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1事件〜初事件はオカルト案件〜

序章【忍び寄る影】

まだ肌寒い季節


ある住宅地で男女の仲違いをする声が聞こえていた。

周りの住人は最初こそ、どうしたんだろう。大丈夫だろうか。などと心配していたが毎日続けば誰も気にしなくなった


それどころか、度々聞こえてくる怒鳴り声に迷惑し今では早く引っ越して欲しいと思う者ばかり

だが、ここに住むほとんどの人間は子供の居ない夫婦や独り身の者…そういう訳あり住宅地だ


余程のことがない限りはこの地を離れるものは居ないだろう…どうしようもない怒鳴り声は、ここ数カ月間ずっと続いていた


「もう、いい加減にして頂戴!!あなたと居ると頭がおかしくなるわ!!出て行ってよ!」


「働いてるのは俺だ!お前が出て行け!だいたい酒臭いんだよ」


この夫婦を止めるにはどっちかが死ぬまで終わらない。などと冗談にしては住人達は、日頃の鬱憤を悪口で晴らしていた


誰もがこの住宅地で殺人事件なんて起こるわけがないと思っていた


 パリーン


「お前が悪いんだろ!!酒に溺れやがって!」


 パリーン


 パリーン


何度も聞こえるガラスの割れる音。おそらく、大量にあるであろう酒瓶の割れる音だろう


 パリーン


 パリーン


いつもとは違う


何度も狂ったかのように聞こえてくる、その音に住人達は恐怖を感じた


もしかすると酒瓶で妻を殴ったのではないのかと


もしかすると割れた破片が妻に突き刺さってしまってるのではないかと


先程から妻の声が聞こえない


死んでしまってるのではないかと…


次第に音は止み辺りは静まりかえった


何人かの住人達は外へ出て、あるいは家の窓から問題の家を見ていた


タケル

「俺が見てくるよ。何かあれば警察に電話をしよう」


ユミ

「う、うん…気をつけてね」


勇敢にも隣の家に住む1組の男女が行動を起こした。タケルは1人で恐る恐る問題の家のドアをノックする


 コンコン コンコン


タケル

「夜分遅くにすみません。騒がしいようですが何かありましたか?」


彼につられ、外に出ていた他の住人達もそろりと近づいていく、心配というよりは好奇心で動いている者がほとんどだろう


本当に人が死んでいるのかどうか、それを確かめられずにはいられない者ばかりだ


 ガチャ


ドアが開いた


タケル

「あ、あの…だ、大丈夫ですか」


緊張しながらも開くドアに投げかける。出てきた人物を見て誰もが唖然とした


「すみません。積んでいた瓶が割れてしまって…近所迷惑でしたよね。明日にでも近隣の皆さんにお詫びをします。」


出てきたのは、まさに生死が問われていた人物だった


タケル

「え、あ、はい。無事ならいいんですけど…」


「お恥ずかしい話しですが、最近夫と上手くいってませんで、離婚する方針で今夜話し合いが終わりました。今週中にはどちらも出て行きますわ」


タケル

「そうですか」


「では、片付けがあるので私はこれでーー」


ドアが閉まる前、偶然にも廊下に出ている夫と目が合ってしまった


「本当にすみません」


今まで怒鳴っていた人とは思えないほど、夫は爽やかな表情でタケルに謝罪をした


タケル

「いえ、こちらこそ出すぎた真似を…すみません」


呆然としながらも、どこか薄気味悪さを感じタケルは直ぐにその場を去った


自宅に入る前に何人かの住人に様子を尋ねられたが、どちらも生きていた。としか答えようがなかった


もちろん、警察にも電話をしなかった

住人達はやはり殺人事件なんて起こるわけがないか…と安心したのだった


それから3日も経たないうちに、迷惑夫婦はそれぞれ居なくなった

言葉通り、離婚をして別の人生を歩んだんだろう…なんにせよ住人達は毎晩の騒音がなくなり喜んだ


ユミ

「これでゆっくり寝れるね」


タケル

「あ、あぁ…」


ユミ

「どうしたの?何か気になるの?」


あの夜。

夫婦と会ったタケルは何かを思い出していた


タケル

「その、な、最初は気づかなかったんだけど…今思い出した」


あの時感じた違和感。その原因が分かり、タケルは震えた


気づいたのが今で本当によかったと思う

もしあの時、違和感の正体に気づいてしまい、簡単に表情に出してしまっていたら、きっと殺されていた筈だ


タケルは、確認するよう恐る恐る口を開いた


タケル

「あの人……誰だったんだ。」


ユミはもちろん彼の言っていることが理解出来なかったし、したいとも思わなかった


ユミ

「やだ、なにそれ」


タケル

「ごめん忘れて。俺の勘違いだ」


例え違ったとしてもどうしようもない、原因の2人はもうここには居ないのだから.タケルは1日でも早くあの夜の事を忘れようと心に誓った





月日が経つにつれて、住人達からは壊れた夫婦の記憶が薄れていく…

それはタケルも同様だった


半年も経てば、誰も話題にせず代わりに"廃校で無残な死体が発見された"という物騒なニュースがこの住宅地を賑わせた





 ーーー ーーー ーーー ーーー





 東京都・警察署本部


【異常調査部】


窓越しから春の日差しが差し込み、(めぐる)は思わず欠伸をしてしまう


今日はまさに洗濯日和


雨続きのせいで溜まっていた洗濯を干してきて正解だったなと、呑気な事を思っていた


彼の名前は、蔡茌さいし めぐる


6年間、鑑識課の"直轄警察犬訓練士"つまり…警察犬の指導員だった。彼自身、部署移動もない6年間を過ごしてきてこれからも変わらず訓練士として働いていくんだとばかり思っていた


