第9話 そして不思議な力を学びます
前話は、孤児院の少し昔の話しでした。
PV、とても励みになりますね。かなり実感しました。ありがとうございます。
◇◇◇
「チビアーレ!ご飯食べまちチたか?」
「アギャー」(来るなー!)
「ご飯食べないと、おっきくなれませんよ!」
麦芽スープと薄めたヤギミルクで大きくなるもないだろう。
マイマンは十才くらいだろうか。
利発でマザーの授業も、手伝いがない時は必ず、メモ用の石版を持って聞いている。
後で何度も繰り返し書いて覚えるためだ。
ちなみにオレもほぼすべての授業を聞いている。
マザーが授業を始める前に、訳知り顔でオレを運んで行くのだ。
マイマンはというと、何かとオレに絡んでくる。
小さな弟のいる母性開発中の姉や、モンスターペアレントに多い、いわゆる過干渉病にかかっている。
今日もエルフのソノラ(♀)と猫獣人のカルル(♂)を引き連れている。
「わかりまチュか?」
オレに話し掛ける時だけ、赤ちゃん言葉である。
「ホラホラ、ヤギさんのミルク飲みまチョね」
「アギャ?」(や、やめろ!)
生ミルクはヤバい。
オレはサバイバルを生き抜いてきたおまえらのような鋼の胃腸は持っていない、多分。
「アーン?」
「ギャギャギャ」必死にイヤイヤするオレ。
「いけない子でチュねー、ハイ、アーン?」
「ギャギャッ」その幼児言葉やめれ。
「あ、こぼしちゃったー。
チビアーレは、ホントにわたしがいないとダメダメ君でチュから…チューしまちゅよ。チュー」
やめ。
「アギャー」
レジスタンスは虚しく敗退した。
まあ、これも、年長者が年少者の世話の仕方を実践する、という、致し方のないことである。
赤ん坊は、人権の前に生きる人形である、ここでは。
この後、庭に連れ出され、両肩をロックされて、三人で代わる代わるクルクルと振り回された。
「アウアウアウアウー!」
◇◇◇
「今日は魔法の基礎を勉強しような」
「「はーい」」
「大切な点は、魔素と魔力と魔法だ。
魔素は濃さや質は場所によって違うが世界に充満している。
魔力は体の中に取り込める魔素の大きさだ。
体の外にある魔素と体の中の魔力を反応させて、色々な形に変えていくのが魔法である。
魔法にはどんな種類があるか知ってる者は?」
「ひー」「みずー」「かぜー」
「他には?」
「土魔法、身体強化、契約」
「よく、覚えてたな、えらいぞ、マイマン。
まず魔法の基本の種類は属性魔法と言われる。
火や水だな。
それ以外は無属性魔法と言われ、身体強化や契約魔法がこれに入る。
それで属性魔法の基本の種類は、火、水、風、土の四つだ。
だが、属性魔法もそれだけではない。
他に氷だったり、雷だったり、光や闇なんていうのもあるらしい。
大体、属性魔法を使える者は、人族諸派、人族では、十人に一人と言われ、それが魔道士、魔法使いと呼ばれる。
その十人に一人の、魔道士、つまり魔法使いが使えるのが火、水、風、土の四属性のどれか一つが普通と言われる。
そして、二つの属性を使える魔法使いは魔法使い十人に一人、つまり百人に一人くらいか、それ以下と言われる。計算できるか?」
「あうーあうー」とソノラ。
「つまり、十人に一人くらいが、四属性魔法を一つ使える。そして、百人に一人くらいが二つ使えるということだな。
だから、魔法使いになると、職に就きやすくなる。
もてもてだ」
「なりたい!」「絶対なる」とカルル達男子が騒ぐ。
「私はたまたま氷魔法ができた。
もてもてだったぞ」
「「スゲー!」」
「今は夏の暑い時くらいしか使わないから、大分鈍っているがな。
それとシスター研修生のコレット先生は火魔法使いだ。
だから、修道女見習いになれたんだぞ」
「「いーなぁ」」
「ただ残念ながら、魔法使いにはなりたくてなれるものじゃない。
属性魔法には適性、向き不向きが激しい。
属性魔法を使えない者の方が多いんだ。
そして素質があっても、制御できなければ意味がない。
属性魔法は使いこなす方に魔力を多く消費するんだ。
例えばコレット先生が十の魔力を使って魔物を追い払うことができるとしても、同じ火魔法を使って、ただ盥にお湯を沸かすだけでも、場合によっては二十も、三十も魔力が必要になることがある」
「コレっち、よえー」
「違うな。魔物を追い払うには、火の玉を作って投げれいいだけ、ファイアボールという魔法だ。
だがお湯を沸かしたり、薪を乾かしたりするには、ちゃんと温度の調節をして、長い時間それを保っていかなくてはならない。
それが難しいんだ。
コレット先生も随分苦労したそうだぞ。
魔法使いの適性が大きい子供は、眠ってる時やびっくりした時に、魔法を無意識に使ってしまう者がいる。
皆んなはまだここにいなかったろうが、コレット先生は度々小火とかの騒ぎを起こしてな、しまいには離れの厨房で寝起きさせられたそうだ。
孤児院を追い出される寸前だった。
それほど苦労したんだぞ」
「マジかー?」「森に捨てられるー」
「アウアウ…」(ああ………)
「………
…………また、素質があっても、成長して、魔力が大きくならなければ、何回も魔法が使えない。
つまり、魔法使い、魔道士になるためには、素質があって、魔力が大きく成長して、それを使いこなせないといけない。
ちなみに私も最初は水魔法だったからな、子供の頃、水魔法が、いつもおねしょと間違われて、叱られたり、恥ずかしかったりしたな」
「「わはは、マザーおねしょー」」
「はいはい、これから皆んなの魔法の適性を調べるが、適性、素質があっても、むやみやたらに魔法を使おうとしないようにな。
また、今、属性魔法の適性がなくとも、がっかりしないように。
魔法の適性が安定するのは、十代半ばと言われている。
それまでは適性も変わることがある」
「「へー」」
「それと属性魔法ではなく、無属性魔法には、身体強化のように多かれ少なかれ多くの者ができるようになるもの、また契約、錬金、鑑定など、武技や職技、職業の技能、つまりスキルと関連したものも多い。
属性魔法を使う魔法使いだけが活躍しているわけじゃない。
だから、できなくても、がっかりする必要はない。
わかるな。
私も副業は魔道士よりも鑑定士だぞ」