ、おはよう…」
奥の部屋から滅多に出てこない芥に声を掛けられ、驚いてしまう
蔡茌 紾
「集まって何してるんだ…いや、本当に」
その疑問は当然で、よく見てみると紾の机を中心に色々と食べ物が置かれており、軽いパーティー状態だ
黎ヰ
「事件解決のお疲れ様会とプチ歓迎会」
蔡茌 紾
「お疲れ様会…あぁ、そう言う事か…それにしたってプチ歓迎会って…」
"なんだ?"と言う前に、またもや黎ヰに口の中にイカを入れられ言葉を途切れさせる
黎ヰ
「紾ちゃんのに決まってんだろぉ?本当なら外で盛大にしたいが、今は控えといた方がいいからなぁ」
世間の警察を見る目が人一倍厳しくなっている中、どんな事であれ目立つ行動は避けた方がいい
余計な野次のせいで歓迎会を台無しにされたくはない
だから、取り敢えず黎ヰは異常調査部内でプチ歓迎会を開く事にした
曳汐 煇羽
「皆さんお疲れ様でした」
芥 昱津
「おつかれさまー」
曳汐と芥は、それぞれ紙コップを持ち肩の位置まで上げた
黎ヰ
「紾ちゃんの分」
そう言って黎ヰは、ハサミ越しに紙コップを紾に渡す
蔡茌 紾
「あぁ、ありがとう」
そっと受け取り、そのまま持ち上げる
黎ヰ
「そんじゃ、ひとまず今回の事件の区切りと紾ちゃんの歓迎って事で…乾杯」
その言葉を合図に、全員は紙コップを合わせた
蔡茌 紾
(なんだか、こう言うのもいいな…)
紾は、少し浮き足立つ気持ちを寝起きのせいにし、紙コップに口をつけた
黎ヰ
「あ、紾ちゃん間違った」
その声と紾が飲んだのは、ほぼ同時で…
蔡茌 紾
「にっっがっ?!、なんだこれ…ゔぅ」
中を見てみても、お茶と変わらない色で余計に混乱してしまう
芥 昱津
「苦瓜、あじ…の、お茶…でしょ、黎ヰ君なら、絶対買う…って思った…」
曳汐 煇羽
「変わりダネ好きですもんね、黎ヰさん」
黎ヰ
「どんな味か気になんだろぉ。で、紾ちゃんどうだった?」
蔡茌 紾
「普通に苦い…」
黎ヰ
「クックックック、だろうねぇ〜」
ニヤニヤした笑みを向けている黎ヰに紾は、数秒机の上に目をやり丁度良い物を見つけると、お箸でそれを掴んだ
蔡茌 紾
「お・返・し・だっ!!」
クルリと黎ヰの方へ向き直り、勢いよく口にお箸ごと突っ込む。その相手は抵抗もせず、むしろ自ら口を開けた
芥 昱津
「あむっ…梅、干しだぁ…酸っぱい」
蔡茌 紾
「芥?!すまない、黎ヰに入れようとしたんだが…」
予想外の人物に驚くも、芥は頬を綻ばせモグモグと梅干しを食べていた
黎ヰ
「爪が甘いねぇ、紾ちゃんがやりそうな事ぐらい想像つくって」
蔡茌 紾
「だからって、芥を身代わりにする事ないだろ」
これは半ば、避けた事への八つ当たりだったが、思わぬところから否定されてしまう
芥 昱津
「えへへ…貢がられるの…好き、だから…あーん」
何かに味を占めたように芥は、口を開ける
蔡茌 紾
「貢がられるって、俺が言うのもなんだが、今のはそう言うレベルじゃないんじゃないか?」
曳汐 煇羽
「芥さん、どうぞ」
曳汐は口を開け続ける芥に、適当にあった食べ物を入れてあげた
芥 昱津
「はむっ…あり、がとう…」
曳汐 煇羽
「こっちもありますよ」
そう言って、次に芥の口の中へ入れるものを準備しだす曳汐に、黎ヰは眉を寄せ紾の肩を小突いた
黎ヰ
「紾ちゃん、アレはまずい。今すぐ止めないと芥が吐くまで続くぜ」
以前にも同じ事があり、思い出した黎ヰの顔は曇っていた
何があったかまでは怖くて追及するのは止めたが、紾は直ぐにストップの声を掛けた
そうやって騒ぐ中で紾は、異常だと周りに言われていた人物達の素顔を少しずつ知っていくのだった
暫くして紾は、ふと時計を見ると針は7時を指していた
蔡茌 紾
