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第4話 結局転生しました

前話は、死後、転生条件で女神様と相談しました。


◇◇◇


それからしばらく女神ミルカ様と相談(雑談)してオレは「隠者」として下界に転生することになった。

唯一底上げスペックがまともだったからだ。


この時、スペックに気を取られ過ぎて、制限事項をよくよく確認しなかったことに後から少し後悔した。

後の祭りである。


まあ、もう死んでいたこともあるし、しがらみもなかったこともあるが…。


女神様がそこまで予知していたのかどうかは最後までわからなかったが…。

多分そういうことだろう。

女神様の黒さにも後の祭りである。


◇◇◇


「シュン、クシュン!」(寒みー)


雪が深々と降る街はずれの丘。

小さなレンガ造りの建物の前でオレは寒さに震えていた。


木の皮で編んだバスケットに藁とぼろ切れに包まれているのが、赤子モードのオレだ。

オギャアと泣き喚いて注意を喚起しようかな、とも思うが、何となく迷惑かもと思って、声が出ない。


普通のタイトル(称号)には、あまり能力を底上げする力はないが、性格の補正効果は大きいそうだ。


どういうことかというと、経験の積み重ねと社会の認知がタイトルになるのというわけで、タイトルを取得した時点で、そのタイトルに相応しい力量が既にあることになる。


だからオレのようにタイトルを最初に貰うなんてことは、それだけで神によるイレギュラーなんだが、それはそれとして、結果、そのタイトルに相応しい性格的特性を引き受けなければならないことになる。


このことをオレは、その場になったらどうにかなるんじゃ、とかなり甘く見ていた。


オレのタイトル「隠者」は言うなら「世捨て人」である。

世捨て、というのは、第一に社会的関係の拒絶もしくはそこからの離脱だが、人というものが社会的動物である以上、人としての自分をも捨てたような感じとなる。

生まれた時からというわけではないが、人が生涯最も密接な関係作りをするのは、他ならぬ自分自身だ。

よって「隠者」にとって、人もどうでもいいのだが、自分の方がもっとどうでもいいのだ。


そんなデメリットのかわりに幾つか特典があり、まあ、市営バスが無料になったり、プールや映画が半額なるといった感じのものだ。

そんなものに目移りしてたらこうなった。


◇◇◇


「クシュン、クシュン!」(やっべ死ぬかも…)


…などと考えつつも、やはり人に迷惑は…とか、まあ自分はどうでもいいしょっ、とか考えてしまう。

実は「隠者」にはそういう耐性もあって、自分の命の炎がか細くなっていくのを、返って愛でてしまうようなところもある。

今はマッチ売りの少女の気分。

マッチはあったとしても、勿体なくてすれないが…。


◇◇◇


ギイッ…。


扉が開いて、若い女が出てくる。

目が合って、少し手を振る。

オレとしては「なんかすみません」って感じだ。


「きゃっ、あら、あら、まあ…あら、ま!いけない!こ、こんなに冷たくなって!

いけない!

マザー!マザーっ!」


甲斐甲斐しく抱きかかえられ、館の奥へ持って行かれた。


(どうやら助かったようだ…)


◇◇◇


「マザー!この子が!」


若い女が部屋のドアを開けると、黒い貫頭衣を羽織った白髪の女が手元の本から顔を上げるのが見えた。


「おやおや、新入りかい?」


「だ、大分、冷たくなっていて…」


「どれどれ………!

メアリー!湯が間に合わない!

雪を盥に入れて持っておいで!

コレットにも声をかけて!」


「は、はい!」


オレをマザーに渡して女が駆けていく。


「こんな寒空の下に声も掛けずに、なんて薄情な親なんだい…」


マザーがオレの頬に手を当て、話し掛ける。

にこっと笑って見返した。


「こんなに冷たくなってるのに、まだ笑ってくれるのかい。

優しい子だね。

よい明日が迎えられますように…」


優しさと悲しさが混じったような目をしている。

マザーがあやすように体をゆする。

オレはゆっくり目を閉じた…。


◇◇◇


目を覚ますと、木のバスケットは同じだが、違う布に包まれていた。


「あら、起きてる…大丈夫かなー?

シスター・メアリー!シスター!

昨日の子が目を覚ましたわ」


「あら、本当。うん、熱もないようね。

これなら大丈夫そうね。

コレット、あなたのおかげよ。

お湯を沸かしてくれなかったら、きっとこの子は助からなかったわ。ありがとう。

昨日は祝祭日だったでしょう。

魔力は大丈夫?」


「うん、大分戻ったわ、大丈夫よ」


「じゃあ、この子の食事お願いね。

終わったらマザーのところに連れて行くわ」


「うん、任せて」


◇◇◇


薄い赤毛の少女がのぞきこんでくる。

十六、七才だろうか、クリっとした赤い目が快活な印象に感じられる。


「ごきけんよう、おチビちゃん。

覚えてる、あたし、コレットよ!

昨日は寒かったでしょう。

……よいしょっと!」


「アウアウアウアウ」


持ち上げられて、腕と壁で背中を支えられる。

凸凹した木のテーブルには皿が一枚乗っている。


木と革でできたスポイトのようなもので口に何かを流し込まれた。

穀物の重湯みたいだ。


「ケホ」


「覚えてるわけないか。

じゃあ、初めまして、ようこそアッシュのミルレール修道院に!」


「ケホッ、コホ」


ぼろ切れで口を拭かれて、またスポイトを入れられる。

体の中に暖かいものが染みていく。


「ゆっくり食べなよ。

おチビちゃんは…首が座りかけだから、三月くらいかなー?」


「コホ」


「ゆっくりね…。

あたしはシスター見習いのコレット!

これでもねー火魔法ができるの!

だから雇ってもらえた。

昨日雪を溶かして湯を沸かしたのもあたしよ。

おかげで魔力切れそうになったけど」


「ムグムグ、ワキャっキャっ」


「あらあら、アタシの指なんて掴んでどうしたの?

ありがとうって言ってくれてるのかなー?

うれしいのー?…そーお?

あはは」


「ワキャっ」

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