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第2話 全然死後らしくないので

前話は後からの独り言でした。


◇◇◇


オレは二十六才で心筋梗塞などというちょい年齢らしからぬ死因で死んだ。


自分が自分の体から、抜け出してしまったので、机に突っ伏しているもう一人の自分に「おい、起きろ!オレ、大変なことになってんぞ!」と声を掛けてみたが、ガクっとなってる自分にどうしても触れることができず、子細に観察してみると、どうやらどうにも心臓が動いてない。


最初は、こりゃまずい、誰かに虫で知らせて、AEDとかと思ったが、どうやら寝過ごして、タイミングは既に完全に逸していた。

「心筋梗塞…ああ、そういうことか…」と納得しかけたところ、たちどころに景色が転換し、目の前にみずみずしい小川があらわれた。


川向こうは花畑だ。

あーここがー例のー、とか思って景色を堪能していると、その対岸の花畑で、先に逝った両親がおいでおいでをしている。


両親は晩婚で、しかも高齢出産。

オレが物心ついた時には、もういい感じに生活習慣病満載っぽい二人だったが、何故か少年少女のピッチピチの姿になっている。

…仏壇に飾った二人の往年の写真を見ていなければ、誰が誰だかわからなかっただろう。


若年性孤独死となった自分の遺体はどうなるだろうとか、この後、ボロ家はどうなるか、誰が住むだろう、フィギュアとPCの中身はどうなるだろう、とかを心配しつつ、両親、父ちゃんと母ちゃんも仲よさそうで楽しそうでよかった…などと、ぼーッとしてると、小川の脇の低木の茂みから、生白い手がこれまたオレにおいでおいでしていた。


◇◇◇


まったくもって怪しいことこの上ないが、若返って、ニコニコしている対岸の両親にドン引きしたせいもあり、何となく茂みの方に近付いてみた。


「何すか?」


「しーッ!

声出さないで。

見つかっちゃう。

見つかっちゃう!

おっかないヤツに見つかっちゃう!」


「大声出してんの、そっちっしょ?」


「と、とにかく、こっち、こっち来て!」


「はあ…」


茂みに近付きしゃがんでみると、何かどえらいものがいた。

偉人という意味ではない。

ギリシャ彫刻で見かけるドレスは何だったっけな?キトンとかか?フィギア製作のバイトで見たやつだ。

そのドレスのけしからんほど薄っすいやつを着た、これまた、ほうっという感じにまで突き抜けた、パツ金、金眼の超美女がいた。

けしからん。


「ねえ、ねえ、頼みがあるの。

ねえ、ねえ、お願い!

いいでしょう?」


ギリシャ人は黒髪が多かったとは思うが、とにかくギリシャ風パツ金が、オレの二の腕を胸に引き寄せ、左斜め上眼使いに聞いてくる。


もちろん当たってる。


(ヤバいな、これは…)


パツ金で等身大の生フィギュアに、当たってるプレイなんて、六十分三千円のVR店以上じゃん…。

極めて危険だ。絶対いいことない。


「い、痛くないですか?」


「い、痛み?そういうのとかじゃないわよ!

ね、お願い!」


「は、初めてなもので…痛いのはちょっと…」


「だから、そういうのじゃないって!」


「あ、じゃあ止めときます」


「えッ?えッ?ウソでしょう?

そんなのダメよ!」


パツ金フィギュアが胸を押し付ける。

当たってる。当たってる。

オレの二の腕が昇天しそうだ。

ヤバ、このドレス透けてるやん。

とかなんとか、視線が餌に反応した鯉のように泳ぐ。


「痛いとか苦しいとかじゃないから。

ねえ、お願い!「一生」のお願い!」


「はあ…」


「お願い!」


「じゃ、先、ちょっとだけなら……ふっ」


言い淀んで、自分受けしてしまった。


「ありがとう!

