第5話 拾われて少し調べられましたが
前話は、死後転生し、孤児院に拾われました。
◇◇◇
見つけてくれたのは、シスターメアリーだったか。
彼女は栗毛のおっとりした娘、というか二十前後くらいの女性だ。
少し下がった緑の目が優しく穏やかそうに感じる。
メアリーがバスケットを抱えて、ドアをノックする。
「入れ」
歳を重ねているが張りのある女の声が聞こえた。
「連れて来ました」
「容態はどうだ?」
「問題ないように思えますが…」
「気になることがあるのか?」
「はい、笑いますが、泣きません」
「ははっ、手間いらずじゃないか?」
「さっき、おしめを替えたんですが、籠を叩いて、目線で教えてくれました」
「ワキャ?」(あちゃ!)
「三月くらいだろ?」
「と、思うんですが…」
「小人族の血が入って、ませてたりな…まあ、いい。
何か身元を表すものは?」
「この小さな札みたいなものが籠の中にありました」
名刺くらいの黒く煤けたプレート。
「文字が彫ってあるみたいだな…かなり精巧に彫られてる……何だ………?
ナニ?……ナニ?……
……ナっ…………!
こ、これは…。
メアリー、ちょっと外してくれ。
調べたいことができた。
ああ、その子は置いていっていい。
後でまた声を掛ける」
「…?は、はい、失礼します」
◇◇◇
マザーがプレートに手をかざし、目を瞑っている。
集中しているようだ。
さっきから同じことを何度も何度も繰り返している。
額に汗が浮かぶ。
「………
はぁっ…はぁっ…!
………
お、「オリハルコン」………。
初めてだ…随分を魔力持って行かれた。
後は文字か…」
マザーが書棚をずらし、何やらしている。
金庫みたいなものを開けてるんだろう。
古びた革を広げている。
「カ、いや、アか?ル、ル…レか。後はジだな。
おまえ「…ア、レ、ジ…」か?」
「アフアフアフ」
「そうかア、レ、ジだな?
神の言葉、原初文字だぞ。
文献的にはただのインチキと言われるが」
「ワキャキャ」
「おまえを鑑定したいのたが、よいか?」
「ワキャ」
マザーがオレの額に手を当てる。
体に何かが入ってくるようだ。
これが魔力か?
「………ダメだな…魔力が枯渇する。
普通、赤子を鑑定しても、なかなか正確な鑑定はできない。
赤子の未来は無限みたいなものだ。
直ぐに変わってしまう。
ただ鑑定自体はしやすいものなんだが…。
しかしおまえの場合、鑑定が途中で弾かれる。
ははっ、知ってるか?
「好奇心は猫を殺す」と聖典に記されている」
「アフアフアフ」(地球文化好きだなぁ)
「私は赤子相手に何言ってるんだ……。
この魔力ポーション、売れば一カ月の食費になる。
しかし私は別にこれを修道院に寄付したわけではない。
純然たる私物だ。
ただ、ならず者とかの撃退のため非常時用に置いていただけだ。
飲むべきか飲まざるべきか…うーむ…先程の純度の高さが見えないオリハルコン…聖剣と聖鎧しかありえない物質。
知りたい、知りたい、知りたいわー。
うむ、うむむむー…」
グビッ
魔力ポーションが空になった。
(自制心よえー)
「な、なんだその目つきは?
よいではないか?
私物だ、私物…ああ、くそ、やっちまった…どうしよう…いや…鑑定いくぞ!」
「アフアフ」
「……ダメだ……。もう一度!
………ダメだ……。もう一度!
………ダメだ……。これで最後じゃ、覚悟せい!
………なんじゃこりゃ!
こんな赤子……」
「アフ?」
「はぁーはぁー!ああー
…鑑定するんじゃなかった…壮絶に後悔したわ。
でも、私の研究からはこれはありか?…ありだな…」
「アフー?」
「アレジ、おまえ、やはり私の言ってることがかなりわかるか?」
「アフ…」.
「よいか。
おまえの称号は人に伝えてはならない。
わかるか?
また、おまえ自身も人に広く知られてはならない。よいか。
今はそのことだけを心に留めよ」
「アフ…キャッ」(デビ◯マンか…?)
「あ、そうだ、アレジの名も隠すか?
おまえの可能性はおまえの真名とも関わっている。
使い勝手がいいようにしておくか…」
「アフ…」
「………では………アレジ
おまえの仮の名は「アーレ」
光源、光の源という意味だ。よいか?」
「ダ!」
「………はぁー!…久々疲れ切ったわ…。
しかし、こんな幼子を置いていくなんて、なんて薄情な主神様か…。
……よく笑う子。
よい明日が迎えられますように」