救助
火事から少し前…
北田は、亜久タケルが2日前に家の中に入ったっきり姿を見せていないと証言した。まるで誰かに追われている彼の様子が気になり家の中も覗いてみたが、姿を見せる事はなかった
失踪した彼女を探し回っていたタケルに、北田はもしかすると何か事件に巻き込まれたのではと思った
そんな矢先に警察が尋ねてきたものだから、下手をすれば前科がある自分も巻き添えをくらい逮捕されてしまうと思い、口を閉ざしていたのだった
彼女の話を聞き終えたあたりで、住人達が外で騒いでいるのに気づく
何事かと、北田と一瞬に黎ヰ達も外に出てみると、離れた場所から煙が上がっているのが見えた
煙が上がってる場所は管理室だと住民達が慌てる中、黎ヰは冷静に北田に質問した
黎ヰ
「管理人は亜久タケルを探してたか?」
北田
「えぇ…あなた達が来る少し前に…その時は家の中に居ると思うって答えたけど…」
黎ヰ
「先手を打たれたかっ、仕方ねぇ」
恐らくここの管理人はアリババだろう
管理人室を燃やしたのは、自身の証拠を隠滅する為…じゃなければ燃やす意味がない
黎ヰ
「奴が狙うなら亜久タケル救助の瞬間…だとすると」
北田
「か、火事よ!こっちも火事!!」
隣のーー亜久の家から火の手が上がっており、それに気付いた北田が声を上げた
素早くハサミで掴んだ警察手帳を掲げると、黎ヰはその場で声を張り上げる
黎ヰ
「全員コレを見な!警察だ。この煙には微量な毒が混じってる可能性がある!念の為、全員異常がないか身体検査をさせてもらう!」
急な事に、住人達はより一層騒ぎ出すも黎ヰはお構いなく続けた
黎ヰ
「火事の避難と共に直ちに、中央警察病院へ向かいな!!死にたくなかったらなぁ」
脅迫のような言葉に、住人達は戸惑う
北田
「なに、毒って何の話」
黎ヰ
「アンタも直ぐに逃げな、あと水借りるぜ」
そう言うと、北田の庭にあるホースを掴み蛇口を捻ると、自身に水を浴びせた
黎ヰ
「紾ちゃん、消防に連絡と各住人の避難誘導を頼む」
蔡茌 紾
「分かった!中央警察病院へ行くよう促す。黎ヰは…」
黎ヰ
「亜久タケルの救助に向かう、安心しな大方の居場所は掴んでるからっ、なぁ!」
ドンッ
言いながら黎ヰは、燃え盛る家のドアを蹴破った
黎ヰ
「あと、紾ちゃん!!この家と両サイドの家の水道管のバルブ回しといてくれっ!」
それだけ言い残すと、黎ヰは口元に濡れたハンカチを当てながら家の中へと入って行った
冷静に中の状態を確認する
家の中は、まだ完全に火の手は回っておらず、煙さえ吸いこまなければ何とかなるだろう
黎ヰ
(狙われていた亜久タケルが隠れた場所があるとすれば、天井…)
北田の話からしても、恐らく間違いないだろう…が、問題が一つある
黎ヰはその場で集中し耳を澄ませた
…
……
燃え盛る火の音以外は何も聞こえない
黎ヰ
(ゆっくり探してる暇がない以上、適当に天井を開ける訳にもいかないからなぁ〜)
下手に開けてしまえば煙を吸い込ませてしまう可能性がある
誰かに追われて隠れたのなら、必ず相手が入ってくるのか確認できる位置に居る…つまり
黎ヰ
(どの天井か当てられさえすれば、引きづり出せる)
こうも物音一つしないとなると、衰弱しているのかもしれない。2日も隠れ続けて居るのなら当然だろう…
黎ヰ
(どんな小さな音でもいい…聞き逃すな)
立ち止まり耳を澄ませている間にも、火は確実に家の中を燃やし迫ってくる
下手をすれば火だるまになってしまう状況だが、黎ヰはそんな事気にもならないと言った風に、ひたすら音に集中した
もし、生きようとする気力があれば、必ず死に抗う音が聞こえる筈
…
…タン…
黎ヰ
(あっちか!)