「朝だったのか…そろそろ片付けて、仕事の準備を始めた方がいいんじゃないか?」
真面目な性格なので昨日の疲れよりも先に、彼の頭の中では今日の仕事の事でいっぱいだった
黎ヰ
「紾ちゃんの脳内の職場ブラック過ぎじゃね?言っとくけど今日から2日間公休だからなぁ」
蔡茌 紾
「へ?休み」
予想だにしなかった言葉に、素っ頓狂な声を上げる
曳汐 煇羽
「今回の様に殺人事件や大きな事件を調査した場合、次の日は必ず休暇になるんです」
黎ヰ
「事件調査は神経使うし、昨日みたく対人間と戦闘になる場合もあるからなぁ、心身共に休息させる時間を作るのは当然の処置だろぉ?」
黎ヰの言っている事はもっともなのだが、本来なら土日祝日が公休となっていて、何かあれば休日出勤…と言うのが紾の知っている知識だった
もちろん、明日は平日で普通なら全員休みはおかしい
そんな紾の思考を読んだ黎ヰは、言葉を続けた。
黎ヰ
「異常調査部じゃそれが当たり前だぜ?上の許可も取ってあるし、給料面でもマイナスにならない様管理してる。休みを入れ替えたりする場合もあるが、今回は想像以上に怪我もしちまってるからなぁ。そう言う場合は必要な公休として扱ってる」
そこまで言われてしまえば、納得せざるを得ないが、同時に疑問も浮かんでくる
蔡茌 紾
「よく認められたな、誰に許可を得たんだ?」
黎ヰ
「ん?管理官だけど?」
一瞬、思考が停止してしまう
芥 昱津
「異常、調査…部は、そう言った…新しい、試み…も実験…してるん、だよ」
蔡茌 紾
「まだまだ知らない事だらけだな」
この一週間あまり自分は、何をしていたんだと言わんばかりに肩を落とす
黎ヰ
「それに関しちゃ俺の責任だ。受け入れてなかった訳じゃねぇーが、紾ちゃんがどうするかまでは、分からなかったからなぁ」
蔡茌 紾
「どう言う事だ」
黎ヰ
「今までにも何人か監察係は居たんだがなぁ〜、全員三日も待たずに辞めてったって訳」
つまり、黎ヰはこの一週間、紾が根を上げるかどうか見定めていたらしい
理由は分かるが、聞かされた本人からすればあまり気分のいいものではなく、紾は顔を歪ませた
それに気づいた黎ヰは、謝るでもなく清々しいまでのドヤ顔で問いかける
黎ヰ
「で?今日まで一緒に働いて来た、紾ちゃんの腹づもりは?」
紾は自分が異常調査部の監察係として過ごした日々を思い返す
笑いながらウキウキで解剖をしたり、貢がられるのが好きだと公言する芥…何度も備品を破壊し、心を開いてるのかすら分からない曳汐…暴論を武器に、無茶苦茶を通り越した調査をする黎ヰ
彼らが"異常"だと言われる由縁も分かる様な気はする…だが、その裏では事件解決の為に、勤しむ姿もあったのを紾は知っていた
だからか、黎ヰの問いかけに答えるのにはそう時間は掛からなかった
蔡茌 紾
「これからも一緒に働きたいと思ってるよ」
予想通りの返答だったのか、黎ヰはニヤリと笑う
黎ヰ
「大歓迎だぁ」
【芥 昱津プロフィール】
性別/男 年齢/26歳 誕生日/1月14日 血液型/B型
好きな食べ物/揚げ物・温野菜・京料理 嫌いな食べ物/特に無し
好きな飲み物/フラスコに入ったお酒とお茶 お気に入りスポット/雨の日の外
経歴/実家は京都で茶道と花道の総本家。呉服屋としても展開を広げているが、ほぼ絶縁状態。司法解剖士として働いていたが黎ヰに目をつけ、スカウトされるべく、わざと騒ぎを起こした後に異常調査部へと来る。基本は部内の奥の部屋で寝泊まりをしている。
性格/奢ってくれたり、貢がられたりする事が好き系男子。基本信用している相手にはされるがままなので、そのせいでたまに大惨事になる場合もしばしば…死体好きが影響し、ゾンビ系の話には目がない。
夢は【養ってくれる死体と結婚する事】




