太陽が顔を出すとおはよう
「おはよう。よく眠れた?」
「……そうね、いつものように8時間も眠れたかどうかはわからないけれど。よく眠れた方なんじゃないかしら」
「ふーん、僕は全然だよ。ガタガタ揺れてさ。きっとまだ山の中だよ。外からたいした音もしないしさ」
「……それにしても、おはようなんてよく言えたね」
「なにが?」
「おはようって。朝起きたときに言うものでしょ。今は本当に朝なの?」
「さあ?でも君はたまにお昼頃に起きて〝おはよう〟って言ってたじゃないか」
「……そんなのあなたも同じじゃない。夜中にゲームばっかりやって、夕食時に起きて怒られたのはどこのどなたでしょうね」
「…………君もゲームくらいするだろう」
「あなたほどじゃあないけどね」
「……。」
「……。」
「ねえ、〝君〟〝あなた〟なんて呼び合うのはやめない?なんだか他人みたいじゃないか。12年も同じ家で暮らしてきたのにさ」
「それじゃあなんて呼ぶのよ。ママとパパがくれた名前ででも呼び合おうって言うの?」
「……そうだね、昨日まで……あるいは数時間前まではそうだった。このトラックに乗るまでは」
「まっぴらごめんだわ」
「僕もだね」
「わかったわ!私ね、ずっと外国の名前に憧れていたの。マリー、とか、シャーロットとか、とっても素敵だと思わない?」
「ふうん、女の子みたいなことを言うんだね。いいんじゃないの、」
「いちいち突っかかって来ないでくれる?」
「……ご勘弁。……うん、よし、じゃあパトリシアにしようよ。」
「パトリシア……?あまり絵本とかでは聞かない名前だけれど」
「そう?僕が読んだ本の主人公さ。勝ち気な女の子さ。君にピッタリじゃないか!ねえ、パトリシア?」
「まあ素敵。勝ち気だなんて。それじゃああなたには負け気な名前をつけて差し上げましょうね?」
「もしかして怒ってる?」
「負け気ね……弱々しい名前ってことかしら?……サイモンにしましょう!サイモン……あなたにピッタリ!」
「構わないけれど……サイモンって弱々しいかな?なんだか聞き覚えはあるけど……」
「細かいのね、サイモンは。私がサイモンって言ったんだから従えばいいのよ」
「はっ……ますますパトリシアにそっくりだね」
「…………もう!そんなにそっくりだって言うのなら、本当にそのパトリシアちゃんみたいになっちゃおうかしら。サイモンはそうとう〝パトリシア〟がお気に入りみたいだしね」
「ごめんって。もう言わないよ」
「別に。謝れって言ったんじゃないわよ」
「いやぁ……これから先さ、僕らは本当に〝未来〟を過ごせるかなんてわからないじゃないか。そんな状況で別人格になってほしくないんだよ。せめて確実に君が君である今くらいは、君でいて欲しいんだよ。……伝わるかな?」
「……まあ、なんとなくは」
「ならよかった」
「……はあ。サイモンがそんなこというから、私たちがこれからどんな酷い目に遭わされるのか、本当に気になってきちゃったじゃない」
「不安なの?」
「不安……とは違うけど。怖くだってないわ!でも……」
「……そうだ。暇なんだしさ、どうせならテーマを決めて話そうよ。ダラダラ喋るよりいいだろ?」
「……暇?」
「うん、暇じゃあないか。他に考えることもないんだしさ」
「……そうね。確かに暇だわ。……うん、暇」
「じゃあ…………そうだな、〝未来〟について。僕らが過ごせるかわからない、〝未来〟について」