焼き尽くす音に紛れ、確かに天井を叩く音がした
だが、その先は火が燃え広がっている…
黎ヰはその部屋の天井の一部が歪んでいるのを見つけると、迷わず飛び込みいい位置にあった机に目をつけると勢いのまま、両手で着地し上に上がった両足で天井の板を突き破った
バキン
視界の端で人影を確認した黎ヰは、今度は飛び跳ね腕を思いっきり伸ばす
黎ヰ
「多少の痛みは我慢しなっ!」
相手に聞こえているかは分からないが、とりあえず彼なりの注意喚起を流すと腕らしきものを掴み、そのまま下へと引きづり出した
男の体重が諸に黎ヰの上へとのし掛かり、衝動のせいで机の足が折れ、壊れてしまう
亜久 タケル
「ごほっ、ごほっごほっ」
黎ヰ
(これ以上煙を吸わす訳にはいかねぇな)
彼の目を見ても分かるように、意識は失われかけている
背中に男を担ぐと、黎ヰはそのまま来た道を戻る。幸い火の回りが薄く、突っ走ればまだ外に出れるだろう…
もたもたしている暇はない
黎ヰは煙を吸わない様、自身の息を止めながら、全力で走り出した
玄関の入り口付近で黎ヰ達に気づいた紾が、腕を伸ばすのが見えその手を迷わず取った
引っ張り出される形で何とか外へと出ることに成功した
蔡茌 紾
「黎ヰ!!」
黎ヰ
「がはっ、はぁ…はぁ…ごほっごほっ、俺より、こっちを…」
言われるまま紾は、男…亜久の容体を見てみる
亜久 タケル
「ごほごほっ、ごほっ」
咳はしているが朧げだった彼の目は徐々に開かれていく…
蔡茌 紾
「大丈夫ですか、意識はありますか」
紾の呼びかけに亜久は小さいながらも、うなづきを返した
それを見て安堵した黎ヰは、ふと立ち上がる
蔡茌 紾
「もう直ぐで消防車も来てくれる、離れた場所で待とう」
紾は進んで亜久を背負った、その瞬間黎ヰの背中が見え息を飲んだ
蔡茌 紾
「酷い火傷じゃないか!」
黎ヰの背中には、火傷の痕がはっきりとある
黎ヰ
「これぐらいなら塗り薬で済む。んな事よりも、だ…」
話しながら黎ヰは、近くにあった消化器を手に持つ。おそらく火が燃え広がり、隣に燃え移らないようにするのだろう…
蔡茌 紾
「俺が代わりにやるから、お前は休んでいてくれ」
黎ヰ
「バルブは回しといてくれたか?」
蔡茌 紾
「え?あ、あぁ…一応」
脈略のない問いかけに、違和感を覚える
黎ヰ
「あんがと」
悪戯な笑みを浮かべた黎ヰは、上機嫌で消化器を両手に持ち、外付けされている水道管へと近寄った
ーーー ーーー ーーー ーーー
紾から通報を受けた消防署は、三台の消防車を出動させた
が、住宅地は山に囲まれ都会とかけ離れた場所にある為道が細く、車一台が通れるのがやっとだ
消防隊員1
「駄目だ!出て行く車が多すぎて、これ以上進めない」
黎ヰが避難を呼びかけた事で、火災から逃げ病院へと向かう住人達で溢れていた
消防隊員2
「他に道はないのか!風がきつくなってからじゃ間に合わないぞ!」
ただでさえ、森に囲まれた場所だ。下手に燃え広がってしまい山火事になってしまえば大惨事は避けられないだろう
住宅地まで距離がある分、ホースを引っ張る事も難しい…かりに距離が届いたとしてもこの狭さじゃ通れない。
手詰まり状態の消防隊員達に、一人の男が近づいて来た
??
「裏側なら通れます!こっちです!」
男は消防隊員達に裏道を教えると、直ぐにその姿を消した
木の間から教えた通りの道へ消防車が走って行くのを確認すると、男はニヤリと笑みを浮かべる
アリババ
「いってらっしゃい〜、間に合えばいいけどね」
消防隊員達に教えたのは、一番遠回りになる道順。管理人として居た分、この小さな山はアリババにとっては庭みたいなものだ
少し荒いが、無事自分の証拠も隠滅できたし、散らばった場所に火を付ける事にも成功した
もし、無事に家からあの男を救出出来たとしても、何箇所も付いてる火を同時に消すなんて事できる筈もない
アリババの味方をするかのように、風が強さを増していく…あと数分もすれば家に燃え移り、それが山に燃え広がるだろう
アリババ
「あとは全員、火だるまになっちゃえ⭐︎」