じゃあ、転送するね!」


「て、転送?いやいや、ま、待って…」


どうやらただの自分受けが肯定の意志と勘違いされたらしい。


こんなことで契約締結となるんだったら、大阪人は商店街行くたびに破産するだろう、とか抗議する間もなく、パツ金とオレが金色の光に包まれる。


光に吸い込まれて行きなながら、小川の向こうを見ると、少年少女モードの両親が、あれー?どこ行ったー?って感じでキョロキョロしてるのがなんとも可笑しかった。

ごめんな、父ちゃん母ちゃん、オレ、ちょっと道外しちゃうかも。


◇◇◇


で、気づいてみれば、大神殿。

だだっ広くて白く光る建物の中だった。


真ん中に黄金の玉座っぽい豪華椅子がある。


椅子の上にパツ金が座っていた。

コホンと咳払いしてパツ金が近づいてくる。

口をオレの耳元に近づけ…。

内緒話的体勢。


「…あのう、お名前は?」と聞いてくる。


「はあ…アレジ・コウヤ(光谷亜礼治)です」


パツ金が玉座にいそいそと戻る。


「アレジ・コウヤ(光谷亜礼治)、若くして非業の死を遂げし悲しき魂よ…」


「はあ…」


「私は、神ミルカ。

このアスマンズ世界の神の一柱」


「……」


「喜びなさい、アレジ。

あなたは非業の死を越えて、この世界に転生しました」


「はあ…」


「アレジよ、あなたには大事な使命があります。

だから指名したのです」


「ダジャレのセンスありませんね」


「……えーっと、何でしたっけ?」


「指名で使命ってことですが、使命なんて聞いてないんですけど」


「アレジよ、あなたは先ほど了承したでしょう?」


「成り行きで少し頷いただけです。

内容も聞いてませんし、オレの名前も知らなかったでしょう。

クーリングオフとかの対象じゃないんですか?」


「そんなのあるわけないでしょう!」


「…ですかー?

では…地球の神々よ、お聞きください!

ここに一般の魂を拉致監禁する神がいます。

その名は…」


「ワ―ワ―ワ―ワ―ワ―!やめて、やめて!

き、聞こえるから、聞こえちゃうから、やめてちょうだい!

あなたが同意するまで、帰属はあっちになるんだから。お願い!」


「ほら、まだ同意前じゃないですか?」


「ぐぬぬ……」


「台無しですね、女神様。

一体何がしたいんです?」


「よくぞ聞いてくれた、アレジよ!この世界は危機に瀕しています。

あなたの助けが必要なのです」


「…ホントですか?」


「女神はウソは言えません」


「…ホントですか?」


「メガミーウソー言イマセェーン」


「…ホントに?

説得力ナッシングですが」


「…ま、魔王がいるのです!

凶悪な魔王が!」


「魔王は前からいるのですか?

それとも生まれたばかりとかなんですか?」


「………」


「女神様、魔王さんは前からずっとアスマンズにいるのですか?」


「え、ええ、そうとも言います」


「魔王さんが前からずっといるのなら、それは通常モードであって、世界の危機とはまた別と思いますが?」


「………」


「女神ミルカ様、何がしたいんですか?」


「非業の死を遂げし悲しき魂よ…


「ナ、ニ、ガ…したかったんですか?女神様ー?」」


「………。


…い、異世界転生ってものを一度やってみたくて…ほら、オレTUEEEとか言ってチートしてる勇者を最後は女神が裏切るとか…」


「自分で招いて、自分で裏切るんすか?」


「ほら、勇者がイレギュラーとかになって、この世界のシステムと相容れなくなったりして、そこにちょっとアニメ十二、三話くらいではおさまらないハーレム的新展開があったり…」


「はあ…一年もたないんですね」


「で、でも魔王がいるのは、ほ、本当よ!

人族とかと魔族、いつも喧嘩して、世界にヒビ割れがおきてるし。

ひび割れ治すのも大変なのよ!


魔王も人族も自分勝手だし。

魔王が強くなると、人族とかのテリトリーが小さくなって、わ、私の力も弱まるわ…」


「女神様、のぞくのすきでしょ?」


「ひ、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!

下界を慈しんでいつも見守っているだけよ!」


「はあ…」


「………」

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