プロローグ
ひたすら少女(仮)と少年(仮)の生きてきた世界、生きていくかもしれない世界について描きます。
今までいろんな小説に手を出してきましたが、完結させたことがない未熟者です。
初めて本気で完結させようと考えたときに、〝ほぼ会話のみ〟という形式を取ろうと考えました。
どんなジャンルであれ小説に本気で取り組んできた方々には、こんなもの小説ではない、と思われてしまうかもしれませんが、初めてなのでおおめにみてください。
つらつら綴るだけなので短めで終わります。
2人の人間の人生をどうかみてください。
図太い男の声が耳に響く。
部下の弱々しい返事が聞こえて、車のエンジン音がした。
きっと部下のことも理不尽に咎めて、寝そべる猫を蹴飛ばして歩いていて、落とした1円玉のために服を汚すような男なんだ。
それでも帰る家はあるんだろう。例えカップ麺や缶ビールのゴミまみれであっても、何の悩みもなくよく眠れる夜を過ごしているんだろう。
ああ、ついでに煙草も吸っててほしいな。食費よりも煙草にお給料を割いて。灰皿がいっぱいになったら窓を開けてなんの躊躇いもなく振り撒くんだ。
窓の下にソフトクリームをもった女の子がいるかもしれないのに。
さっき自分で蹴飛ばした猫が、復讐を企んで威嚇してるかもしれないのに、そこにまた消し炭を。
うん、これくらい最低な男だったら許せる。
少し抵抗した私を、雨降る泥の地面に叩きつけるほど振りほどかなきゃ自分のプライドが許さないんだろう。
「ねえ、」
五十音表の文字の羅列をそのまま言葉にしたような、平坦な声で私を呼ぶ。そちらに目をやると無性に腹立たしかった。
私たちが投げ込まれた宅配用の見慣れたトラックの中は、外から見るよりもずっと大きかった。
そのトラックの開きドアあたりでしゃがみこんでいる私とは違ってずっと向こう側にいて、そいつは我が物顔で足を伸ばして座っている。
しかも寄りかかって、寛いでいるようにもみえる。
「ワンピース、泥だらけだよ」
「知ってる」
「大人しく車に乗ってれば真っ白なままだったのにさ」
「別に。飽きてたし、白。それにどうせこれから真っ赤に染まるんだよ」
「そこまで酷いことはされないと思うけどね」
「男って楽観的でいいわね。私たちはどうせ……」
「……もう寝ようよ。いつ着くかなんてわからないんだしさ」
「そうね、それに、次にいつ眠れるかもわからないんだしね」
「君は本当に悲観主義だね。そんなことなら僕は男に生まれてよかったよ」
「さあ、本当にあんたが男なのかなんてわからないけどね。……おやすみ、私の片割れ」
「それなら君だって女かなんてわからないよ。そもそも性別ってもんが本当に実在するのかもね」
「…………いいから、早く寝て」
「……おやすみ、僕の分身」
泥だらけのワンピースなんかもう気にする気力もなくて、ふかふかのベッドに寝転がるように硬い床に身を預けた。
眠くなんかなかったけれど、目を閉じてあいつに背を向けると、あちらからも寝息が聞こえたような気がした。
それと同時に、妹だったはずの柔らかい頬の香りも、ママが夜に枕元に引っ提げてくれたラベンダー袋の香りもやってきた。
最後に身体を震わせた荒々しい車体の揺れで、私は眠りに落ちた。