一週間前に移動通知が来るまでは…


策略なのか陰謀なのかは知らないが、本人の意思には関係なく無理矢理決められていた部署移動には、(めぐる)も納得はしていない

いや、ごく普通の刑事課とかなら納得はしていたかもしれない


警察内組織で、最も異色とされている異常調査部の監視係でなければ何でもよかっただろう


蔡茌さいし めぐる

「はぁ」


まだ処理が出来ていない移動理由に、めぐるは思わずため息をこぼす


黎ヰ(くろい)

「欠伸の次は溜息、紾ちゃんは呑気だねぇ。ククク」


何が面白いのかめぐるの隣の机と椅子を陣取り、片手にハサミを持っている人物ーーー黎ヰ(くろい)が笑う

この独特の喋りや笑いは彼の格好にも反映されていた


彼の髪色は、上が藍色で下にいくにつれ色が薄くなっている…左右の横毛は赤…前髪の一部分は黄緑…まさに"奇抜"な髪の色だ

長い髪を高い位置に一本束ねており、パイナップルに見える。ピンク色のベルトとネクタイに、白の模様が入った紫色のシャツ…下は薄茶色の模様入りスボン


誰が見ても第一印象は"変人"だろう


いくら私服が認められている自由な会社があったとしても注意がくるレベルだ

もちろん異常調査部は一応警察組織であり、刑事事件なども担当する。私服どころか、周りを警戒させる格好は認められる筈がないーーと(めぐる)自身、黎ヰ(くろい)に会うまではそう思っていた


多分、黎ヰ(くろい)がこの異常調査部の部長でなければ、きっと正されていたに違いない


蔡茌さいし めぐる

「すまない。少し現実とうひ……いや、気が緩んでた」


言いたい事は沢山あるが、今ここでぶちまけても意味がない。指摘された事を素直に詫びると(めぐる)は職務に専念した


(めぐる)の業務は主に2つ


1つは今まで黎ヰ(くろい)がやっていた報告書の作成

事件などの報告書に関してはめぐるも感心するほど的確にまとめ上げられていた。が、その他に関する報告についてはまるでやる気がなく適当な報告書に目眩を覚えた


蔡茌さいし めぐる

曳汐ひきしお…この必要経費5万って言うのはなんなんだ」


特に彼を悩ませたのは"必要経費"

名前を呼ばれたーー曳汐ひきしお 煇羽やくはは今までカタカタと動かしていた手を止め、めぐるの方を見た。彼女はこの部署の唯一の女性員


髪は少し明るい灰色に薄く緑を重ねており、後ろよりも左右に分けている髪が長い

服装は黎ヰ(くろい)が私服を許可している為、白のカッターシャツに青緑のカーディガン…明るめの紺のスカートは膝丈で、いわゆる事務員スタイルだ

そんな彼女の魅力は、大きな瞳と人を安心させる微笑みだった


誰もがその初・見・殺・し・に騙されるだろう


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「全て破損してしまったものです。湯のみ8脚・私のマウス1つ・扉のドアノブ2つ・床板2枚です」


蔡茌さいし めぐる

「因みに聞くが、それは全て曳汐が破壊したのか?」


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「はい。力を入れすぎてしまったみたいで…バキッとやっちゃいました」


とんでもない事を淡々と言っている気がする

過去の報告書を見てみても、彼女がさっき言った破損被害がほぼ毎日でていた


決してわざとではないだろうが、そこに掛かっている金額も笑えるものではないし、何より彼女が一般常識を覆した馬鹿力である事を裏付けているのも事実で…

事件がない今、一番迅速に対応しなければならない事柄かもしれない


蔡茌さいし めぐる

「壊れてしまった物は仕方ないが、どれも大怪我に繋がるからな…気をつけてくれよ」


曳汐ひきしお 煇羽やくは

「怪我をする心配は必要ないかと思いますけど、一応気をつけます」


彼女は当たり前のようにそんな言葉を返した


蔡茌さいし めぐる

(これは単に距離が遠いからなのか…本当にそう思ってるのか…一週間程度の付き合いじゃ分からないな)


特に彼女はテンションが高い黎ヰ(くろい)と、喋るのも怠いというもう1人の部員と比べると、感情が一定すぎる…気がする…


蔡茌さいし めぐる

(そういう部分が、異常と呼ばれる由縁なのか…)


彼のもう1つの業務。

それは、異常調査部に所属する3名を監視する事


【異常調査部】その名は事件に対しての名称ではなく、所属している3名に対して呼ばれている


そう、"異常"なのは彼ら3名


6年間直轄警察犬訓練士として生きてきた蔡茌さいし めぐるはここから、彼らの人離れした異常さを目の当たりにする事になるとはまだ知らない……





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